第179話 え、パパが勇者!? 山の神がお怒り!? 異質な熱気と山の神の天罰に怯える火山信仰の村の伝承ー!?
カルデア村に到着した、翌朝。
調査隊の統括ルーク、統括補佐のオスカー、王立記録院のエドガーとセシルは、村長トーマスの案内のもと、情報収集を兼ねて村の中の様子を確認して回っていた。
ルーク「トーマス殿、朝早くからすまない。改めて、村の案内をお願いする」
トーマス「構わんじゃ、お願いしますじゃ。皆さんの役に立てるならいくらでも歩きますじゃ」
オスカー「まずは現状の正確な把握だな。何が起きているのか、この目で確かめさせてもらう」
トーマスは深く頷くと、村の中央へと歩き始めた。
まだ朝の早い時間だというのに、すでに強い日差しが降り注ぐ中、村人たちは汗を流しながら畑で作業をしていた。
しかし、遠目から見てもその表情はどこか疲れ切っており、活気があるとは言い難い。
トーマス「……見ての通りじゃ。今年はとにかく、例年以上に暑さが厳しいのじゃ」
ルーク「ここへ来るまでの道中も、異常なほどの熱風と暑さだったな」
オスカー「現地のギルドにいた冒険者たちも、同じことを口にしていた。やはり地域全体の異常か」
トーマス「カルデアは元々、火山の恩恵もあって暑い土地じゃ。じゃが、今年のこの熱気は明らかに異質なものなのじゃ」
オスカーは、村人たちが耕している畑へと鋭い視線を向けた。
オスカー「……作物にも、すでに具体的な影響が出始めているのか」
トーマス「出ておるのじゃ。詳しくは、後で実際に畑の土を見てもらえば一発で分かるのじゃがな……」
ルーク「分かった。まずは順を追って見ていこう」
一行はさらに、村の中心部にあたる広場へと向かう。
やがて、広場の中央に鎮座する、古びた、しかし強固な巨大な石碑の前へと到着した。
その黒っぽい石碑の表面には、大きく翼を広げた不思議な鳥の紋様が深く刻み込まれていた。
セシル「──っ! これは……!」
それを見た瞬間、セシルの両目がらんらんと輝きを放った。
トーマス「これは、この地に古くから伝わる山の神を祀った石碑じゃ」
セシル「山の神! 火山の麓の村に眠る、伝承ですね!」
エドガー「記録開始。カリカリカリ……」
エドガーは一瞬で手帳を開き、いつも通りの凄まじい速度でペンを走らせる。
ルークはそんな二人を見て、苦笑いを浮かべた。
ルーク「セシル、また始まったな。お前のその伝承好きは王都にいる時と変わらないな」
セシル「だってルーク様、伝承ですよ、伝承! こんな貴重な現地独自の火山信仰の遺物が、こんなに綺麗な状態で残っているなんて!」
オスカー「相変わらず、歴史のことになると周りが見えなくなるな、お前は」
トーマス「ほっほ、若いお嬢さんなのに、随分と珍しい趣味をしておるのじゃな」
セシル「趣味だなんてとんでもない! 私はこの世界の歴史や古い伝承が、心の底から大好きなんです!」
エドガー「……非常に助かる。セシルのその旺盛な知識欲と行動力のおかげで、調査の効率が上がっている」
セシル「えっ、エドガーさん! ありがとうございます、そんな風に褒めてもらえるなんて……!」
エドガー「聞き取り調査の担当として、極めて優秀だと思っている」
セシル「……そっちの意味ですか!? 嬉しいですけど、ちょっと複雑です!」
トーマス「はっはっは! 実に賑やかな御一行じゃ」
村全体の重苦しい空気が少しだけ和らいだ。
トーマスは改めて正面の石碑へと向き直った。
トーマス「この村では昔から、あの聖火山フェルナードを神聖な山、すべての命の源として崇めておるのじゃ」
セシル「典型的な、大自然に対する火山信仰ですね」
エドガー「火山信仰。カリカリカリ……」
トーマス「山は、わしらに多くの恵みを与えてくれる。火山灰の豊かな畑も、疲れを癒やす温泉も、すべては山の恩恵じゃ。じゃが──それと同時に、ひとたび怒ればすべてを飲み込む、おそろしい存在でもあるのじゃ」
ルーク「大噴火、か」
トーマス「そうじゃ。だからこそ、村人は何世代にもわたり、畏怖の念を込めて山を敬い、祈りを捧げ続けてきた。そして、昔からひとつの言葉が語り継がれてきたのじゃ」
