第174話 え、パパが勇者!? 南方ギルドで判明した未曾有の異常事態と歴戦のギルド長が放つ不穏すぎる大警告に !?
南方最大級の交易都市フレイアスは、朝から多くの人々で賑わっていた。
行き交う馬車の音や商人たちの威勢の良い声が、宿の窓越しにまで心地よく響いてくる。
その宿屋の一階にある食堂。
一行は、テーブルを囲んで賑やかに朝食を取っていた。
食堂のおばさん「はいよ! 焼きたてのパンと南方の果物、たくさんあるからね。長旅で疲れてるんだろうから、いっぱい食べておくれ!」
亮「うわぁ、ありがとうございます! おばさん、このスープもすごくスパイスが効いててうまい!」
あんな「パパは本当に朝から元気だね」
みゆ「補足。いつも通りです。パパの消化器官の頑丈さは、データ的にも異常値を示しています」
ベアトリス「この少し辛みのある味付け、とっても美味しいですわ!」
もっふる「ピィー♪」
少し遅れて、ルークとオスカーも席についた。
昨夜のうちに、領主への到着報告と正式な手続きは無事に終わらせている。
ルーク「皆、良い食べっぷりだな。全員揃っているな」
オスカー「領主からは今回の調査に関する全面協力を取り付けた」
カイル「必要な資料もすべて提供していただいています」
ノエル「今のところはすごく順調ですね」
ルーク「ああ。だが、ここからが本番だ」
ルークは全員を見回した。
ルーク「本日はまず、この街の冒険者ギルドへ向かう。現地で実際に集められている、生の情報や魔物の動向を確認する」
交易都市の冒険者ギルド、その建物自体は非常に大きかった。
ギルドの門からは、王都に負けないほどの数の屈強な冒険者たちが出入りしている。
亮「へぇー、大きいなー! 王都のギルドともまた雰囲気が違って、なんだか圧倒されるね」
ベアトリス「ええ、人も多くて熱気が凄いですわ!」
セシル「さすが南方最大級の交易都市ですね。あ、あそこにいる人たちの装備、見たことない素材ですよ」
セシルが物珍しそうに周囲を見渡していると、その隣でエドガーはすでに手帳を開き、猛烈な勢いでペンを走らせていた。
エドガー「カリカリカリ……よし、記録中だ」
セシル「ちょっとエドガーさん、まだギルドの入り口をくぐっただけで、何も事件は起きてませんよ」
エドガー「否、すでに起きている」
セシル「……何がですか?」
エドガー「亮さんが今、入り口を見て『大きい』と言った。これは極めて重要な精神データだ」
セシル「それ、わざわざ記録する必要あります?」
エドガー「ある。亮さんの何気ない一言には、世界の真理が隠されている可能性がある」
セシル「ないと思います……」
そんな毎度お馴染みのやり取りをしながら、一行はギルドの職員に案内され、奥にある会議室へと通された。
そこで待っていたのは、白髪交じりの短髪に、歴戦の傷跡が刻まれた強面の一人の男性だった。
フレイアス冒険者ギルド・ギルド長、ロイド・バレット。
ロイド「王都からの特級調査隊だな。遠路はるばるご苦労だった」
ルーク「出迎えていただき感謝する、ロイド殿。今回の調査への協力、よろしく頼む」
ロイド「ああ、ガリオスの野郎から事前に話は聞いている。あいつが太鼓判を押すメンバーだ、歓迎するよ」
ロイドはそう言って笑うと、すぐに机の上へ何枚もの古い地図と最新の報告書を広げた。
ロイド「さっそくだが本題に入ろう。現状、南方で起きている事象についてだ」
ロイドの言葉に、神崎家も含めた全員の表情がスッと引き締まる。
ロイド「聖火山フェルナード方面の魔物討伐依頼が、ここ数か月で急増している。それも異常なペースだ」
オスカー「……やはり、火属性の魔物か」
ロイド「ああ」
ロイドは地図の特定の地域を大きな指でトントンと叩いた。
ロイド「ファイアスライム、バーニングラビット、フレイムウルフ、フレイムアント。どれも普段は山の奥深くにいるはずの火属性魔物たちが、縄張りを広げて狂暴化し、活動が活発化している」
ノエル「本当に火属性ばかりね……。まるで、山からのエネルギーを浴びて興奮しているみたい」
ロイド「それだけじゃない。これが一番厄介だ」
ロイドはさらに、地図のさらに南の一点を指差した。
ロイド「火山の麓にあるカルデア村周辺で、明らかな地熱の上昇が確認されている。温泉が沸騰したり、作物が枯れたりな」
セシル「カルデア……」
エドガー「カリカリカリ……カルデア周辺の熱量変動、記述完了」
エドガーの凄まじい筆記速度に、ロイドが一瞬目を丸くする。
ロイド「……ゴホン。幸い、今のところ住民に大きな被害は出ていない。だが、例年のデー
