第175話 え、パパが勇者!? 国家依頼級の凄腕Aランクパーティ《流星》と合流早々にリーダーの暴走でパパの存在感が跡形もなく完全消滅する大混乱!?
交易都市フレイアス。
調査隊が次なる目的地への出発準備を進める中、宿のロビーにルークが全員を集めていた。
ルーク「予定通り、本日から火山の麓にあるカルデア村へ向けて移動を開始する。その前に、ギルド長から手配してもらった現地案内役と合流するぞ。皆、忘れ物はないな?」
亮「いよいよ案内役の人と顔合わせか! 確か、名前は流星だっけ!」
カイル「ええ、そうです。南方での活動実績が最も高い実力派ですよ」
ベアトリス「どのような強者なのか、とっても楽しみですわ!」
セシル「国から正式に依頼が出されるほどのAランク冒険者ですからね! きっと規律正しくて凄く格好いい人たちですよ」
セリナ「ふん、Aランクがどれほどの腕前か、この目で確かめてあげるわ 」
リュシア「そうね。王都と田舎の決定的な差を、身をもって見せつけてあげますよ 」
ミレイア「うふふ、本当に楽しみですわね」
周囲がそんな期待に胸を膨らませる中、その隣でエドガーはすでに手帳を開いて執筆を開始している。
エドガー「カリカリカリ……よし、合流直前。隊員の精神状態、全員きわめて良好。特記すべき異常なし」
セシル「エドガーさん、相変わらず本当に真面目ですね」
エドガー「当然だ。これが私の仕事だからな」
そんな毎度お馴染みの賑やかな掛け合いをしながら、一行は馬車を従えてフレイアス冒険者ギルドの前へと向かった。
突き抜けるような青空の下、ギルドの立派な門の前には、明らかに周囲の冒険者とは一線を画すオーラを放つ三人の男女が佇んでいた。
一人は、身体ほどもある大きな盾と大剣を背負った、体格の良い男。
一人は、しなやかな長弓を肩にかけた、女性。
そしてもう一人は、磨き抜かれた一本の槍を携えた、物静かそうな男性。
ルーク「すまない、待たせたな」
ルークが声をかけると、大きな盾を背負った男が、豪快に手を振った。
ラウル「おお、気にするな! 俺たちも今着いたばかりだ!」
ルーク「では、みんなに紹介しよう。今回、道案内を引き受けてくれたAランク冒険者パーティ流星の方々だ」
ラウル「俺がリーダーのラウルだ! よろしくな!」
シェリル「弓使いのシェリルです。よろしくお願いしますね」
ディオン「槍使いのディオンだ。よろしく」
ルーク「そして、こちらが王都から同行している──」
亮「俺は神崎亮で──」
ラウル「おっ!? そっちの三人、なかなかの美人揃いじゃねぇか!」
突然、ラウルの視線が横へ向く。
そこには紅蓮の輪の女性三人。
セリナ「……ふ、ふん。分かってるじゃない(当然よ。Aランクならこのくらい見抜けて当然だわ)」
リュシア「ラウルさん、見る目があるわね」
ミレイア「うふふ、もっと言ってもいいんですよ」
ラウル「いやぁ、朝からいきなり目の保養だぜ!」
紅蓮の輪の三人は、珍しく誇らしげに胸を張った。
――しかし。
ラウルの視線が、隣に並ぶ神崎家の三姉妹へ移った瞬間。
ラウル「おおおっ!? そっちのお嬢ちゃん、めちゃくちゃ美人だな! 王都の女の子はやっぱりレベルが高いぜ!」
あんな「えっ!? わ、私ですか!?」
亮「え?」
ラウル「おいおい、そっちのお嬢ちゃんも目がクリッとしてて凄く可愛いな!」
みゆ「一礼。お褒めの言葉、ありがとうございます。データとして記憶しておきます」
亮「いや、あの、俺まだ自己紹介の途中──」
ラウル「うおっ! こっちのお嬢ちゃんも凛々しくて最高に綺麗だな!」
ベアトリス「ふふん、当然ですわ! 見る目がありますわ!」
ラウル「ハハハ、いいねぇ! みんな最高に眩しいぜ!」
亮「おっ、ラウルさん、 見る目がありますねー。そうなんですよ。世界一の美人三姉妹で、あんな、みゆ、ベアトリスです」
あんな「またでた、親バカ。すみません、長女のあんなです」
みゆ「いつもの定番です。次女のみゆです」
