第208話 え、パパが勇者!? 宿敵電撃乱入!? 神連携!力と速さが融合する最凶コンビ誕生!?
スタイラスは灰色のローブをはためかせ、 滑るような速度で、瞬く間に祭壇へ突進した。
その驚異的な移動速度は、一瞬のうちにあんなとベアトリスの追撃を振り切らんとする。
みゆ「《アースウォール》(土壁)」
土の壁が、祭壇の直前に文字通りそびえ立った。
みゆ「……祭壇が目的であるならば、これ以上の前進は許可できません」
みゆは平然とした顔で告げた。
スタイラス「あら、小賢しい魔法を使うのね。でも、この程度の壁、私にとってはただの障害物にもならないわよ」
スタイラスは手首を鋭く返し、剣を前方へと突き出した。
その瞬間、彼女の剣から放たれたのは、一筋の突きではない。
目にも留まらぬ速度で繰り出された十数発もの超高速の刺突。
それらは一点に集中し、凄まじい衝撃波となって土の壁を穿った。
キィン――ガガガンッ!
高い破砕音とともに、みゆが作り出したアースウォールが木っ端微塵に砕け散り、砂塵となって舞い散る。
だが、みゆの表情には一切の動揺はなかった。
なぜなら、この土の壁はスタイラスを完全に防ぐためのものではなく、ほんの一瞬、その足を止めるための囮に過ぎなかったからだ。
みゆ「お姉ちゃん、今です」
あんな「任せて!」
砂塵の向こうから、鋭い気合の声とともにあんなが跳び出した。
剣を両手でしっかりと握り込み、スタイラスめがけて一気に切りかかる。
スタイラス「しつこいお嬢さんね」
スタイラスは剣を斜めに掲げ、あんなの渾身の振り下ろしを受け止めた。
細い剣身であるにもかかわらず、スタイラスの剣はあんなの全体重を乗せた一撃を完全に受け止め、その威力を左右へと逃がしていた。
剣と剣が激しくぶつかり合い、押し合う刃から、不気味なほどの摩擦音が神殿に響き渡る。
ベアトリス「わたくしもおりますわ! はぁっ!」
そこへ、ベアトリスが猛然と横から割って入った。
剣を大きく振りかぶり、スタイラスの無防備な脇腹を狙って鋭い斬撃を放つ。
しかし、スタイラスはあんなと押し合っていたはずの剣を、信じられない力加減でふっと引き抜くと、驚異的な柔軟さで身体をひねり、ベアトリスの刃を受け流した。
キンッ!
ベアトリス「なんと……! 先ほどよりも、さらに動きが早くなりましたわ!」
ベアトリスは、スタイラスのあまりの身軽さに息を呑んだ。
スタイラスは二人の刃を完全にいなし、ふわりと後方へ一歩下がると、深く被ったフードの奥から、挑発的な笑みを見せた。
スタイラス「悪くない攻めね。二人とも息がぴったり。でも、軌道が素直すぎて目を閉じていても読めるわよ」
ベアトリス「くっ……侮られましたわ! ですが、わたくしはこれしきでは怯みませんわ!」
ベアトリスは毅然とした態度で剣を構え直した。
スタイラスの挑発など、彼女にとっては闘志を燃え上がらせる薪でしかない。
ベアトリスは再び強く床を踏み締め、あんなと視線を交わしながら、再び挟み込むような連携を仕掛けるべく踏み込んだ。
みゆ「二人とも、そのままの位置を維持してください。スタイラスの右側の回避ルートを制限します。そのまま左側へ誘導してください」
あんな「分かった!」
ベアトリス「行きますわ!」
二人はみゆの的確な指示に従い、完璧なコンビネーションでスタイラスを追い詰めていく。 あんなが正面から牽制し、ベアトリスが左側の死角を完全に塞ぐようにして、一気に距離を詰める。
スタイラスも、さすがにこれには余裕の表情を崩し、鋭い踏み込みで細剣を振るい、激しく応戦せざるを得なくなった。
キィン!
ガキィン!
キンッ!
