第125話 え、パパが勇者!? 虚無を切り裂く一撃と、少年に届いた父の鼓動!? 「絶対に助ける」――家族の意思が、灰色の世界を塗り替え始めるー!?
あんな「このままだと、全員消えるってことでしょ……? 助けるどころか、あたしたちが消滅の目撃者になるだけなんて、冗談じゃないわよ!」
みゆ「残念ながら、論理的推論に基づく結果は『確定』です。この空間のリソースが枯渇すれば、存在データは完全に抹消されます」
みゆは冷静に、淡々と事実を突きつける。
だが、その瞳の奥には、いつもなら即座に導き出されるはずの「最適解」が見当たらないことへの、拭いきれない懸念が表れていた。
目の前で、街の人々の輪郭が少しずつ、砂がこぼれるように削れていく。
触れられない。
止められない。
助けられない。
無力感という名の冷たい霧が、神崎家を包み込んでいた。
亮「……ふざけるなよ。勝手に連れてきて、勝手になかったことにするなんて、そんなの勇者が許してもパパが許さん」
亮は奥歯を噛み締め、灰色の石畳を睨みつける。
あんな「見えてるのに、すぐそこにみんながいるのに何もできないとか……悔しくて、悔しくてしかたないよ!」
みゆ「お姉ちゃん、感情でどうにかなる状況ではないです。次元の位相が違う以上、私たちの意思はこの世界に一切反映されません」
あんな「分かってるよ! でも、理屈だけで納得できるわけないよ」
言葉が続かない。
分かっている。
自分たちが今、映画のスクリーンを外側から眺めているだけの観客に過ぎないことは。
でも、そんな絶望を飲み込めるほど、あんなの心は冷え切っていなかった。
みゆ「……」
みゆは無言で、灰色の空間を凝視した。
まるで無数の数式を空中に描くように、その視線は鋭く一点を貫く。
あんな「みゆ……ほんとに、方法あるの? 奇跡待ちじゃなくて、あたしたちができることが」
みゆ「……あります。干渉を成立させるロジックは存在する。でも、まだ条件が足りない」
亮「その“条件”ってのが、説明書なしの家電みたいに分からんのが問題だな」
みゆ「干渉の起点が必要です。……何か“ズレ”が必要なんです。この世界と私たちの間に、偶然生じた誤差。その一瞬の隙間に、私たちの位相を強引に捩じ込むことができれば……」
ベアトリス「その方法は、具体的にあるのですの?」
亮「つまり、超絶ラッキーを待つ運ってことだな」
あんな「いやいや、命がかかってるのに運って……パパの運に任せたら、世界の端まで吹っ飛ぶでしょ!」
その時だった。
路地の奥、古びた木箱がバランスを崩して倒れ、中に入っていた果物(のような影)が転がっていた。
そして、その前で――。
一人の少年が、半透明の体で困ったように立ち尽くしていた。
あんな「……あの子……」
少年の体が、激しく揺らぐ。さっきまで見てきた人々よりも、さらに不安定だ。
腕が消え、胴体が透け、存在そのものが消えかかっている。
みゆ「……危険域。存在維持限界まで、あと数十秒です」
亮「助けるぞ!」
あんな「どうやって!? 触れないんだよ!?」
亮は走り出していた。分かっていても、体が勝手に動く。
亮「大丈夫だ! 今助けてやるからな!」
叫びながら、少年に向かって力一杯手を伸ばす。
――が、当然のように亮の手は少年の体を虚しく通り抜けた。
地面に転がる果物さえ、掴むことができない。
亮「くそっ……! 掴め! 触れろ! そこにいろよ!」
もう一度。二度、三度。
何度でも手を伸ばし、掴もうともがく。
だが、少年の体はさらに薄くなり、向こう側の路地裏がはっきりと見え始めていた。
亮「……」
亮は、ふっと動きを止めた。
少年はもう、目を開けているのかさえ分からないほど希薄になっている。
亮はゆっくりと歩を進める。
状況は理解している。
だが――もう、考えていなかった。
亮「こういうのはな」
あんな「え? パパ?」
亮「理屈で考えると、遅くなるんだよ」
そう言って、何の前触れもなく。
亮は足元を転がる、存在感の薄い果物に向かって思い切り足を振り抜いた。
あんな「え!? 八つ当たり!?」
ベアトリス「なんですの――!?」
みゆ「……!」
もっふる「ピィー!」
次の瞬間。
灰色の果物が、亮のつま先に弾かれて勢いよく転がった。
重力に従って動いた。
「触れた」のだ。
亮「……あ?」
亮自身が一番驚いている。