ベアトリス「光栄ですわ。三女のベアトリスですわ」
ラウル「美人三姉妹かよー。最高だな!」
セリナ「……は?」
リュシア「ちょっと待ちなさいよ」
ミレイア「今の取り消しなさい」
ガルド「お、おい落ち着けって!」
レオン「胃が……胃が痛い……」
先ほどまで誇らしげだった紅蓮の輪の三人は、一瞬でその表情を失い、
「なんであっちの方が大絶賛されてるのよ」
と言わんばかりの顔で固まっていた。
あまりの賑やかさに、ディオンが、深いため息をつきながらラウルの肩をガシッと掴んだ。
ディオン「……おい、ラウル」
ラウル「あ? なんだよディオン、今取り込み中だぞ」
ディオン「少しは落ち着け」
シェリル「相変わらずの開始十秒ですね、リーダー」
ディオン「ああ。今日はいつもより一段と早いな」
あんな「……パパの自己紹介が、跡形もなく かき消されました」
みゆ「肯定。綺麗さっぱり消えましたね。完全にラウルさんのペースに上書きされました」
ベアトリス「無残にも消えましたわ 」
亮「俺の存在感はー!」
そんな亮の嘆きを聞いて、ラウルは後頭部を掻きながら豪快に笑い飛ばした。
ラウル「ガハハハ! 悪い悪い、すまねぇな! でもよ、目の前に美人が並んでたら、男として真っ先に褒めるのが礼儀だろ?」
ディオン「普通はまず相手の自己紹介を最後まで聞くのが礼儀だ」
シェリル「本当にすみません。私たちのリーダー、毎回こうなんです……」
そんなやり取りを見ていた紅蓮の輪の女性たちが、おもしろくなさそうに顔をしかめる。
セリナ「あのような小娘どこがいいのかしら」
リュシア「本当にね。まだ大人の魅力も分からないなんて、大したことないわ」
ミレイア「あらあら。若さにしか目がいかないなんて、随分と単純な方ですわね」
ガルド「おいおいよせよ。相手はAランク冒険者なんだぞ! 」
レオン「あぁ、もう胃が痛い。頼むから余計なトラブルは起こさないでくれよ」
ガルド「……なぁレオン。あのラウルって奴の空気感、なんか神崎家に近くないか?」
レオン「ああ……嫌な予感しかしないよ。亮さんだけでも規格外なのに、同じタイプのAランク冒険者が混ざったらどうなるんだよ……」
ガルド「触らぬ神に祟りなし、だな」
男二人のその予感は、この後、百分の一の狂いもなく的中することになる。
亮「いやぁ、ラウルさんって本当に面白い人だな! なんだか親近感が湧くなぁ!」
ラウル「おっ! 亮さん、あんた分かるか!」
亮「分かる分かる! 初対面とは思えないくらいだよ!」
ラウル「ガハハ! 気が合うな、俺たち!」
亮「な、気が合うよな!」
あんな「あぁ、同じタイプの人間が増えました……」
みゆ「分析。パパと同系統の天然エネルギーを持つ個体を確認。空間の賑やかさが従来の数値より五倍に膨れ上がっています。このままでは、会話の制御不能領域に突入する可能性があります 」
ベアトリス「お仲間が増えましたわ!」
ルークは額を押さえながら、小さくため息をついた。
その隣にいるカイルも、まったく同じように苦笑いを浮かべている。
ルーク「……コホン。ラウル、挨拶はそのくらいにしておこう」
ラウル「おう、そうだったな!」
ルーク「これから先のカルデア村までの道中、案内を頼むぞ」
ラウル「ああ、任せておけ!」
そこで初めて、ラウルの大雑把だった表情が、引き締まったプロのそれに切り替わった。
ラウル「冗談抜きで、このフレイアスから先は、南方の中でもケタ違いに暑くなる。ただ歩くだけでも体力がゴリゴリ削られるぞ」
ディオン「それに比例して、狂暴化した火属性の魔物の出現頻度も跳ね上がる。聖火山フェルナードに近づけば近づくほど、危険度はウナギ登りだ」
シェリル「街道から一歩外れれば、安全に水や食料を補給できる場所も限られますからね」
ラウル「だから、少しでも異変を感じたら絶対に無理はするな。いいな」
先ほどまでのチャラチャラした口調とは打って変わった、重みのある真剣な声。
