第183話 え、パパが勇者!? 村の子供たちと大騒ぎ!? カルデア村の日常が容赦なく平穏を切り裂く警鐘ー!?
白く立ち昇る湯煙の向こう側で、前代未聞の熱い火花を散らした温泉我慢大会。
その戦いが幕を閉じた直後の、温泉施設のロビー。
そこでは、神崎家の女性陣と紅蓮の輪の女性陣、合わせて六人の精鋭(?)が長椅子の上に完全にのびていた。
誰もが額に冷たい手ぬぐいを乗せ、絵に描いたように真っ白に燃え尽きている。
全員、完全にのぼせ上がっていた。
亮「……なんだか、ものすごく珍しい光景を見ている気がするぞ」
あんな「……うう、ちょっと……ちょっとだけ、お互いに意地を張りすぎました……」
みゆ「はぁ……。しかし、我が神崎家チームは最後まで一歩も退きませんでした。事実上の完全勝利です」
ベアトリス「はひ……まだまだ、私は湯船の底で眠れるほど余裕がありましたわ……」
セリナ「な、何言ってるのよ! 私たちのほうが一秒長くいたから、私たちの勝利に決まってるじゃない!」
リュシア「そうよ……。私たちは、あなたたちの体調に合わせてあげて、大人の対応で一緒にあがってあげただけなんだから……っ」
ミレイア「ええ……。ウチのパーティーにとっては、これくらい朝飯前の余裕でしたのよ……っほほほ……」
ガルド「まぁ、そんだけ息も絶え絶えになりながら強がりを言える元気があるなら、全員大丈夫そうだな!」
レオン「はぁ、朝から胃が痛い……。お願いですから、これ以上は不毛な戦いでエネルギーを消費するのは勘弁してください……」
ガルド「よし、亮さん。こいつらが復活するまで、俺たちは一足先に村の様子でも見て回るか」
レオン「そうしましょう。体を動かしている方が、精神衛生上よほど健全です」
亮「おう、そうしよう! お前たち、そこであんまり冷えすぎないようにゆっくり休んでおけよー!」
もっふる「ピィー」
それからしばらくの間、亮、ガルド、レオンともっふるは、南方の風に吹かれながら村の穏やかな小道を歩いた。
亮「それにしても、本当にいい村だなー」
ガルド「ええ、のんびりしていますよね。温かい空気感があります」
レオン「王都の整然とした街並みとは、まったく雰囲気が異なりますね。大自然の中に人間が調和しているというか……」
視界に広がるのは、太陽の光を浴びて鈍く輝く赤茶けた大地。
そして遠くの背景にそびえ立つ、圧倒的な威容の聖火山フェルナード。
王都では逆立ちしても見られない、異世界情緒に満ちた美しい光景がそこには広がっていた。
亮「こういう、時間がゆっくり流れてるような場所もいいよな。俺、結構好きだぞ」
そんな風にしばらく村を散歩していると、後ろの方から小走りの足音が近づいてきた。
あんな「あ、パパ! こんなところにいた!」
みゆ「移動ルートを逆算し、無事に配置を確認できました」
ベアトリス「やっと見つけましたわ!」
亮「お、もう大丈夫なのか?」
セリナ「も、もともと大丈夫だったに決まっているでしょ! ほら、足元だってこんなにシャキッとしてるわよ!」
リュシア「そうですよ。あなたたちの歩調に合わせて、わざわざ少し休憩を入れてあげていただけですから」
ガルド「おいおい、お嬢さん方、いい加減にしとけよ。またのぼせちまうぞ?」
レオン「ああっ、また胃が……」
亮「あはは、何はともあれ、みんな健康が一番だよ!」
ガルド「じゃあ、俺たちはこれから騎士団の方の様子も見てくるから、また後でな」
ガルドとレオンが手を振り、紅蓮の輪の面々とは別れた。
その時だった。
子供A「あっ! いたぞ!」
子供B「わぁ、亮さんだ!」
子供C「本物だ、本物の冒険者だー!」
亮「ん? おお?」
民家の影から、十歳に満たないくらいの数人の村の子供たちが、元気いっぱいに声を上げて駆け寄ってきた。
あんな「え? なに、もうこの村で子供たちの有名人になってるわけ?」
亮「いや、何でだろう? 俺、まだ何もしてないぞ?」
子供A「オレたち知ってるぞ! 村長じいちゃんが凄い人たちが来たって言ってた!」
子供B「そうそう! 悪い魔物をやっつけに来てくれたんだろ?」
子供C「あっ! みてみて、もっふるちゃんだ! 本物のもっふるちゃんだー!」
もっふる「ピィ──!?」
子供たちの目が、らんらんと輝きを放つ。
次の瞬間、もっふるはあっという間に小さな子供たちの包囲網に捕まり、揉みくちゃに囲まれていた。
子供A「うわぁ、ふわふわ! すごいふわふわしてる!」
子供B「ちっちゃくて、すっごくかわいい!」
子供C「おねえちゃん、これ、ちょっとだけ抱っこしてもいい?」
もっふる「ピィ〜♪」
最初は目を丸くして驚いていたもっふるだったが、すぐに嬉しそうに、子供たちの腕の中で小さな羽をパタパタと動かして身を委ね始めた。
あんな「もっふる、もう子供たちに懐いてる……」
みゆ「状況分析。もっふるの環境順位速度、および対人好感度獲得効率が極めて高いです。我が家の外交担当として満点と言えます」
ベアトリス「流石はもっふるですわ! 人を見る目がありますわ!」
亮は、子供たちとじゃれ合うもっふるの姿を見て、父親らしい温かい微笑みを浮かべながら楽しそうに笑った。
亮「ははは! みんな元気だなー!」
子供A「ねぇねぇ、おじさんも強い冒険者なの?」
亮「お、おじさんじゃないぞー! これでもまだ、お兄さんで通るはず……!」
子供B「じゃあおじさん、何歳なの?」
