第228話 え、パパが勇者!? ポポの「ありがとう」で、いざ新たな旅へ! 獣人国を目指して出発!?
王都の朝。
澄み切った雲一つない青空の下、神崎家が滞在していた宿屋の前では、旅立ちの準備がすっかり整っていた。
亮「よし、準備はできたな!」
あんな「うん! 忘れ物もないよ」
みゆ「全装備・物資の点検完了。旅程におけるリスクは許容範囲です」
ベアトリスも胸の前で両手を合わせ、優しく微笑む。
ベアトリス「いつでも出発できますわ!」
その横で、ポポは新しく買い揃えてもらった可愛らしい服の裾をそっと撫で、小さく深呼吸をした。
これから向かう場所や未来への不安は、もちろん完全になくなったわけではない。
それでも今の自分は、もう一人きりではないのだ。
足元へトコトコと歩み寄ってきたもっふるが、元気いっぱいに鳴いた。
もっふる「ピィー♪」
その温かな声と愛くるしい仕草に、ポポの表情が柔らかく綻んだ。
亮はその様子を温かな眼差しで見つめ、力強く頷いた。
亮「じゃあ、行こうか!」
神崎家は思い出の詰まった宿屋をあとにし、王都の大門に向かって歩き始めた。
新たな冒険が、今静かにその幕を開けようとしていた。
王都の大門前。
そこには、すでに神崎家を見送るための人影があった。
巨大な体を壁に預け、腕を組んでいたギルドマスターのガリオスが、神崎家の姿を認めると豪快に笑い声を上げた。
ガリオス「おう! 準備は万端みてぇだな!」
亮「はい! おかげさまで!」
亮が爽やかな笑顔で頷いた、その直後だった。
すっと、ぬかりのない足取りでゼーマンが正面から近づいてきた。
相変わらずの超至近距離で。
ゼーマン「獣人国への道のりは長旅になりますからねぇ。ぜひ、こちらをお使いください」
ゼーマンが手で示した先には、立派な荷車と、それに繋がれた見慣れぬ大型の魔物が佇んでいた。
亮「ぜ、ゼーマンさん、顔が近いですって……! え、馬車ですか?」
あんな「パパ、馬車とはちょっと違うよ……」
亮「あ、本当だ。馬じゃなくてトナカイだ。それにしても、すごく大きな体だなあ」
ゼーマン「この魔物はグランディアと申しましてね、見た目に反して非常に温厚なのですよ。我が商隊でも長年重宝しておりましてね」
亮「角も立派だし、毛並みもすごく良いですね」
ゼーマン「ええ、我が商隊一の自慢のグランディアですからねぇ」
亮「そんな立派な乗り物を、俺たちにくれちゃって良いんですか……!?」
ゼーマン「いえいえ、滅相もない! 単にお貸しするだけですよ」
亮「え……?」
あんな「パパ、それは『無事に帰ってきて返せ』っていうゼーマンさんなりの不器用な応援だよ」
みゆ「肯定。移動効率の最適化を図ると同時に、無事の再会を約束させる商人特有の心理的プロットです」
ゼーマン「いえいえ、単に幼いお子様の足では何かと大変だと思いましてね」
亮「ありがとうございます!」
あんな「本当にお気遣いありがとうございます、ゼーマンさん!」
ベアトリス「滞在中も含め、色々とお世話になりましたわ!」
ゼーマン「いえいえ。私の方こそ、実に素晴らしいご縁をありがとうございました」
ポポは、少し離れた場所からゼーマンをじっと見つめていた。
ゼーマンもまた、細い目を細めて温かく微笑み返す。
ゼーマン「元気で行っておいで」
ポポ「……うん」
ポポはコクリと小さく頷いた。
詳しい言葉の意味までは完全に理解できていない。
けれど、自分をあの暗闇から救い出してくれた恩人であり、温かな親切心で見送ってくれていることだけは、幼い心でしっかりと受け止めていた。
その光景を見ていたガリオスが、背中を叩く勢いで豪快に笑った。
ガリオス「無事に帰ってきたら、真っ先にギルドへ顔を出せよ! とびきり面白い土産話を期待してるからな!」
あんな「はい! 絶対にまた戻ってきます!」
あんなはぶんぶんと元気に手を振る。 王都で出会った人々。
一緒に過ごした時間は、決して長くはなかった。
それでも、こうして温かく背中を押してくれる人たちがここにいる。
ポポは少し照れくさそうに頬を染めながらも、両手を前に揃えてちょこんと頭を下げた。
ポポ「……ありがとう」
少女の口から漏れた小さな感謝の言葉に、ガリオスもゼーマンも目を細めて見送った。
朝日に照らされた街道が、どこまでも真っすぐに伸びている。
グランディアが引く立派な荷車に全員で乗り込むと、亮が御者台から温かく手綱を握り、ゆっくりと一歩を踏み出させた。
もっふる「ピィーーー♪」
もっふるが尾をフリフリと揺らしながら元気に声を上げた。
ポポは一度だけ後ろを振り返った。
王都――。
最初に連れてこられた時は、周りの誰もが知らない人ばかりだった。
恐ろしかった。
自分の言葉は誰にも通じず、世界全てが敵に見えていた。
けれど神崎家と出会った。
一緒に笑って。
泣いて。
美味しいものを食べて。
ポポにとって王都は、初めて「世界は温かい」と安心できた特別な場所になっていた。
亮は振り返ったまま動かないポポの様子に気づき、優しく声を掛けた。
亮「またみんなで、遊びに来ような」
