【外伝】 え、パパが勇者!? もっふる一日店長で大行列!? 商店街スカウト大合戦!?
王都の爽やかな朝。
雲ひとつない澄み渡った青空の下、神崎家は賑やかな大通りをのんびりと歩いていた。
亮は気持ちよさそうに背伸びをし、清々しい笑顔を浮かべる。
亮「ふぅ〜! 今日は余計な事件もなく、家族でゆっくりスローライフを満喫するぞ〜!」
あんなは隣で呆れたように肩をすくめ、すかさずツッコミを入れた。
あんな「ちょっとパパ、そのフラグ満載の発言……絶対に何か事件に巻き込まれる予感しかないんだけど」
みゆも至極落ち着いた表情で続ける。
みゆ「統計的データに基づく推測。本日中に何らかのトラブルに巻き込まれる確率は99.8%です」
ベアトリス「どんな事件が起ころうとも、神崎家の絆で見事解決してみせますわ!」
亮「ええっ!? なんでみんなして、俺が事件を起こすこと前提で話を進めてるの!?」
もっふる「ピィー♪」
通りには色とりどりの露店がずらりと並び、多くの人々が行き交っていた。
焼きたての香ばしいパンの香り。
色鮮やかな果物を綺麗に並べる店。
そして、新鮮でみずみずしい野菜を売る八百屋。
亮はふと足を止め、露店の野菜に目を奪われた。
亮「へぇ〜、このトマトや大根、すっごく美味しそうだなぁ」
その時だった――。
「いててて……っ……」
露店の奥から、小さな痛みが混じったうめき声が聞こえてきた。
神崎家が声のする方へ視線を向けると、一軒の八百屋の軒先で、年配の店主が腰を押さえながら蹲っていた。
亮「うわっ、大丈夫ですか?」
亮は慌てて駆け寄り、店主の背中を支える。
店主「す、すみません……。仕入れたばかりの重い荷物を運んでいたら、うっかり腰を痛めてしまいまして……」
亮「それは大変だ! 無理しちゃダメですよ!」
店主は申し訳なさそうに、ずらりと並んだ野菜を見つめた。
店主「今日は朝採れの新鮮な野菜を仕入れたばかりなので、本当なら休むわけにもいかないんです。でも、この腰ではとてもまともに店を開けることもできなくて……」
亮「そうなんですね……困ったなぁ」
店主は意を決したように、亮に向かって深々と頭を下げた。
店主「勝手なお願いで大変恐縮なのですが……今日一日だけ、店を手伝っていただけないでしょうか!」
亮「いいですよー!」
あんな「また即決なの!? 少しは断る選択肢を持とうよパパ!」
みゆ「毎度おなじみのパパのリアクションです」
ベアトリス「困っている方を助ける、パパらしい素晴らしい決断ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「だってさ、目の前で困っている人を見過ごすわけにはいかないじゃないか」
あんなは苦笑しながら肩を落とした。
あんな「はぁ……絶対にそう言うと思ったよ」
みゆ「事前に確認するだけ時間の無駄でした」
ベアトリス「もちろん、わたくしも全力でお手伝いいたしますわ!」
もっふる「ピィー♪」
店主は感激のあまり、何度も頭を下げた。
店主「ありがとうございます! 本当に助かります。私はこの店の店主でフラムと言います」
亮「ご丁寧にありがとうございます! ――よし、では自己紹介をしよう! こちらは……」
あんな「娘のあんなです。妹のみゆとベアトリス、それともっふるです」
あんなが素早く割り込み、それぞれ軽く会釈をする。
亮「ちょっとあんなちゃん!? ええっと、自己紹介はパパの役目なんじゃ……」
みゆ「そのような規定は存在しません。パパが名乗ると説明が余計に長くなり、無用な混乱を招くため、極めて素晴らしい回避処置だと判定します」
亮「そんなー! 俺の出番がー!」
思わず周囲に温かい笑いがこぼれる。
もっふる「ピィー♪」
