第207話 え、パパが勇者!? 神速の刃に完全翻弄!?完璧な挟撃すら最小限で見切る高速剣士!?
灰色に染まりきった神殿は、まるで氷のように冷たく張り詰めていた。
スタイラスは、しなやかな指先で腰元の鞘を掴むと、音もなく静かに剣を引き抜いた。
彼女はその剣先を滑らかに躍らせ、亮たちに向けて小さく揺らす。
スタイラス「少しだけ、道を開けてもらえないかしら。無駄な血を流すのは、お互いに好まないでしょう?」
フードの奥から響く声は、どこまでも軽やかで、まるで散歩の途中で道を譲るよう頼むかのような気軽さに満ちていた。
だが、その刃先から放たれる殺気は本物だ。
亮は、ゆっくりと一歩を踏み出し、スタイラスの正面へと立ちはだかった。
亮「悪いけど、お前の好きにはさせない」
スタイラス「あら、カッコつけるのはいいけれど……相手を見て言いなさい!」
まさにその次の瞬間だった。
彼女の姿が、視界から一瞬で掻き消えた。
あんな「速い!」
あんなが驚愕の声を上げた時には、目の前へと肉薄していた。
目にも留まらぬ速さで突き出される細剣。
キィンッ!
鼓膜を強く突くような鋭い金属音が、灰色の大空間に激しく響き渡る。
あんなは咄嗟に自身の剣を構え、その目に見えないほどの一撃を間一髪で受け止めていた。
しかし、スタイラスの華奢な体躯からは想像もつかないほどの凄まじい踏み込みの衝撃が刃を伝って押し寄せ、あんなの身体は数歩後ろへと激しく押し込まれる。
あんな「くっ……!」
スタイラス「あら、私の初撃を初見で防ぐなんて。反応は悪くないわね、お嬢さん」
スタイラスはあんなの剣を押さえつけたまま、フードの奥の口元に余裕の笑みを浮かべていた。
だが、神崎家の剣士はあんな一人ではない。
ベアトリス「はぁっ!」
スタイラスの側頭部を狙い、鋭く、重い斬撃が虚空を切り裂いて迫る。
ベアトリスが見事な踏み込みで切りかかった。
常人であれば首を飛ばされていてもおかしくない一撃。
しかし、スタイラスは慌てる素振りすら見せず、身体をわずか半歩ほど横へとずらすだけでその剣の軌道を見事にかわし、そのまま自身の細剣の腹をベアトリスの刃へと滑らせた。
キンッ!
激しく剣と剣が擦れ合い、灰色の世界の中に一瞬だけ鮮烈な火花が飛び散る。
ベアトリス「なんという速さですの……! 私の渾身の一撃をですわ!」
ベアトリスは信じられないものを見るかのように目を剥いた。
スタイラス「あなたも悪くないわ。若くて元気があって素晴らしいわね。でも、まだ甘いわね」
スタイラスはベアトリスの剣の威力を完全にいなしながら、その反動を利用して軽やかに後方へ向かって大きく跳んだ。
まるで重力など存在しないかのような、鳥のように軽い身のこなしだった。
あんな「逃がさない!」
着地の瞬間を狙い、あんなとベアトリスが息を合わせ、左右から挟み込むようにして同時に地面を蹴った。
数々の修羅場を共にくぐり抜けてきた二人による、完璧なタイミングの連携攻撃。
逃げ場を無くすための鋭い挟撃の網が、スタイラスへと襲いかかる。
しかし、スタイラスは、あんなとベアトリスの突き出した刃の、ほんのわずかな隙間を縫うようにして、前方もしくは二人の間をすり抜けるようにして駆け抜けた。
それは攻撃をかわされたというよりも、文字通り、一陣の「風」が通り抜けたかのような錯覚を抱かせるほどの超絶的な速度だった。
あんな「うそっ!? 今のタイミングでかわされるの!?」
あんなが驚きに目を見開いて叫ぶ。
二人の剣は虚しく空を切っていた。
亮「二人とも、深追いするな! 相手のペースに巻き込まれるぞ!」
亮がすかさず声をかけ、娘たちの無謀な突撃を制する。
もっふる「ピィ……」
みゆは、その激しい攻防の一部始終を、少し離れた安全な位置から瞬きもせずに冷静に見つめていた。
みゆ「スタイラスの戦闘データを解析中。……驚異的な移動速度だけではありません。彼女の回避行動は、こちらの刃の軌道を最小限の動きだけで回避しています」
亮「見切ってるってことか」
みゆ「肯定します。彼女は高度な予測演算能力、あるいは直感知覚のスキルを保持しています。こちらの攻撃が繰り出される前に、その軌道を完全に予測しています」
スタイラス「あら、そっちの静かなお嬢さんは、ずいぶんとよく見ていますね。私の秘密をそう簡単に暴かないでほしいわ」
スタイラスは距離を取った位置でピタリと止まり、手元で軽く細剣をクルクルと回してみせた。
激しく動いたはずだというのに、その呼吸は一切乱れておらず、表情には微塵の焦りも浮かんでいない。
あんな「だったら……予測しきれないくらいの速度で叩き込むまでよ!」
あんなは再び地面を強く踏み締め、スタイラスとの距離を猛烈な勢いで詰めた。
今度は単発の一撃ではない。
右、左、上段、突き――息つく暇もない連撃で畳みかける。
キンッ!
