第177話 え、パパが勇者!? 統率されたフレイムウルフ!? 魔物の異常行動にAランク冒険者も戦慄する前代未聞の緊急事態!?
調査隊が交易都市フレイアスを出発してから、早くも三日が経過していた。
道中の案内を務めるAランク冒険者パーティ流星の先導もあり、一行は大きなトラブルに見舞われることもなく、順調にカルデア村への道を南下し続けていた。
だが──。
亮「……暑い、暑すぎるー! 干からびて干パパになっちゃうよ!」
あんな「パパ、さっきからそればっかり! 出発する時にカラッとしてて結構快適とか言っていたのは一体どこの誰ですか?」
亮「いや、さすがに限界があるだろ! フレイアスを出た時とは比べものにならないくらい暑いぞ。これでは、スローライフ旅行じゃないよー」
あんな「スローライフ旅行?そもそも調査隊に入った時から旅行ではないよ」
みゆ「確認です。スローライフの定義を」
亮「えっ!? 」
ベアトリス「楽しい旅ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
一行がさらに南へ進むにつれて、気温は文字通りうなぎ登りに上がっていた。
容赦なくジリジリと肌を焦がすような強烈な日差し。
大地から立ち上る、乾いた熱風。
ただじっと馬車に乗っているだけでも、じっとりと汗が流れ落ちてくる。
そんな神崎家のいつもの賑やかなやり取りの最中、先頭を進んでいたシェリルが手を挙げた。
シェリル「……皆さん、止まってください。前方に気配があります」
ラウル「遂に来たか」
ディオン「……ああ。だが、少し様子がおかしい。数がおそろしく多いな」
流星の三人が瞬時に戦闘態勢に入る。
その変化を察知し、同行する王国騎士団員たちも即座に警戒態勢へと移行した。
ルーク「報告を!」
カイル「フレイムウルフです! しかも、かなりの大群がこちらへ向かってきています!」
カイルが叫んだその直後、前方の岩陰から、燃え盛るような紅蓮の毛並みを持った獣の影が次々と姿を現した。
フレイムウルフ。
この南方地域に広く生息する、火の属性の凶暴な狼型の魔物だ。
一匹。
二匹。
三匹。
それらは唸り声を上げながら、瞬く間に周囲の岩場を埋め尽くしていく。
だが、その現れ方は明らかに異様だった。
ラウル「……おいおい、ディオン。これ、ちょっと冗談じゃねぇぞ」
ディオン「……ああ」
フレイムウルフの群れは、ただ本能のままに突撃してくるのではなかった。
前方、右側、左側、そしていつの間にか回り込まれた後方。
それぞれの方向に約二十匹ずつ、合計八十匹近くが、まるで高度な訓練を受けた兵士のように整然と配置されていたのだ。
ルーク「……囲まれたか」
カイル「は、はい。完全に退路を断たれ、包囲されています!」
ルーク「野生の魔物が、これほど統率された動きをするとは!」
ラウル「普通じゃねぇ。こんな綺麗な包囲陣形を敷く狼なんて、見たことも聞いたこともねぇぞ」
ルーク「怯むな! 相手が魔物であることに変わりはない! これより迎撃する!」
ルークの鋭い声に、全員の視線が一斉に集まる。
ルーク「前方は流星!」
ラウル「任せろ! 一番槍は俺たちがいただくぜ!」
ルーク「右側は神崎家!」
亮「よし、任せておけ!」
あんな「了解です!」
みゆ「問題ありません」
ベアトリス「お任せくださいですわ!」
もっふる「ピィー!」
ルーク「左側は紅蓮の輪!」
ガルド「おう、行くぞレオン!」
レオン「了解です!」
セリナ「ふん、当然よ! 私たちの実力を見せてあげるわ!」
リュシア「任せなさい。王都のBランクの腕前、焼き付けてあげるわ」
ミレイア「うふふ、可愛いワンちゃんたち、大人しくお眠りなさい♪」
ルーク「騎士団、および魔術師団は後方の警戒にあたれ!」
オスカー「了解した」
ノエル「任せてください、ルーク様!」
アルト「やります! 後ろは一歩も通しません!」
ルーク「各員──行動開始!」
次の瞬間、ルークの号令とともに、調査隊が一斉に連動して動き出した。
そして、数分後。
周囲のざわめきが一気に静まり返り、戦闘はあっけなく幕を閉じていた。
亮「ふぅー、終わった終わったー!」
あんな「さすが、これだけのメンバーだよね」
みゆ「データ照合。戦闘時間、当初の予測数値を大幅に短縮。効率的な駆除に成功しました」
ベアトリス「まったく敵が相手になりませんでしたわ!」
神崎家が担当した右側は、全員無傷。
