第121話 え、パパが勇者!? 消えた人々と、届かない「位相」の境界線!? 奪われた日常を取り戻すため、世界の壁を斬り裂くー!?
風が止んだ。
さっきまで吹いていたはずの風が、ぴたりと消える。
音もない。
港町特有の潮騒さえも、どこか遠くへ追いやられたような。
みゆ「……あれ?」
足が止まる。
あんな「……みゆ、 どうしたの?」
みゆ「風……止まった。空気の流動が、完全にゼロです」
ベアトリス「確かに、風が止みましたわ」
亮「……」
周りを見る。
あんなの表情が、険しく変わった。
あんな「……違う。ただの無風じゃない」
みゆ「……見えないけど……そこに、何かがいる」
ベアトリス「感じますわ」
亮「……」
その言葉で、視線が動く。
その瞬間。
空間が、あり得ない形に“歪んだ”。
まるで、静かな水面に巨大な石を落としたように。
何もないはずの空間が、わずかに、けれど決定的に揺れる。
みゆ「なに、これ……! 空間の屈折率が異常です!」
あんな「やっぱり……!いた……!」
ベアトリス「なんですの!この不気味な揺らぎは!」
もっふる「ピィー!」
目に見える。
だが、形はない。
そこに“ある”と確信できるのに、決して掴めない何かが、空間の膜を隔てている。
亮「……」
亮が、無言で一歩、前へ出る。
あんな「パパ、待って!近づきすぎだよ!」
止める声。
だが、亮は止まらない。
みゆ「ダメ……なんか、ヤバい。身体が拒絶しています」
生物としての本能が、最大級の警鐘を鳴らしている。
それでも、亮は、逃げずにその「歪み」へ踏み込む。
亮「……そこか」
短く、亮が断定した。
その直後。
「――観測」
声。
どこから響いたのか分からない。
頭の中に直接落とされたような、感情を一切排した平坦な音。
みゆ「……え」
あんな「……来た」
空間が、また歪む。
「対象確認」
「分類――不明」
みゆ「なに、それ……。データとして扱っている?」
あんな「……会話じゃない。ただの、報告……」
あんなの声が低くなる。
まるで、巨大な怪物の胃袋の中に放り込まれたような圧迫感。
あんな「こっち見てる……。ううん、調べてるんだ……」
ベアトリス「誰ですの?姿を見せなさいですわ!」
圧が、さらに増す。
見えない何かが、確かに“そこにいる”。
みゆ「……苦しい……。酸素濃度は変わらないのに、息が詰まる……」
あんな「下がって」
みゆの前に出る。
だが。
亮は動かない。
亮「……」
視線を逸らさない。
相手の正体を理解しているわけじゃない。
ただ、そこに「街の人々を奪った何か」がいると、魂で理解していた。
「例外確認」
「干渉――不可」
あんな「……例外?」
みゆ「なにそれ……。干渉できないって、パパのこと……?」
ベアトリス「どういうことですの。異分子だと言うのですか」
意味は分からない。
だが、その声は確実に“神崎家”を分析の対象としていた。
亮「……」
拳を握る。
「回収完了」
その言葉で。
空気が一瞬、耐え難いほど重くなる。
みゆ「……回収って」
あんな「……街の人を?」
答えはない。
ただ、事実だけが落ちる。
亮「……」
亮が、さらに一歩、踏み出す。
あんな「パパ!」
あんなが叫ぶ。
だが、その手は届かない。
距離にすれば、ほんの数センチ。
なのに、どれだけ手を伸ばしても、その歪みへと近づくことができない。
みゆ「……なに、これ。座標が、物理法則から乖離している……」
空間が、ゆっくりと薄れていく。
陽炎のように、景色が透けていく。
あんな「……消える……! 待って、まだ何も答えてない!」
止められない。
触れられない。
圧倒的な「断絶」が、亮たちの間に横たわっていた。
「観測終了」
最後の声。
そして――
歪みは、跡形もなく消えた。
途端に、風が戻る。
街の音が、波の音が戻る。
止まっていたはずの世界が、また何事もなかったかのように動き出す。
みゆ「……いない。生命反応、マナの残滓、すべて消失しました」
あんな「……なに、あれ。何が起きたの……」
理解の範疇を超えている。
だが、確実に“いた”。
人々を「回収」した何かが、自分たちを「観測」していた。
亮「……」
亮は、自分の足元を静かに見つめる。
さっきまで「何か」が存在していた場所。
今はただの石畳だ。
あんな「……同じ場所にいるのに」
みゆ「……届かない。次元が……位相が、コンマ数ミリだけ、ズレています」
亮「……」
その言葉で、顔を上げる。
亮「……なら、行こう」
あんな「……!」
みゆ「……肯定。追いかけるためのデータを収集します」
ベアトリス「了解ですわ。私の剣で、そのズレごと斬り裂いてみせますわ!」
亮「……入口、探すぞ」
もっふる「ピィー!」
こうして――
理解できない“観測者”との接触は、奪われた人々が“同じ場所にいながら届かない存在”であることを示した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
見えない境界を越えるための“入口”がついに姿を現す――!
「物理法則? 座標? そんなもの、俺の怒りより重いのか?」
——次元の壁を不法侵入(力技)でこじ開ける、パパの規格外すぎる反撃開始!
見えない壁、届かない位相。
娘たちが理論で絶望しかけたその時、パパが放ったのは「どけ」という究極のシステムコマンドだった!
バキリと砕ける空間、バグを起こす世界。
理屈も魔法も置き去りにして、パパは奪われた「小さな靴」の持ち主を取り戻すため、禁断の異次元へと足を踏み入れる!
「不法侵入ってレベルじゃないですわ!」
——パパの背中を追いかけて、神崎家は鏡の中の廃墟へ!
次回、第122話 え、パパが勇者!? 空間を「どけ」の一言で物理破壊!? 座標も理屈も無視して異次元へ不法侵入しちゃう、パパの暴走に娘たちもパニックー!?
ついに第14章「消失編」完結!
しかし、これは終わりの始まり。
異次元に囚われた人々の影を見据え、パパの怒りは臨界点を突破する。




