第256話 え、パパが勇者!? 頼れる娘たちが岩盤粉砕!? へっぴり腰のパパを全力ガード!?
ドワーフ国へ続く山間部の迂回路を進む神崎家。
標高が上がるにつれて、周囲の景色は一変していった。
立ち並んでいた木々は疎らになり、灰色の荒々しい岩肌が露わになっていく。
亮「だいぶ山の中深くに入ってきたな」
あんな「うん。木も減ってなんだか殺風景になってきたね」
みゆ「この先もしばらく険しい山道が続きます。標高はすでにかなりの高さに達しています」
ベアトリス「ドワーフ国の領域が近づいている証拠ですわ!」
亮「今回はスローライフって感じじゃないなぁ」
あんな「パパ、変なフラグ立てないでよ」
みゆ「パパのスキル、トラブルホイホイが発動します」
亮「そんなスキル持っていないからー」
もっふる「ピィー♪」
神崎家はそのまま曲がりくねった山道を進んでいく。
路面には大小の石が転がり、決して歩きやすいとは言えない道だ。
だが、しばらく進むと山道は急激にその幅を狭めていった。
亮「……あれ?」
先頭を歩いていた亮が足を止める。
これまで馬車がすれ違えるほどだった道幅が、大人ふたりが並んで歩くのがやっとという狭さになっていた。
亮「だんだん狭くなってないか?」
みゆ「はい。切り立った崖の地形に沿って作られた道のためと思われます」
ベアトリス「この先は、さらに狭くなるかもしれませんわ!」
亮「マジか……」
慎重に足を進めると、やがて視界が開けると同時に、恐ろしい光景が広がった。
左側には垂直にそびえ立つ巨大な岩壁。
そして右側には……。
亮「……」
あんな「どうしたの、パパ?」
亮「いや……」
亮はゴクリと唾を飲み込んだ。
右側の視界を遮るものは何もない。
木々の隙間から、遥か下に流れる川や岩場が丸見えになっていた。
すり鉢状になった深い谷だ。
亮「……高すぎない?」
あんな「高いねー。落ちたらひとたまりもないね」
亮「……」
亮は素早く視線を前方へ戻した。
なるべく谷側を見ないよう、岩壁にぴったり体を寄せて歩き始める。
あんな「パパ?」
亮「ん?」
あんな「さっきから、なんでそんなに岩壁にへばりついて歩いてるの?」
亮「いや……こっちの方が日陰で涼しいかなって」
みゆ「パパ」
亮「何?」
みゆ「そちらは足元に岩壁からの落石が溜まっていて、かえって危険です」
亮「……」
亮はそっと道の中央へ足を戻した。
だが、チラリと右側の谷底が見えた瞬間に背筋が寒くなる。
亮「……俺、こういう狭くて高いところ……実はちょっと苦手かもしれない」
あんな「え? パパが? 高所恐怖症?」
みゆ「初耳です。過去のデータには存在しない弱点です」
亮「だって、狭いし……高いし……滑ったらそのまま一直線じゃん!」
冷や汗をかきながら、へっぴり腰で慎重に足を進める亮。
あんな「ふーん、パパにも苦手なものがあったんだ」
ベアトリス「意外ですわ!」
亮「誰だって苦手なものくらいあるだろ……」
もっふる「ピィー!」
あんな「はいはい、パパ。足元気をつけて歩いてね」
亮「分かってるって……」
一歩。
また一歩。
絶対に右側は見ない。
ただひたすら目の前の地面だけを見つめて進む。
亮「……この道、あとどのくらい続くんだ?」
みゆ「山嶺を迂回するルートですので、まだしばらく続く見込みです」
亮「マジかぁ……」
亮は絶望的な表情で呟き、ふと余計な言葉を口にしてしまった。
亮「……こんな狭くて高いところで、今大きな地震とか起きたら本気でやばいかもな」
あんな「ちょっとパパ! フラグ立てないでよ!」
亮「いやいや、ただの例え話だって! 起きるわけない……」
みゆ「本日二回目のフラグです」
ベアトリス「確かに不吉な例えですわ!」
もっふる「ピィー!」
その瞬間――。
グラリ。
大地が、かすかに揺れた。
亮「……ん?」
あんな「……ねえ、今揺れた?」
みゆ「はい。微振動を検知」
亮「ま、まあ小さい揺れだし、大丈夫だろ……」
強がりを言った直後だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――ッ!!
山の奥深くから、腹に響くような凄まじい地鳴りが鳴り渡った。
みゆ「……! 地磁気と振動波が急上昇! 大型です!」
亮「嘘だろ!? これ……」
次の瞬間、世界が激しく跳ね上がった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴガガガガ――ッ!!
