第106話 隠しダンジョン攻略?
「どうやら私、ユウタの事が好きになっちゃったみたいなの。だからこうして会いに来たのよ」
ルナ様から伝えられた衝撃の告白にボクは思考がフリーズしてしまった。これはドッキリだろうか? テレビから流れる年末恒例の笑ってはいけないシリーズ最新作のせいでラブコメよりもドッキリに思ってしまうのだ。きっとここで真に受けたらデデーンという音の後、ビアンカちゃんから『おにーちゃんアウト~♪』って言われてお仕置きされてしまうに違いない。
動揺したボクは周囲を見渡した。ルナ様は恋する乙女のような顔でボクを真剣な表情で見つめ、ビアンカちゃんはワクワクドキドキな感じで見守っていた。そしてチロルはビックリしたのか極上のトロをポトリと口から落としていたのだった。
「その……ボクに会いにですか? コスメセットじゃなくて……?」
予想もしていなかった告白に、ボクは思わずコスメセットの事を話してしまった。やばい墓穴掘った!!
「ふふ……確かにコスメセットも大事だったけど今はユウタの方が大事だわ。アンドロイドである私は人間に奉仕するために生まれて来たの。わかるでしょう? 私はあなたを選んだのよ。ダメダメなあなたをお世話したい、甘やかして私無しじゃ生活できないくらいにドロドロにしてあげたい……ずっと傍に居たいからこんな辺境の惑星にまで来ちゃったのよ。責任取ってよね?」
「……っ!?」
これはもしやボクの称号『理想のヒモ生活』が影響しているに違いない! きっとその称号のせいでボクからダメ男フェロモンが漏れ出ているのだろう。ボクはダメ男じゃなくてしっかりとした成人男性だからね、本来はそんなダメ男フェロモンなんて出るはずがないのです。
ダンジョンと関わってからボクの女性運が限界突破しているような気がする。七海さんという素敵な彼女が出来たし、ビアンカちゃんという美少女とも知り合った。そして今度はルナ先生ですよ。
確かにあの日体験した授乳プレイは得難い体験だった。七海さんともビアンカちゃんとも違う、ボクを甘やかそうとする母性を感じる良いプレイでした。でもそうか、アレのせいでルナ先生は母性本能に目覚めてママさんになっちゃったのか。ふふ、ボクも罪な男になったものだな。
だけどここで何も考えずに『これからもボクのママになって下さい!』って言った途端にデデーンというミュージックが流れるだろう。そしてビアンカちゃんにイジメられちゃうのだ。ボク知ってるんだから!
「えっとぉ、ルナ様の気持ちはとても嬉しいですけどぉ、ボクには七海さんという素敵な彼女が居るからごめんなさいー!!」
ボクはビシィっと頭を下げました。これがハーレムラブコメなら美味しく頂いちゃうところだけど現実だからね。七海さんが居ない間にルナ様と浮気したらどんな事になるか想像するまでもない。ローションガーゼは封印です。いいですね?
それに現状ではビアンカちゃんという死後の伴侶までいるのです。そりゃあルナ様に甘やかされる生活というのに憧れないと言ったら嘘になる。でもそれとこれとは別です。初めて会うのがルナ様だったというIFストーリーがあったらボクはどうなっていただろうか。妄想すると楽しそうだ。
せっかく遠くから来てくれたのにごめんなさいをするという酷い結果を心苦しく思っていたら、急にボクのスマホがブルンブルンと震え出した。表示を見ると……七海さん!?
「あはっ、おにーちゃん早く電話に出ないと~」
「ふふ……私達の事は気にしないでいいわよ。ほら、早く電話に出て頂戴」
「え、あれ、ええっ……?」
まるで予定調和のようにピンポイントで伝えられた内容にビビッてしまうが、とりあえず電話に出てみよう。
「もしもしユウタですー」
『ユウ君元気? もう今年も終わりだね。今年は残念だけど、来年は絶対一緒に年を越そうね~』
七海さんの電話はいつも通りの内容です。今日一日何があったとか、どんな事をしたとか、どういうご飯を食べたかなど、そういうありきたりな内容だ。
ビアンカちゃんやルナ様が急に話に入って来て修羅場を迎えるとかそういう事もなく、淡々といつも通りの会話を続けていたところ、急に七海さんが変な事を言って来た。
『あ、そう言えば今日からお手伝いさん来たでしょ? 実はユウ君をビックリさせたくて黙ってたんだよね~』
「えええええっ!? お手伝いさん!?」
つまりルナ様は七海さんが派遣したお手伝いさんという事なのか? いやおかしい。七海さんと夢の世界に行った事はあるけどルナ様やビアンカちゃんとの接点は皆無なはず。変身魔法でルナさんの容姿を知っているかもしれないけど、あの時ボクは七海さんにルナ様の事を何て伝えたんだっけ? たまたま街で会った外国人とか言ったような気もする。
『あれ、来なかった? ルナさんっていう外国人だよ。ユウ君には色々とお世話になった親しい間柄って聞いたから雇ってあげたの。ほら、私達って二人とも料理や家事が苦手でしょ? 前々からお手伝いさんに来てもらおうと思ってたんだよね~』
