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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
中級冒険者の章

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閑話 未知との遭遇


「どうしたの七海、もうホームシックになったの?」


「……いえ、そんな事ないです」


「そう? 愛しのユウタさんに会えなくて寂しいって顔に出ていたわよ。お正月が終われば家に帰れるのですから、あなたも天王寺としての務めを果たしなさい」


「はい、紫苑様」


 ユウ君と離れ離れになってやってきたハワイのホテル、親族や関係者が大勢集まるこのビッグイベントで今年は紫苑様のお付きという大役を仰せつかった。去年まではずっとお母様が担当していたというのに、これもきっとユウ君というイレギュラーな存在がもたらす未知のアイテムのお陰だろう。


 紫苑様の後に続きパーティー会場に足を運ぶと、親戚はもちろんのこと、世界各国の招待客が挙って挨拶にやってくる。


「紫苑様のお陰で息子の眼が治りました。もう紫苑様には頭が上がりません」


「うちの母も歩けない程に痛めていた足が治りましたの。さすが天王寺の技術力は世界一ですわね」


「お陰様で例のウイルスの後遺症がサッパリ無くなりました。ありがとうございます紫苑様!」


 ここに来ているのはユウ君が持ち帰ったアイテムの実験台であり、天王寺家を古くから支える忠臣だ。口が堅く絶対に口外しないという者だけに与えた恩恵である。


 ユウ君が持ち帰ったアイテムの中でも『目薬』と『解毒剤』、『回復薬』は絶大な効果を発揮していた。目薬を点せば視力がたちまち回復し、盲目の人でも一滴で完治してしまう恐ろしいまでの薬効だった。同じように解毒剤はガンや治療方法の確立していない難病さえ治し、回復薬は歩けない人間も歩けるまでに回復させてしまった。


「元気になって良かったわ。でも口外してはダメですよ。あれはまだ偶然の産物であり量産の目途も立っていないのですから」


 紫苑様が平然とした顔で嘘を吐いた。薬の効果が凄すぎて世間には発表出来ないのだからしょうがない。現代医療では決して得られない効果をもたらす未知のアイテム、それが知れ渡ったら戦争が起こるだろう。


 来賓の相手をしていると聞かれるのは二つ。一つは例の薬の事。そしてもう一つは……。


「まぁまぁ! 紫苑様は綺麗になられて一体どうしたのかしら? それに七海さんも眩しいくらいに美しいわ」


「何か秘訣があるのでしょう? 是非ご教授頂きたいですわ~」


 誰と会っても若々しくなったと褒められる紫苑様は満更でも無さそうだった。私もユウ君の彼女として少しでも綺麗でいたいという気持ちは良く分かる。


 紫苑様の場合は上級回復薬でお肌をパックしたり、飲んだり、終いには浴槽に並々と注いで全身を浸かって贅沢三昧なのだ。ユウ君の話ではケガをしていない状態で回復薬を使っても問題ないらしく、逆に最大HPが増えるというメリットがあると言う。実は私もユウ君から貰った回復薬をコッソリと愛飲中である。




   ◇




 一通りの挨拶が終わり、紫苑様と二人で休憩していたときの事である。


「ねえ七海、あの宇宙に出現した謎の宇宙船みたいなものはユウタさんと関係があるのかしら?」


 紫苑様と二人きりな控室でお酒を頂きながら談笑していると、今話題の宇宙に浮かぶ謎の宇宙船について聞かれた。


 一番初めにその存在を見つけたのはアメリカだと言う。天王寺宇宙開発センターでも存在を確認しているその物体、円筒形の巨大な宇宙船のように見えるそれは誰もが気になるものだった。…………ユウ君は気付いてないっぽいけど。


「確証はありませんが、ダンジョン関係ではないかと思います。ユウ君の話ではスペースコロニーという特殊ダンジョンがあると聞きました」


「へぇ、特殊ダンジョンね。そう言えばあなたの腕輪もそこで入手したって言ってたわね」


 銀色に輝く腕輪、ユウ君の話ではスペースコロニーで入手したバリアシステムという盾だという。これがあれば銃で撃たれても大丈夫らしい。この腕輪を触るとユウ君を感じるような気がした。


「…………はぁ。こんな事ならユウタさんも連れてくれば良かったわね。でもユウタさんは抜けてるからポロっとアイテムの事とか言ってしまいそうで心配だったのよ。ごめんなさいね、七海」


「いえ、大丈夫です。でもユウ君のそんなところも可愛くて好きです」


 確かに紫苑様の言う通り、ちょっとした弾みでポロっとお漏らししてしまうかもしれない。


「…………はぁ。本当にアレは何なのかしら。今のところ動きもないようだけど、もしアレが地球を攻めて来たら大変な事になるわよ……。それにもし他国があの力を手に入れたりでもしたら……はぁ」