ポポは亮の温かな瞳を見つめ返した。
そして、今度は迷いのない笑顔を浮かべて、小さく頷いた。
ポポ「……うん!」
亮は優しくその頭を撫でた。
神崎家は王都をあとにした。
街道には、どこか寂しさを拭い去ってくれるような、心地よい爽やかな風が吹き抜けていく。
その風に背中を優しく押されるようにして、新たな旅がゆっくりと始まった。
王都の誇り高き城壁が、歩みを進めるごとに少しずつ小さくなっていく。
街道の先には、見渡す限りの青々とした草原と、果てしない地平線が広がっていた。
目的地である獣人国までの道のりは長い。
どれほどの時間がかかるのかも、途中でどんな困難が待ち受けているのかも分からない。
それでも神崎家の足取りは、羽のように軽かった。
あんな「さあ、新しい大冒険の始まりだね!」
亮「ああ。何が待っているか分からないけど、みんな一緒なら絶対に大丈夫だ!」
みゆ「未知の事象や想定外のハプニングへの対応も含めて、それこそが旅というものです」
ベアトリス「ええ! きっと道中には、素敵な出会いや発見がたくさん待っていますわ!」
亮「よーし! 獣人国に向けて、出発だ――!!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるの元気いっぱいな高らかな鳴き声に、全員の顔に自然と笑顔が咲き誇る。
ポポも小さく見上げるように空を見つめた。
胸の奥にある不安が、完全に消えたわけではない。
それでももう、たった一人で暗闇を歩く旅ではないのだ。
隣には、手を繋いでくれる信じられる「家族」がいる。
ポポは小さな拳をギュッと握りしめた。
そして、神崎家と一緒に、一歩、また一歩と未来へ向けて前へ進んでいくのだった。
……だが、晴れ渡る街道を遠ざかっていく一行の背後。
陽光を遮るように、黒い歪な影が一瞬だけ不自然に揺らめいた。
風に乗って、低い呟きがどこからともなく消えていく。
「……行ったか、神崎家」
光差す地平線の向こうへ進む神崎家は、まだその影の存在に気づいていなかった。
―そして、その空のさらに遥か。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの家族は、本当にどこまでも優しく、温かいですね。
言葉も通じず、冷たい暗闇と絶望の中でただひとり震えていた幼い少女。
誰にも届かなかったその悲痛な叫びを拾い上げたのは、やはりあの勇者と、愛すべき家族たちでした。
迫害や恐怖といった理不尽を、怒りや力でねじ伏せるのではなく、ただどこまでも当たり前のぬくもりと、同じ言葉を持つ者としての優しい微笑みで包み込んでいく。
使命感ではなく、純粋な気持ちで、ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿。
どんなに世界の謎や誰かの意図が絡みあおうとも、「目の前で困っている子を笑顔にしたい」というその純粋な想いこそが、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれません。
……けれど。約三百年もの間、固く閉ざされていた未知なる獣人国へ……。
ええ、とても微笑ましいことではありますけれど……ふふ。
彼らがその一歩を踏み出す先に待つものを思うと……。
さて……
次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
あの家族なら、きっとどんな道のりも賑やかな笑顔で満たしていってしまうのでしょうね。
光が揺れ、風がそっと雲を撫でる。
その微笑みは、どこまでも優しかった。
こうして――
王都の人々に見送られ、神崎家の新たな旅が始まる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
その先に待つ知られざる真実と新たな絆に向けて、
賑やかに踏み出していくのだった。
第二十七章「架橋編」を終えて
王都での束の間の平穏を破り、始まった新たな出会い。
言葉の通じぬ少女ポポの心の叫びを救ったのは、神崎家が持つ温かな絆でした。
約三百年間閉ざされていた獣人国への道を開くべく、一行はグランディアの荷車で新たな旅路へ。
亮「いやぁ、王都を出発する時は毎回ハラハラするけど、今回はトナカイ風のグランディアも一緒だし、なんだか勇者ポイントが増える気がするな!」
あんな「はいはい、パパ。勇者ポイントは読者が決めることだよ! でも、言葉が通じて本当に良かったよね。ポポちゃんの故郷を目指して、これからもみんなで一緒に歩んでいこうね!」
みゆ「観測データ報告。パパのやらかしフラグが順調に蓄積されています。重大事故の発生を防ぎ、今後の円滑な旅路を確保するため、読者の皆様には下部での【★評価】および【ブックマーク】による『やらかし予防措置』を強く推奨いたします」
ベアトリス「ポポちゃんのお買い物も、旅の準備もバッチリですわ!約三百年ぶりの架け橋となるわたくしたちの冒険、皆様もぜひ応援してくださいですわ!」
もっふる「ピィー♪」




