第191話 え、パパが勇者!? 灼熱の聖火山がまさかの全面氷結で大パニック!?
聖火山フェルナードの中層をさらに突き進む調査隊一行。
周囲を包み込む不穏な気配は徐々にその密度を増し、岩肌から伝わる熱気も限界近くまで跳ね上がっていた。
ルーク「総員戦闘準備! 次が来るぞ!」
一同「おー!」
もっふる「ピィー!」
ラウル「おいおい、次は何が出るんだ? そろそろもっと強烈なやつか?」
ディオン「……それにしても、いつもより襲撃の回数があまりにも多すぎるな。この過酷な環境で連戦は骨が折れる」
ディオンが槍を握り直した、その時だった。
行く手を遮る歪んだ岩陰の向こうから、無数の黒い影が這い出した。
独特の悍ましい不快音が山肌に響き渡る。
カサカサカサカサ――。
あんな「……」
みゆ「……」
亮「お、なんだ? ……巨大なアリ?」
ディオン「――フレイムアントです!」
乾燥した岩の隙間から溢れ出てきたのは、体長五十センチほどもある巨大な赤黒いアリの群れだった。
それらが数え切れないほどの圧倒的な物量で、地を埋め尽くしながら迫ってくる。
次の瞬間だった。
あんな&みゆ「虫ぃぃぃぃぃぃーーーッ!!!!」
鼓膜を突き破らんばかりの、悲痛かつ凄まじい絶叫が山頂にこだました。
そのあまりの音量とただ事ではない気迫に、ルークやラウルをはじめ、調査隊の全員が一瞬にしてその場で固まった。
亮「お、おいおい! ヤバいな、これは!?」
あんな「無理無理無理無理! 絶対に無理! どんな魔物でも我慢するけど、虫だけは本当に無理ぃぃぃ!」
みゆ「……生理的嫌悪感、および拒絶反応が限界数値を突破。これ以上の接近は精神衛生上、断じて容認できません。駆除します」
ベアトリス「お、お姉さま方!? 急にどうなされたのですわ!」
カサカサカサカサ――。
そんな姉妹の恐慌状態など知る由もなく、フレイムアントの群れは容赦なく距離を詰めてくる。
だが、ここで神崎家よりも先に、凄まじい勢いで顔面を蒼白にさせたのは紅蓮の輪の女性陣だった。
セリナ「ちょ、ちょっと! まずいわ! あれはまずいわよガルド!」
リュシア「虫よ! あの娘たちの前に虫が出たのよ!」
ミレイア「嫌っ、止めてください! 誰でもいいから、早くあの群れを消し去って!」
ラウル「え? おいおい、どうしたんだよ。フレイムアントぐらいなら、数が多いだけでそこまで強くねえだろ?」
ガルド「ああ、面食らったが落ち着けお前たち」
セリナ「違うわよ! 魔物がどうとかじゃないの! いいから早く娘を止めなさいよ!!」
リュシア「そうよ! あの精神状態で、あの娘に範囲魔法を撃たせたら終わりよ! すべてが終わるわ!」
ミレイア「急いでください! 早くその不快な虫を処理して、あの娘の視界から外してちょうだい!」
ガルド「は!? 一体何の話をしてるんだ!?」
セリナ「前の時の事、すっかり忘れたの!? あの狂った魔法を!!」
ガルドやラウルが混乱する中、叫ぶ女性陣。
しかし、もうすべてが遅すぎた。
あんな「このクソ暑い中、更に虫とか本当に地獄!! みゆ、お願い! 一匹残らず消し去っちゃって!!」
みゆ「――任せて、お姉ちゃん。私の全魔力で、虫は即刻駆除します」
セリナ「あ……」
リュシア「あ、終わった……」
みゆが完全に据わった目で、杖を天高く掲げた。
みゆ「――『アイスランス』」
ズドドドドドドドドドドッ!!
次の瞬間、火山の熱気を真っ向から叩き潰すような極寒の魔力が爆発し、無数の巨大な氷槍が、猛烈な勢いで前方へと放たれた。
直撃を受けたフレイムアントの先陣が、哀れな悲鳴を上げる間もなく跡形もなく粉砕され、吹き飛んでいく。
だが、火山の底力を示すように、岩の亀裂からさらに次の群れが溢れ出してくる。
カサカサカサカサ――。
あんな「まだいるーー!! しつこい! こっちに来ないでぇぇぇ!」
みゆ「……不快害虫の生存を確認。追加駆除を執行します」
ズドドドドドドドドドドドッ!!
