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トレイン&スポーツラブ~山口で出会った二人のラブストーリー  作者: リンダ
ドタバタラブコメディー開幕

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80/87

山口県中学選手権大会決勝

山口県中学選手権 決勝 ― “届くほうへ”の一本


アナウンスが反響する。

「ミックスダブルス決勝戦、山口第一中(女子)仁保 泉・(男子)仁保 宇宙ひろ 対、徳地中(男子)宮村 空・(女子)谷口 遥——入場!」


二人はラケットを胸の前でコツン。

泉「最初の一本=挨拶」

ひろ「最後の一本=握手。――いくで」


第1ゲーム


序盤、徳地中の“緩→急→緩”の揺さぶりに対して、いずひろは二拍我慢で受け、一拍返しで前に置く。

ひろ「逆斜め、空ける!」

泉「前、任せた!」

泉の無音ヘアピンがネット際で止まり、相手が一歩遅れる。

21–17、いずひろ先取。


第2ゲーム


宮村のドライブが火を噴き、谷口が読みの速いカバー。

「吊って、落として、刺す」を同フォーム三択で畳みかけられ、流れが徳地へ。

18–21、徳地が取り返す。


ファイナルゲーム


会場が静まる。

ひろ(小声)「泉、要所で一発。タイミングは任せる」

泉「任されましたぁ。……二拍我慢、からの——」


スコアは並走:8–8、12–12、17–17。

ラリーが50往復に達した一本、ひろが床すれすれを拾い切る。

泉「いま!」

ピース・ドロップがネットテープすれすれに落ち、相手届かず。

19–17。


マッチポイント。

ひろはわざと高いロブで時間を買い、戻り際にもう一球を吊る。

相手が前に詰めた刹那——

泉「――置く」

無音。止まる。落ちる。


21–18。いずひろ、優勝。


笛が鳴る。

沈黙のあと、歓声。

二人はネット越しに礼をし、ラケットをもう一度コツン。

(最後の一本=握手)


表彰式後・優勝インタビュー ― “夫婦漫才(仮)”開演


司会(ローカル局):

「山口第一中・いずひろペア、県大会初優勝おめでとうございます! まずは率直な気持ちを」


泉(満面の笑み):

「ありがとうございます! え〜、ひと言で言うと……刺しました!」

会場「おお〜!」

ひろ「ちょっと待て。言い方や。勝ったのは事実やけど、物騒やねん」


司会「“刺した”というのは、例の“ピース・ドロップ”のことですね?」

泉「そうです! 見せびらかさんで、要所で一発。今日はよう刺さりました!」

ひろ「“刺さりました”言うな。“決まりました”でええやろ!」


司会「試合のキーポイントは?」

ひろ「二拍我慢→一拍返し。それから“合図”を半拍前に出すことです」

泉「あと、蚊対策!」

ひろ「なんで今ここで蚊!?」

泉「わたし、試合で刺すより蚊に刺されとるっちゅうねん!」

会場:ドッ

司会「ここでも出ました! “蚊に刺され案件”」

泉「今日は本番前に蚊取り線香×ミントのダブル。会場が夏祭りの匂いになりました!」

ひろ「すんません会場の皆さん……でも効きました」


司会「合図“最初の一本=挨拶/最後の一本=握手”は?」

泉「もちろんやりました! 最初の一本で“おはよう”、最後の一本で“ありがとう”。音は出さんけど心で声出しです」

ひろ「それが落ち着きになります。焦ったら“届くほうへ”だけ思い出す」


司会「優勝まで支えてくれた人へ」

泉「まずはコーチ、先輩、チームのみんな。あと小町!」

ひろ「猫の名前言うん早いねん」

泉「家のニャンコです。朝、しっぽでパタパタして起こしてくれたんで、スタートダッシュ成功しました!」

会場:爆笑

司会「猫アシスト!」

ひろ「実はそれ、寝不足の原因でもある」


司会「最後に、次の目標を」

泉(客席に向かって):

「中国大会でも、見せびらかさん一発で届くほうへ刺しま……決めます!」

ひろ「今“刺す”言いかけたよね!」

泉「言ってへん言ってへん! “決める”言いました!」

司会「夫婦漫才のテンポ、今日いちばん速いですね!」

ひろ「夫婦ちゃいます固定ペアです!」

会場:大拍手


司会「いずひろペア、初優勝おめでとうございました!」

二人「ありがとうございました!」

(深々と礼。退場の足音はBPM=80。客席も思わず同じテンポで拍手)


