第103話 え、パパが勇者!? ギルド重鎮の前でパパの口を封鎖せよ!? 英雄扱いを「晩ごはん」で台無しにする親子の攻防戦が勃発ー!?
港町ベーゼに、奇跡のような平穏が戻った翌朝。
降り注ぐ朝日は昨日までの澱んだ空気を一掃し、市場からは少しずつ活気が戻りつつあった。
そんな中、神崎家が宿泊する宿屋のロビーに、使いの者が現れた。
「ギルド本部まで、ご足労願いたい」
亮「……昨日、イカとカニを食べすぎたから怒られるのかな?」
あんな「それはないと思うよ!……多分、昨日の騒ぎだと」
みゆ「呼び出しは定番の展開」
ベアトリス「ご褒美がもらえますわ」
もっふる「ピィー♪」
重厚な扉が開かれ、神崎家の一行は応接間へと通された。
そこには、この町を治める領主をはじめ、各ギルドの責任者が居並んでいた。
その表情は、これまでに見せたことのないほど真剣だった。
一歩前に出たのは、落ち着いた物腰の男性だった。
ベルン「まずは名乗らせてもらおう。私はこの港町ベーゼを治める領主、ベルン・バルシュ。総ギルド長も兼任している」
続いて、屈強な体躯の男が低く響く声で続いた。
バルトス「私はバルトス・クレイマン。この町の冒険者ギルド長だ。……貴殿らの戦い、この眼でしかと見せてもらった。実に見事だった」
さらに、潮風に焼けた肌の男性が、感極まった様子で一歩踏み出す。
ハンス「漁業ギルド長、ハンス・フィッシャーだ。クラーケンのせいで一時はどうなることかと思ったが……これでようやく漁が再開できる。漁師たちを代表して、礼を言わせてくれ!」
最後に、身なりの整った細身の男性が深々と頭を下げた。
ギルベルト「私は商業ギルド長のギルベルト・シュタインです。物流が止まり、市場は干上がる寸前でした。町の経済を救っていただき、感謝に堪えません」
四人の重鎮たちが同時に深く頭を下げた。
ベルン「あなた方は――この港町ベーゼを救ったのだ」
部屋に心地よい沈黙が流れる。
感謝の言葉を受け、亮が誇らしげに口を開こうとした……、
亮「俺は……」
その瞬間。
あんな「私は神崎あんな」
光速の割り込みは、クラーケンの触手を切った時よりも鋭かった。
亮の言葉を完全に遮り、あんなが凛とした声を上げる。
亮「……あんなちゃん?まだ名乗ってる途中なんだけど」
あんな「シーーーッ!」
亮「……はい。」
亮は、あんなの気迫に押され、小さな子供のように縮こまった。
コホンと一呼吸おき、居住まいを正して挨拶をやり直す。
あんな「失礼しました。改めまして、私は神崎あんな、妹のみゆと、ベアトリス、そして父の亮です」
みゆ「みゆです」
ベアトリス「ベアトリスですわ」
亮「俺は……」
あんな「あと契約獣魔のもっふるです!」
もっふる「ピィー♪」
亮「…………亮です」
あんなの徹底した「パパ・喋らせないガード」により、亮の自己紹介は、蚊の鳴くような声での一言に終わった。
あんなは(よし、お米の国から来た男だ!を防いだ!)と心の中でガッツポーズを決める。
ベルン「……ふむ。なかなか、面白い方々だ! ところで、そちらのお嬢さんはグラーディオ家のご息女なのでは?」
ベアトリス「ベルン・バルシュ様、ご無沙汰しておりますわ」
ベルン「おーやっぱりそうか、大きくなられたな」
旧知の仲に場が少し和んだのも束の間、ベルンは再び真剣な表情に戻った。
ベルン「クラーケン、そしてあの未知の巨大魔物……。どちらか一つでも、我々には対処不可能だった。それを、あなた方は成し遂げたのだ」
あんな「……いえ、私たちは――運が良かったと言いますか……」
みゆ「……任務遂行。ただ、それだけです」
ベアトリス「ですが、誇るべき成果ですわ!」
三者三様の反応。
だが――
亮「いやぁ、晩ごはん確保しただけなんだけどね」
空気が、カチリと凍りついた。
あんな「パパあああああああああああああああ!!?」
みゆ「……評価、根底から崩壊」
ベアトリス「さすがですわ! ブレませんわ!」
ベルン「……は?」
バルトス「……え?あの伝説級を、食材として……?」
亮「いや、だってイカとカニでしょ? これはもうごちそう確定で――」
あんな「パパ、話をややこしくしない!?」
みゆ「……意図的ではないと推測されます」
ベアトリス「確かにおいしかったですわ」
もっふる「ピィー!」
ベルンは一瞬だけ言葉を失い――やがて、ふっと笑った。
ベルン「……なるほど。大物……いや、規格外だ。恐怖すら感じないとは」
バルトス「ともあれ、報酬は最大限用意させてもらう。これは町の総意だ。正式に、貴殿らを“救国の英
雄”として歴史に刻ませてもらいたい」
あんな「ちょっと待ってください。それは困ります」
即答だった。
あんなの断固とした拒否に、ギルド長たちが目を見開く。
あんな「公表は必要ありません。目立ちたくないので」
みゆ「……目立つ行為は、今後の行動に支障をきたします。非公開でお願いします」
ベアトリス「えええええ!? 英雄ですのに!?」
亮「ま、そういうことだよ!ベアトリス」
もっふる「ピィー♪」
ベルンとバルトスは顔を見合わせ、やがて深く頷いた。
ベルン「……なるほど。了解した。記録は残すが、外部には出さない。この町の中だけで留めよう」
あんな「……助かります」
ギルド長のバルトスの表情が、わずかに引き締まる。
バルトス「……ただ、一つだけ。あの巨大な“カニ”……あれは何だったのか。我々も、あの存在を知らない」
ベルン「この海には、昔から奇妙な言い伝えがある。“海の底に、何かが眠っている”と。今日の一件で、それがただの迷信とは言い切れなくなった」
ベルンの視線が、静かに亮へと向けられる。
ベルン「あの存在、ただの魔獣ではない」
亮「ふーん」
みゆ「……興味、薄」
あんな「パパ、もうちょっと考えて!?」
その時だった。
亮のアイテムボックスの中で、五角形の石が、淡く光を帯びた。
誰にも気づかれないほど、静かに。
亮「……あれ?」
あんな「どうしたの?」
亮「いや……なんか、今……気のせいかな……」
こうして――
港町を救った英雄として迎えられた神崎家。
だがその裏で、誰も知らない“海の底”からの呼び声が、
静かに、確実に、彼らへと届き始めていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
次なる舞台――海の底へと導かれていく?
スローライフは砂浜でお昼寝?……のはずが、パパの脳内に「深海ダイレクトメール」が届いちゃった!?
穏やかな潮騒の中、パパだけが受信した謎のテレパシー。
「呼ばれてる気がする」
——その一言で、神崎家の次なる目的地は「魚の泳ぐ青い海」
……ではなく、光も届かぬ「未知の深海」に決定!?
「私たちは人間だよ!?」
というあんなの正論を置き去りに、パパの無自覚な好奇心が物理法則の限界に挑む!
次回、第104話 え、パパが勇者!? 解析不能な「深海テレパシー」を受信!? 物理法則に続いて生物の限界まで突破して、海の底までお散歩ですかー!?
潜水服も酸素ボンベもないけれど、パパがいれば「なんとかなる」?
アイテムボックスの石と深海の紋章が共鳴し、物語は神秘の海底神殿(?)へ!




