第105話 え, パパが勇者!? もっふるが恐怖を越えて踏み出す海底の道!? 五角形の石が導く先、失われた「深海都市」の扉が今開かれるー!?
第十二章、始まります!
神崎家一行が足を踏み入れたのは、伝説の「海底都市」
しかし、幻想的な景色に見とれるのも束の間。
一行を待ち受けていたのは、それぞれの心の一番奥底を揺さぶる「過酷な試練」だった!?
あんなやみゆ、そしてベアトリスまでもが自身のトラウマや迷いと対峙し、絶体絶命の精神攻撃にさらされる中……。
なぜか一人だけ、世界の守護者を「今日の晩ごはん」の食材として品定めし、シリアスな空気を原子レベルでデリートしてしまうパパ。
その「変わらない笑顔」と「規格外の無自覚さ」が、絶望に沈む海底王国の希望の光(?)になっていきます!
バラバラで、けれど最強。
10年越しの想いと家族の絆が、深海の闇を鮮やかに塗り替える――。
ちょっぴり(神崎家比で)シリアス、けれどやっぱりツッコミどころ満載な新章も、ぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
砂浜に腰を下ろした亮が立ち上がったのは、ほんの数秒のことだった。
風も止まった。
波の音が、遠ざかっていく。
あんな「……パパ?」
みゆ「……脳内干渉値、上昇を継続。外部からの呼びかけ、確定に近い」
亮はそれに答えなかった。
答えられなかったと言う方が正しい。
呼ばれている。
耳で聞く声ではなく、胸の奥にじかに染み込んでくる、
温かくて、静かで、けれど強い「来て」という感覚。
夢かと思った。
だが、夢には理屈がある。
これは――理屈より先に「わかる」のだ。
亮「……行くよ」
あんな「え、やっぱり!?」
みゆ「想定内です。装備確認、完了」
ベアトリス「いざとなれば、この剣で海ごと斬り開きますわ!」
あんな「それは最終手段にして……」
だが、水面に足が触れようとしたその瞬間――。
もっふる「ピィィィィ!」
亮の足元にいたもっふるの全身が、まるで見えない電流が走ったかのようにビクッと震え上がった。
短い足を猛烈な勢いで回転させ、砂を盛大に撒き散らしながら全力で後ずさる。
亮「え、もっふる? 行かないの?」
もっふる「ピィ!! ピィ!!」
あんな「……完全に水がダメなんだね」
みゆ「……拒否反応、極大」
ベアトリス「かわいいですわ」
亮が屈んで手を差し出すと――もっふるはやや間を置いてから、恐る恐るよちよちと歩み寄り、その手の中にふわりと収まった。
もっふる「ピィ……」
亮「よし、一緒に行こうな」
そして一歩、踏み出した。
冷たい海水が足先を包んだ瞬間――
胸元のアイテムボックスが、自然に開いた。
誰も操作していない。
光の粒が舞い上がり、五角形の石がすっと宙に浮かび上がる。
あんな「……自動展開?」
みゆ「強制出力。石が、海に呼応している」
石はゆっくりと回転しながら、水面の前方へ漂い出した。
まるで「こっちだ」と示すように。
亮が膝まで踏み込んだ次の瞬間――
ざ……
ざざ……
音がした。
波の音ではない。もっと深い、大きな音。
目の前の海が、左右に「割れた」
水が壁になった。
巨大な透明の壁が二つ、静かにそびえ立ち、その間に一本の道が現れる。
濡れていない。
砂の感触がある。
海底へと続く、幅三人ほどの「通路」が、そこに存在していた。
あんな「……本当に、割れた」
みゆ「……通行可能領域、形成確認。気圧も正常値。魔法的結界と推測」
ベアトリス「まるで神話ですわ……! 乙女の胸が高鳴ってきましたわ!」
亮「もっふる、見て。濡れないんだよ」
もっふる「……ピィ?」
ずっと肩にしがみついていたもっふるが、ゆっくりと顔を持ち上げる。
壁の向こうには魚が泳いでいる。
砂の粒が光に揺れている。
でも、ここは濡れていない。
もっふる「……ピィ……」
震えながらも、少しだけ首を伸ばした。
亮「よし、行くか」
家族は、静かに歩き始めた。
道はゆっくりと下っていく。
水の壁の向こうを、大きな魚がのんびりと横切った。
みゆ「……深度、増加中。光量は――石の発光で補完されている。パパ、その石が光源になっています」
