第97話 え、パパが勇者!? 期待した海鮮グルメが全滅!? 魚一匹いないゴーストタウンで自称「スローライフ冒険者」が大迷走ー!?
潮風に導かれ、神崎家の一行はついに目的の港町『ベーゼ』へと辿り着いた。
古くから「東の真珠」と称えられるこの街は、本来ならば、水平線から昇る朝日に照らされた白壁の家々が並び、行き交う漁船の活気で溢れかえっているはずの場所だ。
しかし、一歩門をくぐった亮たちの目に飛び込んできたのは、まるで時間が止まってしまったかのような、静まり返った異様な光景だった。
亮「……あれ? 鯛やヒラメは? アサリにサザエのつぼ焼き……どこ行っちゃったんだ?」
亮は、期待に胸を膨らませていた分、肩を落として周囲を見渡す。
市場の通りを歩いても、かつては新鮮な魚介が山盛りに積まれていたであろう木箱やカゴが乱雑に積み上げられているが、そのどれもが空っぽだ。
潮風だけが、主を失った市場を虚しく吹き抜けていく。
あんな「ほんとに何もないね!?港町なのに、お魚の『お』の字も見当たらない 」
みゆ「……異常事態。……物理的に漁に出ていない可能性、99%」
ベアトリス「漁に出ていない? どういうことですの?豊かな海が目の前にありますのに、これでは宝の持ち腐れですわ!」
もっふる「ピィー……」
もっふるも、空のカゴを鼻先で突っついては、名残惜しそうにキュンと鳴いている。
一行が港の中心部へ進むにつれ、情景はさらに沈痛な色を帯びていった。
街の人々は、家々の窓からこちらを窺うように視線を向けるが、その瞳には旅人を歓迎する光はなく、代わりに深い「怯え」が張り付いている。
活気のない通りを歩いていると、背後から一人の青年が声をかけてきた。
身なりは質素だが、その立ち居振る舞いには隠しきれない気品がある。
青年「突然失礼します!見かけない顔ですが、あなた方は……旅の冒険者の方々ですか?」
亮は、いつものように胸を張って、最高の笑顔で答える。
亮「そうです。俺たちは世界を巡る、スローライフ冒険者です!」
あんな「ちょっとパパ! 勝手に新しい、しかも矛盾してる肩書き作らないでよ!」
みゆ「……定義不能。スローライフと冒険者は本来、対極に位置する概念です。言語体系に致命的なエラーが出ています」
ベアトリス「ですが、響きだけはなんだか高潔でかっこいいですわ!」
もっふる「ピィ?」
青年は、亮の抜けた返答に一瞬、呆気にとられたように目を丸くした。
だが、彼はすぐに表情を引き締め、さらに切実な声を絞り出す。
青年「失礼ですが、ギルドランクは?あなた方は、相当な手練れとお見受けしますが……」
青年は、亮の背後に立つ娘たちの、隠しきれない「格」に気づいていた。
あるいは、亮自身の正体不明な「底知れなさ」に、一縷の望みを託したのかもしれない。
だが、亮は屈託なく、自分のギルド証をひょいと提示した。
亮「Fランクですけど?」
青年「…………。」
青年は、まるで唯一の希望の灯火が、目の前でぷすりと消えたかのような表情を浮かべた。
その瞳に浮かんでいた光が、急速に冷え固まっていく。
青年「……ありがとうございます。お引止めしてすみませんでした」
青年は深く頭を下げ、足早に去っていった。
亮「ん? なんだったんだろう?」
あんな「高ランク冒険者に頼みたいことがあったのかな?」
みゆ「……否定はしませんが、行動に不自然な点があります。何か隠している可能性あり」
あんな「そうだよね。通常、深刻な依頼ならギルドを通すよね」
亮「まあ、考えても始まらないしな!とりあえず、この街の状況を冒険者ギルドで聞いてみるか。お米の情報もあるかもしれないし!」
あんな「そうだね。情報収集が先決」
みゆ「現状把握は必須。戦略の基本です」
ベアトリス「ですわ!騎士として、困っている方は放っておけませんわ! 」
もっふる「ピィー♪」
どんよりとした雲が低く垂れ込め、夕闇が迫る港町『ベーゼ』。
潮風に混じる微かな「腐敗」の匂いと、海底から響いてくるような不気味な重低音。
神崎家は、自分たちが“魚のいない海の街”という異常事態の、その中心へと足を踏み入れたことに、まだ気づいていなかった。
こうして――
期待していた「海の幸パラダイス」は、なぜか閑古鳥が鳴く寂れた光景。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
自称「スローライフ冒険者(Fランク)」として、活気のない町の闇を無自覚に照らし出す。
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