その時、店主フラムの視線が、もっふるに釘付けとなった。
店主「その子……」
亮「ん? もっふるのことですか?」
店主は思わず頬を緩め、パッと笑みを浮かべた。
店主「なんて可愛らしいんでしょう。この子が店先にいてくれるだけで、お客様がどんどん集まってきそうですね」
亮は愛らしく首をかしげるもっふるを見つめ、ポンと手を叩いた。
亮「よし! 決めた! 今日の八百屋の店長は、もっふるだ!」
もっふる「ピィー♪」
あんな「一日店長就任おめでとう!」
みゆ「異議はありません。最高の看板効果が期待できます」
ベアトリス「とってもお似合いですわ!」
店主「それでは皆様、よろしくお願いいたします!」
亮「お任せください!」
あんな「私たちは売り場の接客担当だね」
みゆ「お客様の案内と分析対応はお任せください」
ベアトリス「皆様に喜んでいただけるよう、明るく元気に頑張りますわ!」
もっふる「ピィー!」
そこへ店主が、どこからか小さな木切れと紐で作った名札を持ってきた。
そこには丁寧な文字で――
『一日店長 もっふる』
と書かれていた。
亮「おぉ〜! 立派な店長札だ!」
店主は店先の一番目立つ特等席へ小さな椅子を置く。
もっふるはその上にちょこんと腰を下ろした。
もっふる「ピィー♪」
あんな「可愛い……! 写真に残しておきたいくらいだね」
みゆ「この場所なら、もっふるが店先にいるだけで、お客様を呼んでくれます」
ベアトリス「あ! もう通りのお客様が足を止めて見ていますわ!」
通りを歩いていた親子の子供が、目を輝かせて足を止めた。
「ママ、見て見て!」
「あらまあ、可愛らしい店長さんがいるわねぇ」
子供が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「かわいい〜〜!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるが小さな羽をパタパタと振ると、子供は大喜びで歓声を上げた。
その微笑ましい様子を見ていた通り人々が、吸い寄せられるように次々と店の前へ集まり始める。
「何のお店かしら?」
「あら、八百屋さんじゃない?」
「可愛い店長さんもいるし、ちょっと見ていきましょうか」
亮「いらっしゃいませー!! 新鮮な野菜がたくさんありますよー!」
亮が元気よく声を張り上げる。
あんな「本日採れたてのみずみずしいお野菜ですよー!」
みゆ「産地直送、栄養価も抜群です」
ベアトリス「どうぞ、ご自由にご覧くださいませですわ!」
店主のフラムは目を丸くした。
店主「ま、まだ開店したばかりなのに、こんなに人が……!」
亮は張り切って野菜を並べ直していく。
亮「はい! トマトはこちら! 大根はこっち! えーっと、白菜は……あれ?」
あんな「パパ……それ、キャベツ」
亮「えっ!?」
みゆ「さっそく商品を間違えています。パパの識別能力にエラーが発生しました」
ベアトリス「大丈夫ですわ! 形が似ていますわ!」
店主も思わず吹き出した。
店主「ハハハ、亮さん。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」
亮「野菜の種類って、意外と難しいなぁ」
そんな微笑ましいやり取りに、集まったお客さんたちからどっと温かい笑いが起こる。
その笑い声に誘われるように、さらに街行く人々が足を止めていく。
誰もが最初に目を奪われるのは、やはり店先で胸を張る一日店長・もっふるだった。
もっふる「ピィー♪」
開店からわずか三十分。 店の前には、いつの間にか長い行列が出来上がっていた。
「ここだ! もっふる店長のお店!」
「まだ売り切れてないぞ! 並ぼう!」
次々とお客さんが押し寄せてくる。 店主のフラムは腰の痛みを忘れるほど驚き、目を丸くした。