亮「へー、便利だな。米を炊く前に火をつけてくれる炊飯ジャーみたいだな」
あんな「便利だけど、例えが生活感に溢れすぎだよパパ! 神秘的な雰囲気が台無し!」
みゆ「…論理的関連性は皆無。ですが、光源としての出力は安定しています」
ベアトリス「深海のお散歩って、ロマンチックですわ」
もっふる「ピィ……」
道の先が少しずつ広くなっていく。
気がつけば、洞窟の入口に差し掛かっていた。
天然のものではない。石の加工が整然としていて、入口のアーチにはかすかに文字らしきものが刻まれている。
みゆ「……人工構造物。相当な年代物。使われていたのは少なくとも数百年以上前」
あんな「こんな海の底に……誰が、どうやって?」
亮「……とにかく進もう。呼ばれてる感覚、まだある」
誰も反論しなかった。
洞窟の内側は、青白い発光石が壁に点在していて、かすかな光が揺れていた。
まるで星が散りばめられたような、静かで厳かな空間だった。
あんな「……綺麗」
みゆ「……自然の発光体ではないですね。魔力が込められた石。設計された照明です」
ベアトリス「……息をのみますわ」
もっふるは亮の肩から降り、おそるおそる前足を一歩踏み出した。
ぴた、とひとつ踏んで、また動かない。
亮「大丈夫か、もっふる」
もっふる「ピィ……」
まだ腰が引けてはいるものの、もっふるは亮を見上げ、勇気を振り絞るように力強く一歩を踏み出した。
洞窟を抜けた先に、それはあった。
通路が終わり、視界が一気に開ける。
巨大な扉。
石でできているが、表面は滑らかで、傷ひとつない。高さは五メートルを超えている。
中央には、彫り込まれた紋章。
そして五角形のくぼみ。
亮の持つ石と、同じ形。
あんな「……これは」
みゆ「……一致率、ほぼ100%」
ベアトリス「……扉ですわ。でも、並大抵の力では開きませんわね……」
亮は歩み寄り、扉の中央に手をかざす。
石が震えた。
光が広がる。
あんな「……パパ」
亮は振り返らなかった。
胸の中の「声」が、ここで静かに止まった。
ずっと呼び続けていたものが、今、ここで「着いたよ」と言ったように感じた。
亮は静かに、石をくぼみに押し当てた。
カチリ。
その音は小さかった。
だがその瞬間、洞窟全体が光に包まれた。
ゴゴゴゴゴ……
扉が動き始める。
ゆっくりと、確かに。
ベアトリス「開きますわ……!」
みゆ「……内部に空気の流動あり。外部空間に通じている可能性、高」
もっふる「ピィー!」
長い時間眠っていたものが、目を覚ますような、深い音とともに――
扉が、開いた。
光だった。
扉の向こうに広がっていたのは、暗い海底ではなく。
柔らかく輝く光の中に浮かぶ、巨大な都市だった。
石造りの建物が立ち並び、広場には泉らしき跡があり、道が縦横に走っている。
ただし、人の姿はない。
完全な静寂の中に、都市だけがある。
あんな「……すごい。海の底に、こんな国があるなんて」
みゆ「……解析。文明レベル……推定不能。構造は既存の何にも一致しません」
ベアトリス「……海の王国……本当に、あったんですわ」
もっふる「……ピィ……」
小さな声が、都市の空気に溶けていった。
亮は、黙って都市の景色を見渡した。
呼ばれていた。
ずっと、ここへ来るように言われていた。
それが、これだったのか。
その問いに答える声は、今はまだ、なかった。
こうして――
海の底に眠っていた都市の扉が、五角形の石とともに開かれた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
謎に満ちた海底の都市とともに、
新章・海底編へと深く踏み込んでいく――!
「ガーディアン」を美味しくデリート!?
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次回、第106話 え、パパが勇者!? 均衡の守護者を「食材」としてデリート!? 世界の異変より晩ごはんが大事なパパが、海底王国の希望になっちゃう落差ー!?
光に包まれ強制スタートした「試練」の行方は!?
パパ!?その五角形の石、やっぱりただの重りじゃなかったみたいですよ!




