第236話 え、パパが勇者!? 神崎家が誘拐犯!? 絶体絶命の連行劇!?
神崎家の周囲を、獣人族がぐるりと取り囲んでいた。
ピリッとした緊張感が漂う中、誰一人として動かない。
ただ、刃物のような鋭い視線だけが、こちらを警戒するようにじっと注がれている。
ベアトリス「……やはり怪しいですわ! 全て燃やしますわ!」
亮「待て待て!」
手から火花を散らし始めたベアトリスを、亮は慌てて両手を広げて制止した。
亮「まだ敵って決まったわけじゃないだろ」
ベアトリス「ですが、わたくしたちを囲んでいますわ」
亮「それはそうだけど……」
あんな「パパ、どうする?」
亮「まず話してみよう」
みゆ「賛成です」
亮はゆっくりと周囲を見回し声をかけた。
亮「俺たちは敵じゃない」
しかし、返事はない。
しんと静まり返った森に、風の音だけが響く。
亮「獣人国へ向かっているだけなんだけど……」
それでも、獣人たちはぴくりとも動かない。
亮の服の裾をキュッと掴みながら、ポポは不安そうに神崎家の人々を見上げていた。
ポポ「……」
亮「大丈夫だよ」
ポポ「……うん」
そのとき、正面に立つ獣人の一人が、ゆっくりと腕を高く上げた。
それを合図に、周囲が一斉に動き始める。
あんな「動いた!」
亮「待って!」
ギラリと光る武器を構えた獣人たちが、じわじわと神崎家へと近づいてくる。
しかし神崎家の面々は、一切の攻撃態勢を取らなかった。
亮「……」
あんな「……どうする?」
みゆ「……様子を見ます」
ベアトリス「……仕方ありませんわ!」
亮「話が通じる相手かもしれないしな」
獣人たちはあっという間に神崎家の周囲をガッチリと固めた。
やがて、一人が亮の目の前にずいと姿を現す。
その後ろには、さらに二人の獣人が控えていた。
立派な毛並み。
虎の獣人だ。
そして後ろの二人は、熊人であった。
虎人「お前たちは何をしに来た?」
低く重厚な声。言
葉が通じることに、亮とあんな、みゆは顔を見合わせた。
亮「この子の両親を探しに来た」
虎人「お前たちが拐ったのか?」
あんな「拐っていないよ」
熊人「人間は信用出来ない」
熊人は吐き捨てるように言うと、乗っていた荷車から離れるよう促す。
亮「分かった」
変に刺激しないよう、神崎家は素直にその指示に従う。
ポポは小さな手で、ぎゅっと亮の手を握りしめていた。
ポポ「……」
亮「大丈夫」
虎人「こいつらを縛れ」
亮「俺たちは何もしない。ポポちゃんの両親を探しに来ただけだ」
あんな「そうよ。この子の両親はどこ?」
みゆ「聞く耳をもっていません」
もっふる「ピィー!」
もっふるが短い翼をパタパタと羽ばたかせ、心配そうに声を上げる。
ポポ「お姉ちゃんたちは悪い人ではないよ。何で縛るの?」
必死に訴えるポポだったが、獣人たちは冷ややかに首を振るだけだった。
虎人「言葉が分からない」
熊人「人間の言葉か?」
虎人「まあよい。この子は猫人だ。こちらで保護する」
ポポ「いや、やめて! 離して!」
亮「おい! 手荒な真似はするな!」
虎人は沈黙ののち、低く牙を剥き出して怒鳴りつけた。
虎人「うるさい! 黙れ! 人間が!」
怒声を上げる獣人たちに縄で縛られ、神崎家はそのまま森の奥へと連行されていく。
あんな「ねえパパ、本当に大人しく捕まって大丈夫なの?」
亮「大丈夫だよー、言葉が通じる相手だし、ゆっくり話せば分かってくれるさ」
みゆ「パパの楽観的思考には懸念が残りますが、抵抗しないことが現時点での最善策です」
ベアトリス「いつでも吹き飛ばしますわ!」
亮「それは、やめておいてね……」
縄で縛られているとは思えないほど和気あいあいとした空気。
あまりにもあっさりと捕まり、全く抵抗する気配のない神崎家に、周囲を取り囲む獣人たちはかえって困惑気味に首をかしげながら、彼らを奥へと連行していく。
その様子を、はるか頭上、森の樹々の隙間から見下ろす一つの影があった。
「……捕まったか……」
影は低く呟くと、誰にも気づかれることなく、ふっと雲が晴れるように跡形もなく消え去っていった。
獣人国への旅は、神崎家が誘拐犯として捕まったまま、未知の局面へと進んでいくのだった。
――そして、その空のさらに遥か遠く。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの家族は、本当にどこへ向かっても退屈という言葉を知りませんね。
のんびりと風を感じるはずのスローライフな旅路が、気づけば歴史を揺らす大爆走になり、あげくには誘拐犯と誤解されて縛られてしまうだなんて……。
三百年の沈黙を守り続けてきた閉ざされた扉。
歴史の闇に覆われた秘境へと踏み出すその一歩は、本来ならば重々しい緊張に満ちているはずでした。
けれど、あの子の「おうちに帰りたい」という切実で小さな願いに応えるためだけに、彼らは一切の迷いもなく、恐れさえも温かな家族の絆で包み込んで進んでいくのです。
使命感ではなく、純粋な気持ちで……。
ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿。
たとえ言葉が通じず、冷たい警戒と刃を向けられようとも、争うことなく手を取り合い、縛られた姿でさえ笑顔を交わし合う。
最強の力を持ちながら、力で威圧することなく、囚人の立場すらも穏やかに受け入れて笑い合う。
その純粋な想いこそが、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれません。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
誤解と警戒が渦巻く未知の国で、あの“勇者の家族”は、またどんな風に奇跡と笑顔を届けてくれるのでしょうか。
光が揺れ、風がそっと森の葉を揺らす。
その微笑みは、深く静かな緑のように優しかった。
こうして――
囲まれても一切抵抗せず、堂々と捕虜として連行されることになった神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が
また新たな波乱を巻き起こそうとしていたのだった。
【第二十八章「国境編」を終えて】
第二十八章「国境編」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
街道での魔物お昼寝事件から国境の深い森へ至るまで、旅の風情を楽しむはずが、まさかの誘拐犯と誤解されて連行されるという大波乱の幕開けに!?
連行された先で、神崎家は?
そして、ポポの故郷と家族は?
次章、波乱に満ちた新展開へ突入です!
亮「いやー、誘拐犯扱いされた時はどうなるかと思ったけど、無事に国境を越えられて良かったよ」
あんな「ちょっとパパ!「無事に国境を越えられて良かった」じゃないよ!?絶賛捕まり中なんだよ」
亮「えっ!?だ、だって獣人国に入れたのは確かだし!ほら、みんなが応援してくれるおかげで、勇者ポイントが増えてる気がするなぁって!」
みゆ「パパの楽観的思考には深刻なバグが確認されますが、現実として現在の神崎家は捕虜状態です」
ポポ「ポポも頑張るよ。ポポが頑張れるように★★★★★(ブクマ・評価星)で応援よろしくお願いします」
もっふる「ピィー♪」




