第171話 え、パパが勇者!? 南国特有の猛暑襲来で強がり冒険者たちが限界突破!?
南へ続く街道。
精鋭たちを乗せた馬車は順調に距離を稼ぎ、一行は少しずつ変わりゆく景色の中を進んでいた。
交易都市フレイアスが近づくにつれ、大気の肌触りは明らかな変化を見せ始める。
じりじりとお肌を焼く強い日差し。
時折吹き抜ける風は、どこか温かい熱を含んでいた。
あんな「うぅ……それにしても、一気に暑くなってきたね……」
みゆ「肯定。湿度はそれほど高くありませんが、日射強度が王都周辺とは段違いです。結論として、普通に暑いです」
亮「そうか? なんだかカラッとしてて気持ちいいぞ」
あんな&みゆ「暑いです」
ベアトリス「わたくしはとっても快適ですわ! むしろこれくらいの方が身体が動かしやすくて過ごしやすいですわ!」
亮「だよな! やっぱりベアトリスは分かってくれるか。俺もどっちかっていうと、寒い方よりはこれくらいの方が得意なんだよな」
あんな「パパ、毎年同じことを言っていますよね。冬になるとコタツの側から一歩も動かなくなって、寒い寒いって騒ぐじゃない」
みゆ「データ提示。昨年の冬、パパが『寒い』と発言した回数は一日に平均四十二回。暖房の前を占拠していた確率は九十パーセントを超えています」
亮「それは本当に寒いんだから仕方ないじゃないか」
もっふる「ピィー♪」
そんな中、馬の休息を兼ねて、街道沿いの木陰に馬車が停車した。
それぞれの馬車から降りて息をついていると、後ろの馬車から声が飛んでくる。
セリナ「ふん。ちょっと風が暖かいからって、その程度で暑いの? だらしないわね」
声をかけてきたのは、新進気鋭のBランク冒険者パーティ《紅蓮の輪》のセリナだった。
リュシア「まだここは南方の入口よ。この先の火山地帯に向かうっていうのに、今からそんな調子じゃ先が思いやられますねぇ」
ミレイア「うふふ、本当に。私たちはこれくらいの気温、全然大丈夫ですよ」
自信満々な言葉を投げかけてくる三人。
だが、彼女たちの額には、すでにうっすらと透明な汗が浮かんでいる。
レオン「いや、お前らさっき、死ぬほど暑いって──」
セリナ「レオン!」
レオン「……はい、何でもありません」
即座に強制終了させられた。
ガルド「いや、でもさすがに少し堪えるな。ルーク様、次の休憩は……」
リュシア「ガルド!」
ガルド「……ああ、何でもない。忘れてくれ」
こちらも一瞬で終了である。
亮「え? でもセリナたち、普通に暑そうじゃん」
セリナ「あ、暑くないわよ!」
亮「いや、でもそこそこ汗かいてるぞ? 無理しなくても……」
あんな「パパ、ストップ。それ以上は言っちゃダメ」
亮「え? はい」
みゆ「分析。彼女たちのプライドの防壁は現在、非常にデリケートな状態にあります。これ以上事実を突きつけるのは、触れない方が賢明です」
ベアトリス「お姉さまの言う通りですわ。乙女の顔の汗を指摘するのは、戦場での奇襲並みに危険ですわ!」
もっふる「ピィ……」
セリナ「ふん、当然よ。私たちはこれでも上位のBランク冒険者なんだから。この程度の気候、どうってことないわ!」
リュシア「ええ。数々の厳しい依頼をこなしてきました私たちが、この程度で弱音なんて吐くわけがないでしょう」
ミレイア「そうですよ」
その直後だった。
三人の手が、打ち合わせたかのようにまったく同時に腰の水筒へと伸びた。
ごくごくごくごく!
