第213話 え、パパが勇者!? 世界の危機でも頭の中はお米一色!?
聖火山フェルナードを後にした一行は、夕暮れが近づく頃、南の村カルデアへと戻ってきた。
村の入口では、多くの村人たちが不安そうな表情で外を見つめている。
そして、一行の姿を見つけた瞬間。
「帰ってきた!」
「ルーク様たちだ!」
「みんな無事だぞ!」
歓声が一斉に上がった。
子どもたちは駆け寄り、大人たちは心底安堵したように胸をなで下ろす。
村長もゆっくりと歩み寄ってきた。
村長「皆さん……本当によくご無事で戻られたのじゃ」
ルーク「ただ今戻りました。無事に任務は完了しました」
ルークは軽く頭を下げる。
カイルやレイン、リリナたちも、それぞれ村人たちの温かい声に笑顔で応える。
紅蓮の輪や流星の面々も、ようやく肩の力を抜き、張り詰めていた表情を緩めた。
亮はそんな賑やかな光景を見渡し、温かい眼差しで小さく笑う。
亮「みんな元気そうで良かったなぁ」
あんな「本当だね。無事でいてくれてホッとしたよ」
みゆ「村への被害も思っていたより少ないようです。建造物の損壊率は極めて軽微です」
ベアトリス「安心いたしましたわ!」
もっふる「ピィー♪」
その時だった。
村長の表情が少しだけ曇る。
村長「……ですが、皆さんが聖火山へ向かわれた後、この村も大変なことになっておりましたのじゃ」
その一言に、その場の賑やかさがすっと引き、静まり返る。
ルーク「何があったのですか?」
村長「大量の魔物が村へ押し寄せてきたのじゃ。村の戦士や村の者、皆さんと力を合わせて応戦しましたのじゃ」
村人たちも当時の恐ろしい記憶を思い出したように顔をしかめる。
「あの数は異常だった……」
「村がなくなると思ったよ……」
「せめて子どもたちだけでも逃がそうとしていたんだ」
重苦しい空気が流れる。
村長は遠く聖火山を見つめながら続けた。
村長「もう駄目だ……そう覚悟した、その時じゃ」
誰もが息をのむ。
村長「魔物たちが一斉に動きを止めたのじゃ。そして、皆そろって聖火山の方を見上げましたのじゃ」
ルークたちは顔を見合わせる。
村長「次の瞬間には、魔物たちが一斉に引き上げていったのじゃ」
村人たちも納得したように何度も深くうなずく。
「あんなことは初めてだったよ」
「本当に奇跡だった」
ルーク「こちらでも、説明のつかない出来事が起きましたが、聖火山の異常は完全に収まりました」
オスカー「ですが、その原因は分かっていません。王都でも詳しい調査が必要になるでしょう」
亮はふと空を見上げる。
夕闇の迫る澄み渡った空には、もう黄金の翼はない。
それでも、胸の奥には不思議な温もりだけが優しく残っていた。
ベアトリスもそっと胸へ手を当て、小さく目を閉じる。
誰も言葉にはしない。
だが、神崎家だけは、その奇跡が起きた本当の理由を知っていた。
村長は調査隊をゆっくりと見渡した。
その表情から、不安はもう雲が晴れるように消えている。
代わりに浮かんでいたのは、心の底からの安堵だった。
村長「皆さんのおかげで、村は救われたんじゃ。本当にありがとうございますじゃ」
村人たちも次々と頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
「無事で帰ってきてくれて良かった!」
ルーク「私達だけの力ではありません。皆さんが村を守り抜いてくださったからこそです」
ルークは穏やかに首を横へ振る。
その言葉に、村人たちは照れくさそうに笑った。
少しだけしんみりとした空気が流れた。
その時。
村長は突然、大きな笑い声を上げる。
村長「よしっ! 暗い話は終わりじゃ!」
村人たちが一斉に村長を見る。
村長「今日は皆が生きて帰ってきた日じゃ! 村も無事じゃ! 聖火山の災厄も終わったのじゃ! こんな日は盛大に祝わねば損じゃろう!」
村人たちの表情が一気にパッと明るくなる。
「宴だー!」
「久しぶりの大宴会だ!」
「酒を運べー!」
「料理の準備を始めろー!」
村中が活気溢れる動きを見せ始めた。
女性たちは大鍋を出して料理の準備をする。
男性たちは大きな机や椅子を広場へ運び、焚き火の準備を始める。
子どもたちは嬉しそうに走り回り、もっふるを追いかけ始めた。
もっふる「ピィー!」
あんなはその賑やかな光景を見て微笑む。
あんな「やっとみんなに笑顔が戻ったね」
みゆ「はい。皆さんのバイタルデータからも、極めて良好な感情の高まりが観察できます」
ベアトリス「これこそ平和ですわ!」
亮「やっぱり、笑顔が一番だな」
その時だった。 亮が何かを思い出したように、村長へ近づいていく。
亮「そうだ、村長さん」
村長「ん? どうしたのじゃ?」
亮「村長さんに、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
あんな「あ、そういえば神殿でも言ってたよね」
みゆ「珍しく、とても真剣な表情でした」
ベアトリス「そうですわ! 一体何をお聞きになりたいたいのですわ?」
亮「すごく重要なことなんだ」
あんな「重要なことって……何?」
亮「お米のことだ」
あんな「そこなの!? あの状況で考えてたの、お米のことだったの!?」
みゆ「安定のパパです。ブレない思考回路には感服します」
ベアトリス「お米ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
村長は首をかしげる。
村長「……米じゃと?」
亮「ああ。白くて、ツヤツヤしてて、ふっくらしていて……とにかくすごく美味しい食べ物なんだけど」
村長は腕を組み、うーんとしばらく考え込む。
そして。
村長「おお!」
亮「!」
村長「それならあるのじゃ!」
亮の目が一瞬で少年のように輝く。
村長「あれは栄養もあって美味いのじゃ。今日の宴でもでるんじゃ。楽しみにしておれじゃ!」
亮「やったー!」
思わず少年のようにガッツポーズを決める亮。
あんなは呆れて苦笑し、みゆは静かに肩をすくめた。
あんな「もう、そんなに嬉しいんだ……」
みゆ「パパの期待値が限界突破しています」
ベアトリス「私も楽しみですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮は満面の笑みを浮かべ、胸を躍らせる。
異世界に来てからずっと恋焦がれていた、お米がやっと食べられる。
そう信じて疑わなかった。
こうして――
激闘を終えた一行を待っていたのは、温かな村人たちの歓待と、パパの溢れんばかりの期待感。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
村長の自信満々な一言によって、新たな波乱の食卓を迎えようとしていた。
激闘を終え、念願のふっくら炊きたてお米と感動の対面……と思いきや、大皿に盛られていたのはまさかの……!?
食卓を一瞬で地獄絵図に変えるみゆの過剰魔法とあんなの悲鳴に、調査隊も村人も大パニック!?
次回、第214話 え、パパが勇者!? 悲願のお米?登場で大歓喜からの大勘違い!?




