第124話 え、パパが勇者!? 消えゆく輪郭と、みゆが導き出した「唯一の希望」!? 灰色の空の下、家族が繋ぐ反撃へのラストピースー!?
目の前には、相変わらず無機質な日常を繰り返す人々。
けれど、その誰一人として――こちらを認識しない。
触れられない。
届かない。
温もりも、鼓動も、存在の確信さえも得られない「モニターの向こう側」にいるような隔絶感。
あんな「……ねえ、パパ。実際どうするの? 」
亮「……とりあえず、もう一度確認をしてみるかな」
あんな「何を? 散々すり抜けたでしょ?」
亮は無言で、近くの建物の壁へと歩み寄った。
年季の入った石造りの壁。
亮はそこへ、ごく自然に掌を伸ばし――。
スッ。
亮の手首までが、抵抗もなく石壁の中に埋まった。
引き抜いても、壁に傷一つなく、亮の手にも埃一つ付いていない。
亮「やっぱり壁も同じだな。まるで、実体のないホログラムの中に突っ立ってる気分だ」
あんな「……分かってたけど、いざ目の前で見ると凹むわね」
みゆ「肯定。空間ごと全物質が干渉不可設定です。無機物か生体かの区別もありません。この世界の全データが、私たちの物理演算から完全に除外されています」
みゆは静かに目を閉じた。
乱れがちな呼吸を整え、この異常な空間に満ちる「微かなノイズ」に意識を研ぎ澄ませていく。
あんな「……みゆ?」
みゆ「……探索。この世界の『底』に流れる信号を拾います」
みゆが一歩踏み出すと、目に見えない波紋が彼女を中心に広がる。
魔力の流れ、空間の歪み、存在の密度。
生きている者の鼓動は一切検知できない。
だが、みゆは確実に、この灰色の世界の「綻び」へ探りを入れ始めていた。
ベアトリス「分析開始ですわね。わたくしも、剣を振るうべき『核』が見つかればいつでも行けますわ!」
あんな「頼むよ、ほんと……。このままじゃ、ただの通行人Aにもなれないわ」
もっふる「ピィー!」
その時だった。
通りの向こう。買い物袋を下げた一人の女性が、ふらりと足を止めた。
あんな「……ん? あの人、どうしたの?」
女性の輪郭が、不自然に揺らぐ。 まるで古い映像にノイズが入ったみたいに、存在の境界線がジジッ、とぶれる。
亮「……おい、あれを見ろ」
次の瞬間――女性の体が、一瞬だけ透き通るように“薄くなった”。
あんな「えっ!?」
ほんの一瞬。瞬きをするほどの短い間。
だが確実に、彼女の色はさらに抜け、向こう側の景色が透けて見えた。
そして――何事もなかったかのように、元に戻る。
女性は再び、無表情に歩き出す。
周囲の人間も、誰一人としてその異常に気づいていない。
あんな「……今の、見た? 今、あの女性、消えかけたよね!? 消滅しかけてたよね!?」
亮「ああ、一瞬だったがな。透け具合が洒落になってなかったぞ」
あんな「一瞬でもダメでしょ!」
ベアトリス「どういうことですの!? 死後の世界というわけでもなさそうですのに!」
みゆ「……『劣化』が進行している可能性があります」
あんな「進行って、どういうこと?」
みゆ「この世界の精度。色が薄いのは初期症状。でも今のは違う。存在そのものが崩れかけていました」
あんな「そんなの……」
ベアトリス「そんなこと、あり得ませんわ! 人の命を何だと思っているのですの!」
もっふる「ピィー……!」
みゆはゆっくりと目を開いた。
その視線は、さっきの女性ではなく――灰色の街全体へと向けられる。
みゆ「……局所的なバグではない。全体が、同じ状態です。この空間を維持するリソースが底を突きかけている」
あんな「どういうこと? 分かりやすく言って」
みゆ「……このままだと」
みゆは言葉を選ぶように、わずかに間を置いて――。
みゆ「……全ての人々が消えます」
あんな「……っ!」
空気が、一気に氷点下まで冷え込んだかのように重くなる。
あんな「いやいやいや待って! 全部って何!? 街ごと!? この人たち全員消えちゃうの!?」
ベアトリス「そんなの、絶対にお止めしなければなりませんわ!」
亮「取り返す前に、取り返すモノがなくなっちまうのか。……最悪のタイムリミット付きかよ」
もっふる「ピィー!」
再び、通りの奥で別の男が同じように揺らぐ。
今度は、さっきよりも長い。
