外伝 え、パパが勇者!? 釣竿一本で海神クラスを一本釣り!? 物理法則無視の「食欲チート」で、伝説の主を晩御飯にしちゃうんですかー!?
港町ベーゼの朝。
潮の香りが心地よく鼻をくすぐり、穏やかな波の音が響く。
きらきらと光る水面は、まさに平和そのもの――のはずだった。
亮「よし、今日は釣りだ! 伝説の大物を釣り上げるぞ!」
あんな「いきなり!? 何かと思えば……朝から気合入りすぎでしょ」
亮は自慢の(といっても安物の)釣竿を肩に担ぎ、鼻歌まじりに波止場へ向かう。
みゆ「定番のパパの突発的言動。ですが、現在の天候、波の高さ共に釣りには最適です。データ的にも肯定します」
ベアトリス「釣りですわ! わたくしが豪華な晩餐になるような大物を仕留めてみせますわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「せっかくの港町なんだからな。やらない手はないだろ。スローライフの基本は現地調達だ!」
あんな「まぁ、それはそうだけど……パパがやると、ただの『のんびり』じゃ済まない気がするのよね……」
不安を隠せないあんなを余所に、一行は堤防にズラリと並んだ。
亮が勢いよく竿を振ると、ぽちゃんと小気味よい音を立てて仕掛けが海に沈んでいく。
静寂。
ただ、波の音だけが聞こえる贅沢な時間。
ベアトリス「……静かですわ。精神修養のようですわ」
みゆ「釣りは待機時間が主となる行動。忍耐力が試されます」
あんな「……これ、地味すぎない? 私、もう飽きてきちゃったんだけど」
亮「まぁ、そんなもんだろ。この『何もない』を楽しむのが大人の余裕――」
のんびりとした時間が流れ、足元ではもっふるが丸くなって寝息を立て始めた。
あんなも「可愛い……」と毒気を抜かれていた。
その時だった。
ぴくっ。
亮「ん?」
海面に浮かぶ浮きが、不自然に揺れた。
ぴく、ぴく、と刻むような予兆。
みゆ「生体反応、確認。針にかかりました」
ベアトリス「きましたわ! パパ、早く!」
あんな「ちょ、ちょっと早くない!?」
次の瞬間。
ぐんっ!!!
亮「うおっ!? ちょっ、待て待て待て!!」
亮の手元で、竿が一気に円を描いて引き込まれる。
亮「なっ……!? 重っ!! なんだこれ、根掛かりか!?」
ギギギギギ……!!
竿が悲鳴を上げ、糸が極限まで引き絞られる。
とても魚とは思えない暴力的な引きだ。
あんな「ちょ、パパ!? 竿が折れる! これ本当に魚なの!?」
みゆ「計測不能。張力、異常値。この引き、通常の海生生物のデータを超えています」
ベアトリス「間違いなく大物ですわ!! 踏ん張ってくださいですわ!」
もっふる「ピィー!?」
もっふるがびっくりして飛び起き、亮の足元を回る。
亮「うわっ、持ってかれる!! 身体が……!」
ぐいっ!!
亮の身体が強引に前方へ引きずられ、堤防の端へと追いやられる。
あんな「落ちる落ちる落ちる!! パパ、離しなさいよ!」
みゆ「補助に入ります。パパの質量を固定」
みゆががしっと亮の腰にしがみつき、アンカーとなって地面を固める。
ベアトリス「わたくしもですわ! 海には渡しませんわ!」
左右から娘たちが支え、亮はようやく踏みとどまった。
亮「助かる!! でもこれヤバいぞ、力が全然落ちねぇ!!」
ばしゃあああっ!!
突如、数メートル先の海面が爆発した。
水しぶきの中から、一瞬だけ巨大な銀色の影が跳ね、凄まじい轟音と共に再び沈む。
あんな「でっか!? なにあれ、クジラ!? でかすぎでしょ!?」
みゆ「通常個体の範囲外。変異種、もしくは主クラスの個体と推測」
ベアトリス「最高ですわ! これは騎士の誇りにかけて燃えますわ!」
もっふる「ピィィーーー!!」
亮「全然弱まらねぇ!! 腕が抜けそうだ……!」
ぐぐぐぐぐ……!!
完全に人間と魚の綱引き状態。
亮の足元がズルズルと前に滑り、堤防の石畳が軋む。
あんな「ちょっとこれ無理じゃない!? 竿を捨てて逃げようよ!」
亮「いや、いける!! 晩飯のおかずを逃がすわけにはいかねぇ!!」
あんな「根拠が食欲なの!? 無茶苦茶だよ!!」
みゆ「……物理的な限界を突破するため、力の分散を提案。全員で同時に引き上げます」
亮「どうすればいい!?」
みゆ「私の合図に合わせて、パパの背後から全員で引いてください。パパの筋力に私たちの体重を上乗せします」
ベアトリス「了解ですわ! 筋肉の連動、開始しますわ!」
もっふる「ピィッ!!」
あんな「え、私も!? ちょっと、絶対ドボンする未来しか見えないんだけど!!」
亮「当たり前だろ! 家族だろ!!」
あんな「だよねぇ!! もう、やけくそよ!!」
家族がつながり、亮の背中を全力で支える。
次の瞬間――。
ぐわあああああっ!!