亮「うっ……! その質問は、今の俺にとっては非常に精神的防衛ラインが危険な領域だ!」
あんな「パパ、子供相手に本気で年齢を隠そうとしないでください。聞かれたくない現実から目を背けてるだけよね」
みゆ「観察。パパの表情に、明確な年齢防衛反応を確認しました」
ベアトリス「現実を受け入れるのですわ!」
亮「違うからな!? 俺はまだまだ若い心を持ってるからな!?」
そんな神崎家の大騒ぎを見て、通りがかった周囲の村人たちも、思わずといった様子でふんわりと表情を和らげ、笑っていた。
村人「はっはっは、なんとも賑やかで楽しいご家族ですな」
あんな「あはは、すみません、よく言われるんです」
村人「いやいや、皆さん本当に仲が良い。見ているこちらまで心が温まりますわ」
あんな「……ありがとうございます」
その頃。
もっふるから離れた子供たちは、今度はみゆの周りへと集まっていた。
子供A「ねぇお姉ちゃん、お姉ちゃんってすっごく賢いの?」
みゆ「肯定。私は論理的思考に基づき、あらゆる事象をデータ化して分析する能力に長けています」
子供B「えっ、どのくらい頭がいいの?」
みゆ「かなり。少なくとも、そこにいるパパの脳内データの数百倍は実用的であると自負しています」
子供C「すごーーい! 天才だ!」
みゆ「当然。褒め言葉は、客観的事実として真摯に受け止めます」
あんな「みゆ……そこは少しは謙遜しなよ。全然否定しないじゃん……」
ベアトリス「さすがはみゆお姉さまですわ! 自信に満ちあふれたお姿、神の啓示の如く神聖ですわ!」
ベアトリスの周りにも、キラキラした目を向けた子供たちが集まっていた。
子供A「わぁ、お姉ちゃん、髪の毛がすっごくきれい!」
子供B「かっこいい! すごい!」
ベアトリス「そうですわ、そうですわ!」
子供C「なんだか、お城のお姫様みたい!」
ベアトリス「まぁ……! 良いセンスをしていますわ! もっと、もっと褒めてもいいですわ!」
あんな「ベアトリスも完全に調子に乗ってるよ……」
みゆ「補足。自己肯定感のバロメーターが上限を突破しています。平常運転です」
亮「でも、みんな本当に楽しそうだな」
村人は、そんな神崎家と子供たちが作り出す明るい光景を見つめていた。
村人「……ありがたいことです。実は、最近の村は暗い話ばかりが続いておりましたからな」
亮「……そうなのか?」
亮の問いに、村人は少しだけ声を落とした。
村人「ええ。原因の分からないこの暑さや、狂暴化した魔物の件で、大人たちはみんな明日をも知れぬ不安に駆られております。その空気が伝わるのか、子供たちも怯えて、最近は外で元気に遊ぶ時間が目に見えて減っていたのです」
亮は、目の前で元気いっぱいに声を上げて走り回る子供たちを見つめた。
過酷な大自然の異変。
それに怯える大人たちの背中を見て、小さな胸を痛めていた子供たち。
亮「……そっか」
村人「ですから、こうして子供たちが心の底から笑っている姿を見られただけで、なんだか救われたような、安心した気持ちになります」
亮は、その言葉を受け止め、父親としての温かい眼差しを子供たちに向けた。
亮「うん! やっぱり、子供は元気が一番だからな! どんなに大変な時でも、笑っていなくちゃ損だ!」
子供A「ねぇ、おじさん遊ぼう!」
子供B「あそこの木まで競争だ!」
子供C「おじさん、足遅そうだからなー!」
亮「よーし、受けて立つ! パパの脚力を見せてやるぞー!」
あんな「あ、ちょっとパパ!」
みゆ「予測通りの展開が来ました」
ベアトリス「さすがですわ!」
亮「全力で参加だーー! いくぞーー!」
子供たち「わぁぁー! 待てーー!」
あんな「……はぁ。調査はどこに行っちゃったの」
みゆ「報告。現時点において、パパの脳内から調査の二文字は完全に消滅しました」
ベアトリス「完全に全力の遊びですわ! 私も混ざってきますわ!」
もっふる「ピィー♪」
──まさに、村の広場に子供たちの楽しげな声と笑い声が響き渡り、神崎家がカルデア村に溶け込んだ、その瞬間だった。
カン! カン! カン! カン! カン! ──
突如として、村の境界にある見張り台から、激しく、そして狂ったような鐘の音が響き渡った。
それは、日常の平穏を容赦なく切り裂く、緊急事態を知らせる警鐘の音だった。
こうして──
神崎家は、カルデア村の人々との絆と交流を、確かに深めていった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
大いなる異変の影が刻一刻と迫る火山の村にも、確かに穏やかな日常は存在していた。
しかし、その平穏は、あまりにも唐突に破られることになるのだった。
津波のように押し寄せる、百を超えるバーニングラビットとフレイムウルフの大群。
大気を押し潰すほどの圧倒的な力から逃れるために暴走する魔物たち。
カルデア村の存亡をかけた本格防衛戦の火蓋がついに切って落とされる!
誰もが血相を変える絶体絶命の戦場で、作物を全部踏んづけちゃいそうだけど大丈夫?とどこまでも天然でズレまくった心配をする亮に、あんなの鋭いツッコミが今回も大炸裂。
次回、第184話 え、パパが勇者!? 魔物の大群接近!? カルデア村!絶体絶命で本格防衛戦の火蓋が切られるー!?
山奥に潜む恐るべき上位種の正体とは……迫り来る大群を迎え撃て――!




