第129話 え、パパが勇者!? 誰も覚えてない「灰色の昨日」!? 命がけの救出劇が完全スルーされて、あんなのツッコミが空回り!?
第十六章、始まります!
「あんなに頑張ったのに、みんな忘れちゃってるの……!?」
命がけの異次元救出劇から一夜明け、活気を取り戻した港町ベーゼ。
けれど、昨日までの絶望も、パパが放った起死回生の一撃も、街の人々の記憶からは綺麗さっぱり消え去っていた!?
自分たちだけが知る「灰色の昨日」。
あんなが「報われなさすぎる!」と憤慨し、みゆが冷静に事態を分析する傍らで、パパは相変わらず「今日もパンが美味しいねぇ」と朝食に夢中。
証拠も記憶もゼロの救世主伝説は、パパの圧倒的な信頼感(と図太さ)によって、いつの間にか「なかったこと」ではなく「いつものこと」として日常に溶け込んでいきます。
誰も覚えていなくても、パパの笑顔と「食欲」が世界の正解を書き換える――。
神崎家の新章も、ぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
港町ベーゼは、いつも通りだった。
朝の潮の匂いが鼻をくすぐり、港には行き交う漁師たちの威勢のいい声が響いている。
露店には銀色に輝く新鮮な魚が並び、その間を子どもたちがはしゃぎながら走り回っている。
まるで――あの灰色の絶望など、最初から何もなかったかのように。
亮「……ふぁ〜あ。平和だなぁ。まさに絶好のスローライフ日和だー」
雲一つない青空を見上げ、亮はのんびりとした声で大きく伸びをする。
その姿には、昨日までの死闘の疲れなど微塵も感じられない。
あんな「……ねぇ、パパ」
亮「ん? どうした、お腹空いたか?」
あんな「昨日……あの、街が変だった時のことなんだけど」
言いかけて、あんなは言葉を止めた。
目の前では、顔なじみの露店の店主が、いつもの眩しい笑顔でこちらに手を振っている。
店主「おー! 亮さん、今日もいい魚が入ってるよ! 活きがいいのを持ってきな!」
亮「お、マジで? じゃあ任せるから、適当に美味そうなの見繕ってよ」
あんな「……」
店主の様子は、どこからどう見ても“いつも通り”だった。
言葉の端々にも、その表情にも、違和感なんてどこにも見当たらない。
あんな「……あの人、何も言わないね」
みゆ「何を、ですか?」
あんな「いや、その……街が灰色になって消えかけたこととか。自分も透けてたじゃない」
みゆは少しだけ考え、視線を周囲に走らせる。
みゆ「生体反応、魔力波形共に異常なし。人々のバイタルデータも安定しています。特に変わった様子は見えません」
と、淡々と答える。
ベアトリス「平和が一番ですわ! あの灰色の世界は、夢のようでしたわ!」
「違うと思う」というツッコミを飲み込み、あんなは再び街を見渡した。
灰色だった建物。
砂のように消えかけていた人々。
その全てが、絵具を塗り直したように綺麗に“元通り”になっていた。
亮「ほらよ、今日の晩飯。店主おすすめのやつだ」
店主から受け取った、まだ跳ねている魚を軽く掲げて見せる亮。
亮「今日は塩焼きにするかー。それとも煮付けか?」
ベアトリス「わたくし、パパの焼いたお魚が食べたいですわ!」
みゆ「栄養学的には焼くのが妥当です。問題ありません」
あんな「……うん。そう……だね」
もっふる「ピィー♪」
そのやり取りは、あまりにも、あまりにも“いつも通り”すぎて。
あんな「……ねぇ、パパ。やっぱりさ、なんか、変じゃない?」
亮「んー? 変か?」
亮は少しだけ考え込み、手に持っている魚を凝視して、
亮「……そうだな。心なしか、今日の魚はいつもより目がキラキラしてる気がするな。うまそうだ」
あんな「魚の鮮度の話をしてるんじゃないのっ!!」
我慢できずにツッコむあんな。
亮は「ははは」と笑いながら肩をすくめた。
亮「はは、冗談だって。あんなが心配してるのは分かってるよ」
亮はふと、優しく温かい眼差しを娘に向けた。
亮「まぁでも、みんな元気そうだし、特に問題なさそうだし……。今はこれで、いいんじゃないか?」
あんな「……」
その一言に、あんなは言葉を飲み込んだ。
「普通」であること。それがどれだけ脆い奇跡の上に成り立っているかを、昨日知ってしまった。
みゆ「現時点での被害や異常、及び黒い個体――グラファイト、インクの再出現は確認できません。観測不能です」
ベアトリス「でしたら、気にしすぎですわ! あんなお姉さま、今日はパパの手料理を楽しみましょう?」
あんな「……そう、かな。そうだよね」
違和感はある。
胸の奥に、チリッとした何かが残っている。
でも――それを証明する証拠は、何一つとしてこの街には残っていない。
誰もが完全に納得したわけではない。
けれど、それ以上は言えなかった。
この街の光景が、あまりにも普通で、温かかったから。
亮「あ、そうだ。とりあえずさ、一応ギルドには報告しとくか。一応な」
あんな「……。パパにしては、珍しく妥当な判断だね」
みゆ「パパが真面目に報告しようだなんて。逆に怖いです。天変地異の予兆でしょうか」
ベアトリス「さすがはパパ! 冒険者らしい、責任感に満ちた振る舞いですわ!」
もっふる「ピィー♪」
こうして――
何もなかったかのような日常が戻る中で、
家族の胸に、ほんのわずかな違和感という名の種だけを残す。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
世界に刻まれた傷跡が、見えない場所で静かに蠢き始めている。
「世界がバグった」なんて、普通は門前払い!
だけど英雄・神崎家の言葉には、世界の理さえ変える重みがある!?
証拠なし、目撃者なし、おまけに公的記録もない!
普通なら「昨日の酒が残ってるのか?」で終わるホラ話を、領主ベルンとギルド長バルトスは「君たちが言うなら真実だ」と断定した!
しかし、その事態は一地方の手に負えるレベルを遥かに超越しており……。
「手に負えないなら、王都に丸投げしちゃえ!」
領主の超スピード決断で、一家はついに国家の中枢へ!?
次回、第130話 え、パパが勇者!? 証拠ゼロのホラ話を「信頼」だけで真実(公式)に書き換え!?
地方領主の手に負えないパパのやらかし、ついに中央政府へ直通ですかー!?
懐かしのメンツが待つ王都への凱旋!