魚が最後の抵抗とばかりに暴れ、巻き上げられた波が雨のように全員に降りかかる。
あんな「うわぁあああ! 冷たい! しょっぱい! もう最悪!!」
ベアトリス「負けませんわーー!! これしきの水、聖水も同然ですわーー!!」
もっふる「ピィィィィィーーー!!」
みゆ「……次で決めます。重心移動、用意。タイミングを合わせてください」
亮「いくぞ!! お前ら、パパに続け!!」
全員、歯を食いしばり、足に力を込める。
亮「せーのっ!!」
ぐんっ!!!
……びくともしない。
あんな「無理ぃぃぃ!! 腕がもげる!!」
亮「もう一回だ! 諦めるな、この先に美味しい煮付けが待ってるぞ!!」
みゆ「再試行。エネルギー効率最大化」
ベアトリス「次こそですわ! わたくしの魔力も乗せますわ!」
亮「せーーーのっ!!」
ぐあああああああっ!!
家族全員の叫びが一つになった瞬間。
――バキッ。
あんな「え、今なんか物理的にヤバい音しなかった!? 堤防壊れた!?」
亮「気にすんな!! 大丈夫だ!!」
みゆ「構造限界に到達。対象の慣性がこちらに向きました!」
ベアトリス「押し切りますわ!!」
亮「これで決めるぞ!! 全員、踏ん張れぇぇぇ!!」
亮が身体を大きく反らし、家族の力を一点に集約して引き上げる。
亮「せぇぇぇーーーのぉぉぉ!!」
――ドォンッ!!
ばしゃあああああっ!!!
爆音と共に、海面からビルの一室ほどもある巨大な魚が空中へ弾き上がった。
銀色の巨躯が宙を舞い、重力に従って――。
ズドォンッ!!!
堤防が大きく揺れ、砂埃が舞う。そこには、ピチピチと跳ねる(というより地響きを立てる)巨大な戦利品が横たわっていた。
あんな「うわぁぁぁぁ!? 死ぬかと思った……」
ベアトリス「やりましたわーーー!! 勝利の雄叫びを上げましょう!」
みゆ「捕獲、成功。……ですが、これは解体に相当な時間を要します」
もっふる「ピィ……」
もっふるは精根尽き果てたのか、その場にへたり込んでいる。
亮「はぁ……はぁ……。どうだ、見たか……俺たち家族の勝利だ……」
亮は息を整えながら、目の前の規格外な魚を見上げる。
あんな「……ねぇ、パパ。これ、本当に魚? また、どっかの海神様とかじゃないの?」
亮「魚だろ。ほら、ヒレがあるし。……多分」
あんな「多分って言った!? 絶対なんかの神様でしょこれ!」
亮「大丈夫だよー。心配性だなー」
ベアトリス「素晴らしいですわ! さすがはパパ、歴史に残る一戦でしたわ!」
みゆ「保存魔法を多重展開します。鮮度が落ちる前に、調理工程の策定に入ります」
もっふる「ピィー……」
もっふるがようやく復活し、魚の周りをクンクンと嗅ぎ回る。
亮「よし!」
さっきまでの死闘が嘘のように、亮はあっさりと立ち上がった。
亮「食うか。おかみさんに頼んで、全部料理してもらおうぜ!」
あんな「そこだけはブレないんだから!! 誰がこれ運ぶのよ、パパが担ぎなさいよ!」
ベアトリス「お祝いですわ! 宴ですわ!」
みゆ「運搬の最適化、計算中」
もっふる「ピィッ!」
亮「おう、任せろ! よーし、帰るぞー!」
あんな「そのテンションで街歩くの!? 恥ずかしいんだけど!!」
笑いながら、亮は自分よりも大きな魚をひょいと担ぎ上げた。
こうして――
港町ベーゼでのんびり釣るはずだった休日は、大物との命がけのバトルへと変貌を遂げた。 けれど、家族全員で力を合わせて勝ち取った戦利品を抱えて帰るその姿は、いつも通りの「神崎家」そのものだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)、
その大宴会は、港町ベーゼの歴史に刻まれる“伝説の夜”となるのだった。
【外伝「一本釣り」を終えて】
外伝をお読みいただきありがとうございます
外伝の一本釣り!
世界の綻びなどお構いなしに、家族全員で力を合わせて「今日のごちそう」を勝ち取る姿。これこそが、どんな忘却の理にも負けない神崎家の「生きた証」なのだと思います。
次回、『ぱぱやら!』
舞台は再び、花の都へ!
明日朝8時、本編第十七章スタートとなります。
亮「いやぁ、あの巨大魚との格闘、腕はもげそうだったけど、最後の一口まで最高に美味かったな! この勢いで、王都のお米も一本釣りしちゃうぞ!」
あんな「パパ、お米は釣るものじゃないから! ……でも、あの巨大魚を家族みんなで釣り上げた時の手応え、私も忘れないよ。王都でも、この調子でいこうね!」
みゆ「……肯定。外伝における家族の協力係数は最大値を記録。これより、王都への最短ルートおよび、お米の確保シミュレーションを開始します」
ベアトリス「わたくし、あの魚を釣り上げた時の衝撃で、騎士としてまた一皮剥けた気がいたしますわ! 王都の皆様にも、この勇姿をお見せしたいですわ!」
もっふる「ピィ、ピィ……!」
明日朝8時、またお会いしましょう!