あんな「今の……当たった? パパの足、今当たったよね!?」
みゆ「……」
みゆの瞳が、これまでにないほど鋭く発光する。
あんな「え、ちょっと待って、今……確かに触ったよね!? なんで!? 幽霊同士のぶつかり稽古!?」
亮「いや、ただ蹴ったつもりだったんだが。感触、あったぞ」
あんな「それが出来ない世界なんだってば、ここは!!」
驚きに目を見開いていると、少年の影がはっとしたように転がった果物を見た。
そして、彼は慌ててそれを拾い上げる。
その瞬間。
驚くべきことに、少年の輪郭がぐっと色濃くなり、実体を伴った強さを取り戻した。
あんな「……戻った? 消えかけてたのが、戻ったよね!?」
ベアトリス「一体何をしたのですの!? 奇跡ですわ!」
みゆ「……計算外。ですが、成功です」
あんな「成功!? 今のめちゃくちゃなキックで成功なの!?」
亮「なんで成功したんだ? 俺、ただ蹴っただけだぞ?」
みゆ「……理論的な理由は不明です。ですが、今の一瞬だけ、パパの『意思』が世界の『ノイズ』と完全に合致した。それが干渉の起点になった可能性があります」
みゆ「……再現実験を行います。パパ、もう一度同じ動きを。思考を介さず、反射だけで!」
亮「よし、任せろ。何か分からんが、掴んだ気がするぞ!」
亮はもう一度、近くの木箱に向かって同じように蹴りを放つ。
――が。
亮の足は、無情にも箱をすり抜け、空を切った。
亮「……今回は出来ないのか。意外と繊細だな、俺の足」
あんな「何が違うのよ!! 運なの!? やっぱりパパの気まぐれ、運任せなの!?」
ベアトリス「再現性なしですわ」
みゆ「……でも、一度は起きた。それは事実です」
みゆの声は冷静だが、その言葉には確かな“希望”が宿っていた。
みゆ「……条件は『無我の瞬間にだけ起きる干渉』……いえ、まだ足りない。でも、突破口は見えました」
あんな「その足りない物を、全員が消える前に見つけなきゃだね!」
一瞬の奇跡は、すぐに消えてしまった。
でも、亮が残した“結果”は消えない。
確かに触れた。
確かに、少年の消滅を食い止めたのだ。
ベアトリス「完全な不可能ではなくなりましたわ。ならば、わたくしがこの剣を振るう意味もありますわ!」
あんな「やるしかないじゃん。一秒も無駄にできないよ!」
空気が変わる。
“絶望の見物”だった状況が――一刻を争う“救出戦”へと塗り替えられる。
その時、遠くの広場で、また一人の老人が大きく揺らぎ、消えかけた。
あんな「……時間ないよ! 次が来ちゃう!」
亮「だな。次は外さんぞ」
みゆ「……パパの動きに、私の演算を同期させます。無理やりにでも干渉を定着させる」
亮「強引にやるのは俺の得意分野だ。行くぞ!」
ベアトリス「ついて参りますわ!」
あんな「あたしも負けてらんない! 全力でサポートするわよ!」
もっふる「ピィー!」
それぞれが、灰色の世界へ向けて駆け出す。
成功の保証も、理屈の裏付けもまだ完全ではない。
でも、神崎家の辞書に「指をくわえて待つ」という言葉は、最初から載っていなかった。
こうして――
絶対不可能だった世界に、わずかな“干渉”という突破口が生まれる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?) は、
「奪還行動」――時間との強行戦が始まる――!
「全員だ。一人も置いていかない!」
——パパの無茶振りが世界を震わせる。
絶望の数式を「家族の絆」で書き換えろ!
亮の規格外な一撃が、ついに消滅の連鎖に穴を開けた。
しかし、現実はあまりに非情。
一人を救う間に、十人が砂のように崩れ落ちていく。
圧倒的な「数」と「時間」の暴力。
みゆの計算が導き出すのは、残酷な「選別」の結末か?
「理屈も限界も、パパが『どけ』って言ったらおしまいなんだから!」
——あんなの叫びが、反撃の火蓋を切って落とす!
次回、第126話 え、パパが勇者!? 間に合わない現実を、家族の「同期」でねじ伏せろ!? 灰色の街に響く咆哮――消滅の連鎖を断ち切る、反撃の狼煙ー!?
パパを「特異点」とした前代未聞の魔力同期!
物理法則の崩壊すら厭わない神崎家の波状攻撃が、灰色の空を貫こうとしたその時。
背後に現れたのは、この悪夢を統べる「真の不条理」……!?
神崎家vs世界のバグ、いよいよ直接対決の時――!