ラウル「うおおっ!? おいおいおい、冗談だろ!?」
ガルド「お前ら、伏せろ!! 巻き込まれるぞ!!」
ラウル「何だこれ! 魔物の攻撃じゃなくて、めちゃくちゃな氷の槍が飛んできてんぞ!?」
リリナ「きゃあああ!? 凍っちゃいますぅ!」
過剰すぎる威力のアイスランスが周囲の地面や岩場を次々に直撃し、聖火山フェルナードの熱烈な岩肌が、見る見るうちに真っ白く凍りつき始める。
セリナ「だから言ったでしょう! あの娘は虫を見ると加減ができなくなるのよ!」
リュシア「くっ……警告が間に合わなかった……!」
ミレイア「もう駄目です……! 寒さで凍えてしまいますわ!」
あんな「右! 右の岩のところからもカサカサ聞こえる!」
みゆ「感知しました。即座に、駆除!」
ズドドドドドドドドドドドドドッ!!
オスカー「おい、また撃ったぞあの娘!? 無詠唱であの規模の連続展開だと!?」
アルト「素晴らしい……! みゆ様の不快感を晴らすための純粋なる攻撃魔法! なんと美しく、凄まじい威力なのですか!」
オスカー「アルト、感心している場合ではないぞ! こっちまで凍結に巻き込まれる!」
ルーク「おい! 誰か、誰でもいいからあの暴走を何とかしろ!」
ラウル「何とかって……無理だろ!」
ガルド「おい、近づくな! 巻き込まれたらマジで命がねえぞ!」
迫り来るアリの群れなどそっちのけで、調査隊の面々は、みゆの放つ無差別級の氷結魔法の射線から逃げ惑うので必死になっていた。
ディオン「確かにこれは……ヤバいな……」
ラウル「魔物より、あのお嬢ちゃんたちの方が遥かにヤバい!!」
ガルド「完全に同感だ! アイツらのスイッチを入れちゃダメだったんだ!」
そんな混乱の中、さらに奥の大きな裂け目から、一段と大きな地鳴りとともに新たな群れが這い出してくる。
カサカサカサカサ――。
あんな「いやぁぁぁ! まだいるーー!! もう本当に嫌ぁぁぁ!」
みゆ「……害虫の根絶を確認できるまで。全て、駆除!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
極大の魔力が周囲の熱風を完全に薙ぎ払い、ついに一帯の景色が完全に変貌を遂げた。
ここが燃え盛る聖火山フェルナードであるとは到底信じられない、どこまでも冷気が立ち込める一面の銀世界、完全なる氷の世界がそこには広がっていた。
オスカー「でも、さすがです。この灼熱の聖火山をここまでにするとは」
アルト「みゆ様ですから」
その時だった。
冷気の中に立つみゆが、さらにその先をじっと見つめた。
みゆ「……」
あんな「……み、みゆ? まさか、まだ、いるの……?」
みゆ「ええ。奥の方に、明らかに規格外の大きいのと、それを囲む小さいのが無数に存在しています」
ディオン「何ですか、それは……!?」
ラウル「おいおい、フレイムアントの親玉……女王アリだな」
みゆ「視界にこれ以上の虫を捉え続けるのは、もう精神の限界です。一帯の地形ごと消滅させる、極大魔法をお見舞いするべきと判断します。被害規模は計測不能です」
あんな「うん。みゆ、やっちゃって! 粉々にしちゃえ!」
セリナ「嘘でしょ!? やばいよ、ガルド! この山が崩壊するわ!」
リュシア「ちょっと、亮! あんた父親でしょ、何とかしなさいよ! 娘の暴走を止めなさい!」
ミレイア「このままでは聖火山ではなく、完全な『聖氷山』になってしまいますわよ!」
ガルド「ああ、クソッ! 亮さん!」
そう言われた亮は、真剣な表情を浮かべて走り出した。
亮「よし、任せろ!」
ラウル「よし、俺も協力するぞ! 命懸けであんなちゃんとみゆちゃんを守る!」
ガルド「おう! これ以上、あの娘たちに魔法を撃たせるな! 絶対に阻止するぞ!」
亮「そうだ! これ以上撃たせたら、皆の命が危ないからな!」
ルーク「亮さん!頼んだぞ!」
オスカー「現場としては非常に正しい判断だ!」
セリナ「今さら気付いたの!? 最初から言ってるでしょうが!」
リュシア「遅いのよ! 突っ立ってないで早くしなさいよ!」
ミレイア「ほら、早く二人を安全な場所に保護しなさいよ!」
ラウル、ガルド、そして亮の三人が力強く前へ出た。
彼らはみゆの魔法の矛先を遮るように、あんなとみゆを優しく囲むようにして立ち塞がった。
ラウル「お嬢様方! もう大丈夫だ!」
