第135話 え、パパが勇者!? 王都の怪しい商人にロックオンされて絶体絶命ー!? 距離感ゼロの猛烈営業にパパが陥落して、神崎家が破産(買い占め)の危機ですかー!?
王都の朝は早い。
宿屋「白風亭」の窓から差し込む陽光が、亮の瞼を優しく叩いた。
亮「うーん、今日もいい朝だ。天気もいいしスローライフ日和だー」
あんな「パパ、昨日のこと覚えてないの?」
亮「昨日のこと?」
あんな「ライオネル団長たちとの約束だよ」
みゆ「あの約束でスローライフは0%です」
亮「騎士団に遊びに来てくれだろ」
あんな「遊びなわけないでしょ」
みゆ「パパのお気楽モード」
ベアトリス「楽しみですわ」
一行は、鼻歌交じりの亮を先頭にして騎士団へと歩き出した。
あんな「王都はいつ来ても活気があるね」
みゆ「流通の中心です。密度は高い」
ベアトリス「賑やかですわ!」
もっふる「ピィー!」
通りを歩きながら、店を見て回る。
武具、食材、雑貨――並んでいる品々の種類は驚くほど多い。
その時――。
「おやおやおや!これはこれは!」
妙に通る声が、横から割り込んできた。
商人「これは運命的な出会いですねぇ!」
すぐ後ろから、妙に近い声。
あんな「近い!」
振り向くと、男の顔が目の前にあった。
細い目がギラつき、口元は笑っている。
距離が異常に近い。
あんな「……何この人」
みゆ「不審度、高」
ベアトリス「個性的ですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマン「これは失礼しました。私は商人のゼーマンと申します。神崎様ですね。以後お見知りおきを」
亮「近い近い。顔が近いですよ。で、商人のゼーマンさんが何か用?」
ゼーマン「これはこれは亮様、こちらが私のお店です。よろしければ中へ。品揃えは、王都一と自負しております」
目の前には三階建てのひときわ大きいお店がある。
亮「王都一なのか。入ってみよう」
あんな「ちょっとパパ、一歩引いて! 相手のペースに飲まれすぎ! そんなに簡単に怪しいお店に入らないでよ」
みゆ「パパの警戒心、マイナス値を更新中。ゼーマン氏の瞳孔反応から判断して、我々を“上客”と見ている確率98.7%です 」
ベアトリス「楽しみですわ」
もっふる「ピィー♪」
店内には武具、宝石、食品、日用品――ありとあらゆるものが揃っている。
どれも質は悪くない。
従業員一同「いらっしゃいませ、ようこそセレスティアへ」
よく教育されている。
亮「ここは、なんでも屋か?」
ゼーマン「違いますよぉ、“なんでも扱える男”です」
あんな「なんか胡散臭いのよね」
みゆ「営業能力は高そうです」
ベアトリス「楽しそうですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマンがまた顔を近づける。
ゼーマン「あなた方……ただ者じゃないでしょう?」
あんな「だから近いって」
みゆ「パーソナルスペース侵害」
ベアトリス「個性的ですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマンは一歩下がる――が、すぐまた距離を詰める。
ゼーマン「いい匂いがするんですよ……金の匂いが」
あんな「何それ」
みゆ「比喩表現」
ゼーマン「いえいえ、分かるんです。分かるんですよぉ」
じっと神崎家を見る。
ゼーマン「使う側の人間か、稼ぐ側の人間か……」
亮「どっちに見える?」
ゼーマン「――両方」
即答だった。
ゼーマン「これはこれは……見つけてしまいましたねぇ」
あんな「完全にロックオンされたわね」
みゆ「危険度、中」
ベアトリス「すごい目ですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマンが大きく手を広げる。
ゼーマン「ぜひ!ぜひとも!こころゆくまでご覧になっていってください!」
亮「で、何がオススメなんだ?」
ゼーマンはニヤリと笑う。
ゼーマン「全部です」
あんな「いや、雑すぎるでしょ」
みゆ「範囲が広すぎます」
ゼーマン「いえいえ、用途に応じて、提案しますよ」
ベアトリス「頼もしいですわ!」
もっふる「ピィー!」
武具を軽く叩き、宝石を持ち上げ、食品を指差す。
ゼーマン「戦うならこれ、飾るならこれ、楽しむならこれ」
あんな「ほんとに何でもあるわね」
亮「便利だな」
ゼーマン「そうでしょう?」
顔をまた寄せる。
