第189話 え、パパが勇者!? 自称スライムハンター⁉ 百度超えの熱々スライムに無防備突撃で大火傷!?
ルーク「全員警戒! 」
張り詰めた空気の中、一同が一斉に武器を構えて身構える。
ラウル「来るぞ。何が飛び出してきてもおかしくないぞ!」
ディオン「警戒を怠るな!」
周囲の岩肌から立ち上る熱気も相まって、調査隊の面々にピリピリとした緊張が走る。
そして――。
ぴょん。
亮「え?」
ぴょん、ぴょん。
あんな「……スライム? これ、スライムだよね?」
険しい岩陰から姿を現したのは、ゼリー状の体を持った、しかし全身が真っ赤に燃えるように輝く、お馴染みの球体の魔物だった。
みゆ「ファイアスライム。文字通り、火属性を帯びたスライムです」
亮「おー! スライムだー! やっぱり異世界の山登りといったらスライムだよね!」
これまでの過酷な登山ですっかりバテていた亮が、スライムの登場に一転して嬉しそうに声を弾ませる。
ラウル「おいおい、スライムとはいっても火山の固有種だ、絶対に油断するなよ」
ディオン「ええ、少々厄介な相手ですね。普通の個体とは性質が異なります」
ぴょんぴょん、ぴょんぴょん。
岩の隙間から、まるで湧き出すようにして何十匹ものファイアスライムが飛び跳ねながら、じわじわとこちらに向かって近付いてくる。
数が集まると、それだけで周囲の熱気がさらに引き上げられるようだ。
亮「いやいや、ファンタジーの定番スライムがこんな過酷な山の中でも見られるなんて、なんだか感動しちゃうな。可愛いもんだよ」
ディオン「だから、油断は禁物だと言っているだろう」
亮「大丈夫だよー。ちょっと挨拶代わりに触ってみるだけだから」
亮は歩み寄り、一番近くまで跳ねてきた一匹へと無防備に手を伸ばした。
あんな「あ、ちょっとパパ!? 何やってんの!」
みゆ「パパ、待って。触れるのは危険――」
もっふる「ピィー!」
ぽふ。
亮「熱っっっ!!!!」
手のひらが真っ赤なゼリーに触れた瞬間、亮は飛び上がるようにして慌てて手を引っ込めた。
亮「熱い熱い熱い! ナニコレ、めちゃくちゃ熱いんだけど!?」
あんな「だから言ったのに。何でいつもそうやって真っ先に突っ込んでいくかなぁ!」
みゆ「定番の行動です。事前データ通り、あれは完全な火属性の魔物。表面温度はすでに百度近くに達しています」
ラウル「何やってんだよ、 自分で触りに行っといてそりゃねえぜ!」
前線で身構えていた冒険者や騎士たちから、堪えきれずにドッと笑いが漏れる。
亮は涙目になりながら、火傷しかけた右手をぶんぶんと必死に振った。
亮「だってスライムだよ!? スライムなのに熱いなんてずるいじゃん!」
みゆ「ですから、最初からファイアスライムだと説明しています」
亮「名前そのままだった! ひねりがない!」
ルーク「魔物の命名などそんなものだろう、当たり前ですよ」
そんな中、真っ赤なスライムたちの群れはさらに距離を詰めてくる。
数が多い上に熱気を放っているため、そのまま囲まれればただでさえ高い周囲の気温がさらに跳ね上がってしまう。
亮「よーし、ここは任せろー! いけっ、『スライム・エクステンダー』!!」
亮は剣を、迫り来る赤い群れに向かって勢いよく一振りした。
その瞬間、鋭い刃が目にも留まらぬ速さで空間を薙ぎ払い、最前線にいた十何匹ものファイアスライムを一瞬にして塵へと変えてみせた。
一同「え、えええーーー!?」
あんな「えっ!? ちょっとパパ、今ので一網打尽!? 急に覚醒したの!?」
みゆ「……奇跡が起こりました。普段のパパからはおよそ算出できない、驚異的です」
ベアトリス「さすがパパですわ! わたくし、その素晴らしい剣技に改めて惚れ直してしまいましたわ!」
もっふる「ピィー♪」
ラウル「おいおい、亮さん! やるじゃないか! 見事な一撃だぜ!」
ルーク「凄まじいな……! よーし、亮さんに続け! 各自、残りのスライムを撃退するんだ!」
カイル「行くぞ、お前たち!」
レイン「はっ!」
リリナ「はいっ、おー!」
亮の見事な先制攻撃に触発され、騎士団の若手たちが一斉に前へ出た。
それぞれの武器を構え、残ったスライムたちへ次々に切りかかっていく。
ぽん。
一匹撃破。
ぽん、ぽん。
さらにまた一匹と、撃退していく。
しかし――。
リリナ「え……? きゃあっ!?」
リリナが剣を振り抜いた直後、倒されたスライムの体が不自然に膨らみ、激しく弾けた。
中から熱い液体が周囲へ勢いよく飛び散る。
カイル「しまっ……リリナ、下がれ!」
ルーク「どういうことだ! ただ消滅するのではないのか!?」
