第130話 え、パパが勇者!? 証拠ゼロのホラ話を「信頼」だけで真実(公式)に書き換え!? 地方領主の手に負えないパパのやらかし、ついに中央政府へ直通ですかー!?
港町ベーゼの冒険者ギルド。
扉を開けた瞬間に飛び込んでくるのは、いつも通りの活気とざわめきだった。
依頼掲示板の前には屈強な冒険者たちが人だかりを作り、報酬や魔物の情報を巡って声を張り上げている。
――どこを見渡しても、何一つ変わっていない。
亮「よし、一応ケジメとして報告すっか」
亮は軽い足取りで受付カウンターへ向かう。
受付嬢「いらっしゃいませ。神崎さん、本日のご用件は? 依頼ですか?」
亮「いや、ちょっと特殊な報告があってさ」
受付の女性は、亮の話を聞き終えると、困り果てた顔で眉をひそめた。
受付嬢「ええと……亮さん。つまり、『世界が灰色になって、人々が消えかけて、黒い影のような管理者と戦った』……と?」
亮「そうそう。大変だったんだぞ、な」
あんな「パパ、その言い方だと絶対頭おかしい人だと思われるから!」
案の定、周囲の冒険者からは
「亮さんのホラ話か?」
「昨日は飲みすぎたんじゃないか?」
とクスクス笑いが漏れる。
証拠もなければ、自分たち以外に記憶もないのだ。
門前払いも時間の問題――。
バルトス「……その話、部屋で詳しく聞かせてもらおうか」
奥から現れたのは、ギルド長のバルトスである。
部屋に入ると、そこにはこの街の領主ベルンの姿もあった。
ベルン「別件で来ていたのだが、街の英雄たちが信じられない話をしているのでな、バルトスに呼びに行かせた」
あんな&みゆ「お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」
ベアトリス「ありがとうございますですわ」
ベルン「相変わらず、神崎のところは礼儀正しい娘たちだな。教育がいいのか、反面教師なのか……」
亮「ははは、領主様も分かってますね。美人だし、人気者で強い。自慢の娘たちなんですよー?」
あんな「パパ、親バカはほどほどにして。……領主様、本題に入らせてください」
みゆ「感情論を排し、事実関係のみを簡潔に報告します」
みゆが、いつもの冷静な口調で説明を始めた。
・街全体が灰色に染まり、物理干渉不能な特殊階層へ転移したこと。
・その間、住人たちの存在が希薄になり、消滅の危機にあったこと。
・「グラファイト」「インク」と名乗る管理者を名乗る存在と交戦したこと。
・現在は元に戻っているが、住人全員にその間の記憶が欠落していること。
二人は最後まで、一言も遮らずに耳を傾けていた。
ベルン「……」
バルトス「……」
やがて、ベルンが重い口を開く。
ベルン「……確認する」
低く、静かな声。
ベルン「現時点で、この街に被害報告はない。……相違ないか?」
みゆ「はい」
ベルン「行方不明者も、怪我人も、届け出は一件もない」
みゆ「はい」
ベルン「公的な記録にも、魔力の乱れさえ残っていない」
みゆ「はい。痕跡は完全に消去されています」
ベルン「……だが、君たちは。君たちだけは、確かにそれが“あった”と言うのだな」
みゆ「事実です。私たちが観測しました」
迷いのない即答。
一瞬の沈黙が部屋を支配する。
バルトス「……普通に考えれば、あり得ん話だ。集団幻覚だと切り捨てられればそれまでだ」
あんな「……ですよね。証拠なんて、あたしたちの記憶しかないんですから」
亮「まぁ、そうなるよな。俺が逆の立場でも『寝ぼけてんのか?』って思うし」
バルトス「だが――」
バルトスの視線が、亮へと向く。
バルトス「お前たちのこれまでの実績は知っている。実力も、な」
ベルンも静かに頷いた。
ベルン「君たちがこんな馬鹿げた虚偽報告をする理由もない。メリットが皆無だからな」