楽屋裏・ミニ後日談


葵(主将)「おめでと! 最後の二本、鳥肌立った」

未央「“蚊取り線香×ミント”の情報は要る?」

泉「提供します。夏の県大会・必須装備です!」

ひろ「公式ガイドに載らんから!」


藍(山口西高)「一年でここまで来たの、ほんま誇ってええ」

歳也(高田高)「次は“笑いの精度”じゃなくて“配球の精度”上げてこ」

泉「両方やります!」

ひろ「そこは譲らんのね」


村田コーチ「合図は武器、間は心。中国大会は“見せびらかさん”で刺……決めろ」

泉・ひろ「はい!」


二人、ラケットをもう一度コツン。

(最初の一本=挨拶)

(最後の一本=握手)

(そして、届くほうへ)


優勝記念の写真に、猫の小町スタンプがそっと押された——“判定:合格”。



中国大会・本番 ― 「音で敬礼、笑いで整列」


(郷子=山口弁ver.)


第一章:集合 ― “BPM=80で遅刻防止”


朝7:40、岩国市文化会館・裏口。

山口農林高校吹奏楽部、集合の号令。

郷子(Tb)はケースを肩に、点呼票を片手に小走り。

温也(Tb)は、その後ろでパンを片手にちぎりながら追い越していく。


郷子「ちょ、温也くん! 本番の朝にパンをタンギングみたいに食べんでよ!」

温也「朝ロングトーンや。“モグモグ→ブレス→モグ”の三連符やで」

郷子「食べるか吹くか、どっちかにしぃや!」

周囲:クスクス


石井(Tb・3年)「一年、ウォームアップはBPM=80で集合。笑いはBPM=0な」

温也「笑いは無音ロングトーンでお届けします」

郷子「無音でもボケんでええけぇ!」


第二章:くじ引き ― “一番はイヤ、一番は好き”


舞台袖。各校代表が抽選箱に手を入れる。


石井「郷子、頼んだ。縁起のいい番号、引けよ」

郷子「ほい、まかせて。ええ数字、引いてくるけぇ!」(ガラガラ…ポン!)

係「出ました――5番!」


温也「ドやな」

郷子「なにそれ、“ハ音記号くじ”け?」

田中(Tp)「5番は悪くない。響きが回りきる時間が取れる」

佐々木(Perc)「搬入も余裕できる。勝ちくじやな」

郷子「ほいじゃあ、運も味方しちょるね!」


第三章:リハーサル ― “ボケはpp、音はmfで”


小ホールでの最終バランスチェック。

佐伯「ロングトーン、B♭。吸って、吐いて。語尾を削れ。余韻は会場がやる」

温也「語尾削ります(※ボケは残します)」

郷子「ボケのほう削りんさいよ!」


田中(Tp)「“Forever Love”は呼吸で和音を持ち上げろ。押すな」

石井(Tb)「Tbは“扉を開ける動作”や。開けて、そこで立て」

温也「了解、開けて立つ。突っ込むのは郷子」

郷子「突っ込むんじゃなくて吹くんよ、ちゃんと!」


第四章:本番 ― “Forever Love、扉を開ける”


暗転。場内アナウンス。

「続いて、山口農林高校。自由曲『Forever Love』(X JAPAN)」


静寂。B♭ロングトーンがホールを包む。

ホルンが旋律を置き、クラリネットが細い糸を紡ぐ。

Tbセクション、温也がまっすぐ息を送る。

郷子は横目でうなずきながら、音を重ねる。


サビ前。ティンパニが静かに地を揺らす。

郷子のベルがわずかに上がり、空気を持ち上げる。

温也、扉を開けて立つ。


サビ。

泣かず、叫ばず、ただ立っていた。

——それだけで、十分に鳴る。


第五章:袖 ― “音でボケるな”


戻った瞬間、全員の肩がふっと落ちる。

佐伯「よし。言い過ぎなかった。“Forever Love”、大人やったな」

田中(Tp)「金管、語尾よう我慢した」

石井(Tb)「一年、上出来や」

温也「わい、ボケppで抑えました」

郷子「終盤mpまで上がっとったけどね!」

周囲:爆笑。


郷子「でもなぁ、うちら、ほんと“扉開けて立っちょった”感じしたねぇ」

温也「それ次の部訓や。“開けて立て”」

郷子「なんか標語みたいじゃけど、悪くないね」


第六章:講評 ― “語尾を削る勇気”


