第205話 え、パパが勇者!? 最強姉妹の冷静分析!その時、謎の影が静かに迫る!?
ベアトリスは一歩、また一歩と階段を登っていく。
彼女の甲冑がかすかに擦れ合う音が、水を打ったように静まり返った空間に優しく響いた。
その背中を追いかけるようにして、亮、あんな、みゆ、そしてもっふるも、祭壇の階段へと足をかける。
流環石から放たれる淡い水色の光と、壁画の窪みから溢れ出した赤金色の暖かな光。
二つの光が神聖な大空間で美しく交差し、階段を一段登るごとに、肌をなでる空気の温度がどこか心地よい温もりを帯びていくのが分かった。
やがて、階段を登りきり、円形の祭壇のちょうど真裏、神殿の最も奥深き場所へと辿り着いたその瞬間。
亮たちの目の前に、赤金色の輝きに完全に照らし出された巨大な石壁が、その壮大極まる全貌を現した。
祭壇の奥。
そこには、神殿の壁一面を丸ごと覆い尽くすほどに巨大な壁画が、圧倒的な存在感を放ちながら刻まれていた。
あまりの美しさと迫力に、誰もが言葉を失った。
ただ、その神聖な輝きに魂を吸い寄せられるように、視線を離せなかった。
あんな「……すごい」
あんなの唇から、驚嘆と畏敬の入り混じったかすかな囁きが、ぽつりとこぼれ落ちた。
壁画のキャンバスに描かれていたのは、一羽の巨大な鳥が、大きく大空へ向かってその両翼を広げようとしている、極めてダイナミックな姿だった。
緻密なタッチで石の表面を削り出して作られたはずのその翼は、壁の奥から脈動する赤金色の魔力を吸い上げ、まるで本物の黄金の炎をまとって静かに揺らめいているかのようだった。
その瞳は、この聖なる地を侵す邪悪な存在を鋭く射すくめるような力強さを湛えながらも、同時に、大地に生きるすべての命を包み込むような、深い慈愛が宿っていた。
羽根の一枚一枚、その繊維の先端に至るまでが、気の遠くなるような職人の技術と執念を感じさせる精巧さで彫り込まれており、その姿は今にも壁から滑り出て、神殿の天井の闇を突き破って大空へと羽ばたきそうなほど、生き生きとした生命力に満ち溢れていた。
亮「フェニックス……」
もっふる「ピィー!」
間違いない。
これこそが、あの聖火山で自分たちが刃を交えた、あの伝説の守護獣の姿だった。
だが、この壁画に刻まれているフェニックスからは、あの時の戦いの中で感じられたような、周囲のすべてを灰にせんとする荒々しく狂気染みた気配は一切伝わってこない。
むしろ、その悠然とした佇まいからは、 この地を見守り、そこに生きる人々を静かに愛し、育むような、絶対的な穏やかささえ感じられた。
よく見ると、巨大なフェニックスの足元には、無数の小さな人々がひざまずいている姿も刻み込まれている。
ある者は両手を天に掲げて大地の恵みに感謝の祈りを捧げ、ある者は胸の前で静かに手を合わせ、ある者は幼い我が子を優しく抱き上げながら、憧れと敬愛に満ちた目でその黄金の大翼を見上げていた。
ベアトリス「……崇められていたのですわ! 恐ろしい暴虐の魔獣などではなく、この地を統べる偉大な神性として、人々に深く、深く愛されていた存在だったのですわ!」
亮「カルデアの村長さんが言っていた通りだな」
カルデアの村人たちが、今も大切に誇りを持って語り継いでいる古い伝承。
フェニックスは決して災いをもたらす獣などではなく、永きにわたりこの地を、そしてそこに暮らす人々を優しく守り続けてきた絶対的な守護獣であるという話。
壁画に刻まれたその真実の歴史は、あの時聞いた村長の話と、一寸の狂いもなく一致していた。
みゆは、壁画全体へとその静かな、しかし極めて鋭い観察眼を巡らせていた。
緻密に刻まれた螺旋の並び、複雑な配列を持つ古代文字、そして、炎を囲むようにして規則的に配された円環のレリーフ。
この壁画は、単なる過去の栄光を飾るための記念碑ではない。
何千年の時を超えて、ここへ辿り着いた者に「何か」を伝えようとしている。みゆの冷静な直感が、そう告げていた。
みゆ「推測します」
みゆは、静かに、しかし確信を込めて言葉を紡いだ。
みゆ「フェニックスは本来、この地を維持し、地脈を安定させるための極めて高位の守護存在。そして、今回のその暴走は、フェニックス自身の意思によるものではなく、何らかの外的要因による異変を示している可能性があります」
亮「異変、か……」
ベアトリスは、壁画のフェニックスからどうしても目を離すことができなかった。
理由は分からない。
けれど、この光の前に立つと、胸の奥が懐かしさで満たされていく、そんな感覚だけが、確かに脈打っていた。
あんな「つまり……フェニックスはやっぱり、悪いやつじゃなかったんだね。誰かが裏で悪いことしてるか、それともこの神殿の仕組みが壊れちゃったのかな……。だったら、なおさら放っておけないよね」
亮「ああ、俺もそう思う。あの戦いの時、必死に襲いかかってはきたけど、どこか苦しそうというか、悲鳴を上げているようにも見えたんだよな。もし神殿に何か問題が起きて、その影響で正気を失って暴れるしかなかったんだとしたら……」
神殿は何も語らない。
ここに、自分たちに直接答えを教えてくれる親切な案内人もいなければ、都合よく歴史を解説してくれる魔導書も落ちてはいない。
それでも。 壁画に刻まれた静かな真実の欠片は、神崎家へ確かに、これから進むべき一つの大いなる可能性を示してくれていた。
フェニックスを救い、この土地の平穏を取り戻す。
その道標が、今、赤金色の光の中で静かに示されたのだ。
亮「……。ところで、村長さんで思い出したのだが……」
それまで神妙な面持ちで考え込んでいた亮が、なぜか妙に真剣な顔で、ぽんと手を叩いた。
あんな「……え? 急に何? この状況で何か大事なことでも思い出したの?」
みゆ「警戒。パパがこのようなシリアスな表情で重要な局面に臨む際の発言は、データ上、十中八九、フラグでしかありません」
もっふる「ピィー!」
その瞬間だった。
静まり返っていた神殿の入り口の方向から、音がかすかに響き渡った。
カツン――。
その音は、石造りの回廊を伝い、高い天井へと吸い込まれていく。
あんな「……え?」
ベアトリス「何者か、来ますわ!」
自分たち以外の何者かが、この固く閉ざされたはずの神殿へと足を踏み入れたのだ。
足音はゆっくりと、しかし確実に、祭壇のあるこの大空間へと近づいてくる。
カツン、カツン、と等間隔に響く足音。
その足音が運んでくる気配は、明らかに異なる、不気味で、冷ややかなものであった。
こうして――
壁画から守護獣の哀しき真実を知り、謎の神殿の奥深くへと辿り着いた神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
突如として神殿に響き渡った謎の足音によって、予期せぬ緊迫の展開を迎える。
神殿の色彩が失われて灰色に染まり、冷たい静寂が支配する一触即発の事態。
港町ベーゼと同じ気配を漂わせる不気味な謎の人物。
この緊迫した戦場で堂々と自己紹介を始める安定のパパと、間髪入れずに炸裂する最強姉妹のシリアス崩壊ツッコミ連携が今回も大炸裂!?
次回、第206話 え、パパが勇者!? シリアス崩壊の危機!? 灰色に染まる神殿と不気味な謎の女性襲来で一触即発!?