やばい混乱してきた。目の前でニヤニヤしているルナ様は七海さんと何か交渉でもしたのか? それとも天王寺家と取引したのか!? ああ、ボクの賢さじゃ全然理解出来なかった。
そんなボクでも分かる事が一つだけある。ルナ様は全ての外堀を埋めて今日ここに来たのだ……。ボクに拒否するという選択肢はないのだった。
「えっと、急に来たのでビックリしましたけど、美味しいお鍋をご馳走になってます。一人だったらカップそばで済まそうと思っていたので助かりました」
『ふふふ、やっぱりね~。ルナさんに無理言って正解だったかな。また来年も宜しくねユウ君、愛してるよ』
「えへへ、ボクも大好きですよ~」
そうして今年最後の彼女との電話が終わった。
ため息を一つ吐いて前を向けば、もうお前に逃げ場はないぞというプレッシャーをルナ様から感じる。どんな魔法を使ったのか知らないけど、七海さんという外堀を埋められビアンカちゃんという壁を乗り越えたルナ様がボクの前に辿り着いた。もう腹をくくるしかないな。テレビから聞こえて来るデデーンという音が恨めしい。
「分かりました。でもボクは七海さんを愛しているんです! そりゃあビアンカちゃんやルナ様が嫌いな訳じゃなくて、好きですけど、その~、やっぱりボクは七海さんを最優先に考えてしまうので……」
最低な浮気野郎のような返事をするボクを嬉しそうに見つめるルナ様とビアンカちゃんが笑いながらボクの両隣に移動してきた。まるで逃がさないという強固な布陣に退路を塞がれてしまったようだ。
「安心しなさいユウタ。彼女が一番というあなたの気持ちは最大限に尊重するって約束するわ。でも彼女が居ない今はあなたにとってもチャンスじゃないかしら?」
「チャンス……?」
ルナ様が嬉しそうにそう言って来た。
「おにーちゃんはななみんにやられっぱなしなんでしょ? サキュバスクイーンのビアンカちゃんに負けるのはしょうがないと思うけど、愛する彼女の一人も倒せないのはダメだと思うなぁ。ルナに特訓してもらってさ、ななみんをビックリさせちゃおうよ!」
「な、なんですと……?」
ビアンカちゃんが愛棒を摩りながらそう言って来た瞬間、愛棒さんが怒りのあまりビクンと震えたのが分かった。彼女の一人も満足されられない早漏野郎だと馬鹿にされてしまったのだ! これじゃあボクも早漏エルフと同じじゃないか……!
……待てよ。冷静になって考えたらルナの言うように強くなるチャンスだ。なるほど、これが少年漫画でいうところの修行パートってやつか。超強い師匠と繰り広げられる激しい修行を終えたボクは一皮剝けて強くなるのだ。なあ、愛棒!
「分かりました。ルナ様、ボクを徹底的に扱いて強い男に鍛えて下さい! それとビアンカちゃん、こんなボクだけど頑張るから応援して欲しい。強くなってビアンカちゃんも満足させられる強い男にボクはなる!!」
少年誌に出て来る主人公な感じで宣言しました。決まったな!
「ふふ……任せて頂戴。トロトロになるまで甘やかしてあげるわ」
「甘やかしてトロトロ?」
ルナ様から違う単語が聞こえて来た。強い男にするんだよね?
「きゃはっ、ビアンカちゃんも手伝ってあげるね~。おにーちゃんはそろそろ新しい快楽にチャレンジしよっか♡」
「あのあのっ、どうしてボクのお尻を触るんですかー!?」
ボクは選択肢を間違ったのかもしれない……。
『ニャフフ、残りのお刺身は全部ミャーが頂くから気にせず行って来るニャン。もちろん片付けも任せろニャー!』
ルナ様とビアンカちゃんに腕を組まれボクの寝室に連れて行かれる後ろから、そんなチロルの言葉が聞こえたような気がした。
◇
除夜の鐘が煩悩の数だけ鳴り響く頃、とあるベッドの上では消えぬ煩悩の限りに腰を打ち付ける男がいた。
「んっ、その角度じゃないわ、もっと上を狙って腰を突き出すのよ」
「こ、こうですか? でもでも、この角度はボクにもダメージが……って、ビアンカちゃんダメですっ、そこは指を入れる場所じゃないですよぉー!」
「えー、な~に~? ビアンカちゃんには聞こえませ~ん」
既に何度も力尽きているが、時魔法というチートにより復活を果たしていた。
「あっあっ、らめっ、もう無理っ、ルナ様無理ですーっ」
「ふふ……遠慮しないでいいわよ。全部受け止めてあげるから一番奥で出しなさいな」
「おおお!? すごいビクンビクンしてる~。おにーちゃんすごーい!」
勇者ユウタは力尽きる寸前、最後の力を振り絞って腰を突き出した。機械仕掛けのダンジョン最奥に眠るダンジョンコア目掛けて攻撃したのだ。普通の冒険者では永遠に届かない場所、永遠に訪れる事のなかった事象に世界が震えた。
その夜、新年を祝う世界各地の冒険者の脳裏にメッセージが浮かんだ。
【おめでとうございます! 中級冒険者のユウタによりスペースコロニーが完全攻略されました。以後、スペースコロニーは赤いゲートから除外されます】
誰もが驚愕するその内容も、当人は迫りくるビアンカの指に抗うのに夢中で聞いていなかったのだった。




