第246話 え、パパが勇者!? 森を喰らうAランク魔物を撃退!? でも、なぜここに!?
森喰いが地面を踏み鳴らした。
ドォン!
衝撃波が走り、周囲の巨木たちが大きく揺れる。
そして、信じがたい光景が広がった。
叩きつけられた衝撃点を中心に、瑞々しかった一本の木がみるみるうちに色を失っていく。
緑の葉がハラハラと落ち、枝が枯れ果て、樹皮がひび割れていく。
さらにその余波は隣の木々へ、草花へと侵食していった。
みゆ「……待ってください」
あんな「みゆ?」
みゆ「森が……生命力を吸い上げられています」
みゆは周囲を見渡した。
豊かな緑に満ちていた森が、灰色の不毛地帯へと変わっていく。
亮「このままだと、森全体が大変なことになっちゃうんじゃ……?」
亮が心配そうに身を乗り出す中、みゆが静かに森喰いへ視線を向けた。
みゆ「鑑定」
その瞳が淡く青白い光を帯びる。
瞬時に展開される解析データ。
みゆ「……状況を確認しました」
あんな「どう?」
みゆ「対象はAランク魔物、森喰い。体長およそ五メートル。周囲の草木から魔力と養分を直接吸引し、自己修復と装甲強化に充てています」
虎人「Aランクの魔物だと……!?」
熊人「道理で、俺たちの攻撃を弾くわけだ……!」
みゆ「ですが――」
みゆの目が、森喰いの装甲の隙間を的確に捉えた。
みゆ「構造上の弱点が存在します。森喰いは、植物質の装甲ゆえに炎属性の攻撃に極めて弱いです」
あんな「炎……!」
ベアトリス「それなら、わたくしの出番ですわ!」
みゆ「大丈夫です。ベアトリスさんはポポちゃんたちの護衛に専念してください。……戦士の皆様、武器を掲げてください。広域属性付与を行います」
虎人「何……!?」
熊人「剣を上げればいいのか……」
意味が分からず武器を上げる
みゆ「『炎舞の連鎖』出力完了。全武器、同期開始」
みゆが静かに手をかざすと、眩い火の粉が舞い散り、周囲の獣人たちが掲げた剣や弓矢へ、まるで炎の鎖が繋がるように次々と燃え移っていった。
ゴォォッ!
鳥人「矢が……炎を纏った!?」
熊人「剣に炎が……」
虎人「これはすごい!野郎ども、畳みかけろーっ!」
「「「オオオオオッ!」」」
解き放たれた無数の炎の矢が空を覆い、流星群となって森喰いの巨体へ降り注ぐ。
直後、剛腕の戦士たちが、一斉に灼熱の刃を叩きつけた。
ズドォォン!
ガキィィンッ!
激しい炸裂音とともに、それまで刃を弾き返していた森喰いの極厚な岩甲冑に無数の亀裂が走り、内部から黒煙が噴き出す。
あんな「……これなら、いける!」
みゆ「熱膨張による構造疲労と、局所集中打撃の相乗効果です。貫通力、熱量ともに計算通りです」
自身の弱点を突かれ狂乱した森喰いが、あんなへ向かって猛然と突進を開始する。
グォォォォォオオオンッ!!
森を揺らす狂乱の咆哮。
弱点を突かれた激痛と怒りで真っ赤に眼光を滾らせた森喰いは、背の棘を逆立て、地響きを立てて巨体を躍動させた。
ズドドドドッ!
地響きを立てて迫る巨体に対し、あんなは静かに剣を構える。
虎人「おい、来るぞ!」
熊人「気をつけろ、直撃を受けるな!」
あんな「……大丈夫」
あんなが一歩前へ踏み出す。
さらに一歩。
迫り来る巨大な角と牙。
あんな「今度は――私の番!」
炎を纏った剣を握るあんなの身体から、一切の無駄な力が抜けていく。
森喰いの巨体が、目と鼻の先まで迫る。
ドドドドドッ!
衝突の直前――。
スッ。
あんなの姿が、かき消えるようにその場から消えた。
予備動作を完全にゼロにした一瞬の踏み込み。
炎の軌跡を描く刃が、森喰いの巨体をすれ違いざまに疾風のごとく駆け抜ける。
あんな「――炎舞無拍剣!」
ズバァンッ!
激しい炎の音とともに、横一文字の斬撃が森喰いを切り裂いた。
巨体はそのまま前進しようとするも、二つに割れてズレ落ちる。
ドォン……。
大地を揺らす重い音を立てて倒れる巨体。
そして、森喰いは、二度と動かなくなった。
一瞬の沈黙の後、森に歓喜の嵐が巻き起こる。
虎人「……やった、やったぞー!」
熊人「あのAランクを倒した……!」
鳥人「森喰いを退治したぞー!」
獣人戦士たちから、地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
ポポ「……すごい……!」
ルナ「勝った……! あんなお姉ちゃん勝ったよ!」
ドナ「やったぁぁ!」
あんなは熱を帯びた剣を鞘に納め、額の汗を拭った。
あんな「ふぅ……なんとか一発で決まってよかったぁ」
その時だった。
虎人「……待て」
戦士の厳しい声に、歓声がふっと止む。
虎人戦士は、倒れた森喰いの遺骸を神妙な面持ちで見つめていた。
虎人「……森喰いが、こんな浅い場所にいるのは絶対におかしい」
熊人「……ああ。本来なら、人知れぬ深緑の秘境の奥深くに生息するはずの魔物だ」
鳥人「なぜこんな集落に近い森まで降りてきたんだ……?」
周囲の獣人たちも、我に返ったように静かに森を見渡す。
なぎ倒された巨木。
命を吸われて枯れ果てた草木。
そして、異例の出現をしたAランク魔獣、森喰い。
誰もが、異常さに気付き始めていた。
みゆ「……」
みゆもまた、消えかかった戦跡に視線を落とし、冷静に推論を述べる。
みゆ「生態系を無視したこの配置……何者かが意図的に導いた、あるいは誘導した可能性も否定できません」
亮「……誰かが、わざと……?」
みゆ「はい。ただ、現在のデータだけでは確たる証拠を欠くため、あくまで一つの仮説ですが」
ザルガード「……」
報せを受けて駆けつけた族長たちも、重苦しい沈黙の中で森の奥深くへと視線を向けた。
先ほどまでの歓喜は影を潜め、不穏な空気だけが漂う。
ポポたちはそんな大人の思惑を知る由もなく、ルナとドナのそばで安心したように身を寄せ合っている。
静まり返った森には、ただ、不気味な戦いの痕跡だけが残されていた。
こうして――
危機を脱した神崎家だったが、忍び寄る陰謀の影に更なる謎が深まっていく。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
暗雲立ち込める展開していくことに。
凶悪魔物を倒したら、村をあげての大盛り上がりな大宴会が開幕。
不気味に揺れる地震や不穏な陰りを一切気にせず、のんびり酒と肉を堪能しまくるマイペース一家。
みんなの笑顔が弾ける一方で、夜空の果てには誰も気づかない奇妙な影が忍び寄る……。
次回、第247話 え、パパが勇者!? 魔物を倒したら大宴会!? 異変の兆候より宴会優先!?