キィン!
ガキンッ!
灰色に染まった神殿の中に、打楽器を乱打するような凄まじい金属音が何度も響き渡る。
それでもスタイラスは、その場からほとんど動くことなく、最小限の首の傾げや、剣のわずかな角度の変更だけで、あんなの怒涛の連撃をすべて完璧に受け流し、かわし続けていた。
スタイラス「勢いは嫌いじゃないわ。必死な女の子って可愛いものね。でも、そろそろ飽きたわ」
スタイラスの細剣が、あんなの猛攻のわずかな切れ目を突き、稲妻のような速度で一閃した。
あんな「っ!」
あんなは反射的に剣を交差させてその一撃を受け止めたが、防ぎきれなかった凄まじい風圧と衝撃が身体を直撃し、大きく体勢を崩して後ろへとよろめいてしまう。
そこへ、スタイラスの追撃の刃が容赦なく迫る。
ベアトリス「させませんわ!」
ベアトリスが素早くあんなの前へと割って入り、自身の剣でスタイラスの追撃を強引に弾き飛ばした。
そのまま息をもつかせぬ勢いで、スタイラスへと猛烈に斬りかかる。
スタイラスはその鋭い一撃を剣で受け止め、静かに微笑んだ。
スタイラス「自分の身の危険を顧みず、仲間を守る瞬時の判断は良いわね。騎士の鑑かしら?」
ベアトリス「当然ですわ!」
二人の剣が、火花を散らしながら何度も何度も空中で交錯する。
スタイラスの一撃一撃は決して重くはない。
しかし、その手数の多さと速度は、常人の目では到底追いきれないほどの神速に達していた。
みゆ「スタイラスの戦闘能力のデータを修正。彼女は完全な剣術特化型。および速度特性に極振りしています。正面からのパワー勝負を避け、速度を生かした一撃離脱を得意としています。彼女のヒット・アンド・アウェイ戦術に翻弄されると、ジリ貧になる可能性があります」
亮「なるほどな……」
だが、みゆは、スタイラスが剣を交えながらも、そのフードの奥の視線が、何度も何度も自分たちの背後にある祭壇へと向けられていることに気付いていた。
みゆ「注意。スタイラスの真の目的は私たちとの戦闘ではありません。祭壇です」
みゆの警告の声が響いた、まさにその時だった。
スタイラスはベアトリスの剣を強く弾くと、弾かれるようにして二人の娘との距離を一気に大きく取り、そして、神崎家を大きく迂回するような超高速の軌道を描きながら、中央の祭壇へ向かって一直線に駆け出した。
あんな「しまった! 完全に裏をかかれた!」
ベアトリス「行かせませんわ!」
あんなとベアトリスは同時に強く地面を蹴り、祭壇へと突き進む灰色のローブの背中を、必死の形相で追いかけるのだった。
こうして――
神殿を襲った高速の剣士スタイラスの猛攻を前に、一進一退の激しい攻防を繰り広げる神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
祭壇を巡る緊迫のデッドヒートへと突入し、事態は一瞬の猶予も許さない局面を迎える。
優勢と思われた神殿の戦場に、まさかの最凶の敵が電撃乱入!?
圧倒的な重パワーを誇る宿敵と、神速のスタイラスが完璧な役割分担で襲いかかる前代未聞の大ピンチ!?
絶体絶命の二重苦に翻弄されるなか、みゆの精密すぎる分析眼とあんなたちの限界突破の絆、そしてパパの相変わらずのほのぼの応援が光る神崎家の起死回生の連携が今回も大炸裂!?
次回、第208話 え、パパが勇者!? 宿敵電撃乱入!? 神連携!力と速さが融合する最凶コンビ誕生!?




