第230話 え、パパが勇者!? 神崎家の勝手な旅立ちで王都大騒ぎ!?
「止まれえええええ!!」
街道に響き渡る亮とあんなの悲鳴。
ベアトリスの大張り切りによって暴走を開始した神崎家の荷車は、猛烈な土煙を上げながら平原の彼方へと消えていった。
一方、その頃。
そんな神崎家の爆走劇など知る由もない王都の王城・会議室では、重々しい雰囲気の中で緊急最高幹部会議が開かれていた。
議題は、先の「ベーゼ」の一件。
そして、王都近郊の森や聖火山フェルナードで相次いで巻き起こった「フェニックス」にまつわる異常事態の進捗状況の報告であった。
皇女レオニアの声が響き渡る。
レオニア「では、引き続き調査をお願いします」
ライオネル「承知しました」
マルティナ「魔術師団も、調査を継続いたします」
コンラート「記録院におきましても、過去の文献との照合を進めます」
アルベルト「王都騎士団も警戒態勢を維持いたします」
レオニア「皆の者頼むぞ!」
一同「ははっ!」
重臣たちが一礼するのを見届け、レオニアはふと表情を緩めた。
レオニア「後、何か変わったことはないか?」
すると、ギルドマスターのガリオスが前へ出た。
ガリオス「冒険者ギルドより、一つご報告がございます」
レオニア「何でしょう?」
ガリオス「……神崎家についてです」
その名前が響いた瞬間、会議室にいた全員の表情が一変した。
ライオネル「神崎家……!」
ガリオス「今朝、神崎家の一行が王都を出発いたしました」
レオニア「どこへ向かったのだ?」
ガリオス「……獣人国です」
会議室が、凍りついたように静まり返った。
ライオネル「……じゅ、獣人国だと!?」
レオニア「あの獣人国か!?」
ガリオス「はい」
コンラート「獣人国とは約三百年間、一切の国交が途絶えておりますが……」
レオニア「なぜ突然、神崎家が獣人国へ向かうのだ?」
ガリオス「先日保護した『ポポ』という獣人の少女を、故郷へ送り届けるためだそうです」
レオニア「獣人の子だと……? なぜそのような幼子が我が国にいる?」
ガリオス「詳細までは聞いておりません。ただ、放っておけないと」
レオニア「……相変わらず、目の前の困っている者を放っておけぬ男だな」
ライオネル「なるほど……神崎殿らしいといえばらしいが……」
マルティナ「ですが、正式な外交手続きなどはどうされているのです?」
ガリオス「一切ありません」
ライオネル「……いや、そもそも国交が断絶している相手に、正式な外交手続きなど不可能なのでは?」
レオニア「無理ですね」
ガリオス「神崎家は、すでにそのまま向かっております」
レオニア「……実に神崎家らしい行動力ですね」
一同が苦笑いを浮かべる中、記録院長であるコンラートが静かに口を開いた。
コンラート「これは笑い事ではすまないのではありませんか」
レオニア「……その時はその時だな」
ライオネル「レオニア様……」
コンラート「……レオニア様。一つ、確認しておきたいことがございます」
レオニア「何でしょう?」
コンラート「そもそも、なぜ獣人国との国交が三百年も途絶えているのか……その根底についてです」
ライオネル「三百年前に、何か大きな戦争や不祥事でもあったのではないのか?」
コンラート「それが……」
コンラートは手元の古い資料を開いた。
コンラート「王立記録院に残されている一等記録では、約三百年前を境に、獣人国との交流記録が突然、何の脈絡もなく途絶えているのです」
マルティナ「突然……?」
コンラート「はい。戦争の記録は?」
コンラートは自ら問いかけ、首を振る。
コンラート「ありません。大規模な災害や魔物の襲来の記録も確認できません」
レオニア「では、なぜ国交が途絶えたのだ?」
コンラート「……分かりません」
会議室に、じわじわと異様な緊張感が走り始める。
