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パパ、またやらかしてる! 〜50歳天然パパ、最強の娘たちともっふるで挑むFランク家族の無自覚無双スローライフ〜  作者: Kou
第四部【創地編】第二十七章 架橋編〜異世界の迷子を笑顔に!?~

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第224話 え、パパが勇者!? 届いた名前と小さなぬくもり!?

少女は、まだ亮のそばにペタリと座り込んでいた。

感情を吐き出して泣き疲れたのか、華奢な身体を少しだけ丸めている。


しかし、先ほどまでのような、世界全てを恐れる痛々しい怯えた表情は、そこにはなかった。

自分の言葉が、目の前にいる大人に届いた。

たったそれだけの事実が、少女の氷のように冷え切っていた心に、どれほど大きな安心をもたらしたことか。


亮は焦って矢継ぎ早に問いかけたりはしなかった。

いきなり何かを聞けば、驚いてまた心を閉ざしてしまうかもしれない。

だからゆっくりと、どこまでも優しい声で、小さな背中に語りかける。


亮「……少し、落ち着いたかな?」


少女は、じっと亮の瞳を見つめ返した。

そして、呼吸を合わせるように、コクリと小さく頷いてみせた。


亮は温かな眼差しで微笑んだ。


亮「そっか。よかった」


部屋に控えていた者たちも、目の前で起きた明確な変化を息をのんで感じ取っていた。

使用人たちは口元を手で覆い、信じられないものを見るかのように目を見開いている。

十日間、何をどう尽くしても反応のなかった少女が、初めて会話をしている。


ゼーマンは少し離れた場所から、その光景を見つめていた。

しかし、その表情の奥にある光は、ただの損得勘定を考えている時のそれとは明らかに異なっていた。


亮は少女を静かに見つめた。

聞きたいことは、山ほどある。

なぜ異世界の言葉ではない言葉を知っているのか。

どこから来たのか。

だが今は、それらを尋ねる時ではない。

何よりも先に、この子が心の底から安心できること。

それが一番だった。


亮「……」


亮は静かに息を整え、壊れ物に触れるような優しい声を掛けた。


亮「よかったら……名前を教えてくれるかな?」


少女の頭の上の小さな耳が、ぴくりと跳ねた。

少女はすぐには答えなかった。

膝の上で小さな拳をギュッと握りしめる。


自分の名前を他人に伝える。

ただそれだけのこと。

だが少女にとっては、途方もなく大きな、勇気のいる一歩だった。


この世界に来てからずっと。

自分の言葉は誰の耳にも届かなかった。

何を伝えようとしても、どれだけ叫んでも、不気味なものとして拒絶されるだけだった。

そんな少女が今、言葉を届けようとしている。


少女は胸いっぱいに、小さく息を吸い込んだ。

そして、


少女「……ポポ」


かすかな、掠れた声。

しかしそれは確実に、亮たちの耳へと届いた。


亮「……ポポ」


亮は宝物に触れるように、その名前を優しく繰り返した。


亮「ポポちゃんか。すごく良い名前だね。俺は神崎亮。パパって呼んでくれていいからね」


ポポの耳が、パタパタと嬉しそうに揺れた。

自分の名前を優しく呼ばれる。

そんな当たり前のことが、今のポポには涙が出るほど嬉しかった。


あんな「ポポちゃん!」


あんなも両手を胸の前で合わせ、太陽のような眩しい笑顔を向けた。


あんな「すっごく可愛い名前! 私はあんな。よろしくね、ポポちゃん!」


ポポは少し驚いたようにあんなを見つめた。

みゆも静かに、けれど温かな眼差しで。


みゆ「ポポちゃん。私はみゆです」


ポポはみゆをじっと見つめた。

コクリと小さく頷いてみせる。


亮は、その様子を横で見守りながら目元を緩めた。

少しずつ。

本当に少しずつだが、この子の心が開いていく。


亮「ポポちゃん。もう一つだけ、聞いてもいいかな?」


ポポは亮の顔を見上げた。

そして、今度は迷わずに小さく頷いた。


亮「歳は、いくつなのかな?」


ポポは少しだけ考え込む素振りを見せた。

そして小さな手を伸ばすと、短くて華奢な指を立ててみせた。


ポポ「……6歳」


その瞬間、静かな部屋の空気がいっそう重みを増した。


亮「……6歳」


あんな「……」


みゆ「……」


たった、六歳。

こんなにも小さな子供が。

たった一人で。

何もかもが違う知らない異世界に放り出され。

誰にも言葉が通じない暗闇の中で、今日まで生きてきたのだ。


亮の胸の奥が、ぎゅっと雑巾を絞られるように痛んだ。

目頭が激しく熱くなり、視界が歪みかける。


(ダメだ……俺が今、暗い顔をしちゃダメだ……!)