亮「まぁ、嘘ついても魚は安くなりませんからね」
あっさりと答える亮に、ベルンはふっと口元が緩んだ。
ベアトリス「本当のことですわ! わたくしもこの目で見たのですわ!」
ベルン「だろうな。君たちの言葉を疑っているわけではない」
否定はしない。
信じている。
だが――
ベルン「……だが。私にも、これは“判断”ができん」
あんな「……それって、どういう?」
バルトス「証拠がない。記録もない。具体的な被害も出ていない」
一つずつ、動かせない事実を積み上げるようにバルトスが続ける。
バルトス「この街、この規模のギルドで扱うには、情報が特殊すぎるし足りなすぎる。手に負えんのだ」
ベルン「結論を出そう」
静かに、断言するように告げる。
ベルン「これは――この街だけで抱えていい案件ではない。一地方の領主に収まる話ではない。王都へ回す。中央へ報告を上げる」
その一言で、室内の空気が一気に引き締まる。
ベルン「そこで、お前たちが王都へ報告に行ってくれないか?」
あんな「私たちが……?」
みゆ「中央判断への移行。極めて妥当なリスクヘッジです」
ベルン「この現象がベーゼ特有のものか、あるいは他でも起きている可能性もある。過去の事例照会や調査体制の規模を考えると、王都の専門機関が最も適切だ」
亮「任せてくださいよ」
あんな「……はぁ。やっぱりこうなっちゃうのね。いつものパパだね」
亮「だって、報告先が変わるだけで、やることは変わらないだろ?」
みゆ「はい。手続きのレイヤーが上がるだけです」
ベアトリス「流石ですわ! ついに国家規模の依頼ですわ!」
バルトス「すまないが、他に方法がないんだ」
ベルン「こちらでも引き続き調査は行う。……だが、おそらく核心には届かんだろう」
領主の静かな断言。
みゆ「合理的判断です。局所的な観測では限界があります」
あんな「……分かりました」
完全には納得しきれないモヤモヤはある。
それでも、事態が自分たちの手を離れて動き出すことで何か進展があると。
ベアトリス「王都ですわね! 楽しみですわ!」
亮「行くかー。ルークさんや騎士団の連中は元気かな?」
あんな「みんなに会えるのはいいけど……あの『英雄様扱い』だけは勘弁してほしいんだけど!」
みゆ「予測不能です」
バルトス「ほう、王都の騎士団にも知り合いがいるのか。なら話が早い。この親書を持っていけ」
ベルン「書面はこれだ。王都ギルド本部への正式な紹介状だ」
バルトス「頼んだぞ。街の平和を守ったのは、お前たちなんだからな」
あんな「分かりました。責任持ってお届けします!」
みゆ「承知しました。迅速に搬送します」
ベアトリス「承知しましたわ! 華麗に任務を遂行しますわ!」
もっふる「ピィー!」
こうして――
港町で起きた不可解な現象は、地方の枠を超えて国家案件へと格上げされた。
次は正式な依頼としての「王都行」。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
国家の大きな渦へと巻き込まれていく。
手に持つのは「国家の秘密」と「明日への食欲」!?
神崎家、ふたたび王都へ全速力(?)で前進!
灰色の絶望も、消えかけた命も、美味しい焼き魚の香りで上書き完了!
これぞ神崎家の真骨頂、どんなシリアス展開も「お腹が空いた」の一言で日常に引き戻す、圧倒的なポジティブ・スローライフ。
消えない違和感を胸に秘めたあんなをよそに、パパとお米を愛する仲間たちは、さらなる情報を求めて花の都へと舵を切る!
「お米、あるかなぁ」
管理者の恐怖より、炊き立てのご飯が恋しいパパの能天気さは、もはや世界の救いか!?
次回、第131話 え、パパが勇者!? 潮騒に背を向けて、再び歩む王都への道!? 違和感さえも日常の一部に変えて、家族で目指す次なるステージ!?




