第170話 え、パパが勇者!? 南への道!? 幻の南国米しか考えてないパパ !?
夜の静けさが広がり始めた、南へ続く街道。
精鋭たちを乗せた馬車は順調に距離を稼いで行く。
一行は、街道沿いで最初の野営を迎えていた。
街道沿いの少し開けた平地にはいくつかの焚き火が赤々と並び、パチパチと薪の音だけが心地よく響いていた。
亮「ふぅ、やっぱり外で食べるご飯は美味しいね。なんだかんだで、こうしてまた旅に出るっていうのは風情があっていいなぁ」
あんな「パパ、何度も言うけど旅じゃなくて国家任務の『調査』です」
みゆ「再補正。観光気分のパパに『任務』という概念を理解させるのは、データ的にも不可能です。諦めてください、お姉ちゃん」
ベアトリス「でもお姉さま、少しだけ旅みたいでわたくしもワクワクしてしまいますわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「ほら、ベアトリスともっふるもこう言ってるよ!」
あんな「ほらって言われても……」
みゆ「結論。パパですから」
そんな神崎家の温かいやり取りを、少し離れた焚き火の近くで地図を広げていたルークが微笑ましそうに見つめ、それから苦笑した。
ルーク「ははは。相変わらずですね。まあ、最初の夜くらいは少し肩の力を抜くのも悪くない。せっかくだ、亮さん。今後の予定をここで一緒に確認しておこう」
カイル「ええ、まだ先は長いですからね。全体のルートを知っておいた方が動きやすいでしょう」
亮「予定! そういうの大事だよね」
あんな「パパ、今さら真面目な顔して聞くの?」
亮「もちろん! 俺はいつだって真剣だよ」
みゆ「疑惑。その真剣な眼差しの奥で、お米の炊き加減について考えている確率、現状九十八パーセントです」
ベアトリス「さすがですわ! 常に先の先まで思考を巡らせていらっしゃるのですわ!」
ルークは手元の地図の一点を指差した。
ルーク「まず我々が向かうのは、ここから数日の距離にある交易都市フレイアスだ」
亮「フレイアス? やっぱり大きいの?」
カイル「ええ。王都ほどではありませんが、南方の物資が一手に集まる最大級の交易都市ですよ。活気があって良い街です」
あんな「なるほど、南方の物資が集まる場所ですか」
カイル「その通りです。周辺の村々からの特産品も全部ここに集まります」
みゆ「分析。物資が集まるということは、それだけ人も集まるということ。情報収集を行うには最適な拠点ですね」
ルーク「ああ。まずはフレイアスを最初の足がかりにして、現地の最新状況を調査するつもりだ。だが──」
ルークはそこで一度言葉を切り、神崎家を真っ直ぐに見つめた。
ルーク「フレイアスでは、もう一つ重要な予定がある」
亮「重要な予定? ……あ! 分かったぞルークさん。やっぱり南国のお米に関する大々的な聞き込み調査だね」
ルーク「いや、それは勝手にやってください」
亮「えーっ!? てっきり国家を挙げたお米の捜索調査かと……」
あんな「パパ、それはないよ」
みゆ「ありません」
もっふる「ピィー!」
カイル「話を戻しますね。フレイアスでは、現地で活動しているAランク冒険者パーティと合流する予定なんです」
ベアトリス「Aランク冒険者ですの!?」
ルーク「ああ。《流星》という名のパーティだ。南方での実績は随一実力者たちだ」
あんな「Aランク冒険者……。ガリオスさんみたいな凄い人たちが、現地で待ってるんですね」
みゆ「肯定。現地に最も詳しい方々の協力を得られるのは、未知の調査において非常に合理的です」
亮「なるほど、ということは……」
カイル「ええ、彼らには現地案内も兼ねてもらう予定です。この先の火山地帯は、王都の周辺とは比べ物にならないくらい特殊で過酷な環境ですからね」
ルークはさらに、地図の最南端へと指を滑らせた。パチッと焚き火の炎が大きく揺れ、ルークの顔を赤く照らす。
ルーク「フレイアスの次に向かうのが、このカルデア村だ。聖火山に最も近い、古くからある集落だな」
あんな「本当に火山のすぐ麓なんですね」
ルーク「ああ。かなり特殊な場所ですね。カイル、確かあの村は──」
カイル「はい、いわゆる火山信仰で有名な地域なんです。山そのものを神として崇めていて、独自の風習があると聞いています」
ベアトリス「火山信仰……。王都の教会とはまた違った文化があるのですわね。少し興味深いですわ」
みゆ「予測。地理的孤立性と信仰の特異性から見て、文化や生活様式も王都とはかなり異なっている可能性が高いです」
カイル「ええ、本当にかなり違いますよ。食べ物から何から別世界みたいだって、行った奴らが言ってました」
亮「へぇー、食べ物も違うんだ。それはますます楽しみだね」
そして、ルークの指が地図の最南端──ひときわ大きく描かれた山のマークでぴたりと止まった。
ルーク「そして、最終目的地がここだ。聖火山フェルナード」
その名が口にされた瞬間、夜の空気が一瞬だけピリッと引き締まった。
ルーク「今回の熱量変動。つまり、異変の中心と考えられている場所だ」
カイル「正直、そこを調査して何が起きているのかを突き止めないことには、王国としても次の手が打てない状況です」
あんな「だからこそ、これだけの精鋭を集めた調査隊なんですね……」
みゆ「未知の案件。データが少なすぎます。慎重な行動が求められますね」
ベアトリス「聖火山……お話を聞いているだけで、少し緊張してしまいますわ」
ルーク「ああ。だからこそ、我々は急ぎつつも慎重に進む。すでに現地の魔物が不自然に活性化されているという報告も入っているからな。油断だけはしないでくれ」
ルークの真剣な言葉に、あんなもみゆも、ベアトリスまでもが深く頷いた。
張り詰めた緊張感が、焚き火を囲む一同の間に流れる。
そんな全員の視線が自然と集まる中、亮はポンと手を叩いて嬉しそうに顔を輝かせた。
亮「なるほど! すべてが繋がったよ!」
あんな「え? パパ、何が分かったの?」
亮「つまり、その火山信仰のカルデア村に行けば、独自の食べ物、幻の南国米が見つかる可能性が極めて高いってことだよね!」
あんな&みゆ「違います」
ルーク「違うな」
カイル「違いますね」
ベアトリス「パパ、そこではありませんわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「えぇ……。違うの? だって独自の食べ物って……」
あんな「独自の文化って意味だよ。 もう、本当にパパはブレないんだから」
亮のあまりのマイペースっぷりに、それまで張り詰めていた騎士たちの間にも、ふっと緊張が解けたような温かい笑いが広がっていった。
南への旅は、まだ始まったばかり。
だがその先には、王国すら動かす、未だ見ぬ巨大な異変が静かに首をもたげて待っている。
こうして──
王都を出発した特級調査隊は、最初の夜を越え、次なる目的地である交易都市フレイアスを目指して南へと進む。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
焚き火の温もりと南国米の幻を胸に、静かに南方の大地へ歩みを進めていくのだった。
一気に押し寄せる南方特有の強烈な猛暑。
限界寸前なのに意地を張り続ける紅蓮の輪の女子メンバーたちを前に、パパの無自覚な天然ツッコミが炸裂する!?
そんなプライドのせめぎ合いの裏で、男たちの胃痛と無言の連帯感が加速していき……。
次回、第171話 え、パパが勇者!? 南国特有の猛暑襲来で強がり冒険者たちが限界突破!?
じりじりと焼ける大地で、乙女のプライドを守る戦いが今、幕を開ける──!?