亮はぐっと奥歯を噛み締め、こみ上げる涙を父親としての笑みで押し殺した。


亮「……頑張ったね。本当に、よく頑張ったね……!」


ポポは亮を見つめた。

投げかけられた言葉のぬくもりを、幼い心でしっかりと理解していた。

ポポは泣き笑いのような表情で、何度も深く頷いた。


ポポの名前。

そして、六歳という年齢。

それだけの情報だが、神崎家にとっては十分すぎるほどだった。

この小さな背中が、どれほどの孤独と戦ってきたのかが痛いほど伝わってきた。


亮がポポの頭を優しく撫でようとした、その時だった。


てくてく。


部屋の隅から、軽やかな小さな足音が近づいてきた。

跳ねるでもなく、急ぐでもなく、ただ普通に歩いてくる丸い影。

もっふるだった。


ポポは不思議そうに、その毛玉のような存在を見つめる。


ポポ「……?」


もっふるは、ポポの目の前でぴたりと立ち止まった。

そして――。


もっふる「ピィ〜♪」


どこまでも柔らかく、温かな音色で鳴いてみせた。


ポポは少しだけ肩をすくめて身体を固くした。

けれど、そこには恐怖はない。

もっふるの丸い身体から、一切の害意や敵意がないことが分かったからだ。

つぶらな瞳が、ただじっとポポを見つめている。


亮「大丈夫だよ。この子はもっふる。怖くないからね」


ポポは、おそるおそるゆっくりと小さな手を伸ばした。

震える指先が、もっふるのフワフワとした毛並みにそっと触れる。


その瞬間、ポポの瞳が大きく見開かれた。


ポポ「……」


手に伝わる、柔らかな毛の質感。

ぽかぽかと温かい体温。

これまで感じたことのない、包み込まれるような安心感。


ポポ「……あったかい……」


もっふる「ピィ♪」


ポポはもう一度、今度は自分の意思でしっかりと手を伸ばし、もっふるの身体を撫でた。

その姿を見て、神崎家の緊張が一気に解けていく。


あんな「……よかった。仲良くなれそうだね!」


あんなは心底嬉しそうに目元を緩めた。


みゆも静かにその様子を見守る。


みゆ「警戒水準の著しい低下を確認。対象を安全かつ無害な存在として認識した模様です」


ポポはもっふるを夢中で撫で続けた。

生まれて初めて、自分から触れ合える存在ができたのだ。

複雑な言葉ではなく、ただそこにいてくれるぬくもりが、ポポの凍りついた心を確実に溶かしていく。


ポポは、もっふるに触れたままじっと動かなかった。

温かな体温。

そして、純粋な優しさ。

ただ寄り添ってくれることが、ポポにはたまらなく嬉しかった。


ポポ「……」


小さな口元が、少しだけ緩む。

ほんの小さな変化。

でも、亮たちには、はっきり分かった。


ポポが、笑ったのだ。


あんな「……パパ、ポポちゃんが……笑ったよ!」


亮「ああ……!」


亮は大きく頷いた。

初めて会った時、怯え、震え、誰にも届かない悲鳴を繰り返していた少女。

その少女が今、ほんの少しだけれど、本当の笑顔を見せている。


ベアトリスはハンカチで目元をぬぐいながら、優しくポポを見つめた。


ベアトリス「言葉は分かりませんけれど……。あの子が今、どれほど嬉しいのかだけは、痛いほど伝わってきますわ……!」


ポポがもっふるを見つめると、もっふるも誇らしげに胸を張った。


もっふる「ピィー♪」


その可愛らしい鳴き声に、ポポはまた小さく笑った。


ゼーマンは、その一連の光景を静かに見届けていた。

細い目をギラリと光らせ、いつものように食えない笑みを口元に浮かべる。


ゼーマン「……ふふっ。やはり、神崎様にお繋ぎして正解でしたね」


亮「え?」


亮が振り向くと、ゼーマンはいつもの商人らしい顔つきに戻って肩をすくめた。


ゼーマン「先程も申し上げましたがね、商人というものは品物だけを見る仕事ではありませんのですよ。人と人の間に生まれる『縁』を見極める仕事でもありましてね」


ゼーマンはポポへ視線を送る。


ゼーマン「この子には、この『縁』が必要だったのですね」


神崎家をまっすぐに見つめるゼーマンの言葉に、亮は少し照れたように頭をかいた。


亮「俺たちはただ、普通に接しているだけですよ」


ゼーマン「その普通ができる人間が、この世には案外少ないのですよ」


その言葉を背に受けながら、亮たちは静かにポポと向き直った。

まだまだ分からないことばかりだ。

この子がどこからやってきたのか。

なぜ日本の言葉を話すのか。

これからどんな運命が待っているのか。


けれどたった一つだけ、はっきりと理解できたことがある。


この小さな少女を、絶対に一人にはしない。

二度と、暗闇の中で泣かせたりはしない。


ポポと神崎家の、温かな最初の一歩が踏み出されたのだった。


部屋の中に注ぐ陽光が、もっふるを撫でるポポの小さな手を優しく照らしていた。


こうして――

小さな少女の笑顔を取り戻し、家族の輪がまた一つ広がっていく。

ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、

新たな温かな絆を育み始めるのだった。


言葉が通じないというだけで「悪魔憑き」と恐れられた幼き少女……。

理不尽な暗闇に晒されてきたポポを狙う、世界の裏に蠢く意図とは!?


たとえどんな謎や運命が隠されていようと、神崎家がその温かな手で守り抜く!


次回、第225話 え、パパが勇者!? どんな理由でもこの子を守る!パパの温かい誓い!?


少女の身に宿る謎の光が、新たなる冒険の扉を開く。


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