準決勝 ― 関東王者“最速ラリー”と、拾いの呪い
準決勝 ― 関東王者“最速ラリー”と、拾いの呪い
東京都内の体育館。準決勝。
空気が、ここまで来るともう「試合」じゃない。
音が違う。足音が、呼吸が、ラケットのしなりが――全部、速い。
相手は関東王者。
全国でも名の知れた“球際の鬼”ペアだった。
立ち上がりから、ラリーが速い。
速いのに、雑じゃない。
揺さぶっても、追いついてくる。
前に落としても、床に刺さる寸前で拾われる。
泉
「うわ、なんやこいつら……瞬間移動してへん?」
ひろ
「してない。してないけど……してるみたいに見える」
泉
「怖っ」
相手男子
「一年でここまで来たのは素直に認める。
でも――最後に笑うのは、俺らだ」
相手女子
「最少失点で抜ける。余計な勝負はしない」
言い方は落ち着いている。だが、目がぎらっとしていた。
“短期決戦で切り抜ける”――そういう作戦の匂いがする。
ひろ(小声)
「泉、あいつら、スタミナ温存してる」
泉(小声)
「せやな。失点少なめで、サクッと取りに来るタイプや」
ひろ
「……ほな、うちらは逆や」
泉
「長引かせる?」
ひろ
「うん。拾って拾って拾って……削る」
泉
「悪い顔しとるで、ひろ」
ひろ
「泉に言われたない」
第1ゲーム ― 速さの中の“間”
関東王者の球は速い。
スマッシュも速い。ドライブも速い。
なのに、コートのギリギリを狙ってくる。
泉が前で反応し、ひろが後ろで床すれすれを拾う。
ひろ
「……まだ返る!」
泉
「まだいける! ほら、もう一回!」
関東女子
「……え、拾うの?」
関東男子
「拾うなよ、そこ……!」
決まったと思った一本が返る。
返った瞬間、関東ペアの足が一歩余計に出る。
その“一歩”が、積み重なる。
観客席がざわつき始める。
「返すの? それ返すの?」
「えぐ……拾いがえぐい……」
相手が揺さぶりに来ても、いずひろは二拍我慢で受ける。
そして一拍返しで、前に“置く”。
泉
「……置く」
関東女子
「っ……!」
それでも相手はついてくる。
このゲームは、もはや“どっちが折れるか”の勝負になっていった。
第2ゲーム ― スタミナの影
関東王者は明らかに「最少失点」で切り抜けに来た。
派手に打ち合わない。無理に決めに来ない。
勝てる球だけを取る、冷静な省エネ。
だが――その冷静さが、少しずつ崩れていく。
ラリーが30回、40回、50回。
拾われるたび、相手は “決めきれなかった分の呼吸” を失っていった。
関東男子(息が乱れ始める)
「……っ、マジか。まだ返るのかよ」
関東女子
「……落ち着いて。失点を増やさない」
関東男子
「分かってる、でも……」
ひろが拾う。
泉が前で止める。
そして、また拾う。
いずひろの“ひろ拾い”が、相手のスタミナをじわじわ削る。
泉(小声)
「ひろ、今の拾い、反則やろ」
ひろ(ちょい大阪混じり)
「反則ちゃう。合法。合法の呪い」
泉
「呪い言うな!」
中盤 ― 相手の苛立ち
関東女子がネット前に落とす。
泉が滑り込んで返す。
関東男子が強打。
ひろが床をなめて返す。
関東男子
「……っはぁ……!」
関東女子
「大丈夫、落とさないで」
関東男子
「落としたいんじゃなくて……終わらせたいんだよ……!」
“終わらない”
その事実が、相手の心拍を上げ続ける。
一方で泉は、ちょっとだけ笑っていた。
泉
「なぁひろ。これ、“峠”やな」
ひろ
「うん。峠じゃ」
泉
「ほな、いつものやつ言う?」
ひろ
「……今言うたら、相手キレる」
泉
「キレさせたら勝ちや」
ひろ
「それ、スポーツマンシップ!」
終盤 ― スタミナ勝負の本番
勝負は、最後の5点で一気に動いた。
いずひろは、決めにいかない。
拾って、拾って、相手にもう一歩走らせる。
相手の“省エネ”は、
いずひろの“無限拾い”の前で、じわじわと崩れた。
関東女子
「……っ、足が……」
関東男子
「……まだ、動ける……っ!」
ひろ
「泉、ここ。いける」
泉
「了解。“届くほうへ”やな」
ひろが高くロブを上げる。
相手が下がる。
泉が前に詰める。