店主「こ、こんなこと……店を始めて以来、一度もありませんよ……!」
亮「トマト追加入りまーす! じゃがいも持ってきます! 次はえっと……!」
亮は一人で店の中と倉庫、そして売り場を汗だくになりながら何度も全力疾走する。
あんなは弾けるような笑顔でお客さんに野菜を手渡した。
あんな「ありがとうございます! 次のお客様どうぞ! こちらのキュウリも新鮮ですよ〜!」
その太陽のような爽やかな笑顔に、若い騎士や冒険者のお客さんたちは思わず顔を赤くする。
「や、やっぱり買いに来て良かった……!」
「あんなさんの笑顔が眩しい……もう一袋ください!」
その隣では――。
みゆ「こちらの野菜は本日のおすすめです。煮込み料理に使用すると旨味が引き立ちます」
静かで落ち着いたみゆの解説に、主婦層のお客さんたちが納得顔で手を伸ばす。
「じゃあ、それももらうわ!」
「みゆちゃんのおすすめなら間違いないものね!」
さらに――。
ベアトリス「お買上げありがとうございました! またのお越しをお待ちしておりますわ!」
優雅で気品あふれるお辞儀に、年配のお客さんたちは笑顔になる。
「あらあら、なんて素敵なお嬢さんでしょう」
「今日はいいお買い物ができて得した気分だわ」
そして店先では、一日店長のもっふるが愛くるしくお客様をお迎えしていた。
もっふる「ピィー♪」
子供たちは大喜びで手を振り、大人たちも仕事の疲れが一気に吹き飛ぶように笑みをこぼす。
「店長、可愛すぎる!」
「最初はもっふる店長を見に来ただけだったのに……せっかくだし野菜も買っていこうか!」
その一言が、さらなる客を呼び寄せる。
「何の行列だ?」
「天使がいるらしいぞ!」
「いや、笑顔で癒されるらしいぞ!
「マジか! 俺たちも行ってみようぜ!」
噂は瞬く間に王都の街道中へ広がっていった。
気づけば――。
あんな親衛隊。
みゆ親衛隊。
ベアトリス親衛隊。
もっふる癒され隊。
それぞれの親衛隊も駆けつけ、店の前は完全にお祭り騒ぎとなっていた。
亮「大根完売! 人参も売り切れ! キャベツもなくなったー! むちゃくちゃ忙しいよーー!」
店主「亮さん! 倉庫の野菜、全部出してください!」
亮「了解です!!」
亮は額の汗を拭う暇もなく、倉庫と売り場を何十往復もダッシュする。
あんな「パパ、大丈夫? 息上がってるよ?」
みゆ「本日のパパの運動量は通常の300%を超過しています」
ベアトリス「とっても生き生きとしていて楽しそうですわ!」
亮「大丈夫大丈夫! まだまだいけるぞー!……でも、ちょっとだけ休憩がほしいかも……」
「おーい! 亮さーん! こっちもジャガイモー!」
「亮さん! こっちの会計も頼むー!」
亮「はいはーい! 今行きまーす!!」
――そして、開店から半日。
最後の一箱に入っていたトマトが、お客さんの手に渡った。
あんな「……はい! 本日の商品、すべて売り切れでーす!」
亮「えっ!?」
みゆ「完売です。お店の野菜が……一つ残らず全部売れました」
ベアトリス「完売御礼ですわ!」
店の前から、地響きのような大きな歓声と拍手が上がった。
「「「完売おめでとうーーー!!」」」
店主のフラムは、がらんどうになった売り場を見渡した。
あれほど山積みになっていた野菜や果物が、見事にひとつ残らず消えている。
フラムは信じられないといった様子で、何度も目をこすった。
店主「本当に……全部完売してしまった……」
亮は衣服の袖で額の汗をぬぐいながら、爽やかに笑う。
亮「いやぁ〜! 怒涛の忙しさでしたね」
店主はゆっくりと亮の前まで歩いてくると、深々と頭を下げた。
店主「亮さん、皆様……本当に、本当にありがとうございました! こんなに賑やかで活気があったのは、店を始めて以来初めてです」
