第253話 え、パパが勇者!? ドワーフ国へ続く街道に異変!? 大地に刻まれた不思議な亀裂!?
獣人国を出て、数日が経った。
神崎家は、ドワーフ国へ続く街道を歩いていた。
獣人国を離れたばかりの頃とは、周囲の景色も少しずつ変わってきている。
街道の両側に広がっていた青々とした森は次第に木々が少なくなり、緑の向こうに見えていた景色も変わって、遠くには低い丘がいくつも連なっていた。
さらに進むにつれて、道は緩やかな上り坂へと差し掛かっていく。
亮「だいぶ景色が変わってきたな」
あんな「うん。獣人国の近くとは全然違うね」
ベアトリス「空気も少し違うように感じますわ!」
亮「空気が美味い!」
みゆ「標高が上がっている影響だと思います。気温および気圧が僅かに低下しています」
もっふる「ピィー♪」
亮は足を止め、前方を見上げた。
まだ目的地の気配は見えない。
それでも、遠くに見える山々は、一歩進むごとに少しずつその雄大な姿を大きくしていった。
亮「ドワーフ国って、やっぱり山の中にあるんだよな」
みゆ「はい。事前に聞いている情報でも、標高の高い山岳地帯内部に大規模な都市が存在するとされています」
あんな「どんなところなんだろう? 鍛冶場とかいっぱいあるのかな」
ベアトリス「私もですわ! ドワーフの建築技術、ぜひ拝見したいですわ!」
亮「俺も気になるな。お米があるか」
あんな「やっぱりそこなのね」
みゆ「安定のパパです」
もっふる「ピィー♪」
そんな賑やかな会話を交わしながら、神崎家は順調に街道を進んでいった。
あんな「……あれ?」
前を歩いていたあんなが、ふと足を止めた。
亮「どうした?」
あんな「道、変じゃない?」
亮「道?」
亮が前方へ視線を向けると街道の一部が、まるで下から突き上げられたかのように、わずかに盛り上がっていた。
その周囲には、大小の石がいくつも転がっている。
亮「……ほんとだ。ちょっと足元悪いな」
あんな「ちょっとどころではないよ」
神崎家がその場所へ近づき、覗き込む。
地面には、細い亀裂が走っていた。
一本だけではない。
短い亀裂がいくつも枝分かれし、網の目のように街道の端へ伸びている。
みゆ「……」
みゆが無言で小さくしゃがみ込み、地面の亀裂にそっと手を近づけた。
亮「何か分かるか?」
みゆ「土の変色具合と亀裂の断面から分析するに、地面が外部要因によって動いた跡があります」
亮「やっぱり?」
みゆ「はい」
みゆは立ち上がると、亀裂の伸びる先を目で追っていく。
そして、少し離れた場所へ静かに歩いていった。
みゆ「こちらにもあります」
亮「あっちにも?」
移動した先にも、まったく同じような深い亀裂が走っていた。
さらに先へと視線を向ける。
街道脇の岩場が一部崩れ落ち、土と大量の石が斜面に痛々しく散らばっていた。
あんな「こっちも崩れてる……結構派手にいっちゃってるね」
みゆ「風化による崩落ではありません。この数日以内に起きた自然現象の可能性が高いです」
亮「ということは……」
みゆ「地震です」
亮「……やっぱりそうか」
亮は、もう一度周囲を見回した。
街道自体はまだ通れる状態だ。
崩れた岩場も、それほど大きな通行の障害にはなっていない。
だが、一か所だけではない。
道のあちこちに、痛々しい小さな亀裂が残っている。
亮「頻繁に起きているもんな」
あんな「獣人国でも、最近地震が多いって言っていたもんね」
みゆ「度重なる振動による構造疲労の影響です」
あんな「ドワーフ国の方は大丈夫かな……心配だね」
みゆ「現時点のデータではまだ分かりません」
亮「そうだよな」
亮は、はるか遠くの山々を見上げた。
そびえ立つ雄大な山脈。
その険しい山のどこかに、目指すドワーフ国があるはずだ。
亮「近づけば、もっと大きな地震の跡が出てくるかもしれないな」
みゆ「その可能性は極めて高いと推測されます」
亮「じゃあ、少し注意して進もう。足元取られないようにさ」
あんな「うん」
ベアトリス「分かりましたわ!」
もっふる「ピィー♪」
神崎家は、再び歩き始めた。
今度は先ほどまでとは違い、全員が少しだけ緊張感を持って周囲を気にしながら進んでいく。
街道脇の不自然な岩。
傾斜の急な斜面。
風に揺れる木々。
そして、自分たちの足元。
すると、コロ……コロコロ……。
静けさの中に、小さな石が転がる音が響いた。
亮「……?」
亮がピタリと立ち止まる。
拳大の石がひとつ、斜面から落ちて街道を横切り、そのまま道の反対側の端で止まった。
あんな「今の、何……?」
亮「上から落ちてきたのかな? 鳥か何かが出したとか……」
みゆ「……」
みゆがすばやく山側の斜面を見上げる。
息を潜めてしばらく待つが、それ以上石が落ちてくる気配も、山が鳴るような音もない。
みゆ「今のところ、異常はありません」
亮「そうか……」
亮は少し安心したように、深く胸を撫で下ろして息を吐いた。
亮「でも、急な落石とかは怖いし、気をつけた方がいいな」
あんな「そうだね。頭の上も注意しないと」
みゆ「本格的に山に入れば、地形の変動により状況も一変するでしょう」
ベアトリス「気を付けますわ!」
もっふる「ピィー♪」
神崎家は、足元と頭上に配慮しながら、再び歩みを進めた。
少しずつ。
ほんの一歩ずつ。
道は傾斜を増し、上へと上へと伸びていく。
周囲の木々はまばらになり、岩肌が目立つようになってきた。
そして遠くに見えていた山々が、いつの間にか目と鼻の先まで迫っていた。
亮「……大きくなってきたな。近くで見るとすごい迫力だ」
みゆ「はい。標高および傾斜角ともに想定通りの山岳地帯です」
亮「いよいよ山間部か」
あんな「ドワーフ国、もうすぐ?」
みゆ「直線距離としては、かなり近づいています」
亮「よし」
亮は力強く前を見据えた。
その先には、巨岩の立ち並ぶ山々の間へと吸い込まれるように伸びる街道があった。
亮「じゃあ、気をつけて行こう」
あんな「うん!」
ベアトリス「はいですわ!」
もっふる「ピィー!」
もっふるの元気な鳴き声を合図に、神崎家は山へ続く街道へと足を踏み入れた。
大地に走る不穏な亀裂と、山奥で起きている異変。
その先で自分たちを待ち受ける「本当の理由」
それをまだ誰も知らない。
そして風がゴウと音を立て、岩肌を通り抜けていくのだった。
こうして――
足元に走る違和感に気づきつつも、神崎家は新たな冒険の舞台へ踏み出した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
未知の山嶺で繰り広げられるのだった。
王都の重鎮たちがドワーフ国の異常事態と忍び寄る世界規模の危機に緊迫する中、遠く離れた山道では当の神崎家が呑気にくしゃみひとつ。
便りがないのは無事な証拠……どころか、王都の絶大な信頼を背景に、無自覚なパパへ娘たちの容赦ないデータ分析が炸裂!?
嵐の予感が世界を包み込む中、本人たちだけが一切の危機感ゼロで突き進む。
次回、第254話 え、パパが勇者!? 遠く離れた王都からの信頼と娘たちの容赦ないデータ分析!?