審査員講評。


審1「金管の語尾処理が秀逸。響きを客席に委ねる勇気がある」

審2「呼吸でテンポを運んだ。打楽器は語らず、でも心拍を支えていた」

審3「“Forever Love”を泣かせず、立っていた。その姿勢が音に出ていた」


郷子「うれしいねぇ…ちゃんと伝わっちょったんじゃね」

温也「“余白”が褒められたら勝ちや」

郷子「その余白にボケ書かんでね!」


第七章:結果発表 ― “拍の間に祈る”


アナウンス「金賞……山口農林高校! 代表推薦……山口農林高校!」


「やったぁ!」

郷子が小さく両手を握りしめる。

温也「代表や! 扉、開いたで!」

郷子「うちら、立ってた甲斐あったねぇ!」

石井「写真いくぞ。“最初の一秒=挨拶、最後の一秒=握手”!」

全員で息を合わせてハミング。

——シャッター音。


第八章:打ち上げ ― “ボケppで乾杯”


芝生でスポーツドリンクを掲げる。


田中「代表、おめでとう。音で敬礼、貫いたな」

佐伯「次は“語らぬ勇気”をもっと磨け」

温也「“語らぬ勇気”、ボケppのことや」

郷子「ちゃうちゃう、それは別もんじゃけぇ」


佐伯「でも“笑いがppで流れる”のはええ。場がやわらぐ」

郷子「“笑いで整列”、じゃね」

温也「それ、今日いちばん名言や!」


夕立の匂い。群青の空。

ケースを肩に並んで歩く二人。


温也「なぁ郷子、次の本番、わいMC(漫才コンダクター)やるわ」

郷子「コンダクターは先生やけぇ、あんたはボーン吹きんさい。

——“開けて、立つ”んよ」

温也「了解。“開けて、立つ”!」


(最初の一秒=挨拶)

(最後の一秒=握手)

(そして、扉を開けて立つ)


