第100話 え、パパが勇者!? 100話記念に海を割る大スペクタクル!? 絆を繋ぐ連携奥義で、深海の魔獣を海の底まで叩き伏せろー!?
霧の湖を越え、港町ベーゼへと辿り着いた神崎家の一行。
しかし、そこは巨大魔イカ『クラーケン』によって漁が止められ、食糧危機に瀕していた。お米と刺身定食を求め、Fランク冒険者(自称:スローライフ冒険者)として討伐を引き受けた神崎家ともっふるは、漁船で海へと繰り出す。
海上での激闘。
再生能力を持つ無数の足に、
長女あんな(セラフィックブレイダー)、
次女みゆ(サイレントアークメイジ)、
そして、ベアトリス(ルミナスナイト)が本領を発揮し、見事な連携で応戦する。
しかし、海の底から現れたクラーケンの本体は、街をも飲み込むほどの巨体だった――。
荒れ狂う海鳴りが、一瞬だけ遠のいた気がした。
天を覆い尽くす巨大な触手の群れが陽光を遮り、神崎家の小さな漁船の上にどす黒い死の影を落とす。
逃げ場のない海上。
迫りくる数千トンの質量を前に、堤防で見守る港町の人々は、もはや悲鳴を上げることすら忘れ、絶望に顔を歪めていた。
だが、その絶望的な影の中で、三人の纏う魔力だけが、夜空の星よりも鋭く瞬いている。
決意が、極限まで高まったその刹那。
緊迫した空気を切り裂くように、場違いなほど明るい声が響き渡った。
亮「よーし!」
亮は、しがみつくもっふるを片手で器用に支えながら、もう片方の手でオールをへし折らんばかりに握りしめた。
亮「今日は100話記念だからな! 豪快に行くよー、みんなー!」
あんな「パパ、緊迫した状況で何の記念ですか!? 意味不明です!」
みゆ「……現実逃避。あるいは、重度の錯乱状態と推測されます」
ベアトリス「ですがパパが仰るなら、きっと何か秘策があるに違いありませんわ! 燃やしますわよ、このデカイカ!」
もっふる「ピィィー!!」
あんな「……仕方ない、パパのことは後! ベアトリス、行くよー!」
あんなの背に、神々しい光の翼が爆発するように広がった。
彼女の瞳は、迫りくる触手の嵐を捉えていた。
【セラフィックブレイダー】としての真価。
彼女の力は、守るべきものがある時にこそ、真価を発揮する。
あんなが跳躍した。
海面を滑るように、いや、まるで飛んでいるように舞う。
彼女が剣を振るうたび、空間そのものが断裁され、クラーケンの触手の海に、眩いばかりの「光の道」が切り拓かれていく。
あんな「──そこ!」
一閃。
ただの一撃で、空を埋め尽くしていた触手の群れが、まるで糸を切られた操り人形のように一斉に切断された。
それは単なる攻撃ではない。後に続く家族のための、最高の舞台整え(セットアップ)だった。
ベアトリス「はいですわ! 」
光の道へ、紅蓮の劫火を纏ったベアトリスが突っ込む。
あんな&ベアトリス
「連携奥義・《イグニス・エグゼキューション》断罪炎斬」
ベアトリスの放つ、紅蓮の炎が、あんなの光の剣と交わった。
光と炎が螺旋を描き、巨大な炎の龍となってクラーケンの核へと突き刺さった。
あんな「……そのまま、行ける!」
ベアトリス「任せてですわ! わたくしの、全てを……!」
しかし、その瞬間。
二つの異なる強大なエネルギーが反発し、炎が暴走を始めた。
ベアトリス「……くっ! 火力が……抑えきれない……! このままじゃ、私たちが……!」
普通なら、制御不能となったエネルギーは術者を飲み込み、自爆を招く。
あんな「大丈夫、私がいる。……安心して、ベアトリス!」
光の翼が炎を包み込み、暴走する炎を一本の「刃」へと昇華させた。
光り輝く炎の斬撃が、海を裂いて走る。
巨大な触手が、その根元から跡形もなく燃え上がった。
斬った瞬間、世界から音が消えた。
……。
……。
そして、遅れてやってきた凄まじい爆発音が、鼓膜を震わせた。
ドォォォォォォンッ!!
