第233話 え、パパが勇者!? 三百年の沈黙を破り未踏の秘境へ突入!?
街道に心地よく響くグランディアの足音。
王都を出発してから数日、幾度かの休憩を挟みながら順調に街道を進んできた神崎家の荷車は、いよいよ人里離れた未踏の地域へと差し掛かっていた。
亮「いやー、だいぶ遠くまで進んだなあ!」
御者台から視界いっぱいに広がる豊かな自然を眺めながら、亮が爽やかに息を吐く。
街道の周囲を取り巻く樹木や草花の種類も、王都周辺のものとは明らかに変化していた。
あんな「なんだか、景色が王都の近くとは全然違うね。空気もちょっとひんやりしてきた感じ」
みゆ「肯定。植物の生態系および大気中の魔力濃度に明確な変化を検出。街道周辺の環境がシフトしています」
ベアトリス「獣人国に近づいている証拠ですわ!」
亮「そういうことか! いやあ、異世界の旅って感じでワクワクするな」
その荷台では、ポポがじっと前方の景色を見つめていた。
ポポ「……」
亮「ポポちゃん?」
ポポ「……おうち」
亮「うん、お家だよ」
ポポはしばらくの間、遠くの地平線を見つめていたが、不安と期待が入り混じった表情でぽつりと尋ねた。
ポポ「……ちかい?」
みゆ「地図と移動速度からの算出によれば、おそらく、かなり近づいています」
ポポ「……!」
小さな手が、荷台の木枠をギューッと握りしめる。
あんな「ポポちゃん、緊張してる?」
ポポ「……すこし」
ベアトリス「大丈夫ですわ!」
ベアトリスが御者台から振り返り、花が咲くような温かい笑顔を向けた。
ベアトリス「わたくしたちがいつでも一緒についておりますわ!」
ポポ「……うん」
もっふる「ピィー♪」
膝の上でもっふるがパタパタと短い羽を揺らし、ポポの頬にポンと頭を寄せる。
ポポ「ふふ……もっふるも?」
もっふる「ピィー♪」
頼もしい家族の温もりに触れ、ポポの強張っていた表情が少しだけ柔らかく緩んだ。
亮「よし、じゃあもう一息だな!」
グランディアが力強く一歩を踏み出し、荷車が進む。
すると、その時だった。
亮「……ん? あれは……」
前方の街道脇に、見覚えのある二人の冒険者の姿があった。
あんな「えっ!? ボルトンさんとゼニスさん!?」
そこに立っていたのは、若手冒険者のボルトンとゼニスだった。
ボルトン「あ……亮さん! お久しぶりです!」
亮「ボルトンさんにゼニスさん! こんなところで会うなんて奇遇だなあ!」
ベアトリス「まあ! カルデア村以来ですわ!」
あんな「ちょっと待って、どうしてこんな国境近くの辺境に二人がいるの!?」
ボルトン「あ、ええ……! こちらの方面にちょっとした用事がありまして」
ゼニス「……はい。ギルドからの依頼です」
亮「そうか! 遠出の依頼は大変だろうけど、頑張ってくれよな!」
ベアトリス「ええ、こんな遠くまでご苦労様ですわ!」
ボルトン「ありがとうございます! それでは、私たちはこれで失礼します!」
ゼニス「失礼いたします」
二人はどこか慌てた様子で、会釈もそこそこに去っていった。
亮「元気そうで良かったな」
手を振って見送る亮。
だが、荷車の上では重苦しい沈黙が広がっていた。
あんな「……ねえパパ。なんか、おかしくない?」
亮「え? 何がだ?」
あんな「あの二人よ! カルデア村の時だって妙なタイミングで現れたし、こんな獣人国直前に若手が二人だけでいるなんて不自然すぎない」
みゆ「同感です。これまでの二人の出現ポイントおよび行動パターンを分析すると、偶然の遭遇である確率は極めて低く……まるで何者かに指示されて動きを監視しているかのような違和感があります」
亮「そうか? まあ冒険者なんだから、色んな遠征依頼があるんじゃないか?」
あんな「……んー、パパが能天気なだけな気もするけど……まあ、害はなさそうだったしね」
亮「だろ? それよりみんな、見てごらんよ。景色がどんどん変わってきたぞ」
あんな「あ……本当だ。木々がすごくなってきてる」
ベアトリス「いよいよ、獣人国ですわ!」
ポポ「……」
ポポは言葉を発せず、ただまっすぐに前方の森の奥を見つめていた。
亮「ポポちゃん」
ポポ「……」
亮「もうすぐだぞ」
ポポ「……うん」
荷車は、さらにゆっくりと進んでいく。
街道の舗装はいつしか途切れ、荒れ果てた草原と深い森が一行を包み込み始めていた。
亮「……獣人国か……」
神崎家は全員、黙って前方を見つめる。
三百年間、誰も足を踏み入れなかった未知の領域。
その先にあるものが何なのか、まだ誰にも分からなかった。
ポポ「……みちの匂いが、変わった」
あんな「匂い……?」
ポポ「うん。ここから先……人がぜんぜん、通ってない匂い」
ぽつりと零された、ポポの言葉。
人の息吹が完全に途絶え、草木の匂いだけが立ち込める道。
ただ、獣人国の入り口が、もうすぐ目と鼻の先まで近づいていることだけは、誰の目にも明らかだった。
こうして――
不穏な影が蠢く中、一行はついに秘境の扉へと辿り着く。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
三百年の沈黙を破る大事件の渦中へと足を踏み入れていくのだった。
荒廃した街道の果て、草むらに佇む謎の古代遺跡。
暗闇の梢から一行を静かに見下ろす怪しい「獣の瞳」の正体とは!
次回、第234話 え、パパが勇者!? 獣人国の痕跡を発見!? 街道の先に残されていたものとは!?