音は消えても、合図は残る。

代表の証書よりも重たい“拍の間”が、みんなの胸にしまわれた。




2026年・中国大会の夕方 ― 広島バスセンター発「山口市行き」高速バス

発車ベルが軽く鳴り、車内がすうっと静まる。

郷子(高1・Tb)は窓のシェードを半分下げ、息を細く吐いた。

「……終わったね。胸、まだどきどきしちょる」

温也(高1・Tb)が通路側で、空のペットボトルのキャップを“コツン”。

「ええ本番やったで。“扉ひらいて立つ”ん、ハマったわ」

「語尾も、ちゃんと削れた気がする」

「お前の語尾、ところてん級に“スッ”。——で、腹は減る」

「今、そのたとえは反則やけぇ」

斜め後ろで、泉(中1・大阪弁)が首枕ごとコクン。

さらに奥、ひろ(中1)はイヤホン半分落としたまま夢の中。

郷子が小声で笑う。「寝顔、かわいいのう……」

温也「“ぷしゅー攻撃”言うてた人間の顔ちゃうで。天使」

「起きたら絶対つっこまれるやつや」

前列の石井先輩(Tb・3年)が肩越しに指で×。

「一年、声ボリューム。“高速バス”」

「すみません、“ボケpp”で……」

「それ、講評で褒められとらんやつ」

車窓の街がゆっくり後ろへ流れ、高速に乗る。

タイヤのうなりがBPM=80で続き始めた。

「ねぇ、山口着いたら小倉ファミリーにビデオ繋ご?」

「賛成。“代表いけました”ってな」

「言うの、わたしからでもええ?」

「もちろん。“郷子さんがどうしても言いたいそうです”って添えとく」

「人質みたいにすんなって」

ふたりで肩を小さくぶつけ合い、窓の外へ目をやる。

2026年の夕雲は薄群青。バスは山口市へ。


山口市・バスターミナル 19:35

降車。ほうじ茶の缶を“カン”。

温也が発信タップ。数コール——

画面に、美香ちゃん(中2・14歳/福岡の中学吹奏楽部・Cl)。

背後から、ちいさな笑い声が二つ近づく。

『温也くん、郷子ちゃん、泉ちゃん! おかえり〜!』

「ただいま、美香ちゃん。えっとね——」

郷子「全国いけることになりました!」

泉「代表やでぇ!」

美香の瞳が“ぱぁっ”。

『すごい……! わたしも中学のほうで“全国”決まったの。同じ会場になれるかも!』

郷子「ほんに? そねぇ……再会、決まりやね」

『うん、また一緒に——音でも笑いでも!』

と、画面の端から**光子ちゃん&優子ちゃん(4歳)**がぴょこ。

光子『こんばんはー! きょうの“ねるまえショー”は——』

優子『“ぼけ・つっこみ・きほんセット”でーす!』

温也「タイトル長編」

郷子「かわいすぎる……」

光子が色ハンカチを取り出す。

『これはなーんだ?』

優子『ハンカチ!』

『ちがう、“おやすみスイッチ”!』

優子『(真顔)……はい、ねなさい』

郷子「まだ始まったばっかりよ」

第二演目。光子が“おなか太鼓”をぽんぽこ。

優子『たいこは“おへそ ひかえめ”で——はい“ぽすっ”』

(ちいさい手で、ちいさい音)

美香『音、かわいい……』

泉(半覚醒)「破壊力やばい……」

温也「ホール鳴る笑いやないな、これ」

郷子「おなかよじれる……」

ラスト。

光子『さいご、“とどくほうへ”!』

(ハンカチをふわっと投げる→優子が受けて一礼)

ふたり『さいしょの いちびょう=あいさつ/さいごの いちびょう=あくしゅ!』

三人「「「うわぁぁ……」」」

音はないのに、ほんとに“届いた”。

温也は指先をカメラへ——音の握手みたいに。

「光子ちゃん、優子ちゃん、最高や。全国で会おな」

郷子「また“音で敬礼”しよ」

泉「“ぷしゅー攻撃”は封印しとくわ」

『それはだいせいかい〜!』(美香)

光子『みんな、がんばってね!』

優子『“がんばる まえに ねる”!』

温也「名言でた」

郷子「“ボケppで就寝”」

泉「それ、寝言がmfになるやつや」

笑いが一巡し、全員で手を振る。

『またね。——再会、たのしみにしとる』(美香)

『おやすみー!』(光子・優子)

「おやすみ〜!」

黒い画面が戻る。ほうじ茶の湯気だけが静かに消える。

郷子「……あの子ら、音の前にちゃんと“挨拶”しちょったね」

温也「せや。笑いのあと、絶対“ありがとう”。勝てへん」

泉「全国、ほんま“届くほうへ”行こな」

三人は空き缶の底をもう一度“コツン”。

山口の夜気に、低いBPMが一拍鳴った。


その夜・各家

上田家(郷子)

ドライヤーの音が止み、鏡に“今日の背伸び”が映る。

(最初の一秒=挨拶/最後の一秒=握手)

「——扉、開けて立つ。次も、ね」

湯田家(温也&泉)

金具を“カチ”。

泉「兄ちゃん、ほんま今日はおつかれ。……全国、いこな」

温也「任せとき。お前は“ピース・ドロップ”——見せびらかさんと要所で一発や」

泉「了解。試合で刺すより蚊に刺されんようにするわ」

温也「そこ封印な」


翌朝・部室と体育館(2026・初夏)

吹奏楽部(山口農林)

ホワイトボードに石井先輩の書き込み。


音で敬礼、笑いで整列。扉、開けて立つ。

・ホール最奥まで息を投げる

・中間部の透明度(Cl/Sax)

・金管mfの“品”と語尾(Tb/Hr)

・打楽器の“語らぬ勇気”


田中(Tp)がBPM=80を指で刻む。

「遅刻防止はBPM管理から!」

郷子「歩幅そろえて、笑いはppで……ね」

バドミントン部(山口第一中)

朝練。いずひろペア、シャトルを細かく刻む。

「合図は半拍前」「二拍我慢→一拍返し」

休憩に入ると、いつもの夫婦漫才。

泉「試合で刺すより蚊に刺されとんねん!」

ひろ「なら可搬型“ぷしゅー”導入」

泉「学校持ち込み禁止や!」

女子部員がケタケタ笑いながらコート交替。

「練習より笑いで汗かいた〜」「笑いも心拍上がるからアップや!」

——2026年の夏。

広島からの高速バスが運んだのは、賞状より少し大きい“合図”だった。

山口と福岡、ブラスとシャトル、4歳のぽすっまで全部まとめて、

同じテンポで前へ進む。

(最初の一秒=挨拶)

(最後の一秒=握手)

——再会の合図は、もう胸の中で鳴りよる。

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