相手が「最少失点」で守ろうとした瞬間――
泉の一発が、角度を変えて突き刺さった。
泉
「――これで、終わりや!」
会場がどっと沸く。
そして最後の一本。
ひろの拾いが、もう一度相手を走らせる。
返球が浅くなる。
泉が“置く”。
静かな決着。
相手は膝に手をつき、荒い息で笑った。
関東男子
「……やるな。拾いが……えげつない」
関東女子
「一年生で……ここまで“削る試合”できるの、反則」
泉
「反則ちゃう。合法の削りや」
ひろ
「……ありがとうございました」
握手。
二人はラケットを胸の前で、コツン。
(最初の一本=挨拶)
(最後の一本=握手)
――そして、決勝へ。
吹奏楽コンクール本番 ― 『FOREVER LOVE ― 永久の愛』
同じ日。
東京の体育館ではシャトルの音が弾け、観客の息が止まるようなラリーが続いていた。
けれど山口では、別の“勝負の音”が鳴ろうとしていた。
山口農林高校吹奏楽部。コンクール本番。
舞台袖は静かだった。
静かすぎて、誰かの唾を飲む音すら聞こえそうなくらい。
郷子はトロンボーンケースを抱えたまま、胸の奥でBPM=80を数える。
深呼吸。
吐くときに、語尾を削る。
温也は隣で、無意識にスライドを軽く握り直していた。
温也
「……郷子、指先冷たなってへん?」
郷子
「冷たなっちょる。けど大丈夫。
うち、今日は“扉開けて立つ”って決めちょるけぇ」
温也
「ほな俺も。開けて、立つ」
郷子
「ボケはppでね」
温也
「了解。笑いは無音ロングトーンで」
郷子
「それ、いらんやつ」
二人の小声のやり取りに、近くの先輩が目線だけで笑う。
緊張の中に、ほんの少しだけ空気が緩む。
指揮台の近くで、佐伯先生が短く言った。
佐伯
「泣かせに行くな。
ただ、立って鳴らせ。余韻はホールがやる」
郷子は頷き、ベルを少し上げる。
温也も頷き、スライドを“まっすぐ”に置く。
アナウンスが入る。
「続いて、山口農林高校。自由曲――
『FOREVER LOVE(X JAPAN)』」
暗転。
舞台が静かに息を吸う。
第一音 ― “優しく、美しく、繊細に”
最初のロングトーンが、ホールの空気を撫でた。
B♭。
柔らかいのに芯がある音が、天井に触れて、客席に降りてくる。
クラリネットが細い糸のように旋律を引き、
ホルンがその糸をほどけないように包む。
打楽器は語らない。
ただ、心拍だけを支える。
郷子のトロンボーンは、歌いすぎない。
押し出しすぎない。
ただ、そこに立って、息をまっすぐ投げる。
温也の音は、その隣で“扉を開ける動作”みたいに空気を動かした。
音が前に進むのに、誰かを押しのけない。
優しく、しかし確実に。
曲は、静かに心へ入ってくる。
誰かの記憶の“痛くない部分”をそっと触れて、
次に“痛い部分”にも、静かに手を伸ばしてくる。
客席のどこかで、鼻をすする音がした。
誰かの肩が小さく震えた。
郷子は思った。
(ああ、いま、届いちょる)
サビ ― “永久の愛”が、ホールの中心に立つ
サビ前。
ティンパニが、地面の深いところを揺らす。
郷子はベルをほんの少し上げた。
それだけで、空気が持ち上がる。
温也は、佐伯先生の言葉を思い出す。
(泣かせに行くな。立って鳴らせ)
だから、叫ばない。
泣かない。
ただ、立つ。
その姿勢が、音になって出る。
『Forever Love』のメロディは、
優しく、美しく、繊細に――でも、確かに強かった。
“愛は派手じゃない”と、音で証明するみたいに。
終わり ― 余韻を客席に渡す
最後の和音。
語尾を削る。
余韻はホールがやる。
音が消えたあと、
ほんの一瞬だけ、何も起きない。
沈黙が、拍手より先に来る。
その沈黙が、いちばん怖くて、いちばん嬉しい。
そして――
拍手が、波みたいに押し寄せた。
郷子の胸が、熱くなる。
温也の肩が、ふっと落ちる。
舞台袖に戻った瞬間、先輩が短く言った。
石井先輩
「……言い過ぎんかった。ええ音じゃった」
田中先輩
「金管、語尾よう我慢した。ホールが鳴らしてくれた」
佐伯先生
「よし。
“永久の愛”を、泣かさんで立てたな」