灰色に染まった神殿のあちこちで、絶え間なく甲高い金属音が響き渡り、空気を震わせた。
その時だった。
ドン……。
神殿の奥から、何とも言えない重苦しく、鈍い音が響き渡った。
その音は、激しく交錯していたあんな、ベアトリスの動きが、まるで時間を止めるかのように一瞬で凍りつかせた。
ドン……。
床を揺らす重い足音が、確実に近づいてくる。
ドン……。
足音はさらに大きくなり、ついに回廊の奥の、灰色に染まった暗闇の中から、一人の男がゆっくりと姿を現した。
身にまとっているのは、神殿の灰色に同化した、重厚極まる鉄の鎧。
長身で、大柄な体躯。
その男の姿を目にした瞬間、神崎家の面々の表情が一気に強張った。
亮「……やっぱりお前か」
男は亮を見据え、静かに口を開く。
グラファイト「……また、お前たちか。神崎亮、そしてその娘たち。どこまでも行く手を阻む、忌まわしきイレギュラーどもめ」
男の名はグラファイト。
神殿の冷たい空気は、さらに一段と息が詰まるほど張り詰めたものへと変わっていく。
グラファイトはそれ以上何も語らず、無言のまま重い足取りでスタイラスの隣へと歩み寄り、彼女と並び立つようにして立った。
スタイラス「あら、グラファイト。来たのね。 私一人でも、このおじさんとお嬢ちゃんたちを片付けるには十分だったのだけれど」
グラファイト「……無駄口を叩くな。目的の迅速な遂行こそが、我々に課せられた絶対の命令だ。この者たちの実力を甘く見るな」
グラファイトの言葉は短く、冷静だった。
亮「おいおい、やっぱりお前ら、お仲間だったわけね。息ぴったりじゃないか」
スタイラス「どうかしら? 仲良しこよしでおしゃべりするような関係ではないわよ」
亮「またそうやって煙に巻く気か。まぁ、お前たちが同じ目的で動いているってことだけは、よく分かったよ」
スタイラスは、フードの奥の口元をわずかに和らげ、不敵に囁いた。
スタイラス「ふふ、想像するのは自由よ。答えを簡単に教えてしまっては、物語の興が削がれるというものでしょう」
グラファイトは、そんな神崎家との無駄な対話を一切拒絶するように、亮たちを顧みることなく、手に持った巨大な大剣を静かに、そして重々しく構えた。
その、殺気のみで構成されたかのような一連の動作。
その瞬間。
ドンッ!
床の大理石を木っ端微塵に砕かんばかりの、凄まじい踏み込み。
グラファイトの巨大な身体が、弾丸のような速度で前進する。
あんな「来る!」
あんなは即座に身構えた。
グラファイトの放つ、大気を押し潰すような重い一撃が、あんなの頭上めがけて容赦なく振り下ろされる。
ガキィンッ!
あんなは両手で剣を交差させ、その一撃を真正面から受け止めた。
しかし、その瞬間、あんなの腕に今までにないほどの激しい衝撃と痺れが走り抜ける。
あんな「重っ……! 何これ、前よりも力が上がってない!?」
あんなが歯を食いしばり、必死にグラファイトのパワーに耐える。
ベアトリス「お姉様! 加勢しますわ!」
ベアトリスがすかさず横からグラファイトの無防備な側面を狙い、大剣を振るって斬り込んだ。
しかし、その刃がグラファイトに届く直前。
キィン!
