第176話 え、パパが勇者!? 南方は想像以上の暑さ!? 調査隊、灼熱街道を進むー!?
皆様、お待たせいたしました!
今回から始まる新章の舞台は、太陽が照りつける灼熱の「南国編」です!
美味しいお米があるという噂を信じ、我が家のパパの脳内は出発前から完全に私欲百パーセントの観光モード通常運転に切り替わっています。
もっふると一緒にのんびり朝風呂を満喫する気満々で、お気楽なスローライフ旅行を楽しもうとしていたのですが……。
周囲がどれほど緊迫した大バトルの空気に包まれようとも、神崎家のペースは一切乱れません。
相変わらずのやらかしぶりを発揮してくれます。
はたして、聖火山に隠された異変の真相を突き止めることができるのか?
それでは、第176話、開幕です。
どうぞ最後までお楽しみください!
交易都市フレイアスを出発した調査隊は、流星を先導に、目的地であるカルデア村へ向けて順調に南下を続けていた。
街道の進行はきわめてスムーズだった。
空はどこまでも青い。
雲ひとつない快晴の空の下、馬車に揺られながら亮が呑気に声を上げる。
亮「いやぁ、南の方には美味い米と良い温泉があるって聞いてるからなぁ! 楽しみだなぁ、温泉だー、米だー!」
あんな「パパ、何度も言ってるけど遊びに行くわけではありません! 調査です、調査!」
みゆ「お姉ちゃん、無駄です。パパの思考回路はすでに観光モードの通常運転に切り替わっています」
ベアトリス「わたくしも温泉はとっても楽しみですわ!」
もっふる「ピィー♪」
ラウル「おい、みんな! この辺りから少しずつ周りの景色が変わってくるぞ」
亮「お? 本当だ」
亮が周囲を見回すと、それまで続いていた緑豊かな平原は徐々に姿を消し、ゴツゴツとした粗い岩場が目立つようになっていた。
ディオン「火山地帯特有の地質だな。この赤みは鉄分を多く含んでいる証拠だ」
みゆ「観察。確かにこれまでのルートとは土壌の成分が明らかに違います。熱量の影響も感じられますね」
オスカー「大気中の魔力の流れも緩やかに変化しているな。火の属性が濃くなっている」
ノエル「そうね、少し空気も乾いてきているわ。肌がピリピリする感じがする」
あんな「それにしても、本当に暑いね……」
みゆ「南国。言葉通り、とにかく暑いです。衣服の選択を誤ったかもしれません」
亮「そうかな? 俺はカラッとしてて結構快適だけどなぁ!」
あんな「パパ、普通にめちゃくちゃ暑いです! 汗が止まりません!」
みゆ「同意。お姉ちゃんの言う通り、普通に暑いです。熱中症の危険レベルが上がっています」
ラウル「ははは! 亮さんとは気が合うなぁ! 俺もこのくらいの暑さなら全然平気だぜ!」
シェリル「私は正直、この暑さは苦手です……」
ディオン「……俺も、決して得意ではない」
ラウル「え?」
亮「え? ディオンさんたちって、この南方育ちだから暑いのが好きなんだと思ってたよ」
ディオン「……違う。南方育ちだからといって、全員が暑さを愛していると思うな」
ラウル「ただ、毎日この気候だから体が慣れてるだけだぞ」
あんな「あ、やっぱりそれですよね」
みゆ「納得。環境に適応して慣れていることと、その環境が好きであることは、データ上でも全く別の問題です」
ベアトリス「なるほどですわ! 大変勉強になりますわ!」
もっふる「ピィー♪」
そんなやり取りに、調査隊の面々からフッと苦笑が漏れる。
拠点にしていたフレイアスも十分暖かい地域だったが、やはり南へ進むほど、その暑さは明らかに強くなっている。
ラウル「ただ、今年は確かに暑いな」
シェリル「ええ。例年より気温が高い気がしますね」
ディオン「……ああ。俺もその点には強い違和感を覚えている」
ルーク「現地の者から見ても、現在のこの気温は異常なのか?」
ラウル「ああ」
先ほどまで笑っていたラウルの表情が、少しだけ真面目なプロのそれに変わる。
ラウル「この時期は確かに暑いが、ここまでの暑さにまではならないはずだ」
ディオン「俺も同じだ。何かしらの原因がなければ、ここまで急激な変化は起きない」
シェリル「最近になって急に気温が上がったという話も、ギルドで聞いています」
セシル「やはり、聖火山周辺で起きているという異常現象の影響が、ここまで出ている可能性があるんですね」
そんな深刻な推測が飛び交う中、その隣でエドガーは無言のまま手帳へ筆を走らせていた。
エドガー「カリカリカリ……よし。気温上昇。現地Aランク冒険者も明確に異常を認識。その旨を記録」
相変わらずの徹底ぶりである。
亮「それにしても便利だな、その手帳。何でも書いちゃうんだね」
エドガー「後で必ず役立つ。職務とはそういうものだ」
セシル「エドガーさんの記録は本当に凄いんですよ。後から見直すと完璧な資料になっていますから」
そんな会話を交わしながら、一行は着実に街道を進む。
ラウル「……亮さん。あれが南方の人々が崇める、聖火山フェルナードだ」
亮「おおー! すごい迫力だな!」
まだ遠くに見える聖火山フェルナード。
ベアトリス「大きいですわ……」
みゆ「分析。この視認距離から逆算して推定しても、相当な規模の山塊です。活発なエネルギーを感知します」
セシル「あそこが火山信仰の中心地ですからね。カルデア村も、あの山の恩恵を受けながら古くから暮らしているそうです」
ルーク「今回の調査対象も、まさにその周辺地域だな。よし、今日中に出来るだけ距離を稼いでおきたい」
ルーク「みんな、少し歩調を急ぐぞ!」
一同「了解!」
ルークの号令を受け、調査隊はカルデア村を目指して歩みを早めた。
だが、そんな彼らの様子を遠く離れた切り立った岩場の陰から、じっと見つめる二つの影があった。
距離は遠く、その顔までは判別できない。
二つの影は、ただ静かに、調査隊の馬車が向かっていく方向を見つめ続けていた。
やがて──。
二人の姿は、音もなく溶けるように消えていく。
調査隊の誰一人として、その視線に気付くことはなかった。
こうして──
南の村カルデアへ向かう調査隊の旅は順調に進んでいた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
灼熱の大地の異変へ向け、一行は南へ歩みを進めるのだった。
カルデア村を目指し南下を続ける調査隊の前に、かつてない規模の魔物の大群が襲来!
本来群れないはずのフレイムウルフが――
なんと八十匹以上。
しかも、まるで軍隊のように高度に統率された包囲陣形。
歴戦のAランク冒険者でさえ
「見たことも聞いたこともねぇ……」
と戦慄する異常事態の中、
ただ一人、
「干からびて干パパになっちゃうよー!!」
と猛暑に絶叫するパパのダメさが今回も大炸裂。
次回、第177話 え、パパが勇者!? 統率されたフレイムウルフ!? 魔物の異常行動にAランク冒険者も戦慄する前代未聞の緊急事態!?
灼熱の大地を揺るがす未知の脅威を前に、神崎家の笑顔と実力が試される――!