ガルド「ここから先は俺たちの後ろに隠れてろ!」
亮「そうだぞ。不気味な虫はパパに任せろ!」
もっふる「ピィー♪」
あんな「あ……パパ。でも、まだそこに虫が……」
みゆ「……虫。本当に、大嫌い……」
あまりの虫の大群に、すっかり精神的に参ってしまい、半分放心状態になっている二人。
ラウル「もう見なくていい! 俺たちの背中だけ見てな!」
ガルド「そうだ、目を閉じろ! 俺たちが全部片付けてやるからよ!」
亮「安心しろ、お前たち二人は俺が守るからな。もう大丈夫だぞ」
二人の前に、ベアトリスも大剣を構えて毅然と躍り出た。
ベアトリス「お姉さま方を守るのは、このわたくしの役目ですわ! 不浄なる虫ども、わたくしが引き受けましたわ!」
あんな「ベアトリス……」
みゆ「……」
二人が亮たちの背中に隠れて視界を塞がれたのを確認し、ルークは改めて鋭く剣を構えた。
ルーク「よし、神崎家の魔法が止まった今が好機だ! 突撃! 奥にいる女王アリを討つぞ!」
カイル「了解!」
レイン「行きます!」
オスカー「魔術師団、全力で援護する!」
紅蓮の輪の面々も、ここぞとばかりに突撃を開始する。
流星のディオンたちもそれに続いた。
味方の魔法に怯える必要のなくなった実力者たちの猛攻は凄まじく、激しい戦闘の末、見事に女王アリは討伐された。
主を失い、さらにみゆの氷結魔法で大半が身動きを封じられていた残りのフレイムアントたちも、次々と鮮やかに倒されていく。
ルーク「ハァ、ハァ……終わった……」
オスカー「やれやれ、これで一安心ですね」
ラウル「……しかし、本来なら地中深くに引き籠もっているはずの女王アリが、わざわざ出てきているのはどう考えても変だぜ」
ディオン「ああ。やはりこれも、この山全体を覆っている異変の影響かもな。魔物たちが狂っている」
エドガー「うう、寒っ……ですが、この過剰な氷結現象と女王アリの異常生態、極めて貴重な記録です!」
誰もがようやく息を吐き、戦いの終わりを実感した。
だが、その瞬間だった。
ゴォォォォォォォォォッ -!!
これまでとは比較にならないほどの、天を衝くような凄まじい熱波が、火山の山頂方向から激しく吹き荒れた。
その熱気により、みゆが作り出した周囲の分厚い氷壁や氷槍が、一瞬にして溶け始める。
ラウル「なっ!? 何だこれは、一瞬で氷が溶けてやがる!」
ガルド「な、何だこの熱さは!? さっきまでの比じゃねえぞ!」
オスカー「この熱波……地脈の魔力が完全に吹き出したというのか!?」
立ち上る大量の白煙の向こうを見つめ、ディオンの顔色が恐怖に変わった。
ディオン「違う……。私は以前にも、この聖火山を登ったことがあるが……こんな熱波は一度も体験したことがない……!」
ビリビリと、大気そのものが細かく震える。
ゴゴゴゴと、足元の地面が底から唸り声を上げる。
それはまるで、聖火山フェルナードそのものが、大いなる意志を持って永い眠りから目を覚ましたかのようだった。
みゆ「……上です」
あんな「え……?」
亮の背中から顔を出したみゆは、陽炎で激しくゆらめく山頂の方向を、じっと見つめていた。
みゆ「……山頂の火口付近。何か、とてつもなく巨大なものがいます」
もっふる「ピィー!」
こうして――
恐ろしい物量の女王アリを無事に討伐した調査隊。
しかし、彼らを歓迎するかのように、山全体の異常な熱気と熱波は、さらにその勢いを強まり続けるのだった。
聖火山フェルナードの奥底で、本当の恐るべき異変が、いよいよその全貌を現そうと動き始めていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
聖火山フェルナードで刻一刻と高まる真の異変。
逃げ場のない極限の地で、調査隊はさらなる未曾有の脅威へと向かうことになる。
空を引き裂く激しい警鐘と、倒しても引きも切らずに押し寄せる魔物の大群!
限界寸前のカルデア村で、生き残りをかけた村人たちの命がけの総力戦が幕を開ける!
麓が滅亡の危機に瀕する中、山頂で異変の元凶に挑む神崎家の規格外な絆と圧倒的チート能力が試される。
次回、第192話 え、パパが勇者!? 押し寄せる魔物の大群とかつてない激しい警鐘で村全体が絶体絶命のカルデア村総力戦!?
暴虐の熱波が告げる破滅のカウントダウン、絶望の包囲網を仲間と共に打ち破れ!




