第220話 え、パパが勇者!? 貸切の大祝賀会で親衛隊が大暴走!? 大商人ゼーマンの密着強襲!?
王都の夕暮れ。
街には穏やかで優しい風が吹き抜け、多くの人々が行き交っていた。
その一角にある王都でも人気の老舗酒場は、この日だけは一般客の姿がない。
店の入口には「本日貸切」の立派な木札が掛けられていた。
酒場の中では、大きな木製テーブルがいくつも並べられ、できたての料理や酒が次々と運び込まれていく。
香ばしく焼き上げられた巨大な肉料理。
王都名物のコクのある濃厚な煮込み料理。
焼き立ての香ばしいパンに、色鮮やかな採れたて野菜料理。
店内には食欲をそそる豊かな香りが満ち溢れていた。
亮「わぁ……すごい賑やかさだ。料理もたくさんあるね!」
あんな「わ、本当だ! みんなもう集まってるね」
みゆ「本日は聖火山調査隊の正式な大祝賀会です」
ベアトリス「これほど盛大な大宴会だとは思いませんでしたわ!」
もっふる「ピィー♪」
店内にはすでに、過酷な任務を共に乗り越えた多くの顔ぶれが集まっていた。
王国騎士団。
王立魔術師団。
王立記録院。
冒険者パーティ紅蓮の輪。
そして、今回調査隊としては参加していないが神崎家にゆかりの面々。
今回の調査に関わった者たちが、それぞれ晴れやかな笑顔で楽しげに語り合っている。
ルークは神崎家に気づくと、嬉しそうに大きく手を振った。
ルーク「亮さん! こちらです!」
オスカー「席をご用意しております」
エドガー「本日は無礼講の祝宴です。どうか遠慮なさらず楽しんでください」
亮「あ、ありがとうございます!」
ルークは静かにグラスを手に取り、高々と掲げた。
ルーク「それでは! 聖火山フェルナード異常事態の完全終結と、本日ここに集まった全員の健闘を称え――」
全員が手に手にグラスを掲げる。
ルーク「乾杯!!」
一同「「「乾杯ーーー!!」」」
勢いよくグラス同士がぶつかり合い、酒場中に歓声と拍手が鳴り響く。
こうして、過酷な激闘の終わりを告げる、盛大な大祝賀会が幕を開けた。
乾杯の声を合図に、酒場は一気に活気あふれる宴の場となった。
出来立ての料理が次々と運ばれ、あちらこちらで楽しげな笑い声が弾ける。
亮「うわぁ、どれも美味しそうだなぁ!」
あんな「パパ、まずはちゃんと座って食べようよ」
みゆ「今日は気兼ねなくゆっくり栄養を補給してください」
ベアトリス「どのお料理も、本当に美味しそうですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮は目の前に並ぶご馳走を見渡し、子供のように嬉しそうに目を輝かせる。
亮「旅の途中で食べた各地の料理も最高だったけど、やっぱり王都の料理もすっごく美味いなぁ」
ギルドマスターのガリオスが豪快にビールジョッキを叩きつけ、笑い飛ばす。
ガリオス「ガハハ! 今日は特別だからな! 遠慮なんて要らねぇ、どんどん食って飲み明かせ!」
亮「ありがとうございます!」
一方、その頃。
酒場の別の一角では、あんなの周りに若い騎士や駆け出し冒険者たちが殺到していた。
あんな親衛隊の面々である。
「あんなさん、本当にお疲れ様でした!」
「いつも剣技素晴らしいです!」
「記念に、握手していただけませんか!?」
あんな「えっ!? ええっ!? 握手!? あ、はい、よろしくね……?」
突然のファン対応に、あんなはタジタジになりながら苦笑いする。
そのすぐ隣では、みゆ親衛隊が目を輝かせて押し寄せていた。
「みゆ様!」
「あの完璧な索敵と魔法誘導、本当にお見事でした!」
「ぜひ今度、魔術のご指導を賜りたいです!」
みゆ「……ご指導、ですか? 私のデータ理論はスパルタですが、耐えられますか?」
さらに、いつの間にか結成されていたベアトリス親衛隊も負けてはいない。
「ベアトリス様!」
「いつでも応援していますわ!」
「ぜひ記念に握手を……ううん、お近づきの印に一言賜りたいですわ!」
ベアトリス「まあ! ありがとうございます! わたくしも精進いたしますわ!」
そして、もっふるの周りには小さな子どもたちや女性陣が集まっていた。
もっふる癒され隊である。
「きゃー! かわいいー!」
「もふもふさせてー!」
「抱っこしてもいい!?」
もっふる「ピィー♪」
もっふるは誇らしげに胸を張り、嬉しそうにテーブルの上を歩き回る。
亮はその賑やかな光景を温かい眼差しで眺めながら、ほっこりと笑った。
亮「いやぁ、我が娘たちはどこに行っても人気者だなぁ。それにしても、なんだか親衛隊の数がどんどん増えているような気がするけど……」
その時、親衛隊の様子を見ていた紅蓮の輪の五人が近づいてきた。
亮「あっ! 紅蓮の花の皆さん!」
ピキッ――。
一瞬にして、静まり返る店内。
レオンは深くため息をつき、額に手を当てた。
レオン「……また間違えた……」