紅蓮の輪の面々も危なげなく敵を撃破し、そして前方を担当した流星の三人の実力もまた、Aランクの名に恥じぬ圧倒的なものだった。
ラウル「よし、全部きれいに片付いたな!」
だが、窮地を脱したにもかかわらず、その場にいた誰もが拭いきれない違和感を覚えていた。
ラウル「……いや、待て。やっぱりおかしいぞ」
ディオン「……ああ。胸糞悪い不気味さだな」
シェリル「こんな奇妙な戦い方をするフレイムウルフなんて、私たちは初めて見ました」
ルーク「何がそこまでおかしいのだ? 詳しく教えてくれ」
ルークに問われ、ラウルは地面に倒れたフレイムウルフの死骸を見下ろしながら神妙な面持ちで言った。
ラウル「元々、フレイムウルフって魔物は数匹から十数匹で群れを作る習性がある。それは普通だ」
ディオン「だが、絶対にここまで統率されることはない。個々の本能で動くからな」
シェリル「ええ。さっきの動きは、こちらの退路を塞ぐための完全な包囲でした。獲物を追い詰める狩りの動きではなく、まるで軍隊の陣形です」
ルーク「確かに……。言われてみれば、まるでこちらの配置を最初から見抜いていたかのような動きだ」
オスカー「まるで、魔物の群れを陰から操る『指揮官』でもいたような動きだったな」
カイル「ええ、私も戦っていて同じように感じました。不自然なほど統率が取れすぎています」
ラウル「少なくとも、俺たちがこの南方で活動してきた中で、こんな異常な事例は一度も見たことがない」
その場にいた南方経験者である流星の全員が、口を揃えて同じ意見を述べた。
緊迫した空気が流れる中、セシルが問いかける。
セシル「あの、エドガーさん……王宮の古い文献や記録には、こういった魔物の過去の事例は残っていないのですか?」
エドガー「ない」
エドガーの返答は即答だった。 彼はすでにいつも通り手帳を広げ、猛烈な勢いでペンを動かしている。
エドガー「気温上昇に続き、フレイムウルフ約八十匹の異常な統率行動を確認。包囲陣形を形成しての組織的襲撃。王宮の過去記録、およびギルドの歴史データとの一致なし。カリカリカリ……」
セシル「おお……相変わらず書くのが早いです」
エドガー「極めて重要な記録だからな。これこそが調査隊の任務における本質だ」
セシル「やっとまともな、調査隊らしい素晴らしい記録ができましたね」
エドガー「何を言っているんだ、セシル」
セシル「え?」
エドガー「今までの記録も全て、国宝級に貴重なデータだ。特に、神崎亮の不可解かつ規格外な謎の行動も含めて、な」
エドガーのペン先が、じっと亮の方へ向けられる。
あんな「……エドガーさん、それ、絶対に記録しなくていいですからね」
みゆ「全面同意。パパの不可解な行動データはすべて破棄することを推奨します」
亮「ええーっ!? なんでだよー! 俺、今回は普通に頑張って戦ってただけなのにー!」
ラウル「いいじゃねぇか亮さん! 英雄の記録だぜ!」
ベアトリス「さすが英雄ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
重苦しくなりかけた周囲の空気は、一瞬でいつもの賑やかな明るさへと引き戻された。
だが、そんな笑い声の余韻の中──。
ルークだけは一人、遥か遠くにそびえ立つ聖火山フェルナードの、薄煙を上げる山頂をじっと見つめていた。
ルーク「……やはり、あの山の周辺で、我々の想像を超える何かが起きているな」
その言葉を否定する者は、この場に誰一人としていなかった。
こうして──
調査隊は、南方での本格的な調査を前に、初めて異常な魔物の集団行動を確認した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
カルデア村への道中で見つかった小さな異変は、やがて灼熱の大地全体を揺るがす大きな異常へと繋がっていくのだった。
天を衝く巨大な聖火山を背に、ついにたどり着いたカルデア村!
だが、これまでにない不気味な山の鳴動と村人たちの暗い表情に、王都の精鋭たちも息を呑む緊迫の事態に。
そんな張り詰めた重苦しい空気を前に、ただ一人、まずはこの土地の美味しい飯だ!とお腹を鳴らすパパの緊張感ゼロなダメさが今回も大炸裂。
次回、第178話 え、パパが勇者!? 天を衝く巨大な聖火山フェルナード!村人たちの暗い表情に調査隊も息を呑む緊迫のカルデア村!?
大地の異変が静かに首をもたげる中、パパの食欲がまさかの奇跡を呼び起こす――!?




