第204話 え、パパが勇者!? 神殿の祭壇が覚醒!? 赤金色の輝きが運命を動かし始める!?
冷たく静寂に包まれた回廊の奥から、一条の柔らかな光が差し込んでいた。
乳白色の優しい輝きを放ちながら空気中に漂う微細な塵を黄金色に明滅させている。
神崎家はそのまばゆい光に導かれるように、静かに、そして慎重に一歩一歩、歩みを進めていった。
やがて、長い回廊の終点へと辿り着き、視界が開けた瞬間。
亮たちの前に、言葉を失うほどの圧倒的な大空間が広がった。
あんな「わぁ……」
あんなの唇から、感嘆の吐息がこぼれ落ちる。
天井は、回廊とは比べものにならないほど高く、視界の果てまで続いているかのようだった。
その広大な空間を取り囲むように、天を支えるほどの巨大な石柱が、完璧な円環を描いて整然と立ち並んでいる。
気の遠くなるような年月を経て磨き上げられた石柱の表面には、微細な魔力のきらめきが内側から宿っているかのように、かすかな光の幾何学模様が浮かび上がっていた。
そして、その大空間のちょうど中央。
一段高く築かれた、真っ白な大理石のような円形の祭壇が、静かに佇んでいた。
その祭壇の真後ろに位置する広大な壁面には、壁の端から端までを覆い尽くさんとするほどの巨大な壁画が刻み込まれている。
それは、じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうなほどの、圧倒的な存在感を放つ紋章だった。
揺れてもいないし、燃えてもいない。
それなのに、胸の奥で炎がゆらめくような錯覚を抱かせる、不思議な彫刻だった。
亮「ここが……」
みゆ「神殿の中枢部、あるいは神聖な儀式を執り行うための中心核である可能性が極めて高いです。周囲の魔素の流れが、すべてこの円形の祭壇を起点として循環しています」
みゆは冷静に周囲の環境を測定していく。
その隣で、ベアトリスは祭壇と巨大な壁画を見つめたまま、一歩も動けなくなったかのように小さく息をのんだ。
ベアトリス「……美しいですわ。ただの石の彫刻のはずなのに、まるで偉大な魂そのものがそこに宿っているかのようですわ……」
もっふる「ピィー!」
その声は、驚きを超えて、まるで心奪われた恋人の名前を呟くかのように、うっとりとした響きを孕んでいた。
あんな「ベアトリス?」
あんなが不思議そうにベアトリスの顔を覗き込む。 我に返ったように、ベアトリスは慌てて首を振った。
ベアトリス「申し訳ありませんわ! 自然と目を奪われて、言葉を失ってしまいましたわ!」
亮「はは、謝る必要なんてないさ。無理もないよ。俺だって、なんだかこの場所を見ていると、心の中が不思議とすうっと軽くなるというか、落ち着くような気がするしな」
実際、この巨大な神殿に足を踏み入れてから、亮の胸の中にはどこか不思議な安らぎが広がっていた。
本来であれば、得体の知れない場所に強制転移させられたのだから警戒すべきなのだが、どうにも心地よさが勝ってしまう。
ゆっくりと、四人と一匹は祭壇へと近づいていく。
足音だけが静かな大空間に小さく響く。
その時だった。
ベアトリスが急にピタリと足を止めた。
ベアトリス「……えっ?」
あんな「ベアトリス? どうしたの?」
あんなが心配そうに足を止め、ベアトリスを振り返る。
ベアトリスは、自分の胸元にそっと右手を当てた。
その表情は苦痛に歪んでいるわけではない。
だが、どこか驚きと戸惑いに満ちている。
ベアトリス「何でしょう……胸の奥が、とても熱いですわ。動悸が激しくなっているような……いいえ、苦しくはありませんわ。むしろ、温泉に浸かっている時のようにじんわりと温かくて……なんだか、とても懐かしい場所に帰ってきたような感じがしますわ!」
あんな「……懐かしい?」
領主の愛娘であるベアトリスが、こんな太古の神殿にゆかりがあるはずもない。
しかし、彼女の言葉に呼応するかのように、異変はすぐに訪れた。
目の前にある円形の祭壇。
その中央に施された細やかな装飾の隙間から、まるで朝もやのように淡く、美しい光が溢れ出し始めたのだ。
あんな「あ、光った!」
亮「おお、誰も触ってないのに光るのか。すごい仕掛けだな」
