第231話 え、パパが勇者!? 街道のど真ん中にCランク魔物がお昼寝中!?
王都から伸びる平穏な街道。
ベアトリスの大張り切りによる大爆走劇もどうにか落ち着き、神崎家を乗せた荷車は再び平和な速度を取り戻していた。
亮「……ふぅ、一時はどうなるかと思ったよ。ベアトリス、今度はゆっくり行こうな」
ベアトリス「申し訳ありませんわ……グランディアがあまりにも頼もしくて、つい風を感じたくなったのですわ!」
あんな「風を感じるレベルのスピードじゃなかったけどね!?」
みゆ「さすがゼーマンさんが貸してくれた荷車です。あの過酷な負荷走行を経ても、破損率は0%です」
もっふる「ピィー♪」
ポポはもっふるを優しく撫でながら、楽しそうに景色を眺めている。
亮「まあ無事だったから良しとしよう! 今日もいい天気だし、絶好の旅日和だな!」
御者台で手綱を握る亮。
その穏やかな掛け声に合わせ、グランディアがパカポコと心地よい足音を響かせて進む。
そんな穏やかな旅路の途中だった。
グランディアが突然「ブルルッ!」と耳をピクつかせ、ピタリと足を止めた。
亮「ん? どうしたグランディア?」
みゆ「前方街道上に障害物を検知しました」
あんな「障害物?」
亮が御者台から身を乗り出して先を見ると、街道のど真ん中に、巨大なオオカミが三体、綺麗に丸くなって寝そべっていた。
亮「……」
あんな「……ねえパパ。あれって……」
みゆ「鑑定完了。ランクCの魔物『グレイファング』です。体長約二・五メートル。本来は深い森に生息する魔物ですが……」
亮「……丸まって寝てるな」
すやすや。
すやすや。
すやすや。
三体の巨体が規則正しくお腹を上下させている。実に気持ちよさそうな寝顔だ。
亮「……街道のど真ん中で寝なくてもいいのになあ。おーい、すみませーん」
亮が御者台から声をかけてみるが、完全に熟睡していて起きる気配がない。
あんな「パパ危ないって! Cランクの魔物なんでしょ!?」
亮「でも通れないしさ……あのー、ちょっと道を空けてもらえませんかー?」
まったく動かないグレイファングたち。
すると、ポポの膝の上にいたもっふるが、首を傾げて可愛らしく声を上げた。
もっふる「ピィー♪」
その高く澄んだ鳴き声が響いた瞬間。
ピクッ!
三体の大きな耳が同時に立ち上がり、ギラリと黄色い猛獣の目が開いた。
グルルルル……!
亮「……あ、起きた」
グレイファングたちが低く唸りながら立ち上がり、鋭い牙を剥き出しにして神崎家へ牙を向ける!
あんな「こっちに向かってくるよ」
みゆ「お昼寝を邪魔されて怒っている様子です。攻撃行動への移行を確認 」
亮「え?そうなの」
ベアトリス「皆様、下がってくださいですわ!」
すっと御者台から飛び降りたのは、ベアトリスだった。
腰の剣に手をかけ、身構える。
亮「ベアトリス、気をつけてよ」
ベアトリス「わたくしにお任せを! 参りますわ!」
ポポ「大丈夫なの……」
心配そうに見守るポポ。
三体のグレイファングが一斉に地を蹴り、ベアトリスへ襲いかかる!
次の瞬間。
ベアトリス「そこですわ!」
閃光が一閃。
ドォンッ!
振り返りざまにさらにもう一閃!
ドォンッ!
そして最後の一体へ、美しく流れるような剣裁き!
ドォンッ!
