第127話 え、パパが勇者!? 消去担当の黒き影が襲来!? 防御無視の消去攻撃に、一家全員が回避特化の全力パニックー!?
目の前で、人々の影が陽炎のように揺らぐ。
一人を掴み、こちらの位相へ引き戻す。
だが、次の一人へ向かうその僅かな合間に――別の誰かの輪郭が、砂のように崩れ落ちていく。
ベアトリス「このままでは間に合わないですわ……そんなこと、わたくしが認めませんわ!」
あんな「数が増えすぎてる……! こうなったら、この事態を引き起こしてる元凶を叩き潰すしかないよ!」
みゆ「……待ってください。警戒を。――何か、来ます」
あんな「え?」
その瞬間、肌を刺すような悪寒と共に、空気が一変した。
色彩の欠落した灰色の世界の中で、そこだけが異質に“濃い”。
足元の石畳からにじみ出るように広がったのは、墨のような禍々しい黒。
影は、重力に逆らうようにゆっくりと立ち上がり、やがて人の形を象っていく。
そして、その隣にもう一つ。
同じように、別の影が現れた。
ベアトリス「……二体ですわ。ただの魔物とは、プレッシャーが違いますわ」
あんな「なにあれ……不気味すぎるんだけど!」
現れた黒き存在は、ゆっくりとこちらを“見た”。
これまでの無反応な住人たちとは違う。
彼らは確実に、神崎家を「排除すべき異物」として認識していた。
みゆ「……明確に、こちらへ干渉してくる意志を感じます」
亮「やっと言葉というか、話が通じそうな相手のお出ましだな」
もっふる「ピィー!」
影が実体化するにつれ、その姿が鮮明になる。
一人は、すらりとした身長180センチはあろうかという長身。
もう一人は、小太りで160センチほどの体型だ。
姿形こそ人間に酷似しているが、その肌も衣類も、塗り潰したような漆黒に沈んでいる。
???「……無茶苦茶だな。この階層は、我々の領域のはずだ」
???「外部存在の干渉は、本来この階層では定義されていない」
あんな「……やっぱり、あんたたちが元凶ね! 街をこんな風にしたのも!」
みゆ「……正確には、あなたたちがこの世界を維持・管理している、と推測します」
???「……そこまで理解しているのか」
みゆ「いえ、理解はしていません。ただ、計算が合わない要素を消去していけば、あなたたちに行き着くというだけです」
亮「で、結局何者なんだ、お前ら」
一瞬の沈黙。
そして、長身の影が口を開いた。
???「お前たちが知る必要はない」
亮「目的はなんだ?街の人たちをどうするつもりだ!」
???「それも知る必要はない」
亮「……名前ぐらいは名乗れ」
わずかな間。
グラファイト「死にゆく者に、名乗る必要などないと思っていたが……冥途の土産だ。教えてやる。――グラファイト」
インク「……インク」
亮「俺は神崎亮」
インク「……排除する。お前の名は、記録する必要さえない」
亮「人が名乗っている途中に……最近の若いのはせっかちだな」
あんな「いやいやパパ、そんなコントしてる状況じゃないから!」
次の瞬間、インクが一気に距離を詰めた。
物理法則を無視した加速。
あんな「速っ――!?」
振り下ろされる漆黒の剣。
あんなは本能的に身体を捻り、とっさに回避した。
剣が地面を叩いた瞬間、接触した部分の“色”が、文字通り消滅する。
あんな「ちょっと待って!? 地面が削れるどころか、存在ごと消えてるんだけど!?」
みゆ「警告。触れれば消されます。防御ではなく、回避を優先してください」
ベアトリス「分かりましたわ! 当たらなければどうということはありませんわ!」
もっふる「ピィー!!」
みゆ「……来ます。左から大規模干渉!」
グラファイトが静かに手を上げると、黒い闇が波のように四方へ広がった。
あんな「了解! みんな、避けて!」
神崎家はそれぞれ回避行動をとる。
だが、その背後で。
住人の影が、広がる黒に触れた。
あんな「……っ!!」
次の瞬間。その人物は“消えた”。
音もなく、塵も残さず、最初からそこに誰もいなかったかのように、完全に。
あんな「……え? いま……」
時間が止まったような錯覚。
さっきまで、あんなが手を伸ばし、助けようとしていた命だ。
それが、あまりにもあっけなく消滅した。
あんな「……うそでしょ。今の……戻るよね? どっかに移動しただけだよね……?」
みゆ「……」
みゆは答えを返せない。
その沈黙が、残酷な現実を物語っていた。
あんな「戻るって言ってよ……! ねぇ、みゆ!」
みゆ「……理論上、戻る可能性はゼロではありません。ですが、現時点での確証は得られません。……存在定数が、消失しました」
亮「くそっ……! 人を、ただのデータか何かだと思ってるのか!」
亮の拳が震える。
間に合わなかった。
その重みが、一家にのしかかる。
亮「ふざけんなよ! お前らの勝手にはさせない!」
あんな「パパ、ここは任せて!」
あんなが鋭く踏み込む。
恐怖を怒りで上書きし、一直線にインクへ。
あんな「これ以上、誰も消させない!!」
渾身の力で剣を振るう。
――ガツンッ!!