あんな「きゃあぁぁっ!?」
ベアトリス「皆さん、踏ん張ってくださいですわ!」
亮「うわぁぁっ!?」
山全体が牙を剥いたように大きく激動する。
あまりの揺れに、神崎家全員がその場にしゃがみ込む。
そして激動と同時に、上空から恐ろしい音が迫ってきた。
ゴゴゴゴッ! ズガガンッ!
あんな「上から岩が落ちてくる! 落石!!」
みゆ「迎撃します! 《エア・シールド》(風壁)」
ベアトリス「お任せくださいわ! 」
頭上から降り注ぐ巨大な岩。
あんなの鋭い突き、みゆの展開した風の障壁、ベアトリスが瞬時に走り、神崎家の手前で岩々を粉砕し、弾き飛ばしていく。
亮「す、すご……みんな頼もしい……!」
もっふる「ピィー!」
亮「もっふる、危ないからこっちへ!」
亮はすささっと手を伸ばし、もっふるをしっかりと胸に抱き寄せた。
しかし悪夢はそれだけでは終わらなかった。
ズズズズズズズズ……ッ!!
足元の岩盤から、嫌な亀裂の音が響き渡る。
みゆ「……待ってください! 上だけではありません!」
あんな「えっ!?」
みゆ「落石だけじゃない……地盤そのものが耐え切れていません!」
ベアトリス「まさか、この山道自体が……!?」
次の瞬間――。
ズガァァァァンッ!!
神崎家の目の前、わずか数メートル先の山道が、音を立てて豪快に谷底へと崩れ落ちた。
亮「うわぁぁっ!?」
あんな「道が……道が崩れた!?」
みゆ「動かないでください! 地盤が非常に不安定です!」
揺れは一向に収まる気配を見せない。
亮「これ……本気でやばくないか!?」
目の前の山道が、まるで砂の城のように次々と崩れていく。
岩が割れ、大量の土砂が流れ出し、足場だった場所が片っ端から遥か下の谷底へと吸い込まれていくのだ。
あんな「パパ、変に動いたら崩れるよ!」
亮「分かってる! 分かってるけど動けないよ!」
みゆ「このままでは、私たちが立っている足場まで巻き込まれる可能性が極めて高いです!」
ベアトリス「くっ……飛んで逃げる術はありませんの!?」
もっふる「ピィー!!」
ズゴゴゴゴゴ――ッ!!
さらに大きな揺れが大地を襲う。
亮「うわっ!」
あんな「きゃっ!」
神崎家の足元へ向かって、蜘蛛の巣のように無数の亀裂が走っていく。
みゆ「……マズいです、急いで対処しないと……!」
バキキッ!!
大きな破壊音とともに、神崎家の「後方」の道までもが崩落した。
亮「……!?」
振り返れば、来た道は影も形もなく谷へと消えていた。
前方の道も完全に崩落。
右側は深い谷底。
左側は垂直の岩壁。
逃げ道が、完全に潰された。
あんな「……ねえ、パパ」
亮「だ、大丈夫だ……大丈夫……」
震える声で励まそうとした亮の足元で 。
ミシッ……。
足下の岩盤に、致命的な亀裂が入る。
みゆ「パパ! 動かないで!」
ベアトリス「危ないですわ!」
もっふる「ピィー!」
メリメリと音を立てて、亮たちが立っている狭い足場全体が、数センチ下へ沈み込んだ。 亮の背中を、冷たい汗がどっと吹き出す。
ズズズズズズ……。
崩落の連鎖は止まらない。
このままでは、足場ごと神崎家全員が遥か下の谷底へ真っ逆さまに滑落してしまう。
そして――。
バキィィィンッ!!
ついに耐え切れなくなった足元の岩盤が大きく砕け、神崎家の身体が、浮遊感とともに斜め下へと大きく沈み落ちた。
こうして――
亮の何気ない一言が見事にフラグを回収し、神崎家は絶体絶命のピンチを迎えるのだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)に
最大の危機が訪れる。
崩落する恐怖の山道でへっぴり腰のパパがまさかの完全フリーズ。
すり鉢状の谷底へ落ちかける絶体絶命の危機を救うのは、みゆのミリ単位な超人的脱出ルート計算。
娘たちの神連携と容赦ないナビゲートで命からがら崩落ゾーンを抜け出した先には、圧倒的スケールを誇る岩山の要塞都市が姿を現す。
次回、第257話 え、パパが勇者!? 走れないパパを救え!? みゆの緻密な脱出ルート!?




