第212話 え、パパが勇者!? 神話の真実を胸に秘めて聖火山調査終了!?
聖火山フェルナードは、不気味なほどの静けさを取り戻していた。
ルークは剣を鞘へ納め、肩を大きく揺らして息を吐いた。
ルーク「総員、周囲の安全を確認しろ! 警戒を怠るな!」
一同「「「了解!」」」
騎士団、魔術師団、そして冒険者たちが一斉に散り、周囲の索敵へと動き出す。
聖火山フェルナードを襲った、世界を揺るがすほどの未曾有の災厄。
その絶望的な戦いは、あまりにも多くの謎を残したまま、静かに幕を閉じようとしていた。
ルークは静まり返った山頂をゆっくりと見渡す。
砕け散った巨大な岩場。
真っ黒に焦げ付いた大地。
直前まで繰り広げられていた死闘の激しさを物語る爪痕は、至るところに生々しく残っている。
しかし、その中心で絶対的な脅威として君臨していたはずのフェニックスの姿だけが、影も形もない。
ルーク「……未だに信じられん」
カイル「これ以上、この場で探しても見つからないと思います。影も痕跡すらも残っていません」
報告を受けたオスカーも、深く静かにうなずいた。
オスカー「私も同意見です。探知魔法の範囲を極限まで広げましたが、一切の魔力反応はありませんでした」
ノエル「はい。少なくとも、この聖火山の周辺には存在していません」
アルト「ここまで完全に反応が消えてしまうなんて……」
アルトは言葉を失い、立ち尽くす。
誰一人として、この事態に対する答えを持っていなかった。
記録院のエドガーは、震える手で手帳へ猛烈な勢いで走り書きを続ける。
エドガー「フェニックス消失……原因、一切不明」
セシル「火山活動は沈静化……奇跡的としか言いようがない……」
二人は顔を見合わせた。
目の前の事実を必死に記録していても、頭の中の理解が全く追いつかない。
ラウル「まあ、生きて終わったならそれで良し……と言いたいところだけどな」
ディオン「ああ。分からないことが多すぎる」
シェリル「ですが、私たちができるのは、このありのままの事実を持ち帰ることだけです」
その冷静な言葉に、ルークは静かにうなずいた。
ルーク「そうだな」
ゆっくりと神崎家へ歩み寄る。
ルーク「亮さん」
亮「はい」
ルーク「皆さんも、何か見ていませんでしたか?」
亮は一瞬だけ、雲一つない青空を見上げ、それからいつもの柔らかな笑みを浮かべてルークへ視線を戻した。
亮「すみません。俺たちも気付いたら、フェニックスがいなくなっていたんですよね」
嘘ではない。
あの神殿で起きた人知を超えた出来事を、今ここでそのまま語るわけにはいかないのだ。
だから、今は事実だけを伝える。
ルーク「……そうですか」
まだ完全には状況を受け止め切れていない表情だった。
ルークは周囲を見渡し、腹から声を張り上げた。
ルーク「聖火山フェルナードの調査は、これにて終了とする!」
その声に、散らばっていた全員がピタリと動きを止める。
ルーク「火山活動の沈静化を確認! 全員、これより帰還の途につく!」
一同「「「了解!!」」」
地鳴りのような声が山頂へ響き渡る。
それぞれが速やかに装備を整え、下山の開始を始めた。
登ってきた時には赤く燃え上がり、地獄のようだった岩肌も、今は穏やかな静けさを取り戻していた。
所々から白い湯気はゆらゆらと立ち上っているものの、世界を焼き尽くさんばかりに噴き出していた黄金の炎は、もうどこにも見当たらない。
ラウル「いやぁ、一時はどうなるかと思ったぜ。マジで生きて帰れるとは思わなかったな!」
ガルド「まったくだ。生きた心地がしねぇよ」
リリナ「ふはーっ! 終わったぁーーー!」
リリナの叫び声に、ずっと重く張り詰めていた全体の空気が、ふっと和らいだ。
カイル「まだだリリナ。王都まで無事に戻るまでが我々の任務だぞ」
リリナ「分かってますよー、カイルさんは堅いんだから」
レインは苦笑しながら、重い荷物を担ぎ直す。
レイン「でも、少しくらい胸を撫で下ろしてもいいですよね」
ルークはそんな若手たちの会話を温かい眼差しで見つめながら、小さく笑った。
ルーク「そうだな。全員、本当によくやってくれた」
その労いの言葉に、騎士団だけでなく魔術師団や冒険者たちの強ばっていた表情も、ようやく緩んでいく。
亮もまた、並んで歩く家族の顔を見渡した。
亮「みんな無事で何よりだったよ」
あんな「そうだね。あの時どうなっているか心配だったからね」
みゆ「高次元の干渉により、あの空間全体の時間が一時的に停止されていたと思われます」
亮「フェニックスが守ってくれていたんだな」
みゆ「その可能性は極めて高いです」
あんな「荒々しい見た目だったけど、やっぱり山の神様だったんだねぇ」
ベアトリス「本当に……まるで壮大な夢でも見ていたかのような出来事でしたわ!」
もっふる「ピィー♪」
神崎家もいつもの穏やかな雰囲気が戻ってくる。
聖火山フェルナードは、何も言わずに静かにその背中を見守っていた。
こうして一行は、それぞれの想いを胸に帰路を歩み続ける。
亮はふと足を止め、もう一度だけ、静かな空を見上げた。
青く澄み渡る空には、あの圧巻の黄金の翼はもうなかった。
それでも、あの温かな神威の余韻は、確かに胸の奥深くへと残っている。
亮「……ありがとうな」
誰にも聞こえないほど小さな呟きが、山頂を吹き抜ける優しい風へと溶けて消えていった。
戦いは終わった。
だが、世界にはまだ多くの謎が残されたまま。
神崎家だけが、その大いなる答えを胸の奥にそっとしまい込む。
フェニックスが消えた本当の理由を知る者は、この広大な世界のどこにもいない。
神崎家を除いて。
神殿で託された想い。
そして、密かに新たに受け継いだ秘宝炎環石。
その真実を胸に秘めたまま、神崎家は仲間たちとともに、ゆっくりと山を下り始める。
こうして――
聖火山フェルナードを巡る長きにわたる戦いは、静かに一つの幕を閉じた。
ツッコミどころ満載な異世界スローライフ(?)は、
まだまだ続いていく。
聖火山フェルナードから帰還した村で、魔物の異常行動や無事を祝う大宴会が開幕!
しかし、世界の危機を脱したばかりのこの局面で、パパの頭の中を占めていたのはまさかの一点……「お米」!?
村長の「それならあるぞ」の一言に目を輝かせるパパに、あんなの呆れ顔とみゆの冷静な分析が冴え渡る!
次回、第213話 え, パパが勇者!? 世界の危機でも頭の中はお米一色!?