鋭い金属音が響き、スタイラスの細剣が割り込んでベアトリスの斬撃を斜め前方へと完璧に受け流した。
スタイラス「あら、よそ見は感心しないわね。あなたたちの相手は、この私もいることを忘れてもらっては困るわね」
ベアトリス「くっ、本当に邪魔な素早さですわ! 望むところですわ!」
ベアトリスは叫び、スタイラスの細剣と何度も激しく火花を散らしながら、剣を交錯させていく。
神殿の戦場は、完全に二つに分裂していた。 一方では、グラファイトの重戦車のような重い一撃を、あんなが防戦一方で必死に受け止め続ける。
もう一方では、スタイラスの目にも留まらぬ超高速の突きを、ベアトリスが剣で懸命にいなし続ける。
力と速さ。
まったく異なる二人の強敵が、お互いの長所を埋め、短所を完璧に補い合うようにして戦っていた。
みゆは、その二つの戦いを冷静な目で見つめ、瞬時に脳内データベースを更新していく。
みゆ「敵二名の連携を解析。……役割分担が極めて明確です。グラファイトが圧倒的なパワーで前衛に強い圧力をかけ、敵の回避行動を制限。その隙を突いて、スタイラスが死角から高速で致命傷を狙う、合理的な戦闘スタイルです」
あんな「ちょっとみゆ! すっごく厄介な組み合わせだよ、これ!」
みゆ「……ですが。その連携は、完全ではありません」
みゆの淡々とした、しかし絶対的な確信を宿した言葉に、あんなの瞳に希望の光が宿る。
あんな「えっ? 本当!? なら、付け入る隙はあるよね!」
ベアトリス「わたくしも負けませんわ!ここで引くわけにはいきませんわ!」
あんなとベアトリスは一瞬だけ力強く視線を交わし、小さく頷き合った。
神崎家の、そして二人の絆による反撃の狼煙が、今、灰色に染まった神殿の中で静かに上がろうとしていた。
あんな「ベアトリス!」
ベアトリス「はいですわ!」
あんなが正面から、全力の踏み込みでグラファイトの懐へと斬り込んだ。
グラファイトはその一撃を、無言のまま真正面から重厚な大剣で受け止める。
ガァンッ!
鼓膜が破れんばかりの、凄まじい衝撃音が神殿中に響き渡った。
グラファイト「……フン、無駄な抵抗を」
だが、グラファイトがあんなの剣を押し返そうとした、その一瞬。 彼の巨大な体躯の影から、信じられない速度でベアトリスが死角へと回り込んでいた。
ベアトリス「はぁっ!」
ベアトリスの、渾身の力を込めた鋭い斬撃がグラファイトの鎧の隙間を狙って放たれる。
キィン!
しかし、そこへやはりスタイラスの細剣が神速で割り込み、ベアトリスの一撃を寸前で受け流した。
スタイラス「言ったでしょう。惜しいわね、でも私が見ている限り、その奇襲は通らないわ」
ベアトリス「――まだ終わりませんわ!」
ベアトリスは、スタイラスに防がれることをあらかじめ予期していたかのように、即座に次の突きへと移行し、追撃を繰り出した。
スタイラスはさすがにその粘り強い追撃に眉をひそめ、後ろへと大きく跳んで距離を取る。
そこへ。
みゆ「《フロスト・アロー》(凍矢)」
みゆの手元から放たれた、絶対零度の冷気をまとった魔力の矢が、退避しようとしたスタイラスの足元へと正確無比に突き刺さった。
スタイラス「っ!」
さすがのスタイラスも、この死角からの完全な狙い撃ちは避け切れなかった。
彼女の自慢の超高速の身のこなしが、ほんのわずかに、しかし致命的に鈍る。
あんな「そこ!」
あんなはその一瞬の隙を見逃さなかった。 グラファイトに向けて、これまでにない怒涛の連続斬り込みを叩き込む。
一撃。
二撃。
そして、体重をすべて乗せた渾身の三撃目。
グラファイトは剣でどうにか防ぎ続けるものの、スタイラスのカバーが遅れたことで体勢を崩され、一歩、また一歩と、ずるずると後方へと後退していく。
亮「おお! 押してる、押してる! すごいぞ!」
みゆ「敵の陣形が完全に崩れています。スタイラスの機動力が低下した今、グラファイト単体での防衛力は著しく低下しています。今が、最大の攻撃好期です」
あんな「よし、一気に決めるわよ!」
ベアトリス「行きますわ!」
もっふる「ピィー!」
今こそ、この侵入者たちを神殿から叩き出す。
こうして――
強敵グラファイトの乱入という絶体絶命の危機を、完璧な連携で見事に打ち破り、一気に反撃の攻勢へと転じた神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
勝利への確信を胸に、敵を神殿から叩き出すための最後の一撃を放とうとした、その瞬間。
神殿の戦いを終えた一行を待ち受けていたのは……。
かつてない世界の真実へと急接近するなか、みゆの冷静極まる分析とあんなの容赦ないツッコミ!?
次回、第209話 え、パパが勇者!? 神聖な声に選ばれたのは…神崎家が繋ぐ新たな絆の輝き!?




