第195話 え、パパが勇者!? 緊急撤退⁉ 天を突く黄金の炎柱から現れた巨大な影!?
サラマンダー・ロードを討伐した安堵も束の間、異様な熱気は収まる気配を見せない。
みゆ「……まだ、何も終わっていません」
あんな「終わっていない?」
みゆ「そもそも、サラマンダーが原因ではないです」
ラウル「おい、お嬢ちゃん、それってつまりどういう意味だよ?」
みゆ「……あのサラマンダーたちは、この地に満ちる膨大な熱源に当てられて狂暴化し、外へ押し出されてきたに過ぎないです。――この奥に、本物がいます」
重苦しい静寂が訪れた。
普段の神崎家なら、誰かが冗談を言って笑い飛ばすような場面だ。
だが、今のみゆの言葉は、誰の耳にも到底冗談には聞こえなかった。
――ドォン。
地底の奥深くから、再びあの低い音が響く。
安堵から一転して緊迫した空気が流れる中、全員が振り返る。
――ドォン。
再び。
今度は足元の岩が、目に見えてガタガタと震える。
レイン「さっきより音が近くなってないか?」
ディオンの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
――ドォン。
――ドォン。
その地鳴りは、決して不規則なものではなかった。
一定の間隔を保ち、刻まれている。
まるで、巨大な生き物の鼓動。
あるいは、永き眠りから目覚めつつある何かの呼吸。
この聖火山フェルナードそのものが、一つの巨大な意思を持って生きているようだった。
ベアトリス「な、なんだか非常に気味が悪いですわ……。禍々しい気配を感じますわ」
ベアトリスが珍しく怯えたように剣を抱きしめる。
リュシア「何なのよ、一体これ……!」
ミレイアも、いつもの柔らかな笑みを完全に消し去り、不安そうに赤く染まる空を見上げる。
その時だった。
ゴォォォォォォォォォォッ――!!
最大の熱波が押し寄せた。
あまりの熱波に、思わず身を低くする。
熱い。
それ以上に、肌が痛い。
聖火山全体を包む空気そのものが、まるで本物の炎となって燃えているようだった。
ディオン「――下がるぞ! ルーク殿、撤退を!」
ラウル「おい、マジで危険だ! この場にいたら蒸発しちまう!」
ディオン「今すぐに撤退だ!!」
いつも冷静沈着で、感情を表に出さなかったディオンが、初めて本気で怒鳴り声を上げた。
シェリルも、険しい表情で山頂の火口を見つめている。
シェリル「非常に危険です。皆、今すぐこの場を離れましょう」
彼女の美しい顔は硬く強張っていた。
あの百戦錬磨であるAランクパーティー流星が、ここまで慌てて撤退を叫ぶ姿など、誰も見たことがなかった。
ルーク「分かった!至急撤退する!」
ルークが撤退を伝えたその瞬間。
聖火山フェルナードの山頂。
そのすべてが、目も眩むような鮮やかな黄金色に輝いた。
ラウル「なっ……何だ、あれ……!」
ガルド「嘘だろ……。おいおい、冗談だろ……!」
太陽。
誰もが、そう錯覚した。
山頂に、もう一つ、別の太陽が現れたかのような光景だった。
眩い黄金の光はさらに膨れ上がり、周囲の空を真っ赤に染め上げ、漂う雲を跡形もなく焼き尽くしていく。
そして――。
ドォォォォォォォォォン!!
鼓膜を破らんばかりの、凄まじい轟音が世界に響き渡った。
山頂の火口から、文字通り天を突くほどの巨大な炎柱が噴き上がる。
あまりの圧倒的な光景に、誰も動けない。
誰も声を出すことすらできない。
ただ、その光に目を奪われていた。
だが、本当の恐怖はそこからだった。
激しく燃え盛る炎柱の中。
そこに、何かが、いる。
巨大な影。
周囲で揺らめくのは、神聖かつ黄金の炎。
そして。
ゆっくりと。
その激しく燃え盛る黄金の炎の中から、巨大な影が、優然と立ち上がる。
あんな「……え。うそ、でしょ……」
あまりのスケールの違いに、あんなは言葉を失った。
みゆ「……」
ラウル「おい……何だ、あの化け物は……」
ガルド「冗談だろ……。俺たちの知ってる魔物のサイズじゃねえぞ……!」
ディオンは震えていた。
ディオン「まさか……あの伝承が、本当に……」
ルーク「ディオン! 何か知っているのか!」
ルークが声を荒らげて問いかける。
ディオン「知っている。というより、おとぎ話で聞いただけだ。……過去に数百年、誰もその姿を見た者はいないはずだ……!」
巨大な影が、ゆっくりと動き出す。
それだけで周囲の空が真っ赤に燃え上がり、熱波が四方に吹き荒れた。
先ほどまで命がけで戦っていたサラマンダーなど、これに比べればただのトカゲに過ぎない。
その場にいる誰もが、本能で理解した。
あれは、戦う対象ではない。
あれは、天災であり、災害そのものだ。
人間が定めた魔物という枠組みで語れる存在ではない。
そして、黄金の炎の中から、甲高い、そしてあまりにも美しい鳴き声が響き渡った。
キィィィィィィィィィィィッ――!!