ゼーマン「あなた方は“お得意様”になる匂いがする」
みゆ「確定しました」
ベアトリス「気に入られてますわ」
もっふる「ピィー!」
あんな「……どうするの?」
亮「まあ、見てくか」
みゆ「情報収集も兼ねます」
ベアトリス「はいですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマンが満足そうに笑う。
ゼーマン「ありがとうございます……これは良い出会いです。長いお付き合いができそうです」
あんな「同じ商人でもオルドさんとは違うタイプだね」
みゆ「オルドさんは誠実な人」
と、ちょっと目を離したすきに、亮はすでに棚に手を伸ばしていた。
亮「これいいな」
手に取ったのは、無駄に装飾されたナイフ。
ベアトリス「カッコイイですわ」
あんな「いらない」
みゆ「用途不明」
亮「いや、ちょっとかっこいいだろ」
あんな「“ちょっと”ではいらないです」
みゆ「衝動買いです」
ゼーマンがすっと顔を寄せる。
ゼーマン「その一品、バランスも良く実用性も――」
あんな「いらないです」
みゆ「却下」
亮「えー」
ベアトリス「残念ですわ……」
もっふる「ピィ……」
次に手に取ったのは、謎の装飾がついた腕輪。
亮「これどうだ?」
あんな「いらない」
みゆ「不要」
ゼーマン「それは魔力の流れを――」
あんな「いらないです」
みゆ「説明不要です」
ゼーマン「……なるほど」
目を細める。
ゼーマン「厳しいですねぇ」
亮「厳しすぎない?」
あんな「無駄遣い防止よ」
みゆ「合理的判断です」
ベアトリス「でも楽しいですわ」
もっふる「ピィー!」
亮は気にせず、次々と手に取る。
工具、食器、謎の便利グッズ。
そのたびに――
あんな「いらない」
みゆ「却下」
この繰り返し。
ゼーマンはその様子を興味深そうに眺めている。
ゼーマン「……面白い関係性ですねぇ」
亮「そうか?」
あんな「普通よ」
みゆ「通常運転です」
ベアトリス「仲良しですわ」
もっふる「ピィー!」
ふと、亮の手が止まる。
亮「なあ」
ゼーマンを見る。
亮「米ってあるか?」
みゆ「穀物の一種です」
ゼーマンが少しだけ首を傾げる。
ゼーマン「……米、ですか?」
考えるように顎に手を当てる。
ゼーマン「申し訳ありません、私のお店で取り扱いはありません」
亮「そうか……」
ゼーマン「ですが……」
一歩近づく。
ゼーマン「調べることは可能です」
あんな「出た」
みゆ「営業トーク」
ゼーマン「いえいえ、本気ですよ」
口元が歪む。
ゼーマン「珍しいものほど、価値がありますからねぇ」
亮「じゃあ頼む。いくらかかってもいいからさ」
あんな「ちょっと、即答しないでよ。『いくらかかってもいい』なんて、商人の前で一番言っちゃダメな言葉だと思うよ 」
みゆ「パパの希望的観測による経済損失の予兆を確認。ですが、主食の確保はQOL(生活の質)向上に直結するため、調査依頼の有効性は認められます 」
ベアトリス「楽しみですわ!」
もっふる「ピィー!」
ゼーマンは満足そうに頷く。
ゼーマン「承知しました。少し時間をいただきますが、必ず何かしら情報を」
亮「助かる」
あんな「……ほんとに買い物だけで終わらないね。でも、お米見つかるといいよね」
みゆ「肯定。ですが新たな事件発生の匂いがします」
ベアトリス「冒険の匂いですわ!」
もっふる「ピィー!」
亮「よし、そろそろ行くか。騎士団が待ってるしな」
あんな「……ほんとに休む暇ないんだから」
みゆ「肯定。この流れはやらかすパターン」
ベアトリス「騎士団、楽しみですわ」
もっふる「ピィー♪」
こうして――
怪しげな商人ゼーマンとの強烈な出会いは、王都での生活に新たな波乱の予感を持ち込む。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
お米という微かな希望、そしていよいよ騎士団の門へと向かうのだった。
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次回、第136話 え、パパが勇者!? 娘たちの「圧倒的高み」に騎士団が心酔ー!? 王都の精鋭を全員ファンに変えた直後、パパが特大の爆弾発言を投下したんですがー!?
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パパ、その口を閉じないと一家全員、明日を拝めませんよー!