温也
「……ボケ、ppで抑えました」
郷子
「最後、mpまで上がりかけとったけどね」
周囲:くすっ、からの小さな笑い。
その笑いが、今日の演奏の“やわらかい締め”になった。
郷子は心の中で、そっと唱える。
(最初の一秒=挨拶)
(最後の一秒=握手)
(そして、扉を開けて立つ)
同じ時間、東京の体育館では、いずひろが“拾い”で未来をつかみに行っている。
ここでは、音で人の心を揺らしている。
どちらも、同じだ。
届くほうへ。
誰かの胸の奥へ。
結果発表 ― 金賞、そして“全国の切符”
ホールの空気が、まだ『FOREVER LOVE』の余韻をまとったまま揺れている。
舞台袖で待つ時間は、演奏中より長く感じた。
誰も大声を出さない。
出せない。
水分を一口飲む音、譜面の角が擦れる音、靴底が床を踏む音。
全部がやけに大きい。
郷子は手のひらを見た。
汗で少しだけ光っている。
温也は、その横で指先を動かしていた。
スライドを動かすみたいに、落ち着くための癖。
郷子
「温也くん……うち、今、心臓がドラム叩きよる」
温也
「そらええやん。今日は打楽器が語らん分、郷子が鳴っとる」
郷子
「鳴らんでええやつ!」
二人が小さく笑った、その瞬間。
アナウンスが、ホール全体に響いた。
「結果を発表します。――金賞……」
息が止まる。
「山口農林高校!」
一拍。
次の瞬間、袖が崩れるみたいに沸いた。
「やった!!」
「うそ、ほんま!?」
「金賞!!」
郷子は声が出なかった。
出たのは、ただ息だけ。
肺から抜けた息が、震えの形になっていく。
温也は一瞬だけ固まって、次の瞬間、拳をぎゅっと握った。
温也
「……やった。ほんまに、やった」
郷子
「……うち、今、泣きそう」
温也
「泣いてええ。これは泣くやつ」
そこへ、さらに続きが来る。
「続いて――中国地方予選、代表推薦校を発表します」
袖が、もう一段静かになる。
さっきの歓声が、喉の奥に引っ込んでいく。
郷子は背筋を伸ばした。
先生の言葉を思い出す。
(泣かせに行くな。立って鳴らせ)
“立った”
でも――届いたかどうかは、ここからだ。
「代表推薦――山口農林高校!」
今度は声が出た。
「うわぁぁぁ!!!」
「全国!!!」
「代表や!!!」
郷子は、両手を胸の前でぎゅっと握った。
温也は、思わず郷子の肩をぽん、と叩いてしまって、すぐに引っ込めた。
温也
「……扉、開いたな」
郷子
「開いた。……開いたよ」
佐伯先生が、いつもより少しだけ柔らかい声で言った。
佐伯
「よし。
全国や。――でも浮かれるのは、帰ってからにしろ」
温也
「先生、今いちばん浮かれたい顔しとる」
郷子
「温也くん、ボケppじゃなかったん?」
温也
「今はffでいく。全国決定ff」
周囲:爆笑と拍手。
記念写真 ― “最初の一秒=挨拶、最後の一秒=握手”
部員たちが並ぶ。
賞状、代表推薦の札、金賞のカード。
カメラマンが声を張った。
「はい、笑ってー!」
石井先輩
「笑いはええけど、姿勢は整列! “音で敬礼、笑いで整列”!」
温也
「敬礼の角度、全国仕様でお願いします」
郷子
「全国仕様ってなんね!」
笑いながら、全員が息を合わせて、ほんの一瞬“無音のハミング”みたいに表情をそろえる。
シャッター音。
その一枚に、今日の全部が閉じ込められた。
速報 ― いずひろにも“全国の切符”を報告
会館を出た夕方、外の空気が少し冷たく感じた。
郷子はスマホを握りしめる。
郷子
「温也くん、いずひろに言わんと。
今、絶対戦っとるやろうけど……言いたい」
温也
「言おう。
“届いた”って報告は、早いほどええ」
グルチャの通話ボタン。
発信。
数コールのあと、画面が繋がった。
東京の宿舎っぽい背景。
汗で髪が少し乱れた泉と、ひろが映る。
泉
「うわ!兄ちゃん! 郷子さん! どしたん!?」
郷子
「聞いてぇ……うち、今日……」
温也
「金賞。代表推薦。全国決まった」
一瞬、画面が止まったみたいに静まって――
泉
「……えっ、マジ!? うそやん!!」
ひろ
「うわ……すごい! おめでとう!!
