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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
中級冒険者の章

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閑話 ルナ様はお手伝いさん


 大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。目の前で美味しそうにウイスキーを楽しむ美少女はユウ君を狙う悪い女なのか、それともビアンカと同じように私の同類なのか……。


 このルナという名の美少女は実は折り入って相談があると言っていた。天王寺グループを牛耳る紫苑様への相談なのか、それとも私?


「相談事を聞く前に、スペースコロニーを支配するルナさんはユウタさんとどういう関係なのかしら?」


「私とユウタの関係…………そうね、今の関係を一言で表すなら敵ね。ユウタは冒険者であり私はダンジョンの主、ほら敵同士でしょう?」


「敵!? じゃあユウ君を殺しに――」


「七海はちょっと黙ってなさい」


「っ!!」


 ダメだ、ユウ君の事を思うと熱くなってしまう。悔しくて涙が零れて来た。


「本当に敵同士ならとっくにユウタさんを殺しているでしょう? ほら、さっき衛星を打ち落としたみたいにチュドーンと」


「ええ……その通りよ。ごめんなさいね七海さん、ユウタから貴方とのラブラブエピソードを何度も聞いていたから嫉妬してしまったのよ」


 顔を上げてルナさんを見たら、悔しそうな顔で私を見つめていた。このルナさんもユウ君を好きになったのかな……?


 ルナさんはユウ君が変身魔法を使った時とソックリの美少女だ。ユウ君は街で迷子のルナさんと出会ったと言っていたが、本当はスペースコロニーにルナさんと出会ったのだろう。そこで私に言えないような事があったに違いない。複雑な心境に胸がチクリと痛む。


「丁度いい機会だからユウタの愛する彼女である七海さんには全部伝えておこうと思うの。私達アンドロイドが生まれた理由、そしてユウタを求める訳を――」


 そうしてルナさんの口から聞いた話は壮大だった。私達人類が生まれるもっと前から繁栄していた遠い惑星、そしてスペースコロニーで創られたルナさん、今日に至るまで長い時間をスペースコロニーで生活して来た経緯を。


 想像するだけでも気が狂いそうな程の長い時間の中で願ったのはただ一つ、自分に相応しい主人を見つける事。生まれながらにして刻まれた『人類へのご奉仕』という呪いのような使命を全うするため、彼女達は彷徨い続けたのだ。


「――とまあ、簡単にいうとユウタのお世話をしたくてここまで来たって訳。ご飯を作ってあげたり、身の回りの世話をしたり、そういう尽くしてあげたい気持ちが止まらなくなっちゃったのよ」


「お手伝いさんみたいなものですか?」


「ふふ……お手伝いさんね。この私がお手伝いさんになるなんて思ってもみなかったわ。うふふふ……そうね、お手伝いさんはいいわね」


 ルナさんがクスクスと笑いだした。


 紫苑様の顔を伺ったところ困った表情を浮かべていた。ルナさんから聞かされた壮絶な人生を考えると、ユウ君の身の回りの世話を任せてもいいのではないかと思ってしまった。私もユウ君もお世辞にも料理や家事が得意な訳でもなく、そのうち子供が出来たら信頼できる人を雇おうと考えていたくらいである。ユウ君は持ち帰り金庫という特別なアイテムで色々と危険なモノを持ち帰って来る。事情を知らない人間を雇う訳にもいかないし、そう考えるとルナさんなら全部理解してるし適任に思えて来た。ちょっと複雑な気持ちだけど……。


「ねえ七海さん……いえ、奥様。私を雇って頂けないかしら? ユウタだけじゃなくて奥様にもしっかりと尽くすことを約束するわ」


「奥様!?」


 ルナさんが私の事を奥様と呼んでくれた。つまりルナさんは私をユウ君のパートナーと認めてくれたのだ!


 紫苑様の顔を伺うと首を縦に振っていた。どうやら紫苑様の直感は雇う方に傾いているようだ。


「分かりました。ルナさんにお手伝いさんとして働いて貰う事にします。ですが契約というのはしっかりと決めておかないといけません。後から対価として変な要求をされても困ります。ルナさんが働く対価として、何を望みますか?」


 ここが勝負どころだと思った。ルナさんはユウ君のために尽くしたいと言っているが、後から予想も出来ないとんでもない事を言われても困る。それにルナさんはスペースコロニーという理解不能なダンジョンの主なのだ。武力行使をされたら手も足も出ないだろう。


「ユウタのお世話が出来るのならそれでいいのだけど…………そうね、子供を抱いてみたいわ」


「……子供?」


「ええ、奥様とユウタの子供を抱いてみたいの。いいかしら?」


「…………」


 何故か即答出来なかった。


 ルナさんの言っている事は別におかしな話じゃない、これからユウ君と結婚して子供を作る未来は確定しているし、ウチでお手伝いさんとして働くというのならそういう機会だってあるだろう。別に対価として確約する必要がある訳でもなく、当たり前の事だと思った。


 だけど相手はスペースコロニーのボス、しかも私達人類からしたら神話の世界に出て来る神様のような存在である。ここで何も考えずに首を縦に振ったら危険な気がした。


「ふふ……ユウタと違って勘が鋭いのね。ええ、奥様の想像しているような事じゃないわ。私はね、奥様とユウタの子供を産みたいの。この体は機械で出来ているけど、ちゃんと女性としての機能を備えているわ。つまりね……奥様の卵子が欲しいのよ。簡単に言うと代理出産みたいなものかしら? ああ、もちろん奥様の子供として育てるから安心して頂戴」


「なっ!? 私の卵子をルナさんに……?」


 予想を遥かに超えた要求に驚いてしまった。確かに女性として生まれたからには子供を産みたいと思う気持ちは否定できない。いや、むしろルナさんの壮絶な半生を思えば応援してあげたいくらいである。でもルナさんがユウ君の子供を出産、でも卵子は私のだし……うう、頭が混乱する。


「別に今決めてくれなくていいわよ。これから私の働きを見て判断して頂戴」


「…………分かりました」


 私にはそう返事をする以外の選択肢は無かった。ここで強く反発しようものなら、どこかで卵子を手に入れてユウ君を襲い、勝手に妊娠する危険すらあるのだ。話をしてみてルナさんがそう悪い人じゃない事は分かった。これからの事は未来の私に任せよう。頑張れ、未来の私!