コンラート「通常、これほど長期間にわたって国交が完全断絶するのであれば、理由となる歴史的事件や条約、あるいは激しい戦争の記録が明記されるはずです。しかし、獣人国を含めドワーフ国、エルフ国との関係についても、それらの記録が不自然なほどすっぽりと欠落しているのです」
マルティナ「過去の災禍で、記録が失われたということでしょうか?」
コンラート「その可能性もあります。……ですが、私はもう一つの可能性を懸念しております」
レオニア「もう一つ……?」
コンラート「何者かの手によって、意図的に歴史から消し去られた可能性があります。記録の欠落は、我々が知る歴史そのものの根幹を揺るがしかねません」
空気が一変した。
ライオネル「誰かが、歴史を改ざんしたと……!?」
コンラート「断定はできません。ただ、単純な資料の紛失として処理するには、あまりにも不自然すぎるのです」
マルティナ「では、三百年前に一体何が起きていたというのですか」
コンラート「今の我々の知識では、窺い知ることはできません」
重苦しい沈黙が会議室を支配する。
誰もが秘められた歴史の深淵に思いを馳せる中、ガリオスが口元を緩めた。
ガリオス「だからこそ……神崎家なんですよ」
全員の視線が、一斉にガリオスへと集中する。
ガリオス「これまでだって、神崎家が関わったことで、運命が動き出しています」
ライオネル「……確かに」
マルティナ「フェニックスの件も、まさにそうでしたわね」
ライオネル「ベーゼの件も、神崎家がいなければどうなっていたか……」
コンラート「もしかすると……」
コンラートが、資料を見つめながら静かに呟いた。
コンラート「神崎家なら……三百年間止まっていた歴史の歯車を、再び動かしてしまうのかもしれません」
レオニア「国交を……いや、世界そのものをか?」
コンラート「ええ」
ガリオス「……十分あり得ますね。あの亮さんなら『ちょっと遠出してきましたー』くらいのノリで、国交を開いて戻ってきそうですから」
レオニアはしばらく沈黙を守っていたが、やがて楽しそうに笑い声を上げた。
レオニア「ふふ……ならば、私たちにできるのは、神崎家の動向を静かに見届けることなのかもしれませんね」
誰一人として、その言葉に反論する者はいなかった。
レオニア「今回の件、獣人の子供がなぜ我が国にいたのか。そして、三百年前の歴史の改ざんについても徹底的に調べさせよ。よいな!」
一同「ははっ!」
その頃、神崎家は、そんな王城での真剣な会議など知る由もなく。
あんな「ベアトリス! ストップ!!ストーーーップ!!」
ベアトリス「これが噂の『限界突破』ですわーー!!」
みゆ「速度計測不能! 荷台が浮いています!」
もっふる「ピィーーーーーッ!?」
亮「だ、誰か助けてーーー!!」
猛烈な土煙を上げながら、神崎家の荷車は街道を猛スピードで突き進んでいた。
荷台の上では、亮が目を回しかけながら必死に手すりにしがみついている。
あんな「ポポちゃんが乗ってるんだよ!? 大丈夫、ポポちゃん! 怖くない!? 」
あんなは必死に脚をふん張りながら、小さなポポをぎゅっと抱きしめた。
ポポ「ポポ、だいじょうぶだよ! はやーい!楽しい―♪」
遥かなる獣人国を目指し、神崎家を乗せた荷車は、猛烈な大爆走を続けながら街道を突き進んでいた。
こうして――
王都の重鎮たちが勝手に期待と確信を深める中、家族の新たな大冒険が幕を開ける。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
三百年の歴史を揺るがす大爆走へと突っ込んでいくのだった。
暴走事故の直後、今度は街道のど真ん中でデッカいCランク魔物がお昼寝中。
圧倒的な剣技と、商人から投げかけられる重々しい警告!
不穏な噂とポポの切実な願いを胸に、最強のマイペース家族が立ちふさがる未知の危険へ突き進む!
次回、第231話 え、パパが勇者!? 街道のど真ん中にCランク魔物がお昼寝中!?