それは、数々の死線をくぐり抜けてきた、本物のAランク冒険者としての経験と実力を物語っていた。
オスカー「……なるほど。さすがはAランク、実に頼もしいな」
カイル「ええ、本当に心強い限りです。よろしくお願いします」
ルークは改めて満足そうに頷くと、一同を見回した。
ルーク「よし、これよりカルデア村へ向けて出発する! 」
全員「了解!」
いよいよ始まる未知の旅路に、亮がまた元気に拳を突き上げた。
亮「よし、いよいよ本格的な旅の始まりだー!」
あんな「パパ、何度も言っていますが、旅ではなくて調査です!」
みゆ「同じく。調査です。遊びに行くわけではありません」
ベアトリス「神聖な調査ですわ!」
もっふる「ピィー♪」
――そして、その空のさらに遥か。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ふふ……」
天上から見守るその瞳には、灼熱の太陽が照りつける南国の大地にあっても、相変わらずのマイペースさで周囲を巻き込み、温かな光を振りまいているあの家族の姿が映っていました。
王都の重鎮たちが世界の危機に大混乱する中でも、あの勇者の脳内を占めるのは美味しいご飯のことばかり。
じりじりと照りつける過酷な猛暑さえもカラッと楽しげに笑い飛ばし、新しく合流した賑やかな仲間たちをも、その温かい空気で包み込んでしまうのですから、本当におかしなものです。
使命感ではなく、純粋な気持ちで……ただ幸せを分かち合い歩む彼らの姿。
最強の力を持ちながら、誰かを打ち負かすことよりも家族で囲む食卓を愛でるその純粋な想いこそが、世界で最も強く、そして優しい魔法なのかもしれません。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
光が揺れ、風がそっと雲を押し流していきます。
その微笑みは、どこまでも優しかった。
こうして──
調査隊は、南方を知り尽くした心強いAランク冒険者パーティ・流星と無事に合流を果たした。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
新たな仲間を加えた南方の旅は、じりじりと熱を帯びながら、さらに賑やかさを増して進んでいくのだった。
【第二十一章「南征編」を終えて】
王都を発ち、じりじりと照りつける太陽の下を進んできた調査隊。
南方最大級の交易都市フレイアスで不穏な異変の足音を聞きつつも、新たに合流した凄腕Aランクパーティ《流星》と共に、一行は未知なるカルデア村へと歩みを進めます。
世界の危機を置き去りにするパパの米欲が、灼熱の南国でさらなる勘違いの嵐を巻き起こす予感を孕みながら、物語は地熱高まる聖火山の麓へ――
亮「いやぁ、ラウルさんとは初めて会った気がしないくらい気が合うなぁ! これだけ頼もしい仲間が増えたんだ、次の村ではきっと幻の南国米が山ほど手に入るに違いないよ! 読者のみんなが★やブックマークで応援してくれたら、俺の勇者ポイントも米欲も一気に大爆発する気がするんだよね!」
あんな「ちょっとパパ、いい加減に旅じゃなくて国家任務の『調査』だって頭に叩き込んでよね! ラウルさんもパパと同類で先が思いやられるけど……読者の皆様、いつも温かい応援を本当にありがとうございます。ツッコミどころだらけの私たちですが、これからも一緒に歩んでくれたら嬉しいです」
みゆ「分析。新メンバー加入により空間の天然エネルギーが五倍に跳ね上がっており、会話の制御不能領域への突入確率は現在九十八パーセントです。皆様の評価とブックマーク登録は、パパの暴走を未然に防ぐ『やらかし予防データ』として非常に有効ですので、ぜひクリックをお願いします」
ベアトリス「お姉さまたちに続いて、わたくしも全力でパパをサポートいたしますわ! 南方の美味しい名物料理のためにも、皆様の聖なるお力(★)をよろしくお願いいたしますわ!」
もっふる「ピィー♪」