海面が蒸発し、白い霧が周囲を覆い尽くす。
堤防の人々が、固唾を飲んで霧の晴れるのを待つ。
しかし――。
霧の向こうで、ぐにゃりと肉が蠢く音がした。
ベアトリス「嘘……ですわ……!」
裂けた肉が、時間を巻き戻すように元へと戻っていく。
超高速の再生。
あんなとベアトリスの連携奥義ですら、クラーケンの再生能力の前には無力だった。
ベアトリスの魔力出力が限界を超え、あんなの光の翼も消えかけている。
あんな「再生してる……。あれだけの攻撃を受けて、一瞬で元通りなんて……」
二人の集中が途切れかけた、その時。
みゆが静かに前に出た。
彼女の瞳が、青く光を放つ。
みゆ「……極大魔法、展開。座標、クラーケンの核へ固定」
空が急激に暗転した。
さっきまでの炎の熱気が嘘のように、冷たい空気が海を支配する。
みゆの手元に、この世の終わりのような強い魔力が集束していく。
みゆ 「《インドラ・ディセント》――《天雷降臨》」
黒雲から、神の審判のごとく巨大な雷柱がクラーケンを直撃した。
いや、それは「落ちる」という生易しいものではなかった。
黒い雲から、太古の神が放ったかのような巨大な雷の柱が、クラーケンへと降り注いだのだ。
海が白く爆ぜる。
凄まじい閃光と地響きが、港町全体を揺らした。
みゆ「……これで、終わり」
空が黒く染まり、雷が降り続ける。
海が割れ、クラーケンの巨体が初めてその動きを完全に止めた。
みゆの、全てを無へと帰す極大魔法が、その直撃を捉えたのだ。
クラーケンが、静かに海へと沈んでいく。
一瞬の静寂。
堤防で見守る人々が、言葉を失ってその光景を見つめていた。
そして、誰かが歓声を上げた。
「……勝った……!」
そのあとを続けるように爆発的な歓声が上がった。
漁師たちが抱き合い、街の人々が涙を流して神崎家(の娘たち)の偉業を称えた。
船の上で、みゆが杖を支えに崩れ落ちる。
あんな「みゆ! 大丈夫!?」
みゆ「……魔力、全損。……ですが、目標の完全沈黙を確認しました」
ベアトリス「やりましたわ! みゆおねー様、最高ですわ! 今夜はイカ尽くしのパーティですわ!」
もっふる「ピィー♪」
亮「いやぁ、みんなすごかったなぁ! 100話記念にふさわしい、大スペクタクルだったよ!」
亮も、折れたオールを片手に満足げに頷いた。
堤防からの歓声は止まらない。
誰もが、神崎家の勝利を確信していた。
ゆっくりと、戦場の煙が晴れていく。
しかし――。
あんなの瞳が、恐怖に大きく見開かれた。
海面から、ぐにゃりと何かが蠢きながら這い出してきたのだ。
再生。
裂けた肉が、焦げ付いた皮膚が、まるで時間を巻き戻すように、元へと戻っていく。
みゆの極大魔法でさえ、その再生を止めることはできなかった。
動く触手。
クラーケンは、死んでいなかった。
倒れるどころか、その瞳にはさらに深い敵意が宿り、漁船へと迫りくる。
みゆ「……え?」
あんな「再生してる……」
ベアトリス「そんなの、あり得ないですわ……。極大魔法が直撃したのですわよ……」
再生は止まらない。
完全な姿を取り戻したクラーケンが、再び海を覆い尽くす。
堤防の歓声が、一瞬で凍りついた。
誰もが、その絶望的な光景に言葉を失う。
誰かが呟いた。
「……嘘でしょ。あの攻撃でも倒せないなら、もう……」
こうして――
港町ベーゼに、真の絶望が訪れようとしていた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
100話目の記念すべき瞬間に、かつてない絶望の淵へと叩き落とされる。
「絶望」を二杯おかわり!? 伝説の魔獣クラーケンに続き、深海の守護獣までもが乱入!
三姉妹の魔力が底を突き、港町が真の終焉を覚悟したその時……
折れたオールを捨てたパパが、ついに「晩御飯の献立」を懸けて覚醒する!?
もっふるとの謎の共鳴、そして海を割る理外の一撃!
触れてさえいないのに島のような巨躯が粉砕される、物理法則無視の「無欲のオーバーキル」が炸裂!
「カニ鍋、美味しそうじゃない?」
——その一言が、神話の化け物をただの食材に変える!
次回、第101話 え、パパが勇者!? もっふると響き合う「世界の理」の正体とは!?
伝説を越えた一撃が、港町に最高の海の幸と平和を運ぶー!?
阿鼻叫喚の堤防が、一瞬で「ええええー!?」という困惑の渦に!
パパさん、それ、やりすぎです!




