第216話 え、パパが勇者!? 命懸けで戦い抜いた仲間たちと交わす最高の乾杯!?
カルデア村を出発した一行は、街道を北へと進んでいた。
穏やかな風が心地よく吹き抜け、頭上にはどこまでも澄み切った青空が広がっている。
あの聖火山フェルナードでの激しい死闘が嘘のような、どこかほっとするのどかな景色だった。
ラウル「見えてきたぞ! ほら、あれだ!」
一斉に視線を向ける。
遠くの地平線に、見覚えのある重厚で大きな石造りの城壁が姿を現した。
南方最大の交易都市フレイアス。
様々な国や地域から行き交う無数の荷馬車や旅人たちで、今日も相変わらずの賑わいを見せている。
亮「帰ってきたなぁ。なんだか懐かしい感じがするよ」
あんな「思ったより早く着いたね。行きはもっと長く感じたのに」
みゆ「行きは調査や環境データの収集を並行しながらの進行でしたから、相応の時間を要しました。帰路は危険要因も排除され、移動効率が最適化されていた結果です」
ディオン「ええ、魔物の襲撃もなく至って順調な行程でしたからね」
シェリルはどこか愛おしそうに、活気に溢れる街並みを見つめる。
シェリル「やっぱり、帰ってくると落ち着きますね」
ラウル「おうよ! ここは俺たち流星のホームグラウンドだからな!」
巨大な城門へ近づくにつれ、街の活気溢れる音が風に乗って聞こえ始める。
商人たちの威勢のいい呼び込みの声。
石畳を鳴らす荷馬車の車輪の音。
立ち並ぶ露店から漂ってくる、芳醇で香ばしい料理の香り。
旅人たちが行き交う、いつものフレイアスの風景だった。
亮の表情に、自然と温かい笑みが浮かぶ。
亮「やっぱり、街が賑やかだと歩いているだけで楽しくなってくるなぁ」
もっふる「ピィー♪」
一行はそのまま、堂々たる佇まいの城門へと歩みを進める。
城門へ到着すると、見張りをしていた兵士たちが一行の姿に気付き、目を見開いた。
兵士「っ!? ルーク隊長!」
兵士の大声に、周囲で警戒にあたっていた兵士たちも一斉に振り返る。
兵士「調査隊が帰還したぞ!」
その歓喜の声は、あっという間に城門全体へ、そして街の入口へと広がっていった。
ルークは軽く手を上げて応える。
ルーク「ただいま戻りました」
兵士たちは胸を撫で下ろし、硬い表情を緩めた。
兵士「皆さん、ご無事で何よりです! 聖火山の異変がおさまったと噂には聞いておりましたが……!」
兵士の一人が慌ただしい足取りで駆け寄ってくる。
兵士「領主様が、調査隊の皆様の帰還を首を長くしてお待ちになっております!」
ルークは隣のオスカーと顔を見合わせ、静かにうなずいた。
ルーク「分かりました。すぐに伺いましょう」
オスカー「まずは無事の帰還と、現場での状況報告ですね」
エドガー「記録の精査も済んでいます。いつでも提示できます」
セシル「書面としての報告書も、提出可能です」
兵士「では、ご案内いたします! こちらへどうぞ!」
ルークは一度立ち止まり、一行へ向き直った。
ルーク「私たちはこれから領主の館へ向かいます。皆さんは少し街で待機していただけますか」
ラウル「おう、任せとけ! その間は俺たちがバッチリ街を案内してやるよ!」
シェリル「ええ、街の風に当たるだけでも良い気分転換になりますしね」
ディオン「領主様への報告自体は、それほど長くはかからないでしょう」
ルーク「では、後ほど宿で合流しましょう」
ルーク、オスカー、エドガー、セシルの面々は、兵士の案内に従って領主館の方向へと歩き出していく。
その後ろ姿を温かい眼差しで見送りながら、ラウルは格好良く両腕を組んで大きく伸びをした。
ラウル「さてと! せっかく無事に帰ってきたんだ。報告が終わるまでの間、フレイアスの美味いもんでも食べながら案内するぜ!」
亮「楽しみだ!」
あんな「久しぶりの大きな街だもんね。お買い物もしたいな」
みゆ「前回来た時は移動の通過点に過ぎず、都市の市場構造や流通データをじっくり分析する時間がありませんでした」
ベアトリス「街の散策ですわ! 観光ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
シェリルは優しく微笑みかける。
シェリル「神崎家の皆さんに、ぜひ紹介したい隠れた名店もあるんですよ」
ディオン「ええ、この街自慢の珍しい料理や果物もありますからね」
