第120話 え、パパが勇者!? 小さな靴が灯した、父としての消えない怒り!? 「絶対に、取り返す」――静かな宣言とともに、反撃の幕が上がるー!?
風が吹く。
誰もいない通り。
無造作に揺れる洗濯物。
転がったままの木箱。
その風景の中を、神崎家の一行は歩いていた。
自分たちの足音だけが、やけに鮮明に石畳へ響く。
亮「……」
無言のまま、視線を左右に動かしていた。
一つひとつ、そこにあるはずの日常を確かめるように。
“何か”の形跡を探しているわけじゃない。
ただ――大切なものを見落とさないために。
あんな「……パパ」
亮「なんだ」
あんなは少しだけためらってから、指を差した。
あんな「ここ、あの子の家だよね」
いつも、もっふると仲良く遊んでいる子の家だ。
亮「ああ」
亮の脳裏に、元気に駆け回っていた少年の姿が浮かぶ。
その時は、どこにでもある普通の家だった。
笑い声が漏れ、夕飯の支度をする匂いが漂っていた。
――はずだった。
亮「……入ってみるか」
扉に手をかける。
一瞬だけ止まる。
理由は分からない。
だが――嫌な予感がした。
それでも、押し開ける。
ギィ、と音が鳴る。
やはり静かだ。
外と同じ。
誰もいない。
あんな「……」
みゆ「……」
ベアトリス「……」
もっふる「ピィー」
三人も、かける言葉を失って無言になる。
部屋の中は、まるで時間が凍りついたようだった。
使い込まれた机、椅子。
並べられた食器。
全部が、そこに「主」がいるはずのまま、放置されている。
そして――
みゆ「……あ」
みゆが、小さな声を漏らした。
亮はその視線の先へ、ゆっくりと顔を向ける。
板張りの床。
そこにあったのは――小さな靴。
子供用の、片方だけがコロンと転がっている靴だった。
あんな「……これ」
みゆ「……あの子の」
亮「……」
亮は無言で近づき、その場にしゃがみ込んだ。
そっと、靴を手に取る。
軽い。
子供の靴なのだから、当たり前だ。
だが、その軽さが、今の亮には鉛のように重く感じられた。
亮「……」
視線を落とす。
想像してしまう。
ここにいたはずの子供。
笑っていたかもしれない。
走っていたかもしれない。
その当たり前の日常が、不自然に、途切れている。
あんな「……さっきまで、いたんだよね」
みゆ「……うん。これを置いていく理由なんて、どこにもない……」
みゆの声が、微かに震えていた。
数値やデータでは測れない「喪失」が、そこにはあった。
亮「……」
握る手に、力が入る。
ギシ、と音がした。
理屈じゃない。
説明もつかない。
だが。
亮「……ふざけるな」
低く、地を這うような声。
怒鳴らない。
叫ばない。
ただ、腹の底から絞り出したような押し殺した声。
それが、明るい太陽の下では逆に、ゾッとするほどの重圧を伴って空気を震わせた。
あんな「……パパ」
亮は立ち上がった。
手に持った靴を、ゆっくりと机に置く。
丁寧に。
まるで、元の持ち主が戻ってくることを前提にするように。
亮「……誰だ」
ぽつりと呟いた。
誰に向けた言葉か分からない。
だが、その視線は真っ直ぐだった。
亮「こんなことしやがったのは」
あんな「……」
みゆ「……」
ベアトリス「……」
三人は何も言えなかった。
周囲の空気が、明らかに変わっていた。
さっきまでの、漠然とした“不安”じゃない。
これは――。
あんな「……怒ってる」
みゆ「……肯定。パパ、本気です」
ベアトリス「怖いですわ」
もっふる「ピィー!」
怒っている。
天然で、いつものんびりしているはずのパパが。
今、心の底から激怒していた。
亮「……」
ゆっくりと息を吐く。
頭は氷のように冷えている。
だが、内側が、熱い。
静かに燃え盛るその炎は、決して消えることはないだろう。
亮「……取り返す」
静かな宣言。
あんな「……!」
みゆ「……!」
ベアトリス「……!」
その一言で、すべてが決まった。
亮「絶対にだ」
迷いはない。
理由もいらない。
これは正しいとか、間違ってるとか、そういう話じゃない。
亮「……奪われたままで終わるかよ」
あんな「……何者かの仕業なら許せない」
みゆ「……データの復旧、全力でサポートします」
ベアトリス「当たり前ですわ!騎士の名にかけて、必ず成敗いたしますわ!」
もっふる「ピィー!」
怖くないわけじゃない。
けれど、パパが前に進むなら、一緒に行く。
それだけだった。
亮はもう一度、部屋を見渡す。
誰もいない。
だが――
確かに、ここには“いた”。
その事実だけは、消えない。
亮「……行くぞ」
あんな「うん」
みゆ「了解」
ベアトリス「はいですわ」
もっふる「ピィー!」
一行は家を出る。
扉を閉める音は、静かだった。
その背後に残るのは、無惨にも途切れた日常。
そして――
動き出した意思。
風が吹く。
止まっていたはずの時間の中で、たった一つだけ。
破壊不能な意思が、確かに動き始めた。
こうして――
小さな靴に残された日常が、父の中に消えない怒りを灯した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
理解できない“何か”との接触が始まる――!
「観測終了」
声とともに消えた歪み。
同じ場所にいながら届かない、残酷な「位相」の壁が家族を分かつ!
風が止まり、空間がひしゃげる。
突如現れた正体不明の「観測者」は、神崎家をデータとして分析し、街の人々を「回収完了」と切り捨てた。
物理法則さえ無視した圧倒的な断絶。
目の前にいるはずなのに、決して触れることができない。
それは、神の領域か、あるいは世界のシステムそのものか!?
「位相がズレてるなら、こじ開けるだけだ」
パパの瞳に宿る、静かなる闘志!
次回、第121話 え、パパが勇者!? 消えた人人々、届かない「位相」の境界線!? 奪われた日常を取り戻すため、世界の壁を斬り裂くー!?
みゆの解析、ベアトリスの剣、あんなの直感、そしてパパの「規格外」 見えない境界線の向こう側、奪われた「今日」を取り戻すための、次元を超えた反撃が始まる!
異変の「入口」を見つけ出し、神崎家の本気を見せつけてやれー!




