第214話 え、パパが勇者!? 悲願のお米?登場で大歓喜からの大勘違い!?
カルデアの広場。
中央に設けられた大きな焚き火がパチパチと音を立て、村中が熱気と活気に包まれていた。
香ばしい肉の焼ける甘やかな匂い。
大鍋でとろとろと煮込まれるスープの湯気。
木製の長テーブルには、村人たちが持ち寄ったごちそうが所狭しと並んでいく。
「無事に帰ってこれたぞー!」
「聖火山の神様、感謝します!」
「乾杯ー!」
「今日は夜通し飲むぞー!」
弾けるような笑い声が、夜空へとどこまでも響き渡る。
ルークたち調査隊の面々も、ようやく重い兜や鎧を外し、肩の力を抜いて村人たちと親しく杯を交わしていた。
ラウル「やっぱ生きて帰ってきた後の宴は最高だな!」
ガルド「まったくだ。あの灼熱の山から五体満足で戻れたからこその酒だぜ」
レオン「ふぅ……ようやく終わったんだって実感が湧いてきましたよ」
オスカーも珍しく酒杯を片手に、穏やかな表情を浮かべている。
オスカー「常に緊張に晒される戦場でしたからね。たまにはこうした平和な時間に身を浸すのも悪くありません」
ノエル「ふふ、皆さん、たくさん召し上がってくださいね。村の皆さんが腕を振るってくれたんですよ」
アルト「はい! 今日は遠慮なくいただきます!」
一方、その頃。
神崎家のテーブルでは、亮だけが宴の料理にも酒にも手を付けず、落ち着きなく周囲をキョロキョロと見回していた。
亮「まだかなぁ……遅いなぁ……」
あんな「ちょっとパパ、さっきからそればっかり! せっかくのお肉が冷めちゃうよ」
みゆ「現在のパパの優先順位は、宴の歓談よりも、お米の獲得に100パーセント移行しています」
ベアトリス「パパがそこまで楽しみにされるお米、きっと頬が落ちるほど美味しいのですわ!」
もっふる「ピィー♪」
そこへ、見覚えのある二人の青年を見かける。
亮「おっ、ボルトンくんとゼニスくん! 久しぶり! 君たちも来てたんだ!」
ボルトン「はい! 神崎さん! 少しでも村のお手伝いができればと思って駆けつけたんです」
ゼニス「聖火山の様子が心配で居ても立ってもいられなくて……無事で本当に良かったです」
あんな「王都からわざわざ来たの? 大変だったでしょ、二人ともありがとうね」
みゆ「……」
みゆだけは、一瞬チラリと視線を向けたものの、それ以上は何も言わなかった。
亮「まあまあ、せっかくだし、みんなで一緒に宴会しようよ! ほら座って座って!」
ボルトン「あ、ありがとうございます!」
ゼニス「では、お言葉に甘えていただきます!」
まさにその時だった。
広場の奥から、村長が大きな木の器を両手で抱え、満面の笑みを浮かべて歩いてくるのが見えた。
村長「おおーい! 待たせたのじゃ!」
亮の目が一瞬で輝き、期待で胸を膨らませる。
(ついに……ついに来た! 異世界に来てからの悲願、久しぶりのお米……!)
(ふっくら炊きたての、ツヤツヤした白いご飯……!)
(塩むすびでもいい! ああ、早く食べたい……!)