ラウル「もちろん最後は、俺たちからのお疲れさま会だ! 今日は無事に帰れた祝杯だ、思いっきり楽しもうぜ!」
聖火山という地獄のような場所で、共に命を懸けて背中を預け合った仲間たち。
そんな彼らと過ごす、束の間の穏やかで温かな時間が始まろうとしていた。
一行はフレイアスの賑やかな大通りをゆっくりと歩き始める。
軒を連ねる露店には、色とりどりの見たこともない珍しい果物や採れたての野菜が並び、焼きたてのパンや香ばしく炙られた串焼きの匂いが漂っていた。
商人たちの活気ある呼び込み。
石畳を疾走する馬車。
あちこちから聞こえる冒険者や市民たちの笑い声。
まさに交易都市ならではの、溢れんばかりの生命力に満ちていた。
亮「やっぱり賑やかな街は元気がもらえていいなぁ」
ラウル「そうだろ! フレイアスは南方最大の交易路の中心だからな。大陸中の珍しい物なら、大抵ここに集まってくるんだぜ」
シェリル「各地の商人が集まりますから」
ディオン「食材も武具も、この街で手に入らないものは探す方が難しいくらいです」
もっふる「ピィー♪」
通りすがりの露店の店主が、気前の良い笑顔で手のひらサイズの可愛らしい木の実を差し出してきた。
店主「ほら、そこの可愛いお客さんにもサービスだ! 無事に帰ってきた記念にな!」
もっふる「ピィー♪」
もっふるは嬉しそうにちょこんと木の実を受け取った。
その愛らしい仕草に、通りがかる市民や冒険者たちも思わず口元を緩める。
「まあ、あの魔物、すごく可愛いわね」
「珍しい鳥の幼体か?」
「なんだか人間の子どもみたいに賢いな」
あんな「ふふ、もっふるはどこに行っても大人気だね」
もっふる「ピィ♪」
ふっと肩の力が抜けるような柔らかな微笑みが、一行の間に広がっていく。
死線をくぐり抜けてきた仲間だからこそ共有できる、
何気ない贅沢な時間。
その愛おしいひとときを噛みしめながら、一行は活気に満ちたフレイアスの街を歩を進めていった。
しばらく街を巡っていると、人混みを掻き分けて一人の伝令兵が足早に近づいてきた。
兵士「調査隊の皆様!」
兵士はビシッと一礼する。
兵士「ルーク隊長より伝言です! 領主様への一次報告は無事に終了いたしました。これより宿へ向かわれるとのことです!」
報告を終えた兵士が再び一礼し、立ち去っていく。
ラウルは待ってましたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべた。
ラウル「よし来た! それじゃあ約束通り、俺たち行きつけのとっておきの店へご案内だ! 今日はみんなで最高に美味い飯を食おうぜ!」
シェリル「ささやかですが、無事に全員で生きて帰ってこられたお祝いです」
ディオン「今回の長旅の、最後の打ち上げですね」
あんな「わぁ、楽しみ! パパ、行こう!」
みゆ「交易都市における最高評価の飲食店データ、興味深いですね」
ベアトリス「とても楽しみですわ!」
もっふる「ピィー♪」
ラウル「期待してくれよ! フレイアスで一番安くて一番美味い、俺たちの秘密基地みたいな店だからな!」
互いに顔を見合わせ、笑い合いながら一行は店へと向かって歩き出す。
夕暮れ時の美しい茜色に染まり始めた交易都市フレイアス。
賑やかな街並みの中で、仲間たちと過ごすかけがえのない最後のひとときが、静かに幕を開けようとしていた。
一行はラウルの案内に導かれ、賑やかな大通りから一本脇に入った、風情ある石畳の通りを進む。
やがて、温かな明かりが漏れる一軒の温もりある食堂の前で足を止めた。
ラウル「ここだ! 俺たちが駆け出しの頃から通ってる、一番のお気に入りなんだよ」
ガラリと木製の扉を開けて店へ入ると、香ばしい肉と香辛料のたまらない香りが一気に一行を包み込んだ。
店主「おっ! ラウルにシェリル、ディオンじゃないか! しばらく見ないと思ったら、無事だったか!」
ラウル「ただいま大将! 今日は聖火山を一緒に攻略した最高の仲間たちを連れてきたぜ!」
豪快な体格の店主は、太い腕を組んでハッハッハと笑った。
店主「任せろ! 命懸けで戦ってきたお前さんたちに、腹いっぱい美味いもん食わせてやる!」
それからしばらくすると、大皿いっぱいに盛られたフレイアス名物の豪快な料理が、次々とテーブルへ運ばれてきた。
じっくりと香草で焼き上げられたジューシーな肉料理。