リーダーのガルドは参ったというように苦笑いを浮かべる。
ガルド「亮さん……紅蓮の輪です」
亮「あっ! ごめんごめん! またやっちゃった! ついつい花って言っちゃうんだよね!」
亮の素直すぎる謝罪に、酒場中からドッと大きな爆笑が巻き起こる。
セリナ「まったく、これだからFランクは……!」
リュシア「ふふ、ここまでくると逆に一種の才能ですね」
ミレイア「ふふっ、亮さんらしくて素晴らしいと思いますわよ」
亮「いやぁ、どうしても花の方が可憐で覚えやすくてさぁ」
あんな「はぁ……パパの覚え間違いは安定だよね」
みゆ「修正データの更新が保留されている状態です」
もっふる「ピィー♪」
再び酒場は温かい笑い声と歓声に包まれるのだった。
宴会も中盤を迎えた頃。
ガリオスがドカッと席を立ち、ジョッキを高く掲げた。
ガリオス「おーい! 野郎ども、ちょっと静かにしてくれ!」
店内の視線が一斉にガリオスへ集まる。
ガリオス「今日は聖火山事件終結の祝いだ! だがそれだけじゃねぇ! 今回、一番称えられるべき功労者は、この神崎家だ!!」
ドワッと、地響きのような万雷の拍手と歓声を酒場中に響き渡らせる。
亮「えっ!? 俺たち!?」
あんな「ほらパパ、立って立って」
みゆ「前へどうぞ」
亮は慌てて両手をぶんぶんと振った。
亮「いやいやいや! 本当に俺たちだけの力じゃありませんから! 騎士団の皆さん、魔術師団の方々、記録員さんたちも、紅蓮の輪の皆さんも! みんながいてくれたから乗り越えられたんですよ!」
ルークは温かい笑顔で深くうなずく。
ルーク「亮さんらしい言葉ですね」
オスカー「ええ。ですが、そのどこまでも謙虚な姿こそが亮さんです」
エドガー「今回の偉大な功績は、王立記録院の歴史に永劫残ります」
カイル「亮さんたちが来てくれて、本当に助かりました」
亮「う〜ん、俺は今回ほとんど何もしてない気がするんだけど……ま、いっか!」
亮の天然な返しに、再び大きな拍手と笑いが湧き起こる。
その様子を、少し離れた静かな席からじっと見つめる一人の男がいた。
豪華な身なりに、顔一杯に貼り付けたような穏やかな笑み。
王都を代表する大商人ゼーマンである。
ゼーマンは細い目を怪しくギラつかせながら、静かに呟いた。
ゼーマン「神崎亮様……ふふふ……」
ゼーマンは手にしたグラスを滑らかに傾け、楽しそうに笑い合う神崎家へ、視線を注ぎ続けていた。
宴は夜遅くまで賑やかに続いた。
楽しげな笑い声。
勇壮な歌声。
掛け替えのない仲間たちとの温かい語らい。
聖火山フェルナードでの過酷な出来事が、今では少しずつ思い出の笑い話へと変わっていた。
そして、宴も終わりの時間を迎える。
店の外へ出ると、夜の王都の上空には、吸い込まれそうなほど無数の星々が美しく輝いていた。
亮「いやぁ……美味しかったし、本当に楽しかったなぁ」
あんな「うん。本当にたくさんのあたたかい人たちに支えてもらったんだね」
みゆ「今回の事件を通じて、私たちも多くの重要な人間関係を構築できました」
ベアトリス「本当に素敵な一日でしたわ!」
もっふる「ピィー♪」
神崎家が満足そうに歩き出そうとした、その時だった。
ゼーマン「神崎様……」
背後から、独特の声がかけられる。
亮「あれ?」
振り返ると、そこに立っていたのは大商人ゼーマンだった。
ゼーマンは近づいてくると、息がかかるほどの異常な近距離までグッと顔を寄せてきた。 細い目が不気味にギラギラと光り、口元だけがニヤリと歪んでいる。
ゼーマン「本日は……誠にお疲れ様でございました……」
亮「あ、あはは……ありがとうございます?うわ、顔近いです」
亮は思わずのけぞりそうになるのを必死で耐える。
ゼーマンはさらにヌッと顔を近づけ、ひそやかな声で囁いた。
ゼーマン「実は……神崎様に、少しお話ししたいことがございまして」
亮「お話、ですか?」
ゼーマン「ええ……はい。後日、改めてお時間を頂戴できればと」
亮「はぁ、分かりました」
ゼーマン「ありがとうございます。では、失礼いたします」
ゼーマンは深く一礼すると、闇の中へ溶け込むように去っていった。
あんな「うわぁ……パパ、何の話だろうね? 相変わらずすごく顔が近くて怪しかったけど」
みゆ「大商人の方ですから、我が家の力やデータを利用した何らかの商談を考えている可能性があります」
亮「んー、まあ考えても分からないし! よーし、明日からは待ちに待ったのんびりスローライフだーー!」
ベアトリス「ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
夜風が心地よい王都。
神崎家は仲良く肩を並べ、宿へ向かって歩いていく。
聖火山フェルナードの事件は、ここで完全に決着した。
新たな出会いと、まだ見ぬ未知なる世界が、彼らを待っている。
そして、次章からは、いよいよ次の舞台へ!