すかさずラウルが割り込み、大盾で飛び散る熱液を遮断しながら叫んだ。
ラウル「こいつらは倒した直後に破裂する習性を持ってるんだよ! 致命傷にはならないが、まともに浴びると装備が溶けるか大火傷だ!」
ディオン「単体としては最弱の部類ですが、この破裂特性のせいで近接職にとっては少々厄介なんですよ」
ラウル「だから最初に油断するなって言ったろ! っていうか、亮さんのあの剣は何なんだよ!? 斬ったやつは一匹も弾けなかったぞ!」
ルーク「確かに……。亮さん、その剣は一体?」
尋ねられた亮は、手にした翡翠色に美しく輝く剣を、ちょっぴり得意げに掲げてみせた。
亮「これ? これはダンジョンで手に入れた『翠霊の剣』だよ」
あんな「あ、思い出した! ボス戦で手に入れた、スライム専用の剣だよね。よく覚えていたね」
みゆ「……まさに奇跡が起きました。お姉ちゃんの言う通り、ピンポイントで有効な武器を選択していたようです。戦略的意図があったとは到底思えませんが、計算通りの完璧なメタパターンです」
ベアトリス「やはりパパはすべてを見通していらっしゃったのですわ! さすがですわ!」
亮「ふふふ、これからは俺のことをスライムハンターと呼んでくれたまえ!」
あんな「いや、あんまりカッコよくないかも……。ドラゴンハンターみたいに言われてもね」
みゆ「同感。スライム相手にどれだけ無双しても、データ上の強者には聞こえない」
もっふる「ピィー♪」
先ほどまでの張り詰めた戦場に、どっと和やかな笑いが広がった。
ルーク「コホン……。ともかく、亮さんの剣以外の者は、遠距離攻撃を主体に撃破するんだ! 前衛は盾役を中心に据えて防衛線を張り、各自、あの熱い液体を絶対に浴びないように注意しろ!」
オスカー「よし! 魔術師団、詠唱開始! 構え!」
ノエル「はい!」
アルト「はっ! みゆ様の目の前で不覚は取りません!」
その後も、岩の隙間からファイアスライムは次々に現れた。
だが、一度その特性を見抜いてしまえば、数が多いだけでこちらの脅威にはならない。
統率の取れた騎士団の連携。
的確な魔法を放つ魔術師団。
そして手際よく獲物を狩る紅蓮の輪と、流星。
調査隊の圧倒的な戦力の前に、赤い群れは順調に撃破されていった。
ルーク「――よし、討伐完了です」
ルークが周囲を見回して剣を収める。
オスカー「……しかし、いくらなんでも、今までの数より明らかに多すぎるな」
ルーク「確かに」
ディオン「元凶は、この聖火山フェルナードで起きている異変で間違いないな」
ルーク「本当に、村の言い伝えにあるように『山の神』が怒っているとでもいうのだろうか……」
ラウル「さあな。古い村の言い伝えだからな、正直言って俺たち冒険者には分からん。だが……」
ディオン「ええ。ただの自然現象にしては、この辺りで見かける魔物の数じゃありません」
みゆ「周辺地域の通常個体数を大幅超過。生態系のグラフが完全に崩壊しています」
オスカー「環境の急変に伴う、魔物の活性化、あるいは暴走の可能性か……」
先ほどまでの和やかな空気が、ふっと溶けてなくなるようにして少しずつ変わっていく。
魔物の大量発生。
それは、この聖火山フェルナードの底での異常が、確実に周囲へ影響を及ぼし始めている動かぬ証拠だった。
そんな神妙な会話を聞いていた亮はというと……。
亮「つまり……」
あんな「つまり?」
亮「スライムがいっぱい。……スライムって、なんか見るだけでテンション上がるんだよなぁ」
みゆ「……全く理解していない」
ベアトリス「いっぱいですわ、パパ! スライムの楽園ですわ!」
もっふる「ピィー!」
こうして――
聖火山の異常は、確実に魔物たちの生態へ暗い影を落とし始めていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
聖火山で増え続ける魔物。
そして聖火山では、さらに不穏な気配が待ち受けていた。
次から次へと全方位から押し寄せる、バーニングラビットとフレイムウルフの無限湧き!
互いの縄張りを無視して異常な大群を成す魔物たちに、王都の精鋭たちもかつてない包囲戦を強いられる緊迫の事態に!?
そんな息つく暇もない怒涛の猛攻の真っ只中で、これは嫌な予感しかしないぞとまさかの大正解を叩き出すパパの奇跡的な天然っぷりと、神崎家の圧倒的なチート連携が今回も大炸裂!?
次回、第190話 え、パパが勇者!? ウサギと狼の無限湧きで大正解しちゃう天然パパ!?
激化する無限湧きの恐怖、大地の底から響く地鳴りの向こうで待ち受ける真の絶望とは!?