亮「ハハハ、お役に立てて良かったです!」
店主「おかげで今日は、私の人生で最高の一日になりました」
そう言って店主は、今度は椅子の上で誇らしげに胸を張るもっふるへ向き直った。
店主「それから……一日店長さんも、本当にお疲れ様でした」
もっふる「ピィー♪」
その愛くるしい返事に、その場にいた全員の心が温かい微笑みに包まれる。
あんな「ふふっ、もっふる店長は大人気だったねぇ」
みゆ「分析結果によると、来店客の82%はもっふる目当てでした」
ベアトリス「わたくしも何度も『店長さんはどちらにおられますの?』と聞かれましたわ!」
もっふる「ピィー♪」
店主は少し躊躇しながら、目を輝かせて言った。
店主「あの……実はですね。もしよろしければ、明日もお願いできませんでしょうか……!?」
亮「ええっ!?」
あんな「どうするの、パパ?」
みゆ「予想通りの展開です」
ベアトリスも思わずクスッと笑みをこぼす。
亮は慌てて両手をぶんぶんと振った。
亮「いやいやいや! 急場しのぎのお手伝いですから! さすがに勘弁してください、俺たち本業は冒険者なんですからー!」
その必死なやり取りに、周囲のお客さんや店主たちからドッと大きな笑いが起こる。
するとそこへ、隣の魚屋の店主が息を切らせて駆け寄ってきた!
魚屋店主「おい亮さん! 八百屋が終わったなら、次はうちの魚屋へ来てくれ!!」
さらに向かいのパン屋の店主も負けじと割り込んでくる!
パン屋店主「いやいや! うちの焼き立てパンの店長が先だ!!」
花屋の店主も腕をまくって主張する!
花屋店主「花屋も可愛らしい店長さんをお願いします!!」
果ては、頑固そうな肉屋の店主まで手を挙げた!
肉屋店主「うちの肉も売ってくれ!!」
亮「ええーーーっ!? なんでみんな俺たちをスカウトしようとしてるの!?」
商店街の店主たちは口々に楽しそうに笑い合う。
「今日は亮さんたちともっふる店長のおかげで、商店街全体が祭りみたいに大賑わいだったんだよ!」
「八百屋だけじゃない! 通りがかりの客がうちの店でも買っていってくれてね!」
「商店街始まって以来の最高売り上げだ!」
「本当にありがとうな、亮さん!」
亮は驚いて周囲を見回した。
商店街の店主たちも、買い物を終えたお客さんたちも、みんな最高の笑顔を浮かべている。 どうやら、もっふる一日店長を見に訪れた大勢の人々が、他の店でも買い物を楽しんでいってくれたらしい。
亮「あはは……皆さんに喜んでもらえたなら良かったです」
魚屋店主「だから明日は魚屋だ!」
パン屋店主「いや、パン屋だぞ!」
花屋店主「花屋です!」
肉屋店主「肉屋を忘れるな!」
亮は頭を抱えて降参するように叫んだ。
亮「だから勘弁してくださいよ〜〜! 俺、今日こそはのんびりスローライフがしたかったのに〜〜!?」
商店街に、弾けるような大きな笑い声が響き渡る。
あんな「パパ、スローライフって言葉の意味、辞書で引き直したほうがいいよ」
みゆ「パパの辞書には“スローライフ=全力疾走”と記載されている可能性があります」
ベアトリス「でも、誰からも愛されるのがパパの素敵なところですわ!」
もっふる「ピィー♪」
王都の街。
神崎家の笑い声と、温かい商店街の人々の笑い声は、いつまでも心地よく街中へ響き続けていた。
こうして――
のんびり過ごすはずの休日が、商店街を巻き込む大騒動(?)へと早変わりした。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
街中の笑顔とともに次なる日常へと続いていく。
次回、『ぱぱやら!』
新章突入!
明日朝8時、第四部 本編第二十七章スタートとなります。
これまで以上に楽しんでいただけたら嬉しいです。