一瞬の出来事だった。
街道を塞いでいた巨大な魔物三体は、倒れ伏していた。
亮「……」
あんな「……」
みゆ「……計測完了。戦闘開始から完全鎮圧まで、三・八秒です」
ポポ「すごい……」
もっふる「ピィー♪」
ベアトリスは何事もなかったかのように剣を納め、優雅に髪を払った。
ベアトリス「ふふっ、これで無事に先へ進めますわ!」
あんな「ベアトリス……めちゃくちゃ強いじゃない……」
ベアトリス「ありがとうございますですわ! ポポちゃん、今度わたくしが剣術を教えて差し上げますわ!」
ポポ「……うん!」
ポポの目が尊敬の眼差しで輝く。
そんな微笑ましい光景の中、荷車は再びゆっくりと走り出した。
それからしばらく進んで行くと、 前方から、立派な荷馬車を引いた一台の商隊がやってきた。
商人らしき中年男性が、こちらの荷車を見ている。
商人「……その荷車に刻まれた紋章! もしかして『セレスティア商会』の方ですか!?」
亮「え? セレスティア……?」
あんな「パパ、ゼーマンさんの商会の名前だよ」
亮「ああ! ゼーマンさんの! いえいえ、俺たちは商会の人じゃなくて、ゼーマンさんに荷車をお借りしているだけなんですよ」
商人「ああ、そうでしたか……。それにしても、先ほど街道のグレイファングを倒したのはあなた方ですか?」
ベアトリス「ええ! 少々お邪魔でしたので、道を空けていただきましたのですわ!」
商人「おお、やっぱり! いやあ、本当に助かりましたよ! あの巨大な魔物が居座っていて、通りかかった行商人たちみんなで困り果てていたんです。お礼を言わせてください、本当にありがとうございました!」
亮「いえいえ! 俺たちも通りたかっただけですから、気にしないでください」
商人は神崎家の一行を見回し、あの危険な魔物を無傷で退けた実力に感心するように大きく頷いた。
商人「……ところで、これほどの腕前をお持ちの皆様が、一体どちらへ向かわれているのですか? 」
亮「獣人国ですよ。このポポちゃんを故郷に送り届けたくて」
商人「……!」
「獣人国」という言葉が出た瞬間、商人の顔色がガラリと変わった。
商人「……獣人国へ行くのは、やめておいた方がいい」
亮「え? どうしてですか?」
商人「……私から言えるのは、それだけです。とにかく、近寄らない方がいい」
商人は固い表情で首を振ると、自分の荷馬車の手綱を握り直した。
商人「あそこは国境を閉ざしている未知の領域です。異国人を忌み嫌っているという噂もありますし、生きて戻った者はいないとまで言われています……」
そう言い残すと、商人は手綱を握り直し、走り去っていった。
取り残された街道。
あんなが不安そうに亮を見上げる。
あんな「パパ、どうする……? なんかすごく不穏な空気だったけど」
みゆ「肯定。情報が不完全ですが、相手の反応から警戒すべき事態が存在する確率は極めて高いです」
亮「うーん……」
亮が悩んでいると、隣でポポが小さく、新しく買ってもらった服の裾をギュッと握りしめた。
ポポ「……おうち」
小さく漏れた、切実な呟き。
ポポ「みんなと……おうちに行きたい……」
その言葉を聞いた瞬間、亮の表情から迷いが消えた。
亮はポポの頭を優しく撫で、前方をまっすぐに見据えた。
亮「よし、行こう! 何があっても、俺たちがポポちゃんを守るからさ!」
あんな「そうだね! パパの言う通り! ここで諦めるわけにはいかないもんね!」
みゆ「了解。脅威が発生した場合は、速やかに対応します」
ベアトリス「ええ! わたくしの剣で、ポポちゃんの道を切り拓いてみせますわ!」
もっふる「ピィー♪」
ポポ「……みんな……ありがとう……!」
ポポの顔に、心からの温かな笑顔が咲く。
商人の重々しい忠告を背に受けながら、神崎家を乗せた荷車は再び力強く進み始めた。
こうして――
不穏な警告をよそに、一行は真っ直ぐに目的地へと向かう。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
獣人国へと踏み出していくのだった。
すやすやと眠るポポの口から漏れた、あまりにも切ない寝言。
明かされる日本語の謎と、ポポちゃんまさかの異世界転生者疑惑。
理由が何であれ、この子を絶対幸せにしてみせる、神崎家が誓う家族の絆。
次回、第232話 え、パパが勇者!? ポポの寝言で家族の決意が一つに!? 故郷へ送り届ける誓い!?
温かな誓いを胸に、300年閉ざされた未知なる大地へ突き進め!?