みゆ「高密度魔力反応を確認。祭壇の深部にある封印、もしくは起動用魔力回路が一時的に活性化しています。エネルギーの供給源はベアトリスの魔力……いいえ、それだけではありません」
みゆがさらに高度な魔力解析を進めようとした、まさにその瞬間だった。
アイテムボックスから、まるで祭壇の輝きに呼応するように、淡い水色の光が零れ落ちるように輝き始めた。
亮「え? なんだこれ、光ってるぞ?」
あんな「ちょっとパパ!」
アイテムボックスは強く、美しく明滅している。
そして、その水色の輝きが強まるにつれ、祭壇の乳白色の光もまた、呼吸を合わせるようにして光量を増していった。
みゆ「共鳴現象。明らかに、双方の魔力の波が完全に同じリズムで重なっています」
亮「共鳴? ってことは、俺の持ってる荷物の中に、この祭壇と仲良しなやつがあるってことか?」
みゆ「簡潔に表現するならば、その通りです。パパ、該当すると思われる物品をボックス内から出してください。魔力の波形から推測するに、鉱石に類するものです」
亮「鉱石ねぇ。俺、そんな大層なレアメタルとか持ってたっけ……。あ、もしかしてこれか?」
亮がアイテムボックスに手を突っ込み、取り出したのは五角形の石だった。
手のひらに乗せられたその石は、水色の光を放っている。
あんな「あ! パパ、それって前に釣りの時に錘に使った五角形の石じゃない! 名前は確か、流環石だよ!」
みゆ「流環石。その石が、この超高位神殿の祭壇と魔力的関連性を持っている可能性は極めて高いと判断します。……それにしても、パパ」
亮「ん? なんだ、みゆ」
みゆ「以前、その石の名前、詳細については聞いています。完全に失念していましたね」
亮「いやいや、忘れてたわけじゃないぞ? ほら、頭の引き出しの奥の方に入り込んでて、ちょっと鍵が見つからなかっただけで……」
あんな「それを世間一般では『忘れてる』って言うんだよ、パパ! 本当にもう、どこに行ってもブレないんだから!」
みゆ「安定のパパです。記憶容量の揮発性に関しては、最早データ測定の必要すらありません」
亮「おいおい、娘たちからの評価が手厳しいな……」
もっふる「ピィー!」
その和やかなやり取りを遮るように、神殿の空気が突如として震えた。
ゴォ……。
地響きのような、どこか心地よい重低音が大空間に響き渡る。
祭壇の奥にある巨大な壁画。
その中央に描かれた炎の紋章が、ゆっくりと、今度は赤金色に輝き始めたのだ。
それはまるで、本物の炎が壁から噴き出しているかのような圧倒的な光彩。
しかし、神殿の空気は保たれたままで、熱は全く感じられない。
ただ、見る者の魂を包み込むような温かな光だけが、優しく空間を照らし出していった。
あんな「また反応した! 今度は後ろの大きな壁画だよ!」
みゆ「祭壇の奥部……壁画の深部より、さらに強大な魔力反応を確認。この魔力の性質、極めて神聖です」
もっふる「ピィー!」
ベアトリスは、無意識のうちにまた一歩、祭壇の階段を登っていた。
胸の鼓動は、さらに速さを増していく。
その高鳴りが、自分に何を求めているのか、彼女自身にも分からなかった。
なぜ、この場所がこんなにも懐かしいのか。
なぜ、あの赤金色の光に、これほどまでに心が強く引き寄せられるのか。
理由は分からない。
けれど、あの光の先へ進まなければならない。
そんな思いだけが、ベアトリスの心の中で静かに大きくなっていくのだった。
こうして――
流環石をきっかけに、謎の神殿を急激に活性化させてしまった神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
ベアトリスの胸の高鳴りとともに、神殿の真実を暴くための新たなる扉を開け放つ。
目の前に現れたのは、かつて刃を交えた伝説の守護獣・フェニックスが描かれた圧倒的スケールの巨大壁画!
暴走の悲しき真実が明らかになり放っておけないと決意を新たにする中、固く閉ざされたはずの神殿に入り口から響き渡る正体不明の不気味で冷ややかな足音……。
緊迫の一途をたどる驚愕の急展開でも、パパがシリアスな表情を浮かべた瞬間に十中八九、フラグでしかないと即座に切り捨てる最強姉妹の超冷静すぎる分析ツッコミが今回も大炸裂!?
次回、第205話 え、パパが勇者!? 最強姉妹の冷静分析!その時、謎の影が静かに迫る!?




