第232話 え、パパが勇者!? ポポの寝言で家族の決意が一つに!? 故郷へ送り届ける誓い!?
パカポコと、一定の心地よいリズムで響くグランディアの足音。
王都を遠く離れた街道を、一台の荷車がゆったりと進んでいた。
ベアトリス「ふふ〜ん♪ グランディア、その調子ですわ〜!」
先ほどの大暴走でコツを掴んだベアトリスは、どうやら荷車の操縦がすっかり気に入ったらしい。
御者台に誇らしげに座り、今や板についた手つきで手綱を捌いている。
その荷台では、ポポが静かに眠りについたところだった。
ポポ「……すぅ……すぅ……」
小さな身体を丸め、安心しきった様子で寝息を立てている。
そのすぐ隣では、もっふるも同じように丸くなって体を寄せていた。
もっふる「ピィー……」
亮「……ふふ、よく寝てるな」
御者台の隣から荷台を振り返った亮が、温かな眼差しで小さく微笑む。
あんな「うん。魔物が出たり爆走したり、色々と賑やかだったもんね。疲れちゃったんだよ」
みゆ「……」
しかし、みゆだけはどこか思索に耽るような表情で、眠っているポポの顔をじっと見つめていた。
亮「ん? みゆ、どうしたんだ?」
みゆ「あ、いえ……少し、ポポちゃんについてデータを整理し、考察を深めていました」
亮「ポポについて?」
ベアトリスに操縦を任せ、荷台にやってきた亮。
みゆ「はい」
みゆは静かに、論理的に語り始めた。
みゆ「ポポちゃんは、私たちの知る『日本語』しか話すことができません」
あんな「うん、そうだね。この世界の言葉は喋れないし、聞き取れてもいないみたい」
みゆ「肯定。この世界の人間との会話が成立していません。……ですが、私たちの日本語を理解し、会話ができています」
亮「……そうだな」
みゆ「この異世界で生まれ育ったはずの六歳の獣人の子供が、日本語のみを完璧に話し、現地の言葉を一切理解していないというのは……統計的・環境的に考えても、普通ではあり得ません……ポポちゃんがどれほど心細かったか、推測するだけでも胸が痛みます…… 」
あんな「つまり……みゆが言いたいのは……」
みゆ「はい。ポポちゃんも、私たち神崎家と同じように『日本からこの世界へ転生してきた』可能性が極めて高いということです」
亮「やっぱり……みゆもそう考えるか」
あんな「私も薄々そんな気がしてたんだよね」
三人の視線が、すやすやと眠る幼い少女へと向けられる。
ポポ「……すぅ……」
亮「でもさ、もしポポちゃんが転生者なんだとしたら……新たな疑問が出てくるよな」
みゆ「はい。不整合が生じます」
亮「どうしてポポちゃんは、人間の国に一人でいたんだ? 獣人の子なのに」
あんな「そうだよね。普通、獣人として転生したなら獣人国に生まれるはずじゃない?」
みゆ「そこが最も解明すべき不可解な点です」
みゆは分析を続ける。
みゆ「仮説。ポポちゃんが転生した際、配置された初期位置が、最初から人間国だった可能性です」
亮「でも、見た目は完全に獣人の可愛い女の子だぞ?」
みゆ「ええ。本来なら獣人国に転移・転生するはずのシステムにおいて、何らかの意図せぬエラーや問題が発生し、異座標である人間国へ落とされたのではないかと思われます」
亮「……転生プロセスでのエラー、か」
みゆ「あくまで推測の域を出ませんが。そう仮定すると、言葉が通じないまま孤立していた理由も説明がつきます」
あんな「でも待って、私たちは異世界に来た時から、この世界の言葉も自然と理解できてたじゃない?」
みゆ「それは私たちに『言語自動翻訳・補正』という知識加護が付与されていたからです。ポポちゃんには、その加護が存在しないか、不完全な状態で転生したと考えられます」
亮「言語の謎は分かってきたけど……そうなると、ポポちゃんのご両親は……?」
亮のその言葉に、一瞬で場が静まり返った。
あんな「……分からないね。この世界の獣人国に本当の親がいるのか……」
みゆ「はい。獣人国に両親が存在する可能性もありますし、存在しない場合もあります」
亮「……」
みゆ「その場合は、ポポちゃんの両親及び家は日本と言うことになります」
三人とも、眠るポポを静かに見つめた。
わずか六歳。
まだ親の温もりや保護が絶対に不可欠な、小さな子供なのだ。
それなのに一人、誰も言葉の通じない人間国で震えていた。
亮「……色々と考えちゃうけど、結局のところ、俺たちがここでいくら想像しても答えは出ないんだよな」
みゆ「はい。直接的な情報は皆無です」
あんな「ポポちゃん本人も、まだ小さすぎて全部を理解できてるわけじゃないもんね」
みゆ「だからこそ……現地の情報を得るために、獣人国へ向かう必要があるのです」
亮「そうだな」
亮はしっかりと前を向き、そして最後にもう一度だけポポの寝顔を見つめた。
亮「理由が何だったとしてもさ。ポポちゃんが『行きたい』って願った故郷まで、俺たちが責任を持って連れていってあげよう」
あんな「うん! 当たり前だよパパ!」
みゆ「了解。神崎家の最優先ミッションとして継続します」
荷台でゆらゆらと揺られながら、ポポが小さく身を縮め、寝返りを打った。
ポポ「……ん……ママ……」
ポポの口から漏れた、幼い切実な寝言。
亮「……」
あんな「……」
みゆ「……」
誰も、言葉を発しなかった。
けれど全員の心の中には、ポポを絶対に幸せにするという温かく力強い決意が満ちていた。
荷車は爽やかな風を載せて、どこまでも続く街道を静かに進んでいく。
三百年間途絶えた扉の向こう。
ポポが帰りたいと願った場所、獣人国へ向かって。
こうして――
幼い少女の切ない寝言を胸に刻み、一行は絆を深めていく。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
ポポが帰りたいと願った場所へ。
街道の景色は一変し、気付けば人跡未踏の未踏地帯へ。
そして国境目前で遭遇した、怪しすぎるお馴染み若手冒険者コンビの影。
次回、第233話 え、パパが勇者!? 三百年の沈黙を破り未踏の秘境へ突入!?




