第186話 え、パパが勇者!? 調査終了!? 次なる目的地へ出発だー!?
カルデア村、魔物襲撃から一夜明けた翌朝。
朝日に照らされた村の中は、慌ただしくしていた。
昨日の激しい戦闘による傷跡はあちこちに残っていたものの、危機を乗り越えた村人たちの表情は明るく、瑞々しい活気が戻りつつあった。
村の中央広場。
そこには、出発の準備を整えた調査隊の面々がずらりと集結していた。
ルーク「よし、全員揃っているな」
オスカー「はい、魔術師団側の準備はすべて完了しております」
ノエル「問題ありません」
エドガー「記録用紙および筆記用具、よし。どんな些細な異常も見逃さずに書き留めてみせます」
セシル「予備も十分に用意してあります。エドガーさん、いつでもどうぞ」
ラウル「いよいよあの火山に直接乗り込むわけか。腕が鳴るぜ」
ディオン「……だが、あそこから先は本物の危険地帯だ。周囲の地形も含めて、昨日までの荒野とは環境がまるで違う」
シェリル「ええ。ラウル、絶対に油断は禁物ですよ」
これから向かう聖火山フェルナードの圧倒的な威容を前に、調査隊の空気も自然とピリリと引き締まっていく。
──しかし、そんな緊迫した大人の空気のすぐ横では、別の意味で熱い火花が散っていた。
セリナ「……ちょっと、 言っておくけれど、昨日のあれはたまたまなんだからね!」
あんな「……は? 朝一番から何の話ですか、セリナさん」
セリナ「決まっているでしょ、魔物の討伐数よ!」
あんな「えぇっ!? まだ昨日のこと気にしてたんですか!? 誰も勝負なんてしてないって言ったじゃないですか!」
リュシア「ふん、次は絶対に負けないわ。私の広域魔法の本領は、山岳地帯でこそ発揮されるのですから」
みゆ「……そうですか。それは非常に興味深いデータです」
アルト「リュシアさん、大口を叩くのはそこまでです!みゆ様は、昨日だけで正確に三十二匹を各個撃破されたんですよ!」
リュシア「分かっているから、いちいちその数字を私の前で復唱しないでちょうだい!」
ミレイア「うふふ、私は純粋な支援役ですから、数字にはこだわりませんわ」
ベアトリス「ふふん、 わたくし、いーっぱい倒しましたわ! もう数える暇なんてありませんでしたわ!」
ミレイア「ちょっとベアトリス、いっぱいって何よ。討伐の記録にそんな抽象的な数字は認められないわよ」
ベアトリス「いっぱいは、いっぱいですわ! 沢山、もの凄く沢山ですわ!」
朝から全くブレない、賑やか極まりない女性陣のやり取りであった。
そんな中、広場の向こうから村長のトーマスがゆっくりと近付いてきた。
トーマス「……おお、皆さん。いよいよ出発されるのじゃな」
ルーク「はい、村長。カルデア村の安全が確保された今、我々はこれより異変の元凶と思われる山中へ移動します」
トーマス「皆さん、本当に……本当になんと感謝を伝えてよいか分からんのじゃ」
ルーク「頭を上げてください。我々王国騎士団にとって、領民の安全を守ることは当然の任務です」
トーマス「それでもじゃ、ルーク殿」
老人は、集まった調査隊の面々に向けて、深く深く頭を下げた。
トーマス「昨日の襲撃、もし皆さんが居合わせてくれねば、この村は跡形もなく消え去っていたやもしれんのじゃ。本当に助かったのじゃ」
オスカー「まだ根本的な原因は不明ですが、我々が必ずこの調査を進め、山の異変を解決してみせます」
トーマスは遥か彼方にそびえ立つ聖火山フェルナードへと切なげな目を向けた。
トーマス「……過去に、ここまで山の神が怒ったことは一度もなかったのじゃがな……」
その呟きに、広場の空気が一瞬だけしんと静まり返る。
トーマス「昨日の魔物の群れの暴走は、明らかに異常じゃった」
ラウル「ああ。俺もこの南方に長くいるが、規模の異なる魔物の同時暴走は見たことがない」
トーマス「……思えば、山の様子が本格的におかしくなったのは、数ヶ月前のことじゃった」
オスカー「数ヶ月前、ですか?」
トーマス「うむ。山頂付近からの噴気が急激に増え、村の温泉の温度が跳ね上がり、周囲の魔物たちが落ち着きをなくして麓へと下りてくるようになった……」
エドガー「……なるほど。私たちが王都で掴んでいた異常気象の発生時期と、完全に一致しています」
セシル「やはり、すべての原因はあの火山の中に隠されていると見て間違いありませんね」
トーマスは調査隊の無事を祈るように手を合わせた。