タと比べれば、これは明らかに異常な事態だ」
カイル「現地住民の反応はどうですか? パニックなどは?」
ロイド「そこまではいってないが、不気味な不安が広がっているな。特に、あそこは火山信仰の強い地域だからな。山が怒っていると怯える奴も多い」
オスカー「火山信仰! 独自の風習や、古くから伝わる伝承があるかもしれないな」
民俗学的な興味で目を輝かせると、すかさずエドガーのペンが動く。
エドガー「オスカー氏の反応、確認。および火山信仰へのアプローチ、記録」
セシル「エドガー! その発言まで書くんですか」
エドガー「当然だ。調査隊の精神状態の記録も私の任務だ」
そんな様子を見て、ロイドは思わずハハハと苦笑した。
ロイド「なるほどな。王都の精鋭と聞いてどんな堅物が来るかと思えば、なかなか面白い連中じゃないか」
ルーク「……否定はしないよ。賑やかなのは良いことだ」
ロイド「ははは! 全くだな!」
ロイドの豪快な笑い声に、会議室を包んでいた重苦しい空気が少しだけ和らいだ。
だが、ロイドの顔はすぐに真剣なギルド長の顔へと戻った。
ロイド「さて、お前たちの現地案内役についてだが、予定通り手配してある」
ルーク「Aランク冒険者パーティ、流星だな」
ロイド「ああ。合流は明日だ。すでに本人たちには連絡を済ませてある」
オスカー「迅速な手配、助かる」
ロイド「何、あいつらは南方での活動実績が随一でな。このあたりの過酷な地理や魔物の生態なら、あいつらが一番詳しい。きっと役に立つはずだ」
ルーク「それは頼もしいな。期待している」
そこでロイドは一度言葉を切り、深く息を吐くと、ルークたちの目を真っ直ぐに見つめた。
ロイド「……最後に、一つだけ私的な忠告を言わせてくれ」
ルーク「何だ?」
ロイド「俺も長くこの土地でギルド長をやっている。これまでにも小規模な火山の活性化は何度も見てきた」
ロイドの低い声が、静かに会議室に響く。
ロイド「だが、今回の異変は……どうにも、嫌な感じがするんだ。ただの自然現象とは思えんような、胸のざわつきがある」
会議室が、しんと静まり返った。
ロイド「何事もなければそれでいい。俺の老いぼれの勘違いなら笑い飛ばしてくれ。だが、くれぐれも用心だけはしてくれよ」
オスカー「ああ。肝に銘じておこう」
ルーク「承知した。貴重な助言、感謝する」
こうして必要な情報共有を終え、調査隊の一行はギルドの建物を後にした。
街道を宿へと向かって歩きながら、亮が頭を掻きながら息を吐く。
亮「ふぅー、なんだか難しい話だったな。火属性の魔物とか、地熱とか」
あんな「パパ、ちゃんと話を聞いていました?」
亮「聞いてたよ! もちろん真剣にね!」
みゆ「疑惑。パパの脳内思考データを予測。カルデア村の地熱上昇という言葉から『天然の蒸し器でお米が美味しく炊けるのではないか』と考えていた確率、九十五パーセントです」
ベアトリス「わたくしは信じていますわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「本当だって! 俺だってちゃんと、みんなの心配をしてるんだから!」
そんな神崎家のやり取りを後ろから見守りながら、ルークは優しく微笑んだ。
ルーク「ははは。さて、明日からは本格的な調査の開始だ」
オスカー「ああ。まずは案内役の流星と合流する」
カイル「その後、彼らと共にカルデア村へ向かいましょう。いよいよ本格的な実地調査ですね」
じりじりと照りつける南方の太陽の下、調査隊の任務は、いよいよ次の段階へ進もうとしていた。
こうして──
調査隊は交易都市フレイアスでの確かな情報収集を終えた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
一行の前には、南方を知り尽くした実力派のAランク冒険者パーティ《流星》との、運命の出会いが待ち受けているのだった。
国から正式依頼を受けるほどの凄腕Aランクパーティ流星とついに合流。
誰もがその圧倒的なオーラに息をのむ中、なんと合流早々にリーダーのラウルがまさかの大暴走!?
せっかくの自己紹介を綺麗さっぱり上書きされ、パパの存在感が文字通りふっと溶けてなくなる大混乱の事態に。
おまけにパパと同系統の天然エネルギーの出現で、空間の賑やかさは従来の五倍に跳ね上がり――!?
次回、第175話 え、パパが勇者!? 国家依頼級の凄腕Aランクパーティ《流星》と合流早々にリーダーの暴走でパパの存在感が跡形もなく完全消滅する大混乱!?
灼熱の太陽が照りつける南国の大地で、予測不能な凸凹コンビが爆誕する――!