手応え。
インクの漆黒の体が、物理的な衝撃を受けて大きく揺らぐ。
インク「……ほう」
ベアトリス「わたくしも参りますわ! 騎士の誇りにかけて!」
ベアトリスが逆側から斬り込む。
空間ごと切り裂くような重い一撃が、グラファイトを直撃した。
グラファイト「……」
わずかに後退する影。
その様子を見て、みゆの冷静な光が宿る。
みゆ「……分析完了。彼らにはこちらの攻撃が有効です。実体化している分、干渉の隙が生じています」
あんな「いける!! 叩き潰して、みんなを元に戻すよ!」
だが、グラファイトが再び手を動かすと、黒い闇が触手のように伸び、別の住人たちへと襲いかかる。
みゆ「《アクア・ウォール》(水壁防御)」
地面からせり上がるように、水が渦を巻きながら立ち上がる。
透明なはずの水は、みゆの膨大な魔力で極限まで圧縮され、防弾ガラスをも凌ぐ硬質化を見せた。
――ドンッ!!
グラファイトの黒を受け止める。
水面に激しい波紋が広がるが、みゆの壁は砕けない。
あんな「ナイスみゆ! みんなを守って!」
みゆ「了解。全周防御にリソースを割きます」
あんな「ベアトリス、インクは任せた! あたしはグラファイトを止める!」
ベアトリス「了解ですわ! この小太りな影、わたくしがスリムにして差し上げますわ!」
激しさを増す戦闘。
グラファイトは再び黒を振り下ろす。
グラファイト「お前たちは一体何者だ。この不完全な世界で、なぜこれほどの強度を保てる」
みゆ「アクア・ウォール!」
再び水の壁で黒の闇を遮断する。
あんな「みゆ、助かる! でも、これキリがないよ!」
ベアトリス「防戦一方では、いつかこちらが尽きてしまいますわ」
みゆ「……終わらせる必要があります。彼らを排除し、世界の制御権を奪還しなければ」
亮「倒せるのか? あの墨汁みたいな奴ら」
みゆ「……計算不能。ですが、やらなければ確率はゼロのままです」
あんな「倒す。……決まってるでしょ!」
もっふる「ピィー!」
グラファイト「……不安定な存在が。だが、排除は可能だ」
インク「……同感だ」
再び、両陣営が激突する。
何度も、何度も。
削り、押し込み、一進一退の攻防が続く。
だが、決着がつかない。
戦っている間も、世界の崩壊は止まらない。
また一人、住人が揺らぎ、消えかける。
あんな「強い……! でも、終わらせないと……!」
ベアトリス「負けませんわ。神崎家の意地、見せて差し上げますわ!」
みゆは防御を維持しながら、グラファイトとインクを冷静に観察し続けていた。
みゆ「……結論。彼ら自身がこの世界の『アンカー(錨)』です。彼らが維持しているからこそ、この不条理な空間が成立している」
亮「ってことは?」
みゆ「……彼らを倒せば、世界が正常な位相に戻り、消えた人々も再構成される可能性があります」
あんな「じゃあ、やるしかないね! 迷ってる暇なんて最初からないんだよ!」
ベアトリス「その通りですわ!」
再び、限界を超えた踏み込みを見せる神崎家。
だが、戦いは熾烈を極め、一秒ごとに世界は薄れていく。
奪還と戦闘が複雑に絡み合い、間に合わなかった現実が鋭い牙を剥く。
こうして――
奪還と戦闘は同時に激化し、一家はかつてない窮地に立たされる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
最終決着――全てを取り戻せるのか、それとも――!?
「座標がなんだ! 娘が間に合わないなら、世界を引っ張ればいい!」
——パパ、ついに「空間そのもの」を物理で手繰り寄せる!?
絶体絶命のタイムリミット、消えゆく少年に伸ばしたあんなの手は届かない。
しかし、そこでパパが繰り出したのは、理論も魔法も粉砕する「地面キック(空間圧縮)」。
この理不尽を、パパの常識外れな一撃は貫けるのか!?
「記憶がない? それなら、これから楽しい思い出を作ればいいでしょ!」
——失われた時間を笑い飛ばす、神崎家の絆は無敵?
次回、第128話 え、パパが勇者!? 奪還成功と、塗り替えられた「存在しない時間」!? 消えない違和感を抱えながらも、家族の絆で明日を切り拓くー!?
元の世界に戻った港町ベーゼ。
そこにはいつも通りの笑顔と、焼き立てパンの香りが。
でも、みゆが見つめる「影」の正体とは?
「あの方」とは一体誰なのか?
一件落着……のはずが、パパの「規格外」を観測した何かが、次なる「管理」を企んでいる――!?