トーマスは声を潜め、厳かに言葉を紡いだ。
トーマス「──あの山には、偉大なる『神』がおられる、じゃとな」
セシル「山の神……」
エドガー「山の神伝承、と。カリカリカリ……」
トーマス「もちろん、わしを含めて今まで、その姿を直接見た者は誰一人としておらんのじゃ。じゃが、古き祖先の時代から、そう伝えられておるのじゃよ」
ルーク「なるほど。大いなる自然への敬意が、神格化されたわけだな」
しかし、そこでトーマスの表情が、急に深い影を落としたように曇った。
ルークはその一瞬の変化を見逃さなかった。
ルーク「トーマス殿、何か、他に気になることでもあるのか?」
トーマス「……ああ。実はな、最近になって村人たちの間で、山の神がお怒りなのではないかと口にする者が急激に増えておるのじゃ」
オスカー「理由は、先ほど言っていたこの異常な暑さか?」
トーマス「それだけではないのじゃ。ここ数ヶ月、山を中心にして起きる出来事が、何もかも異常じゃ。フレイムウルフが群れをなして人里近くに現れるのもそう。これは……山の神が怒っておられるとしか、わしらには思えんのじゃ」
ルークとオスカーが、静かに視線を交わした。
昨日、村へ来る道中で遭遇した、あの軍隊のように統率されたフレイムウルフの異常行動が、二人の脳裏をよぎる。
オスカー「……単なる自然現象の偶然、とは思えないな」
ルーク「ああ。私もオスカーと同じ意見だ。何らかの明確な要因が、山の周辺で動いている」
トーマス「じゃろう? だからこそ、村人たちは、山の神の天罰が下るのではないかと、夜も眠れぬほどの不安に駆られておるのじゃ」
セシル「古い伝承と、今起きている現実の異変が、人々の心の中で結び付いてしまっているんですね……」
エドガー「……民衆の心理的動揺。調査報告書において、極めて重要な環境変化だ。カリカリカリ……」
トーマス「実を言うと、長くこの地で生きてきたわし自身も、今回の件は山の神が何かに対して怒っているのではないかと考えておるのじゃよ」
ルーク「その原因を突き止め、解決するために我々調査隊がここへ来たのだ」
オスカー「ああ。国を挙げた調査だ。必ず原因を調べよう」
トーマスは救われたような表情を見せ、深く深く頷いた。
トーマス「おお……よろしくお頼み申すじゃ、王都の偉い騎士様方……」
その、緊迫した誓いの瞬間だった。
少し離れた広場の入口から、緊張感をこれっぽっちも持ち合わせていない、声が響き渡った。
亮「おおーーっ! みんな、こんなところにいたのか! っていうか、なんかカッコイイ石碑だなー! ちょっと触ってみてもいい?」
あんな「パパっ!? 何を勝手に神聖なものに触ろうとしてるの、手を離しなさい!」
みゆ「警告。パパが触れることにより、古代の結界が解除、または石碑が物理的に破損するフラグを九十八パーセントの確率で確認。即座に制止してください」
ベアトリス「いけませんわ!村の宝物を壊してはダメですわ!」
亮「えーー、壊さないよー」
もっふる「ピィ、ピィー!」
ルーク「……ふっ、来たか」
オスカー「ふん、本当に賑やかな奴らだな、あの一家は」
トーマス「ほっほっほ、相変わらず元気で仲の良い家族たちじゃな」
こうして──
調査隊は、カルデア村に深く根付く火山信仰と、村人たちを怯えさせる不安の正体を深く知ることになった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
山の神への厚い信仰に包まれた不穏な村で、
調査隊は少しずつ、南方に渦巻く異変の核心へと近づいていくのだった。
一級品の良好な土壌なのに、大地の熱に当てられ作物が全滅危機。
尋常じゃない異常な暑さにより、村人たちの命の綱である農業が脅かされる深刻な事態!
一見バラバラに見える南国の異変が不穏に繋がり始める中、未だかつてない過酷な猛暑に立ち向かう神崎家の笑顔と実力が試される。
次回、第180話 え、パパが勇者!? 一級品の土壌なのに作物が全滅危機!? 火山灰の恵みと異常な暑さー!?
じりじりと焼ける大地で、パパの規格外な執念がまさかの奇跡を呼び起こす――!?