ほんまに、届いちょるじゃん!」
郷子は笑って、でも目が熱くなった。
郷子
「ありがとう。
そっちも、絶対……届くほうへ行ってよ」
泉
「当たり前や。
うちら、今“拾い倒しモード”やからな!」
ひろ
「今日の勝利で、瀬野八も順調じゃ」
泉
「まだ言うとる!!」
四人の笑い声が重なって、通話の向こう側まで温度が上がる。
郷子は最後に、はっきり言った。
郷子
「全国で会おうね。
音でも、シャトルでも。――同じ切符で」
泉
「会おう。
うちら、先に東京で待っといたるわ!」
ひろ
「いや、泉、待つんは運営さんじゃ」
泉
「細かいわ!」
金賞。
中国地方予選突破。
そして――全国大会出場決定。
“永久の愛”は、音になって届いた。
届いたから、次の扉が開いた。
同じ頃、東京ではいずひろが、まだ汗の中で未来を拾っている。
全国はもう、“遠い場所”じゃない。
もう、同じ地図の中にある。
(最初の一秒=挨拶)
(最後の一秒=握手)
(そして、扉を開けて立つ)
勝利インタビュー ― “瀬野八”が全国で通じた日
試合終了の笛。
体育館がいったん静まり、次の瞬間に歓声が爆発した。
いずひろはネット前で深く礼をして、ラケットを胸の前でコツン。
(最初の一本=挨拶)
(最後の一本=握手)
そこから、コート脇のインタビューエリアへ呼ばれる。
実況(ローカル中継)
「山口第一中の湯田泉さん、仁保宇宙くん! 激戦を制しての勝利です!
まずは率直な気持ちをお願いします!」
泉(汗だくでニヤッ)
「いやもう、しんどい! でも、めっちゃ気持ちええ!
“拾う”って、こんなに相手の心削れるんやなって勉強になりました!」
ひろ
「おい、言い方……でも、合っちょる」
会場:どっ
実況
「今日もラリーが長かったですね。勝因はどこに?」
ひろ(真面目顔)
「本務機と補助機関車の連携です。
瀬野八越えは、ひとりじゃ越えられんけぇ」
泉
「だから何の話やねん!!
全国の人、誰も分からんて!」
ひろ(ちょい大阪混じり)
「分かる人だけ分かったらええんよ。
本務機が前で“線路”整えて、補助機が後ろで押す。
それで峠を越える。……今日はそれができた」
泉
「うっわ、急にええこと言うやん……!
なんやねん、ずるいわ」
実況
「なるほど、“峠を越える連携”ですね。相手も強かったですが?」
ひろ
「強かったです。速さも球際も、ほんま全国レベルでした。
だからこそ、正面からスピード勝負してもらえてありがたかった」
泉
「せやな。
揺さぶりもえぐかったけど、ついていけたんが自信になったわ」
実況
「最後に、相手に一言あるとしたら?」
泉
「ありがとうございました!
……あと、あんまり速すぎたら、うちの心臓が部活引退します!」
会場:爆笑
ひろ
「泉の心臓、今が全盛期じゃけぇ大丈夫。
相手の皆さん、ほんまにありがとうございました」
顧問インタビュー ― “礼儀は敬礼、笑いは整列”
そこへ、顧問の先生(山口第一中バド部)がマイクを渡される。
汗をぬぐいながらも、表情は落ち着いていた。
実況
「顧問の先生、準決勝を勝ち切った今のお気持ちは?」
顧問
「相手が本当に素晴らしかったです。
球際の強さ、判断の速さ、全国の中でもトップレベルでした。
その相手に、最後まで食らいついたことが一番の収穫です」
実況
「いずひろペアの強みは?」
顧問
「“拾い”です。
ただ返しているんじゃなくて、返しながら相手の体力と選択肢を削る。
あれは練習の積み重ねですね」
泉(横から大阪弁で小声)
「先生、めっちゃ真面目や……」
ひろ(小声・山口弁)
「ここ、真面目ゾーン」
顧問(急に一段だけ口角が上がる)
「ただ一点だけ困っているのは……
この二人が“本務機と補助機関車”と言い出してから、
チーム全体が鉄道用語みたいになってることです」
会場:ドッ!