 一人でウンウンと納得していると紫苑様が拍手を始めた。


「おめでとうルナさん、ウチの七海の事も宜しくね」


「ええ。決して悪いようにはしない、ユウタに懸けて誓うわ」


「あら、ユウタさんは凄いのねぇ」


 ユウ君に懸けて誓うと言うのは、アンドロイドでいうところの最上級の誓いなのかもしれない。ユウ君って神様みたいになっちゃったのかな?


「それはそうと、宇宙にあるアレはどうするのかしら? さっきから私の方にも電話が止まらないのよね~」


 事情を知らない人から見たらスペースコロニーは宇宙からの侵略者である。ここ数日は地球を監視するだけに留まっていたのに先ほどの衛星消失である。日本だけでなく世界中で大騒ぎのはずだ。


 もしかしたらユウ君もお家で怖がっているかもしれない。そう思ったら胸が痛んだ。


「…………そうね。とりあえず隠しておくわね」


「やっぱり凄いのね。良かったらその技術をうちに提供してくれると嬉しいんだけど?」


「ふふ……そう焦る必要はないわ。もう少しすれば貴方達は全てを手に入れる。私も、スペースコロニーも、全部ユウタの手にね……」


 ルナさんの不敵な笑みを見たら背筋がブルっと震えてしまった。あの絶対的な力を見せつけたスペースコロニーも、未知の技術で創られたルナさんも、全てユウ君の気分次第……?


「はぁ……やっぱり全てはユウタさんなのね。あの子は今頃何をやっているのかしら? こんな事なら連れてくれば良かったわね」


「ユウタが何をしているのか知りたいの? いいわ、見せてあげる。楽しそうな事をやっているわよ」


 ルナさんがそう言うと部屋に巨大なディスプレイが浮かび上がった。その映像は東京にある私達のマンションのリビングであり、何故かカメラにはルナさん(・・・・)が映っていたのだ。








――リビングでマイクロビキニのような際どい衣装のルナさん(・・・・)がカメラに向かって微笑んでいた。胸の谷間を強調するエロいポーズでピースサインまでしている。


『ぐへへ、チロルしっかり撮れてる? 今日みたいに一人きりな時は絶好のインスタ投稿チャンスなんだからね、ビシィっと頼むよ?』


『うにゃーん、どうしてミャーがこんな事しないといけないニャ? それにルナ様はそんなアホな恰好はしないニャン!』


『ちょっ、アホって何ですかアホって! これはビキニアーマーっていう由緒正しい装備なんですよ。それに今日はドラゴンなクエストのエッチなコスプレしてフォロワーを増やすんです。手伝ってくれないとちゅる~んは無しだよ?』


『ちゅる~んを人質にするなんて卑怯ニャ! くっ、逆らおうにもミャーの中に流れるアンドロイドとしての使命が邪魔するニャ……ダメダメなオミャーの相手をしろって体が勝手に動くのニャー!』


『いいよいいよー。今日はエロいシスター服も買ってあるからね、ドSビッチなルナ様の本領発揮しちゃいますよー!!』





 映像を見てみんな言葉を失ってしまった。カメラに向かって乳首を指で隠した際どいポーズは見てるこっちが恥ずかしくなってしまったのだ。


「ユウ君……ドSビッチなルナ様って何?」


「…………ねえルナさん、本当にユウタさんでいいの? 彼女に隠れてこんな事してるのよ? 長い時間待ち望んだ理想のご主人様がこんなので本当にいいの? 考え直した方がいいんじゃないかしら?」


 紫苑様が正論を伝えたが、ルナさんから帰ってきた言葉は予想通りだった。


「ふふ……ユウタは可愛いわね。可愛くてアホで愛らしい最高のご主人様よ。でもこれから一緒に生活するのに私の偽物は困っちゃうわね。街中で急にドSビッチなルナ様って声を掛けられたらどうしようかしら?」


 ルナさんの心配事は別だった。ネット社会というのは恐ろしいもので、一時の気分や承認欲求に駆られて危ない動画を投稿したら最後、恐ろしい速度で世界中に広がってしまい、消すに消せないデジタルタトゥーの出来上がりである。


 もしユウ君が軽はずみな行動でルナさんのエッチな写真を世に拡散していたら……。


 私が心配をしていたすぐ横でルナさんの目が金色に光った。


「あら、随分と楽しい事して遊んでいたのね。ビアンカも一緒になって楽しんでいたのね。ふふ、私の姿で『トコロテンしてみる?』って、つまりやって欲しいって事なのね。…………よし、これでいいわ。さて、一旦戻るわね。これからもよろしくね、奥様」


 言い終わった途端にルナさんの姿が一瞬で消えてしまった。ユウ君がテレポートを使ったように一瞬だった。


 そして取り残された私は紫苑様と二人、同時に溜息吐いてしまうのだった。






『ああああっ!? なんでー!? ボクのドSビッチなルナ様のアカウントが消えてるー!!!!! ちょっとチロル、何かやったでしょ! 今までの写真も全部無くなってるよ?』


『ミャーは何もやってないニャ、知らないニャン!!』




 部屋に残されたモニターから、そんな話が聞こえて来たのだった。


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