数秒の間、男の腕が完全に消失し、空中に断面のようなノイズが走った。
男は戻る。
だが――。
さっきより戻りが遅い。
腕の輪郭が、心なしかさっきより曖昧になっている。
みゆ「……進行速度が上昇しています。指数関数的に、崩壊が加速している」
ベアトリス「食い留めますわ! 何か方法はありませんの? わたくしの魔力でも何でもお使いくださいですわ!」
みゆ「……」
みゆは無言で、微動だにしない空間を見つめ続ける。
そして、小さく、絶望を噛み締めるように呟いた。
みゆ「……位相が違う。私たちは、この映像を見ているだけの観客に過ぎない。だから……戻せない。触れられないものは、直しようがないんです」
現実の話である。
触れられない。
届かない。
干渉できない。
――だから、助けられない。
世界最強の家族が、目の前の「消えゆく一人」さえ引き留められない。
あんな「……じゃあ、どうすんのよ。あたしたち、パパが無理して開けた穴を通って、ただみんなが消えるのを特等席で見物しに来ただけなの?」
声が、情けなくかすれる。
亮「このまま、指をくわえて見てるだけしか出来ないのか……!」
あんな「……」
みゆ「……」
ベアトリス「……」
誰も、すぐには答えられない。
その沈黙の間にも、世界は少しずつ、確実に崩れていく。
また一人、また一瞬。
人々の輪郭が、街の影が、少しずつ、少しずつ薄くなっていく。
あんな「……無理でしょ……こんなの、どうしろって言うのよ……」
みゆ「……」
みゆは、絞り出すように顔を上げた。
みゆ「……論理的な方法なら、一つだけあります」
あんな「えっ!? 本当に!?」
亮「マジか。さすがみゆだな」
ベアトリス「……お聞かせください、ですわ!」
みゆ「……でも」
みゆは一瞬、言葉を詰まらせた。
みゆ「……まだ、決定的な何かが足りない。私たちの存在を、この世界に強引に同期させるための『きっかけ』が」
その時だった。 すぐ近く。
一人の子供の姿が――腰から下が完全に消失した。
あんな「っ!!」
あんなが反射的に手を伸ばす。
当然、触れられない。
手は少年の胴体を虚しく通過する。
あんな「やばいって!! これ、もう戻らないんじゃないの!?」
子供は、数秒後に形を戻した。
だが、戻りきっていない。
色はさらに透け、足元の石畳がはっきりと見えてしまっている。
ベアトリス「……限界が近いですわ。これ以上は、空間ごと弾けますわ!」
あんな「もうダメなの? こんなところで終わり……?」
亮「……」
亮は無言で、その消えゆく光景をじっと見つめていた。
拳を固く握りしめ、その瞳に静かな、しかし烈火のような怒りを宿して。
そして――ぽつりと呟いた。
亮「このままだと、全員消える。……あいつらの日常を、消え物扱いにする奴が、俺は一番嫌いだ」
その言葉は、静かだったが、この空間を支配する「虚無」を真っ向から否定する重みがあった。
亮の怒りが、周囲の空気を震わせ始める。
こうして――
干渉できないという絶対ルールの中で、世界は確実に崩壊へと進み始める。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
「干渉確立」――絶対不可能を、パパがやらかす!?
「物理の壁? 知ったことか!」
——パパの無意識キックが、世界のバグを蹴り飛ばす!?
絶望的な「干渉不可」のルールを前に、みゆが導き出した答えは「奇跡待ち」。
しかし、考えるより先に体が動いたパパの「八つ当たり(?)キック」が、消えゆく果物を捉えた!
理屈も法則も置き去りにして、パパの「助けたい」という意思が、ついに灰色の世界に穴を開ける!
「幽霊同士のぶつかり稽古!?」
——あんなのツッコミをよそに、救出作戦は「力技」のフェーズへ!
次回、第125話 え、パパが勇者!? 虚無を切り裂く一撃と、少年に届いた父の鼓動!? 「絶対に助ける」――家族の意思が、灰色の世界を塗り替え始めるー!?
再現性ゼロの奇跡を、みゆの演算で「確定事項」に書き換えろ!
タイムリミットが刻一刻と迫る中、神崎家が繰り出す「理論無視の波状攻撃」がいよいよスタート!
異次元の果てで、パパが世界を再定義する——!?