実況
「先生も把握されてるんですね!」
顧問
「ええ、把握してます。
今朝も『先生、今日は勾配きついです』とか言われました。
体育館に勾配はありません」
泉(大阪弁)
「先生ぇ! それ言わんといて! 全国で恥ずかしい!」
ひろ
「もう遅い」
顧問
「でも――それでいいと思っています。
真剣にやるからこそ、笑いで整える。
礼儀は敬礼、笑いは整列。
相手へのリスペクトがある限り、笑いは武器になります」
実況
「素敵なお話です。最後に決勝へ向けて一言!」
顧問
「相手も強い。
だから、最後まで“挨拶して、握手して帰る”。
勝っても負けても、それが全国で通じる一番の強さです」
泉
「先生、急にかっこよ…!」
ひろ(山口弁)
「決勝も、やるだけじゃ」
客席 ― 家族と先輩たちの“応援合戦(静かにうるさい)”
津留美&本山先輩(ボケツッコミ応援)
客席の端で、仁保津留美は立ち上がりそうになるのを必死にこらえていた。
隣には本山先輩。応援タオルを首にかけ、妙に落ち着いた顔。
津留美
「ひろ、拾えぇぇぇぇ……! いや今の拾い、神ぃぃ……!」
本山先輩
「津留美、声。全国。全国は“心で叫ぶ”や」
津留美
「心で叫びよるけぇ! 心が爆音なんよ!」
本山先輩
「じゃあ心の音量下げて」
津留美
「無理!」
(周囲の保護者がクスクス)
最後のポイントが決まった瞬間、津留美は両手で口を押さえて泣いた。
その横で本山先輩は、こっそりハンカチを渡して、普通に鼻をすする。
本山先輩
「……俺も、ちょい泣く」
津留美
「先輩、そこはボケてよ!」
本山先輩
「無理。今日は真面目回」
泉の両親(湯田光・瑞穂)
湯田光は、拍手の合間に何度も「すごいやん……」と呟いていた。
瑞穂は涙をぬぐいながら、でも笑っている。
瑞穂
「泉、あの子……前で、ちゃんと守ってる。
前に出るの、怖いはずなのに」
光
「二人とも、凄いねぇ。
お父さんもお母さんも吹奏楽部やったけど、全国なんて夢のまた夢やったよ。
……それを、うちの子がやってる」
瑞穂
「帰ったら、いっぱい食べさせちゃろ。
勝っても負けても、体が一番じゃけぇ」
光
「でも……今日は勝った。
よくやった。すごいやん」
二人は拍手しながら、目線で何度もコートを追っていた。
“見守る”って、こういうことなんだな、と分かる表情で。
ひろの両親(仁保和夫・美野里)
仁保和夫は、試合中ずっと背筋が伸びたままだった。
美野里は手を握りしめ、点が入るたびに小さく頷く。
和夫
「……よう粘ったなぁ。
あれは簡単に真似できん拾いじゃ」
美野里
「ほんま。
相手の速さに合わせて、焦らんで……“戻って、整えて”ができちょる」
和夫
「……ひろ、ええ顔しちょる。
勝ち負けやなくて、“やり切る顔”じゃ」
美野里
「帰ったら言おうね。
“お疲れさん、よう頑張った”って」
和夫
「うん。まずはそれじゃ」
勝利が決まった瞬間、和夫は一度だけ拳を握り、すぐにほどいた。
美野里は、その横で泣き笑いのまま拍手を続けていた。
インタビュー終わり ― “決勝へ”の合図
泉はマイクを返しながら、ひろの肩を軽く小突いた。
泉
「なぁ、決勝も“瀬野八”言うん?」
ひろ
「言う。合言葉じゃけぇ」
泉
「ほな、うちも言うわ。
“本務機、湯田泉。出発進行!”」
ひろ(ちょい大阪混じりで笑う)
「……それ、全国でやったら怒られるかもしれん」
泉
「怒られたら、先生が『体育館に勾配はありません』言うてくれるわ」
ひろ
「先生、巻き込むな」
二人は顔を見合わせて、笑った。
真剣で、ふざけてて、でも礼儀は絶対に外さない。
(最初の一本=挨拶)
(最後の一本=握手)
――決勝へ。
次の峠は、もっと