ぷはぁっ、と、凄まじい勢いで水を飲み干していく。
あんな「……めちゃくちゃ飲みますね」
みゆ「……一回あたりの摂取水分量が、明らかな脱水症状の数値を満たしていますね」
セリナ「な、何よ。これはただの、定期的な水分補給よ!」
リュシア「そうよ。冒険者たるもの、常に万全の体調を維持するための義務、当然でしょう」
ミレイア「健康管理ですよ」
レオン「(……やっぱりめちゃくちゃ暑いんだな……)」
セリナ「レオン、何か言いたげね?」
レオン「……何でもありません」
本日二回目の強制終了だった。
しばらく進み、午後になると日差しはさらに容赦なく強さを増していった。
やがて夕方を迎え、次の野営の準備のために再び馬車が停車する。
さすがに限界が近かったのか、馬車から降りてきた大柄なガルドが大きく溜息をつきながら、ガシガシと額の汗を拭った。
ガルド「……くそ、さすがにこれは冗談抜きで暑いな」
セリナ「暑くないわ」
ガルド「いや、さすがに暑いだろ。現にお前らの顔、さっきからゆでダコみたいになってるぞ」
リュシア「暑くないと言ったら、暑くないわ」
ガルド「いや、しかしだな──」
ミレイア「ガルドさん? 暑く、ない、ですよ」
満面の笑みの中に宿る鋭い眼光に射抜かれ、ガルドは引きつった笑いを浮かべた。
ガルド「……そうか。俺の勘違いだったな」
レオン「完全に諦めたな、ガルド」
ガルド「ああ、諦めた。世界がどれほど燃え上がろうと、今は冬だ」
男二人は、遠い目をして南の空を見つめた。
ようやく日差しが弱まり、涼しい川風が街道を吹き抜け、誰もがホッと胸を撫でおろした。
あんな「ようやく少し楽になったね……」
みゆ「助かります。これ以上の気温上昇は、体力消費の計算が狂うところでした」
セリナ「ふん、私は最初から平気だったけどね」
リュシア「当然ね。涼しくなったことすら気づかなかったわ」
ミレイア「まったく問題ありません♪`」
その瞬間。
馬車から降りていた三人ともが吸い寄せられるように、街道沿いにある大きな岩の「日陰」へと同時に移動した。
レオン「……平気なんだよな?」
セリナ「平気よ。文句ある?」
ガルド「思いっきり一番濃い日陰に避難してるけどな」
リュシア「これは日光からお肌の健やかさを守る為よ。当然の防衛策だわ」
ミレイア「女子の嗜み、ということです」
男二人は、もう何も言わなかった。
これまでの長い付き合いと経験が彼らに教えてくれている。
ここでどれほど正論を吐いて反論したところで、決して勝てることはないのだと。
そんな微笑ましい(?)ドタバタが続く中、先頭の馬車の御者台から遠くの空を見つめていたルークが、振り返って声をかけた。
ルーク「皆、よく耐えてくれたな。このまま順調に進めば、明日には交易都市フレイアスが見えるはずだ」
カイル「予定通りですね。長旅の疲れを癒やすには、ちょうどいいタイミングです」
亮「おー! ついに街が見えるのか! 美味しいご飯が食べられるかなぁ」
ベアトリス「フレイアスの名物料理、とっても楽しみですわ!」
もっふる「ピィー♪」
エドガー「記録よし」
こうして──
調査隊は南方特有のじりじりとした暑さに晒されながらも、着実に交易都市フレイアスへ近づいていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
そして紅蓮の輪の男性陣の胃痛も、着実に深刻化していくのだった。
南へ進む特級調査隊の前に、ついに好戦的な魔物の群れが襲来。
「ここは俺に任せろー!」
と、ついにやる気満々で飛び出したパパだったが……。
なんと最初の一歩を踏み出す前に、王国精鋭たちの鮮やかな連携で魔物が一瞬で完全全滅!!
まさかの出番ゼロという大誤算の裏で、紅蓮の輪の女子メンバーたちによる理不尽な責任転嫁バトルが勃発する中、街道を見下ろす不穏な二つの影が静かに動き出し──!?
次回、第172話 え、パパが勇者!? 魔物襲来でやる気満々のパパが最初の一歩を踏み出す前に一瞬で完全決着する大誤算ー!?
パパの不発に終わった初陣の影で、物語は予測不能な緊迫の新展開へ突入する――