そして、すべての準備が整った。
ルークが前へ歩み出る。
ルーク「──これより、聖火山フェルナードの本格的な調査を開始する!」
オスカー「目的はただ一つ、異常の原因究明、およびその排除だ。ただし、山の魔力濃度は非常に高くなっている。無理は禁物だ」
ラウル「へっ、どれほど危険だろうが、俺たちが行かなきゃ何も終わらねえからな!」
ディオン「ああ。行くぞ」
みゆ「報告。現在も、濃厚な魔力反応の指向性は、完全に火山頂上方向へと続いています。昨日よりも、さらにその波動が強くなっています」
いよいよ始まる決戦の予感に、誰もが表情を硬くした、その瞬間だった。
亮「よーーしっ!」
あんな「……あ、また嫌な予感がする」
緊迫した空気などどこ吹く風、亮は満面の笑みを浮かべながら、元気よく青空に向かって拳を突き上げた。
亮「天気もいいし、絶好の行楽日和だ! みんな、楽しい山登りに出発だーー!」
あんな「パパ!遠足やピクニックの遊びじゃないからね。 命がけの危険な調査だから!」
みゆ「分析。パパの脳内において、危険度に対する認識が著しく欠如しています。何回も言いますが、これは山登りではなく、調査です」
ベアトリス「いざ出発ですわーー!」
もっふる「ピィー♪」
ラウル「相変わらず亮さんは元気だな! こっちまで緊張が吹き飛ぶぜ!」
ルークは肩の力を抜き、苦笑しながらも頼もしそうに感じた。
ルーク「では、行くぞ!」
――そして、
その空のさらに遥か上空。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……
あの家族は、本当に退屈を知りませんね。
お米と温泉を目当てにのんびり観光気分で南国へやって来たはずが、気づけば村の存亡をかけた本格的な防衛戦ですから、本当におかしなものです。
大地の異常な熱気に立ち枯れる畑や、夜も眠れぬ不安に怯える村人たち。
そんな重苦しい空気に包まれたカルデア村にあって、あの勇者は子供たちとかけっこをして無邪気に笑い合い、閉ざされていた彼らの心に真っ直ぐな光を灯していきました。
いざ魔物の大群が津波のように押し寄せ、絶体絶命の危機が訪れても、神崎家のペースは一切乱れませんね。
壁の向こうで娘たちが命がけの死闘(?)を繰り広げている最中に朝風呂を満喫したかと思えば、戦場では若い世代を温かく見守る応援団を結成してしまう無自覚さ。
けれど、その飾らない純粋な想いが、知らぬうちに人々を救い、この世界の平和をも導いていく。
力とは、本来こうあるべきなのかもしれませんね。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
無事に村を救い、いよいよ異変の元凶が眠る灼熱の聖火山フェルナードへと足を踏み入れる調査隊。
その険しい山道の先、暗い岩陰から彼らをじっと見つめる、不穏な二つの影の正体は――。
光が揺れ、風がそっとページを捲る。
その微笑みは、予感に満ちた夜明けのように優しかった。
こうして──
調査隊はカルデア村での滞在と調査を終え、すべての異変の中心と思われる灼熱の聖火山フェルナードへ向けて、確かな一歩を踏み出すことになった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
ついに舞台を灼熱の火山地帯へ!
過去最大の危険な調査が、今始まる──!?
【第二十二章「南国編を終えて】
観光気分で南国へやって来た神崎家一行でしたが、気づけば火山信仰の村を揺るがす前代未聞の緊急事態に直面!
津波のように押し寄せる魔物の大群を規格外のチート火力で見事に撃退しました。
村に束の間の平穏と子供たちの笑顔を取り戻し、物語の舞台はいよいよ異変の元凶が眠る灼熱の聖火山フェルナードへ!
亮「いやぁ、カルデア村の温泉は本当に最高だったなぁ! 次の聖火山はどんな感じなんだろう」
あんな「パパ、これから命がけの危険な火山調査に行くんだからね。読者の皆様、温泉我慢大会から防衛戦までドタバタな私たちでしたが、いつも温かい応援を本当にありがとうございます。これからも一緒に歩んでくれたら嬉しいです」
みゆ「観測データ報告。聖火山フェルナードの深部に向かうにつれ、不穏なフラグの発生確率が現在九十八パーセントまで急上昇しています」
ベアトリス「明日は外伝ですわ!お楽しみにですわ!」
もっふる「ピィー♪」