窯から上がったばかりのふっくらと香ばしい焼き立てのパン。
交易都市ならではの、色鮮やかな野菜がどっさりと添えられた豊かな食卓だった。
亮「うわぁぁ、美味しそうだなぁ! 豪華だねぇ!」
あんな「すごい量……! テーブルに乗らないくらいだよ!」
みゆ「交易の要所だけあり、食材の新鮮度および調理のクオリティが極めて高いですね」
ベアトリス「どれもこれも本当に美味しそうですわ!」
ラウルはなみなみと注がれた木製ジョッキを勢いよく持ち上げた。
ラウル「よし! 全員の無事な帰還と、最高の勝利に――!」
一同「「「乾杯ーーー!!」」」
カチンとジョッキやグラスがぶつかり合い、店内に溢れんばかりの明るい歓声を響かせる。
温かい食事と美味しいお酒に舌鼓を打ちながら、会話の話題は自然とあの壮絶だった聖火山での出来事へと移っていった。
「あのフェニックスの最初の攻撃、マジで焦ったよな!」
「あの絶望的な状況、普通なら一瞬で全滅でしたわ……」
「だが、俺たちはこうして全員無事に帰ってきた。奇跡みたいなもんだな」
どれほど苦しく、一歩間違えれば命を落としていたはずの死闘も、今こうして無事に乗り越えた仲間たちとなら、笑いながら語り合える誇らしい思い出に変わっていた。
店内には、温かな眼差しで見守る亮たちと、仲間たちの弾けるような笑顔と笑い声がいつまでも絶え間なく響き渡っていた。
宴も佳境に入り、ラウルは少し名残惜しそうに照れくさそうな笑みを浮かべた。
ラウル「いやぁ、神崎の旦那たちと過ごした時間は、短かったけど本当に楽しかったぜ。……また会おうな!」
亮も温かい笑みを浮かべ、差し出された大きな手をしっかりと、力強く握り返した。
亮「もちろん! 俺たちもすごく楽しかったよ。次に会う時も、よろしく頼むね」
二人は男らしく固い握手を交わした。
シェリルは優しくあんなとみゆの元へ歩み寄り、微笑みかける。
シェリル「あんなさん、みゆさん、お元気で。お二人と過ごせて本当に心強かったです。またどこかでご一緒できる日を楽しみにしていますね」
あんな「はい! シェリルさん、本当にありがとうございました! また絶対会いましょうね!」
みゆ「こちらこそ、的確な後方支援と魔法分析、大変勉強になりました。感謝いたします」
普段は冷静なディオンも、静かに深々と頭を下げた。
ディオン「神崎家の皆さんと共に戦えたこと、剣士として心から光栄に思います。……次は戦場ではなく、もっとゆっくりお酒を酌み交わしましょう」
亮は嬉しそうに頷く。
亮「うん、約束だね!」
そこへ、領主館から報告を終えて合流していたルークが、流星の三人へ向かって深く向き直った。
ルーク「今回の聖火山調査、皆さんの卓越した連携と力には本当に救われました。心から感謝します」
オスカー「ええ、皆さんという頼もしい先導がいたからこそ、私たちは安全に、そして確実に任務を遂行することができました」
ラウル「よせよせ! 俺たちは冒険者として、自分たちの仕事をこなしただけさ!」
シェリル「ええ、困った時はお互い様ですもの」
ディオン「また何か手に負えないような依頼があれば、いつでも我々を呼んでください」
ルークは一同の温かな顔立ちを一人一人見渡し、朗らかに声を張った。
ルーク「今夜は、この素晴らしい調査隊の仲間たちと過ごす最後の夜です。時間の許す限り、存分に楽しみましょう!」
一同「「「おーーーっ!!」」」
賑やかな街並みの灯りが優しく照らす中、命を懸けて戦い抜いた仲間たちとの最後のひとときは、夜が深く更けていくまで温かく続いていくのだった。
こうして――
激闘を終えた一行は、思い出深き交易都市フレイアスへと無事に帰還を果たした。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
仲間との絆を深く胸に刻み込みながら、また新たな明日への一歩を踏み出していく。
聖火山での大異変が嘘のように沈静化し、行きとは打って変わって魔物が一匹も姿を現さない驚愕の平和街道。
無事に王都へ帰還し安堵する調査隊の一方で、事態を完全スルーでマイペースなパパと、そんな家族をいつも通り温かく見守る娘たちの日常が再び動き出す。
次回、第217話 え、パパが勇者!? 王都へ無事帰還!? 魔物が一匹も出ない平和街道!?