その声一つで、聖火山全体が、いや、世界そのものが激しく震えた。
――そして、その空のさらに熱く。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの家族は、どこにいても本当に退屈という言葉を知らないのですね。
誰もが息を呑むような過酷な聖火山。
その険しい道のりさえも、彼らの手にかかれば賑やかな我慢比べのゲームへと変わってしまうのですから。
襲い来る熱波や、燃え盛る魔物たちの脅威を前にしても、あの勇者はどこまでも無邪気に楽しげな眼差しを向け、娘たちは互いの絆をより一層深めていく。
時には小さな虫たちに驚き、少しだけ加減を忘れて周囲を凍らせてしまう、そんなお茶目で微笑ましい大暴走さえも、張り詰めた調査隊の緊張を優しくほどいていく魔法のようです。
使命感ではなく、純粋な気持ちで、ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿。
最強の力を持ちながら、目の前の困難をも笑顔で包み込んでしまうあの純粋な想いこそが、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれませんね。
知らぬうちに世界の異変をも導き、関わる人々を温めていくその歩みは、聖火山に眠る大いなる熱気さえも、きっと柔らかな光へと変えてしまうのでしょう。
けれど、山の奥底で永い眠りから目覚めた、あの黄金の炎を纏う圧倒的な存在。
そして、暗がりに潜む不穏な二つの影。
世界が大きく揺れ動こうとする中で、あの家族はまた一つ、奇跡を日常に変えてしまうのでしょうか。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
黄金の光が満ちるその頂の向こうで、あの勇者の家族はまた、私の想像を超えるような物語を見せてくれるのでしょうか。
光が揺れ、風がそっと熱を奪うように吹き抜ける。
その微笑みは、どこまでも澄み渡る空のように優しかった。
こうして――。
サラマンダーをすべて倒しても決して終わらなかった異変。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
一時の勝利から一転。
ついにその圧倒的な姿を現そうとしていた。
【第二十三章「聖山編」を終えて】
灼熱の聖火山フェルナードでの過酷な調査を終え、神崎家はまた一歩、異世界での絆を深めました。
パパの天然な行動が引き起こす騒動や、みゆの限界突破した魔法によって火山が丸ごと凍りつく大ハプニングを乗り越えたのも束の間、サラマンダー・ロード討伐の直後に真の天災が目を覚まします。
天を突く黄金の炎柱から姿を現した巨大な影と、謎の二つの存在。
世界の命運を揺るがす大異変を前に、神崎家のスローライフはどうなってしまうのか。
次章、新たなる波乱の幕が上がります!
亮「みんな、聖山編を最後まで応援してくれて本当にありがとう! そこで相談なんだが、本編が終わった後の『外伝』で、俺たちが異世界でどんなことをしているのが見たいかアイデアが欲しいんだ! 例えば、パパと娘たちの日常や、ちょっとした珍道中など……『こんな神崎家が見たい!』というネタがあったら、ぜひ感想欄で教えてくれよな!」
あんな「ちょっとパパ、クライマックス直前に外伝の構想を練り始めるなんて気が早すぎない? でも、確かに皆さんが見たい神崎家の姿を知るのはすごく楽しいかも。本編の合間や後日談の参考にさせてもらうから、ぜひ気軽にリクエストしてみてね!」
みゆ「データ補正。読者の皆様の脳内メモリから出力される『外伝で見たいシチュエーション』を感想欄にて募集中です。採用された場合、神崎家の日常における奇行や癒やし成分が大幅に強化されます。なお、皆様からの評価(★)やブックマークは、次なる決戦におけるパパの生存確率を最大化させるため、何卒エネルギーの補強をお願いします」
ベアトリス「わたくしも、本編の裏側でパパやお姉さまたちとどんな素敵な時間を過ごしているのか、とっても気になりますわ! ぜひ皆様の素敵なアイデアを教えてくださいませですわ! 応援のブックマークもよろしくお願いいたしますわ!」
もっふる「ピィー♪」
明日朝8時より、第二十四章がスタートいたします!
これまで以上に楽しんでいただけたら嬉しいです。