 スペースコロニーが出現してから紫苑様は溜息を吐く回数が増えた。例えば隣の大陸、例えば海の向こうの大国、バリアシステムのような超常現象を引きを超す未知の力を手に入れた国がそれを使ってどうするかなんて想像しただけで胃が痛くなる。きっと紫苑様の下へも政府から相談が来ているのだろう。


 紫苑様が小さなスキットルを取り出して中身を飲みだした。あれはウイスキーではなく上級回復薬である。胃痛にも効果的だと言っていたがそれは嘘だろう。あの紫苑様が胃痛で悩まされるはずがない、きっと美容のためだ。


 そんな中、二人しか居ない部屋の中で鈴の鳴るような声が聞こえて来た。


「歓談中お邪魔するわね。私はルナ、いま貴方達が話していたスペースコロニーのトップと言えば話が早いかしら?」


「っ!?」


 声のした方を向くと赤いドレスを着た銀髪の美少女が腕を組んで偉そうに立っていた。その姿はユウ君が変身魔法で変身した姿と瓜二つであり、紫苑様と同じような支配者のオーラを感じるに、スペースコロニーのトップという話を信じるには十分な説得力であった。でもユウ君からルナと名乗る人物とは偶然街で会ったと聞いていた。迷子になっているところを助けたと言っていたはずなのだ。これは詳しく聞く必要がありそうだと思った。


「あら、まさかトップの方が直々に会いに来てくれるなんて思わなかったわ。歓迎しましょう、どうぞこちらへ」


「ええ、失礼するわ」


 顔色一つ変えずに優雅に席へ案内する紫苑様はやはり凄い人なのだと実感してしまった。




   ◇




 簡単な自己紹介をした後、紫苑様がジャブを放った。


「ルナさん、貴方がスペースコロニーのトップという話だけど……何か証拠を見せてくれないかしら」


「ふふ……証拠ね。どんな事をすれば信じてくれるのかしら? こんな風に機械の体を見せたくらいじゃ信じてくれないのでしょう?」


「っ!?」


 そう言ったルナという美少女が首から頭を外してテーブルの上に置いてしまった。首の断面には機械の接合部が見え、テーブルの上に置かれた頭が瞬きをしながら話している。


 それを面白そうに見た紫苑様がとんでもないことを言い出した。


「ルナさんがアンドロイドというのはよ~く理解しました。そうねぇ……例えば、お隣の国が打ち上げた衛星を打ち落としてくれないかしら? 最近ちょっと威張って癇に障るのよね~」


「あらそんな簡単な事でいいの? お安い御用ね」


 頭を元に戻しながらそう言ったルナの横にディスプレイが浮かび上がった。その映像には各国が保有する軍事衛星が映し出されていた。そして次の瞬間、瞬きする間の短い時間でそれらが跡形も無く消え去ってしまった。残骸も残さぬ程に綺麗サッパリと……。


「ふふ……お隣の国っていうのがどれの事か分からなかったから全部壊しておいたわ。安心して頂戴、ユウタの居る日本は守ってあげるわ」


「は、ははは、あはははは! 貴方もユウタさん絡みなのね。うふふ、やっぱりあの子は面白いわね」


「…………っ!」


 紫苑様がお腹を抱えて笑っていた。今頃は世界中が大変な事になっているだろう。何せ宇宙からの侵略者である。


 だけど私はそれよりも気になる事があった。私のユウ君とこのルナという女性の関係だ。


「あ、あのっ! ユウ君は私のです! いくら脅されても渡したりなんかしません!!」


 ああ、言ってしまった。私もユウ君の事を思うと我慢出来なくなる。ビアンカという悪魔だけならまだ我慢出来るが、このルナという美少女までもユウ君を魅了するとなると我慢出来なかったのだ。


 そんな私を見てクスクスと笑うルナという美少女、どうやら見た目とは全然違う歴史(ねんれい)を感じた。これがスペースコロニーを支配して来た猛者であり、ダンジョンのボスなのだ。


「貴方がユウタの言っていた七海さんね。へぇ……貴方からユウタの匂いがプンプンするわ。余程愛されているのね、嫉妬しちゃうわ」


「うぐっ、それは今は関係ありません! ユウ君は渡しませんから!」


 余裕の態度を見せるルナに勝てないと思ってしまったその時、黙って見守っていた紫苑様が話し出した。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ルナさんは遠路はるばる七海に宣戦布告をしに来たのかしら?」


「あらごめんなさい。そんなつもりは微塵も無いのよ七海さん。実は折り入って相談があって来たの」


「相談ですか? ユウ君はあげません!」


「ちょっと七海、落ち着きなさい。ごめんなさいねルナさん、この子ったらユウタさんの事となるとすぐに熱くなってしまうのよ」


 紫苑様の手が私の腕をギュッと握った。手の跡が残りそうなくらい強い力に私は冷静さを取り戻した。もしかしたら紫苑様もそこまで余裕がないのかもしれない。


「すみませんルナさん、ちょっと取り乱しました……」


「ふふ……これくらいどうって事ないわ」


 そうして宇宙を超えた初の会談が始まった。


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