妄想が膨らみ、思わず顔中の筋肉がゆるゆるに緩んでしまう。
亮は勢いよく立ち上がった。
亮「待ってましたーーーっ!」
村長は亮の勢いに満足そうに誇らしげに笑う。
村長「これが、この村自慢の――至高の珍味料理じゃー!」
そう言うと、村長は木の蓋をゆっくりと、思わせぶりに開けた。
亮は少年のように満面の笑みを浮かべ、身を乗り出して中をのぞき込む。
そして――。
亮「………………」
器いっぱいに盛られていたのは。
白く、ツヤツヤとして、ふっくらとした謎の物体だった。
一瞬。
カルデアの広場から一切の音が消え去ったかのような、完璧な静寂が流れる。
亮「……こ、米……?」
村長「そうじゃ、村自慢の米じゃぞ!」
その直後――。
あんな「いやぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
みゆ「む、虫ですーーーっ!!」
耳を裂くような悲鳴が、夜空を引き裂いた。
あんなとみゆは弾かれたように飛び退く。
あんなは顔を真っ青にしながら、反射的に腰の剣に手をかけた。
さらに最悪なことに、みゆの周囲には論理的思考を完全に放棄した攻撃魔法陣が無数に展開される。
みゆ「害虫の殲滅、および不衛生物質の完全消滅を開始します!!」
あんな「みゆ!やっちゃって!」
みゆ「了解です」
青白い過剰火力の雷光がバチバチと弾け、広場全体を狂気的な光で照らし出す。
ルーク「まずい! あの雷は本物だ! 村が吹き飛ぶぞ!!」
オスカー「みゆさん! 落ち着いてください! 魔法を収めてください!」
ノエル「攻撃してはいけません! 村人さんたちの料理です!」
アルト「みゆ様ーーーっ!! 正気に戻ってくださいーーーっ!!」
セリナ「早くその料理を下げるのよ! 刺激しちゃダメ!」
ガルド「誰か止めろーーー!!」
レオン「あんなさんまで剣を抜くなーーっ! 相手は料理だぞー!?」
ラウル「料理だ! 敵じゃねぇ!」
シェリル「落ち着いて! 深呼吸してください!」
ディオン「ここは聖火山ではありません!!」
亮「あんな、みゆ、ストーーップ!! 落ち着いてー!?」
もっふる「ピィーーーッ!?」
先ほどまでの平和な宴会場は、一瞬にして地獄絵図のような大混乱へと陥った。
村人たちは一体何が起きたのか全く理解できず、目を丸くして固まっている。
村長「ど、どうしたんじゃ!? なぜそんなに武器や魔法を構えるのじゃ!?」
あんな「む、虫ですよ!? なんで料理の器に白い虫が山盛りになってるんですかー!?」
みゆ「これを直視することすら精神的苦痛です! 食べるなど絶対に不可能です!!」
村長「虫……? 何を言っとるのじゃ。これはアリの卵じゃ。白くて丸くて、これが米ではないのかじゃ?」
周囲の村人たちも首をかしげながら顔を見合わせる。
「これは村で一番の高級品で、最高のごちそうだぞ」
「プチプチして甘くて、子どもでも大好きなんだがなぁ」
あまりのズレっぷりに、亮は引きつった苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
亮「あはは……村長さん……」
村長「うむ?」
亮「俺が探していたのは、植物から獲れる食べ物なんだ……これは、その……全然違うかなぁ」
あんな「全然どころの騒ぎじゃないよ!! どこをどう間違えたらアリの卵になるのよーーっ!!」
みゆ「形状がわずかに楕円形で白いという共通点だけで括らないでください! 根底から似ても似つきません!!」
その崩壊したやり取りを間近で見ていたラウルが、耐えきれずに腹を抱えて吹き出した。
ラウル「あっはっはっは! 腹痛ぇ! マジで最高だな神崎の旦那たちは!」
レオン「また虫で大騒ぎかよ……」
ガルド「聖火山でも、虫が出た時にこんなことがあったな……」
シェリルは引きつった苦笑いを浮かべながら深くうなずく。
シェリル「あの時も、あんなさんとみゆさんは凄まじいパニックでしたね……」
ディオン「あの時の教訓が全く活かされていませんね。相変わらず虫にはめっぽう弱い」
あんな「成長とかそういう問題じゃないから! 嫌なものは一生嫌なの!」
みゆ「虫は人類にとって永遠の天敵です! 譲歩の余地はありません!」
二人の必死すぎるツッコミと絶叫に、宴会場はドッと大爆笑の渦に包まれた。
「あはははは!」
「こんなに賑やかで面白い宴は久しぶりだ!」
「ハハハ、今日は本当にめでたい日だな!」
温かい笑い声が、カルデアの夜空へどこまでも響き渡る。
亮も困ったように微笑みながら、思わず一緒に笑ってしまった。
亮「ははは……また、お米じゃなかったかぁ。甘くないなぁ」
あんな「お米じゃなかったかぁ、じゃないでしょ!」
みゆ「これは神崎家の食卓における、極めて由々しき事態です。早期の捜索網再構築を提案します」
ベアトリス「美味しそうですわ!」
もっふる「ピィー♪」
それでも、 頼もしく温かい仲間たちと囲む宴の料理は、どれも香ばしく、胸が温かくなるほど美味しそうだった。
カルデアの夜は、絶え間ない家族のツッコミと仲間の笑い声に優しく包まれながら、静かに、そして賑やかに更けていくのだった。
こうして――
絶対的な災厄を乗り越えた先で待っていたのは、パパの大歓喜からの盛大な大勘違い。 ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
お米への果てしない道のりを抱えたまま、また一つ温かな思い出を刻み込んでいく。
昨夜の大惨事を経て、カルデアの村を旅立つ神崎家!
なんと、あんなの呆れ顔とみゆの警戒をよそに、パパは村長と熱いお米捜索協定の固い握手を交わしてしまう……。
そんな平和な旅立ちの裏で、気配もなく姿を消した怪しい二人にみゆの鋭い観察眼が光る。
次回、第215話 え、パパが勇者!? 村長と固い握手でお米捜索依頼!?