――そして、その空のさらに静謐なる場所。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの家族は、本当に退屈という言葉を忘れさせてくれますね。
天上の鏡に映るのは、灼熱の試練を乗り越え、無事に元の山頂へと帰還した神崎家の姿。
守護獣フェニックスを巡る、過酷な激突。
その灼熱の戦いの最中に彼らが飛ばされたのは、何千年もの時を超えて佇む、太古の神殿でした。
不気味に忍び寄る灰色の影、そして立ちはだかる二人の強敵。
一触即発の緊迫した戦いの中でも、あの勇者は常に温かい眼差しで家族を見守り、娘たちは固い絆と完璧な連携で道を切り開いてみせました。
そして、神殿がずっと待ち望んでいた若き騎士の真っ直ぐな想いに応えるように、大地の記憶たる炎環石は……彼女の手へと受け継がれたのです。
女神はそっと、その美しい指先を重ね合わせる。
最強の力を持ちながら、それを決して驕ることも、誇示することもなく……。
ただ大切な人を守りたいという純粋な想いだけで、冷たく閉ざされた神殿に再び美しい輝きを呼び戻してしまいました。
己の信念を貫き、最後には誰もが笑顔になっていく……。
その飾らないぬくもりこそが、この世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれませんね。
されど、今はまだ、その時ではない。
神殿が残したその厳かな言葉は、一体どのような未来を示しているのでしょう。
女神は、まだ見ぬ次のページに指先をかけた。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
予期せぬ転移から帰還したあの家族の旅路に、また新しい奇跡が日常となっていくのでしょうね。
光が揺れ、風がそっと時の狭間を撫でる。
その微笑みは、予感に満ちた夜明けのように優しかった。
こうして――
激闘の終わりを告げる宴が暮れ、王都に束の間の平穏が訪れた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
大商人とともに迎える、新たな章の幕開けとは!?
第二十六章「凱旋編~聖火山の謎を胸に抱えて、みんなで囲む祝杯!?~」を終えて
聖火山での壮絶な戦いを終え、無事に下山を果たした調査隊。
カルデアの村や交易都市フレイアスでかけがえのない仲間たちと乾杯を交わし、ついに王都へと帰還します。
事件の裏で蠢く怪しい影や、大商人ゼーマンからの謎めいたアプローチなど新たな波乱の予感を抱えつつも、神崎家は変わらずにぎやかな日常を取り戻していくのでした。
亮「いやぁ、無事に王都へ帰ってこれて良かったよ! 村長さんが言ってたツヤツヤしてふっくらした白い珍味には本気で期待しちゃったけどね。次こそは絶対、本物のお米を食べたいなぁ」
あんな「ちょっとパパ! あの時のアリの卵は本気でトラウマなんだから思い出させないでよ! みゆなんて本気で雷撃魔法ぶっ放そうとしてたんだからね!? ……でもまあ、流星のみんなとも笑顔でお別れできたし、無事で本当に良かったかな。読者の皆さんも、第二十六章まで一緒に歩んできてくれて本当にありがとう!」
みゆ「パパのお米に対する執着心は、もはや怪異の領域と定義できます。なお、今後の予期せぬ『やらかし』やフラグ爆砕の観測データを正常に記録するためにも、読者の皆様による【★評価】および【ブックマーク登録】は不可欠な予防措置となります。何卒よろしくお願いいたします」
ベアトリス「明日は外伝ですわ!楽しみですわ!」
もっふる「ピィー♪」




